二宮健監督の最新作『MATSUMOTO TRIBE』公開記念! 新鋭の映画監督4人による超スペシャル座談会! 【前編】

二宮健監督の最新作『MATSUMOTO TRIBE』公開記念! 新鋭の映画監督4人による超スペシャル座談会! 【前編】


大学時代に製作した近未来SFアクション映画『SLUM-POLIS』が話題となった二宮健監督が、松本ファイターという無名の俳優を通して、「演出とは何か」を追求した映画『MATSUMOTO TRIBE』。映画における「演出とは?」をテーマに、虚実を交えて描いた衝撃作が4月15日よりいよいよ公開! 本作の公開に先駆けて、監督・二宮健と、本人役でも出演する『トイレのピエタ』の松永大司監督、『合葬』の小林達夫監督、『ディアーディアー』の菊地健雄監督ら4名による、座談会を一挙公開します!

 
松永大司/まつなが・だいし
1974年生まれ。性同一性障害の現代アーティストを追い続けたドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』が数々の国際映画祭から招待され、日本では2011年3月に公開。ほかの劇場公開監督作に、短編劇映画『かぞく』(12年)、ドキュメンタリー『MMA Documentary-HYBRID』(13年)、『GOSPEL』(14年)、『トイレのピエタ』(15年)など。


菊地健雄/きくち・たけお
1978年生まれ、映画美学校時代から瀬々敬久監督に師事。助監督としての参加作品は『岸辺の旅』、『64-ロクヨン-前編/後編』、など多数。2015年、『ディアーディアー』にて長編映画を初監督。最新作『ハローグッバイ』が2017年公開予定。


小林達夫/こばやし・たつお
1985年京都府生まれ。07年の『少年と町』が第10回京都国際学生映画祭グランプリを受賞。10年、自主制作映画『カントリーガール』を監督。若手映画作家育成プロジェクト(ndjc2012)に参加し『カサブランカの探偵』(13年)を監督。15年『合葬』で劇場映画監督デビュー。モントリオール世界映画祭ワールドコンペティション部門に正式出品された。


二宮健/にのみや・けん
1991年生まれ。2012年、監督作品『大童貞の大冒険』がTAMA NEW WAVEをはじめ、国内の数多くの映画祭で入賞。14年、卒業制作『SLUM-POLIS』を完成させ、国内外の映画祭で上映。『眠れる美女の限界』『DAUGHTERS』などの監督も務めた。

                                           
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                                                 Cross Talk
  松永大司×菊地健雄×小林達夫×二宮健
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『MATSUMOTO TRIBE』が他の映画と比べて極めて異色だと言える理由のひとつに、「現役の映画監督が四人も本人役で出演し、全員が主役級のキャラクターとして強烈に存在していること」が挙げられるだろう。しかもその四人は、日本映画の未来を背負うと言われている代表的な若手監督たちなのだ。松永大司(『トイレのピエタ』)、菊地健雄(『ディアーディアー』)、小林達夫(『合葬』)、そして本作の監督である二宮健。日本映画の最前線で戦う四人で座談会を組み、本作を振り返ってもらった。

聞き手:山田宗太朗
編集:山田宗太朗、福田ミチロウ

――完成した映画を観て、どんな感想を持ちましたか?

菊地健雄(以下、菊地):自意識が高いと思われると嫌なんですけど(笑)、やっぱり自分が出てるから不安ではありましたね。いつもは映らない側にいますし。そもそもこの映画に呼んでもらった時は、コンセプトをそこまでちゃんと知らされてたわけではなかったんです。撮影中も、これがどう作品になるのか正直よく分からなかった。もちろん過去二作の松本シリーズはYouTubeで観たんですけど、この映画はそれらとも全然違うし。でも完成した映画には、それまでの経緯もちゃんと描かれてて、すごく腑に落ちた。まさに今話してるこの場所で起こったこと(※この取材は実際の撮影現場と同じ場所で行われた)はとても面白いことだと思います。一口に言ってもいろんな種類の映画がありますけど、映画って何なのかを考え直すきっかけになった作品ではありますね。

