【INTERVIEW】カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『万引き家族』。是枝裕和監督と城桧吏が撮影当時を振り返る。

【INTERVIEW】カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『万引き家族』。是枝裕和監督と城桧吏が撮影当時を振り返る。


第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で、日本映画作品としては21年ぶりの快挙となる最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督による『万引き家族』。今や世界中が注目する話題作だが、受賞の結果がでる約半月前に、是枝監督と祥太役を演じた城桧吏の対談インタビューを実施した。賞レースへの気負いが全く感じられない、当時のふたりのどこかほっこりする対談をお届けする。

撮影/刈谷恵利加 文/髙山亜紀

――映画を観て、『誰も知らない』の時の柳楽優弥さんを思い出しました。

是枝「そういう人たちも結構、いるんですけど、僕が好きな顔なんですね。顔で選んだというとちょっとあれですけど(笑)。オーディションの部屋に入ってきたその瞬間にもう、“この子を撮りたいな”と思いました」

――桧吏くんはオーディションに受かった時、どんな気持ちでしたか。

「それはもう嬉しかったです。お母さんが電話に出て、“うわっ”て声を出したから、飛び上がるほど、びっくりして、“どうしたの?”って聞いたんです。そしたら “受かったよ”って。まさか受かるとは思っていなくて、“ほんとに?”って聞き返してしまいました。その場で、ソファーに何度もジャンプするくらい、嬉しかったです」

――監督は今回もとても自然に子供たちを撮っていますね。

是枝「秘訣はないけど、子供が楽しいなと思ってくれたらいいんじゃないかな? 撮影の場所に行って、おじちゃんやおばちゃん、おばあちゃん、お姉ちゃん、みゆに会うのが楽しいなと思うから来てくれる。そういう環境が作れれば、大丈夫だと思います。だって、楽しかったよね?」

「はい、もちろんです。キャストの皆さんと喋ったり、一緒に差し入れのお菓子を食べたり、撮影している時、一日中、全部が楽しかった。明日もやりたいなって思ってました」

是枝「そう言ってくれるとうれしいよね」

――子供たちの脚本はあるんですか。

是枝「渡さないでやっています。その場、その場で状況だけ説明して、セリフを聞いて、その繰り返しです」

「自然に出来るから、台本を渡さないでやるのは結構、いい感じに出来ているかも」

是枝「よその現場だと憶えなくちゃいけないからね。その時は憶えて行ってね(笑)」

「はい。ありがとうございます(笑)」


――是枝組の弊害があるんでしょうか(笑)。

是枝「よその現場で、怒られる子が続出しています(笑)」

「今のところ、大丈夫です」

是枝「桧吏は全然、大丈夫。どっちも出来る子だと思う」

――(妹役の佐々木)みゆちゃんとのふたりのシーンも多いですよね。

「はい。そういう時はみゆちゃんとキャーキャー言いながら遊んでいました」

――桧吏くんにとって、みゆちゃんは妹みたいな感覚?

「はい。いつも一緒にご飯を食べて、寝るときも一緒にいて。僕がどこかに行けば、みゆちゃんがついてきて。みゆちゃんがどこかに行ったら、自分もついていく。ほぼくっついて、遊んで、たまには喧嘩したり」

――えっ、喧嘩も?

是枝「みゆちゃんが桧吏にちょっかい出すんだよね? 大好きなんだよね?」

「はい(笑)」

――監督がこの子でよかったと思った瞬間は?

是枝「全部、いいよね。ファーストショットのスーパーに入ってきて、立ち止まって、店のなかを見まわしている瞬間、もういい。自分で言うのもなんだけど、間違いないです」


――全部、間違いないですが、だんだん顔が大人びてきて、面会室のシーンとか、違う顔になっていて、びっくりしました。

是枝「あの面会室で母親と会っているところは僕、何も指示を出していないんですよ。それなのに表情が全然、違っていて、リリー(・フランキー)さんがあの時の桧吏の顔を見て、“これはアップを撮ってあげないといけない顔だ”って言ってましたからね」


――撮影の時、緊張したりしなかったですか。

「撮影の時はその世界に入り込んでいるので、全然、緊張しませんでした」

――どういう風に入り込んでいくの?

「カメラが回ったら自分から切り替えていって、実際にその場に立ったら、自分は祥太だってことを考えてやっています」

――どう切り替えていくの? 桧吏くんと祥太くんとはまるで違う生活じゃないですか。当たり前だけど(笑)。

是枝「これで“いいえ”って言ったら、驚くよね。万引きしてますってことだもんね(笑)」

「祥太は最初、何も考えてなくて、普通に万引きをしていたけど、後の方は万引きはダメなんじゃないかと気づき始めたりしている。そういう風にするようにしています」

――そんな風に祥太くんが賢くなっていって、リリーさんのお父さんは寂しそうでした。

「そうですね。でも、カメラが回ってないところでのリリーさんは面白かったです」

――監督は大人のキャストに対して、子供にはどのように接してほしいなどの要望はあったんですか。

是枝「全然。リリーさんはもう『そして父になる』でも親の役をやっているし、僕がどういう風なことを求めているか、わかっているから、注文しなくても大丈夫です」

――今回は安藤サクラさん、松岡茉優さんが是枝組、初参加ですが、彼女達にはどうですか。

是枝「そんなに特別なことをしている訳じゃないです。“子供は台本を渡してないので、その場で作ります”。あとは“日々、脚本は変わります”ぐらいです。サクラさんからは『当日の朝だとあたふたしちゃうので、なるべく前日までに渡してください』と言われました。歩み寄ったのはそれくらい。当日直しも出ましたが(苦笑)」

――安藤さんは素晴らしく、強くてどっしりとお母さんでしたね。だんだんなっていったのですか。それとも、元々と役でそうだったのですか。

是枝「両方ですね。撮りながら、脚本を書き直していくし、撮りながら、信代ってこういう人なんだなということを捕まえていくから、お互いにそこを探りながら、作っていったところがあると思います」

 

「安藤さんも凄い面白くて、いつも面白い歌とか、教えてくれたりしていました」

――どんな歌?

