はじめての「野草ハンター」

はじめての「野草ハンター」


これは、モノを手放し、身も心も身軽になったミニマリストが、
「やりたいこと」に挑戦していくお話。

ぼくは明日死んでしまうかもしれない。
だから「やりたいことはやった」という手応えをいつも持っていたい。

いざ、心の思うままに。

※野草に関して注意事項がありますので、ぜひ最後までお読みください

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未来をそこで止めてしまうという背徳と、生命の神秘への敬虔。

そんな気持ちをないまぜにしつつ、これからが伸び盛りの若い芽に手をかける。

 

俺は、たんぽぽを摘んでいた。

 

「わぁーい、綿毛ふわふわなのぉ」

と春の陽気で頭のネジが緩んでしまったわけではない。

 

花を部屋に飾るためでもない。
そう、食べるために摘むのだ。

 

「たんぽぽ茶」というものがあることは知っていたが、たんぽぽが食べられると知ったのはごく最近で、かなりの衝撃を受けた。

 

以前、雑草を食べるために育てている青年と出会ったことがある。当然だが、自然界には雑草とそれ以外を隔てる概念はない。食べられるが傷みが早かったりして、市場には出回りづらかったりする。そうやって単に、人間に使われやすいかどうかで植物は「雑草」と呼ばれ、軽んじられることになる。

 

買うのではなく、自然界から直接食べ物を得ることに憧れがあった。かといって、素人が見分けづらい野草にいきなり手を出すのは危険でもある。たんぽぽなら、見分けやすく手始めに最適なはずだ。

 

いざ、たんぽぽ(らしきもの)を摘む

 

俺は簡単な準備をした。

 

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「スーパーの袋」&「レザーマンのナイフ」

 

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「ククク、よぉーく切れるこいつで……ひとおもいに楽にしてやる」

ナイフを持つと、自分の中2病がぶり返してくるのはどうしてだろう?(結局使わなかった)

 

 

俺が住んでいるのは京都の田舎なので、近所にも自然が豊かにある。家のすぐそばで、たんぽぽを摘むことにした。

たんぽぽ(らしきもの)はすぐに見つかった。

 

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……なんか枯れ葉なのか、虫なのかよくわからないものがたくさんついてる……ま、まぁ洗えば大丈夫だろう。

 

まわりを見渡すと、不安になるぐらいたくさん生えている……。

 

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「今までたんぽぽだと思っていたものが、たんぽぽでなかったらどうする?」
と突如不安が頭をもたげてくる。見るだけなら、

 

「たんぽぽだね! それより昨日のガッキーがさぁ〜」

 

と軽く断定して流せるが、今回は食べるのだ。

 

「今摘んでいるこれが、「タンポポモドキ(猛毒)」とかだったらどうする? そういえば、毛も生えすぎている気がする。葉っぱの形もなんか違くないか? これは……本当に俺の知っているたんぽぽなのか?

 

俺は「世にも奇妙な物語 春の特別編」のような世界に足を踏み込みはじめていた。
しかし頭を振って、疑念を振り払う。新たな挑戦にリスクはつきものなのだ。

 

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念のため、まだ柔らかい葉を中心に、ものの数分で収穫!!

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水にさらして、入念に洗うと綺麗な葉っぱだけになった。

おひたしという手もあるが、初回はぜひ生で食べてみたい。

マヨネーズとマスタードで和えるというネットで見つけたレシピで、いざ試食!!

 

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Instagramをやっていたら

#花が好き #春が来て嬉しい #ディジョンマスタード 

などのハッシュタグをつけて載っけただろうおしゃれなサラダ!!

 

はじめての野草の味

 

一口噛んだ瞬間に、舌の上でさきほどまでいた草原が再生される。

「あ、自分さっきまで光合成してたんで」

 

という、生命の躍動感。そして野草らしい荒々しい繊維質は、歯ごたえがある。たとえるなら野草は誇り高き狼、スーパーの野菜は飼いならされたかわいいチワワなのだ。チワワかわいい。

 

「なんという野趣に満ちた味、士郎……やるようになったな」

 

と俺の中の海原雄山が言った。

 

葉っぱの荒々しい柔毛は、ブラシのように俺の口腔内から、食道、そして内臓までもクリーニングしてくれるような気がした。多少クセはあるが、苦味とマヨネーズがベストマッチ。正直に「うまい」と思った。いける!

気を良くした俺は、すぐさま別の雑草にも手を出した。

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「カラスノエンドウ」

スナップエンドウを小さくしたような豆がつく植物。

ごま油で炒め、塩でシンプルに頂く。

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これも大変うまかった。

 

野草から俺が得たもの

 

買ってきた野草図鑑を眺めて、食べられる野草を少しずつ覚えていく。そうして俺は少しずつ、今まで名前も知らなかった食べられる雑草を覚えていった。当然だが、なんの変哲もない道端にもそれはよく生えている。

 

俺は野草たちを前に、個性的な生徒たちを抱えた金八先生のような気分になっている。扱いやすいだけの優等生でなく、たとえアクがあっても問題児のほうがおもしろかったりするのだ。

 

食べられる野草は身近なところに、本当にたくさんある。そういうことに気がついていくと、ありふれた景色から別のレイヤーが生成されるのを感じた。気にもとめていなかった道端の雑草が『孤独のグルメ』よろしく、突然「おかず」として立ち上がってくるのだ。

 

お金をかけなくても、見る目があれば食べ物は手に入れられる。
土さえあれば、もう俺は春に飢えることはない。その自信を元手に、確かな自分の成長を感じた。

 

その自信はこれを書きながら、見事に打ち砕かれた。先に書いた「タンポポモドキ」ってあるのかな、と思って検索したら本当にあった。俺が食べた大部分は、実はモロにそれだったようだ。どうりで、なんか花が長いわけだぜ!!

 

名前は「ブタナ」。豚がよく好んで食べることから、フランスでは「豚のサラダ」と呼ばれているらしい。とくに体調も悪くならなかったが(みなさんはご注意ください)、はじめて食べた野草が「豚のサラダ」とは。

 

 

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#豚のサラダ

 

しかし、よく考える前に行動できたのだ、これからのリターンは大きい。
俺は0円で、これからもっとたくさん、自然界から直接食べ物を得ていくだろう。

 

 

【野草ハンター心得】
・野草の中にはもちろん毒草もあり、リスクもあるので見分け方には最大限の注意を
・河原や、街の中の雑草にはペットのおしっこや、農薬がまかれていることもあるそうなので注意
・たんぽぽとタンポポモドキ(ブタナ)はよく似ている。


Written by sasaki fumio

作家/編集者/ミニマリスト 1979年生まれ。香川県出身。出版社3社を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに、『Minimal&Ism』を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(小社刊)は、国内16万部突破、22ヶ国語に翻訳される。新刊「ぼくたちは習慣で、できている。」が発売中。

»http://minimalism.jp/

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