小林達夫(以下、小林):僕も全体をやんわりとは聞いていて、いろいろ演出されもしたんですけど、そのシーンの直前と直後がどういうシーンになってるのかあんまりわからずにやっていました。その辺の細かいことはあまり教えられなかったんですよ。ニノケン(二宮健)に「絶対面白いから!」って言われて半ば無理やりやらされて、「こんなの面白いか?」とか思いながら(笑)。でも完成した映画を見たら、「あ、ここがこうなって、僕がやったのがこうなってるのか」というのがちゃんとストーリーテリングされていて、編集も見事だった。もし事前に細かく内容やコンセプトを聞いてたら、変に意識してしまって、こういうふうにはならなかったかもしれない。純粋に、現場で見てたものよりも完成したものが面白かった。あと、あんな短期間の撮影でこんな長い尺になってるのも上手いなと思いました。だいたい三日くらいしか撮影してないんじゃない?

二宮健(以下、二宮):追加撮影入れて三日ですね。

小林:で、八十五分? ありえないですよね。

――じゃあ菊地監督も小林監督も、半分ドッキリみたいな感じで参加したんですか?

菊地:ふわっとコンセプトを聞いてはいたんですけど、でも、ほとんど何も知らなかったですからね。渡されたものも何もなかったし。

――台本まったく無しですか?

菊地:そうですね。「大体こういうことです」って言われて。「何したらいいの?」って言ったら、「普通に助監督としてオーディションするつもりで来てください」って言うから、僕はそういう意味では、単に助監督の仕事をやっただけですね。だって芝居をやれって言われてもできないですからね。自分は普段やらせてる立場なので、こういうこと言うと問題発言になっちゃうけど、でも、自分でできたら役者やってたかもしれないし。だからそういう意味では、この映画はある種のドキュメントでもある。

小林:菊地さんは最初、「どれくらいの規模の映画なのか? 予算はいくらか?」みたいなのをめっちゃ細かく聞いてましたよね。僕は「そんなに緻密にやるものじゃないだろ」とか思ってましたけど(笑)。

菊地:オーディションもいろいろありますからね。今回のオーディションはフェイクだけれども、監督が松永さんだし、それこそ最初から岡田プロデューサーもいらっしゃるわけだから、仕掛けとしてやろうとしていることに嘘があると駄目だなと思って。普段やっているオーディションも、ふわっとゆるいだけじゃできない。僕らも仕事の時は準備してやるわけじゃないですか。だからそこで嘘はつきたくないなっていう思いはありました。

――松永監督はどうですか?

松永大司(以下、松永): 面白かったですよ。やっぱり菊地君が言ってたみたいに、この映画には自分が出てるんで、入り込むまでにはまずハードルが高いですよね。でも「あ、こういうふうにしたんだ」っていう良い意味での驚きはあります。なんとなく自分では「俺がやるんだったらこういうふうにやりたい」っていうのは提案した上で参加させてもらったけど、やっぱりそれを形にしていくのは監督自身だから。よくまとめたなとは思いましたね。だって、何となくの朧げな道筋はあるとはいえ、別にみんなそれぞれ映画のことなんか考えてないわけだから。この瞬間のこの場面のことしか考えてない。それを形にしたのは二宮の力だなと思って。そういう意味では感心しました。

――二宮監督、それ聞いて今どうですか? めっちゃ褒められてますけど。

二宮:そうだろうな、くらいの感じですけど。

一同:「そうだろうな」(笑)。

二宮:僕は面白いと思いながら撮ってたし、オッケー出したってことは傑作になる確信が現場ですでにあったから。それを形にして実際観てもらって、そういうふうに伝わったのは嬉しいですけどね。

 

「今思うと何をあんなに強気だったんだろう(笑)」


――ちなみに二宮監督はなぜこの三人の監督を選んだんですか?