「えっ? いや~、あの普通の……『お尻の歌』っていうんですけど(苦笑)」

是枝「普通じゃないじゃない(笑)」

「安藤さんは昔から、自分が小っちゃい頃から歌ってるって言ってました」

是枝「安藤さんが? もしかして、お家に伝わっている歌なのかな」

「学校の友だちと一緒に歌ったりしてたって言ってました」

是枝「その歌、覚えてる? どんなの? 今度、教えてよ(笑)」

「いや~、それはちょっと(苦笑)」


――みゆちゃんも歌ってたの?

「みゆちゃんは『そんな変なこと、やめなさいよ』みたいなことを言ってました」

――桧吏くんもみゆちゃんもどんどん表情がよくなっていきますけど、順撮りなんですか。

是枝「海のシーン以外は基本的な流れにはそっているんですけど、ただ、セットとロケがありますから、完璧に順撮りという訳ではないです。ただ、だんだん撮っていくと、桧吏なんかはどういう話で、最後がどうなるのか、頭のなかで想像しながら、全体を見ている感じがしました。勘がいいので」

「最初の方は台本を渡されていないので、何をするかまだ、わからなかったんですけど、後の方になると、撮るものも残り少なくなってきて、だいたいどんな感じで、どういう風になるのかとか、そういうことがわかってきて、流れも自分でわかるようになりました」

――監督に質問したことはありますか。

「特にはしてないけど、1回だけ、みかんを持って飛ぶところは上から撮ってたんですけど、“下からは撮らないんですか”って聞いたことがあります」

是枝「途中から、カット割りっていうのが面白くなったらしく、芝居した後、僕と(撮影の)近藤(龍人)さんで、1,2,3とカメラの場所の打ち合わせをしていると、別のシーンで、1を撮った後、『じゃあ、次は2と3ですね?』って言い始めて、“ヤバイ、読まれてる”って思ったことがあります(笑)」

――カメラ、意識しちゃいましたか(笑)。

「だいたい、こういうことかなと思いながら」

是枝「凄く大人を見ているんです」

――この作品に出てよかったと思うことは?

「監督の作品は凄く有名じゃないですか。受かったその時点から全部が全部、嬉しくて、楽しくて、それが一番です」

――撮影が終わった時は?

「泣きました」

是枝「それがまたきれいな涙で。僕はもうあんな涙は流せないな(笑)」

――また是枝監督の作品に出たいですか。

「はい!」


――是枝監督はどんな監督でしたか。

「お芝居を教えてくれる時も凄く丁寧で、ほぼ是枝監督さんのおかげでいい作品が撮れたと思います」

――監督から桧吏くんにアドバイスをお願いします。

是枝「どんな大人になりたいの?」

「有名になりたい」

是枝「有名ってどういうの? 街を歩いていて、キャーとか言われたいの? サイン下さいとか」

「テレビに引っ張りだことか」

是枝「そうなりたいの? 大変だよ。桧吏なら、すぐなっちゃうよ。今すぐにでも」

「暇より大変の方がいいじゃないですか」

是枝「そうだね。これからもお芝居、続けていくよね? これから中学にあがるけど、ドラマも映画もたくさん、やって、経験を積んで、きっと、色んな監督のものに出た方がいいと思う。本当に素晴らしかったよ」

「ありがとうございます」

 


  ●プロフィール

是枝裕和
1962年6月6日生まれ。東京都出身。95年、監督デビュー作『幻の光』でヴェネツィア国際映画祭金のオゼッラ賞受賞。04年、『誰も知らない』主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で男優賞受賞。13年『そして父になる』がカンヌ国際映画祭審査員賞受賞。15年『海街diary』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞。16年、『海よりもまだ深く』がカンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品。17年、『三度目の殺人』がヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門正式出品、日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞。

城桧吏
2006年9月6日生まれ。東京都出身。『万引き家族』の長男・祥太役にオーディションを経て、大抜擢された。現在、小学6年生。7人組の男子小学生ユニット「スタメンKiDS」のメンバーとしても活動中。


 
  ●作品紹介

万引き家族メイン
©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

『万引き家族』

リリー・フランキー 安藤サクラ 
松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ
緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 / 柄本明
高良健吾 池脇千鶴 / 樹木希林
配給/ギャガ

東京の一角で、世間から忘れ去られたかのように静かに暮らしている一家。年金暮らしの老婆、初枝(樹木希林)の家に転がり込んだ、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)夫婦と息子の祥太(城桧吏)、そして信代の妹、亜紀(松岡茉優)。実は彼らに血の繋がりはなく、犯罪が彼らを結び付けていた。世間から見れば、とても許されない家族だったが……。知られざる関係性が次第に明らかになっていく衝撃の家族ドラマ。
公開中