二宮:少し前なんですけど、同世代の監督と付き合っていくことに辟易してた時期があったんですよね。お互いの探り合いみたいなものにちょっと飽きてて。「もっと純粋に映画の話できる人たちいないのかな」って思った時に出会えたのがこの三人だったんです。それで、『MATSUMOTO TRIBE』をやると決めた時に、やっぱりそういう人たちをいじりたいなと思って。

――いじりたかったんですか(笑)。

二宮:好きじゃないといじりたくないですからね。コバ兄(小林監督)が出て来て髪ほどいてたら面白いなとか。キク兄(菊地監督)が監督として『ディアーディアー』っていう素晴らしい映画をやったあとに平気で「助監督、菊地です」って言ってるの面白いなとか。それでマツ兄(松永監督)が、言い方悪いですけど、お山の大将感出しながらいたら絶対面白いな、と(笑)。

――愛ですね。

二宮:そうですね。それで作品にした時に、もっと超えてくるものというか、深みや芯がある中で茶番をやってるように見せたかった。この三人で大喜利するとしたらこうなる、みたいな感覚です。

――三人は、最初に二宮監督からこの話が来た時はどう思いました?

松永:僕は「二人がやるから」って言われたんですよ。しかも最初はそこに『お盆の弟』を監督した大崎章監督もいることになってた。「やりますから。やるんですよ、マツ兄。もうマツ兄、やるっきゃないでしょ!」みたいな。外堀埋まってないのに、みんなには「埋まる、埋まる」って言いながらやってた感じで。だから半分冗談で「二宮、こいつ……」と思いながらだったんですけど。でも二宮が作った『SLUM-POLIS』って映画もね、やっぱりこの歳で卒業制作であれだけのものを作るって、すごいパワーあると思うんですよ。そういう監督が次の作品を撮る時に呼んでもらえるなら、面白そうだと思えたらやろうと思って。別にもともとみんな役者じゃないから、セリフも読めないし、ただそこにいて成立するんだったら面白そうかなって。あとは一緒にやる人、他の監督がみんな僕が好きな人たちだったから、面白そうだなと思って。

――じゃあ先に菊地監督と小林監督が決まってたと?

松永:僕はそう聞いてましたね。

――実際はどうなんですか?

二宮:キク兄もコバ兄も「マツ兄がやるならやるよ」って言ってました。細かいことはあんまり覚えてないですけど、別に詐欺師のつもりでは喋ってなかったですよ。ただ、やるだろうなとは思ってた。てか、断ったらダサいってところに持って行った。

一同:(笑)

菊地:オファーのされ方も、「マツ兄がやるから当然やるっしょ?」みたいな。「やってください」じゃないんだよね。もう当然やることになっているという言われ方して。「当然コバ兄もいるから、キク兄いなかったらおかしいでしょ?」って。そしたら「ああ、じゃあ、出ます」ってなりますよね。まあ、もちろん交流ある人たちだし、こういうメンバーでやれたら面白いなとは思いました。なかなか一緒にやることってないですしね。普段、酒飲んだり、お互いの映画観て感想言い合ったりすることはあるけど、こういうやり方でこういうメンツが集まって何かをやれるのは貴重かもしれない。せっかく交流している訳だから、それが形になるのは面白いかもなって僕は思いましたね。とはいえ、やる・やらないの選択肢が僕らにはなかったような気がしますけど(笑)。

小林:僕もだいたいそんな感じでした。でも僕は一回電話で確認されたんですよね。というのも、僕は松永さんは絶対断ると思っていて、だから松永さんがやるんだったらやるって言っておけば大丈夫だと思ってたんですよね。そしたらニノケンから電話が来て、二人ともやることになったと。「コバ兄もやるっしょ? やるっしょ?」みたいなすごいテンションで話されて。でも「ちょっと考えさせてくれ」って答えたんです。

二宮:一番粘ってたのコバ兄!

小林:一日だけ考えさせてくれって言ったんですよ。でも数分くらいで考え直して。自分がこれくらいの歳の時、そんな年上の監督に自分の映画に出てもらうなんて思ったことすらなかったし。思ってもたぶんできないだろうなと。だったら、それは断っちゃいけないような気がして。それに、他にこんなふうに声掛けてくる人もきっと、この先一生いないし(笑)。

松永:図々しいにも程があるからね(笑)。

小林:だったらやろうかなと思って。悩むのも面倒くさくなったし(笑)。

松永:でもやるからには面白いものになるかどうか、そこだけは最後の自分の懸念要素だった。だから過去の作品をまず観たんですよね。「出てほしい」って言われて会った日に、家帰って『MATSUMOTO METHOD』と『MATSUMOTO REVOLUTION』を観た。それで、もう、「100%ないな」と(笑)。このままやるんだったら俺たち出る意味ないよと。こんな使われ方、やり方したって、二宮にとっても得じゃないし。映画同好会で作るパーティー用の映像みたいな感じになっちゃっても誰も得しないと思って。だったらじゃあ、自分が関わる上で、どうやったらこれが面白くなるかってことを考えることにすぐシフトチェンジしたんですよね。二宮のためにやりたい気持ちはあるけど、このまま乗っかってもこの船は沈むなと思って。それで、やるやらないの返事をする時に、後半の”あるアイデア”をやるんだったら俺はやってみたいけど、どう思う?」って二宮に言ったんですよ。そうしたら「ああ、それすごい面白いかもしれない。じゃあちょっと考えましょうよ」という話になって。

二宮:マツ兄にそのアイデアを聞いて、「あ、ちゃんと第一線でやってらっしゃる方に声を掛けるっていうことはこういうことなんだ」っていうのを実感できましたね。「ああ、なるほど、俺がマツ兄に声を掛けたことは間違ってなかった」って確信できました。

一同:(笑)

――じゃあ最初の段階ではそこまでイメージしてなかったんですね。

二宮:今思うと何をあんなに強気だったんだろうって思いますよね。

一同:(笑)

二宮:本当にたぶんマツ兄の言うように茶番で終わってたかもしれない。それでもいいじゃんくらいの気持ちだったというか。それが恥ずかしいとも思わなかったし、別に沈む時は俺も一緒に沈むし、っていう。

松永:いやいやいや(笑)。

二宮:だから別に悪気もなかったというか。

小林:でも撮影中か撮影終わった後か、松永さんがニノケンに「これウェブで見せるのもったいねーよ。映画祭とか出そうぜ。劇場目指そうぜ」って言ってたんですけど、その時は「あ、ネットにはアップされないんだ、よかった」と思っちゃいました(笑)。ネットは誰が観てるか分からないし、クオリティがどこまで低くても出ちゃうじゃないですか。だから劇場目指すという話になってるんだったら、余程ちゃんとしてないとダメなわけで。

松永:だって二宮、俺口説く時に「これ絶対出たほうが得だから。マツ兄にとって得だから」って言ったんだよ。お前何を根拠に俺のキャリアに得だとかそんな自信満々に言ってんじゃい、と思って(笑)。でも出るからには自分も背負わなきゃ駄目だろうと思ったんです。みんなも背負ってると思うし。このメンツで沈んじゃ駄目だと思ったんだよね。二宮にとって良くないし、俺たちにとってもプラスじゃない。「菊地さん、小林さん、松永さん、さすがっすね、二宮さんの映画出て。面白かったですよ」って言われないと、俺たちプラスじゃないよね。そのハードルって意外と高いなと思ったの。遊びだけど、「あ、プロの奴が遊ぶ遊びってここまで来るんだ」ってならないと、ただの同好会みたいになったら、俺たちの時間がもったいない。だから二宮は、頑張ったと思いますよ。最終的にここまで仕上げて、ポスターも打って公開するって、すごいことですから。

二宮:僕、嬉しかったんですよ、プロデューサーさんに「松本ファイターって面白いよね」って言われて。東京に来て、全然関係者じゃない人からファイターの名前を聞けるっていうのがめちゃくちゃ嬉しくて。やっぱそれで動いちゃったっていうのはあるんですよね。

 


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