雨宮まみさん+栗原康さん対談「はたらかないで、素敵な暮らし!?」【前編】


 

直接感想を聞くのって恥ずかしいですね。

栗原 そして今日の本題、雨宮さんの本『自信のない部屋へようこそ』、すばらしい!!  本当にすばらしい本ですね。

雨宮 うそでしょ(笑)⁉

栗原 いやいやいや。自分のひどい部屋の中でむさぼり読ませてもらいました。ずっと実家暮らしなので36年間同じ部屋に住んでるんですけど、ぼくの部屋、本当にひどくて。四方八方、長渕剛のポスターだらけなんです。そんな部屋の中でむさぼり読んでたんですけど、本当におもしろくて。

雨宮さんの文章の特徴は、自分の内面をすごくさらけだしているところ。それがもう、ものすごく上手くて。きついところもさらけだして、そこから抜け出す解放感をこんなにも上手く、人って書けるのかなと思いながら読んでいました。

雨宮 ……直接感想を聞くのって、恥ずかしいですね。いま一番緊張しました。

栗原 部屋って、自分の内面が一番あらわれるところですよね。ぼくにとっては長渕が内面なんですけど。この本では、文字通りさらけだしていく。本の中で最初、1、2年前は友達を呼ぶこともできなかった。自信もない。でも文章を書きながら、いろんなものを整えて、整理していくうちに自信を持てるようになる。

中盤、友達を呼んだところで、「うおおおお!!!! 呼んだ!!!」と興奮してベッドの上でゴロゴロしていました。

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雨宮 なんでもないことを書いた本ではあるんですよ。片付けた! 人も呼んだ! ということだけで、特にドラマチックなことは何も起こらない。でも、書籍化という話になったので、そこからやっぱりもう少し部屋のことを考えなきゃいけないのかなと思いました。写真撮影もあったんですよ。

写真を撮ると言われたので、そこですごく「イヤ~!」となったんですけど、そのおかげで一段階深みが出たというか、焦りによって部屋をもう一度厳しい目で見直すことができました。本になることによって、やっと一冊になったなという感じが自分ではしています。

栗原 はい(大きく頷く)。

雨宮 私からも栗原さんの本の紹介をさせていただきたいと思います。『はたらかないで、たらふく食べたい』という、タイトル通りの本なんですけど。実際、具体的に何が書いているかというと、思想だったり、色々な哲学についてふれているんですけれど、基本的には栗原さんが普段の生活で経験したことが書かれていて、最初やっぱりぐいぐい引き込まれたのは、“かの女”の話ですね。

栗原 はい、はい。

雨宮 彼女ができたんですよ。栗原さんに。彼女ができてフラれるという話なんですよ。以前の彼女ですね。付き合い始めたときから、栗原さんには収入がない。それがなんとなく、彼女的には気に入らなかったらしく。彼女に飲み会に誘われて行くと、彼女の友達に「やっぱり定職がないと……」みたいなことをチクチク言われたりして。最終的には、栗原さんの政治的な活動も彼女はイヤだと。「デモとか行ってほしくない」と言われ。それでも栗原さん、がんばっていて。『ゼクシィ』を読み、結婚式場の下見に行き、婚約指輪を買い、車の中で「これ……」と言って指輪の箱をパカっとかやってるんですよ!

栗原 案外楽しかったです。『ゼクシィ』安いし(笑)。結婚式場の下見とかすごい美味しいものが食べられて、わ~い! とか言って楽しんでました。

雨宮 結構のりやすい性格(笑)! ご結婚を考えている方にも参考になる本だと思うんですけど、婚約というところまではいったけれど、非常勤講師になられる前だったので論文を書いたりしても、芳しい結果が出ない。

そんなとき彼女に電話をしたら、そこで彼女が激怒して、(音読する)「もう我慢できない。お前は家庭をもつ、子どもをもつということがどういうことなのかわかっているのか。社会人として、大人として、ちゃんとするということでしょう。正社員になって、毎日つらいとおもいながら、それをたえつづけるのが大人なんだ。やりたいことなんてやってはいけない。仕事なんていくらでもあるのに、やりたいことしかやろうとしないのは、わがままな子どもが駄々をこねているようなものだ。」

栗原 これ、本当に言われました。

雨宮 栗原さんも売り言葉に買い言葉で…
(音読する)やりたいことをやれないなら、なにがたのしくて生きているんだときくと、かの女は即答だ。「ショッピングにきまっているでしょう。おまえは研究がたのしいとか、散歩がてらデモにいってくるとか、カネをつかわなくてもたのしいことはあるとかいっているけど、貧乏くさくて気持ちわるいんだよ。そんなこといっているからはたらかないんだ。大人はみんなつらいおもいをしてカネを稼いで、それをつかうことに誇りをもっているんだ。貧乏はいやだ、貧乏はいやだ」と言われたというのが、前半のクライマックス。

栗原 いま、当時言われた言葉がフラッシュバックしてきました……(笑)。

満員電車に乗らなくていいことを、SNSで言えない

雨宮 ちゃんとした大人として生活していくということは人間性を失っていくということとほとんど同じなんじゃないのか、なんでみんな我慢して暮らしていかなければならないのか、というのが栗原さんの考えていることで。たとえば、いま私たちはフリーの立場だから満員電車って乗らなくていいじゃないですか。満員電車に乗らなくていいということを私はうれしく思っているんですけど、そのことをSNSで言えないんですよ。私は書けない。

それを書いたことによって、「へ~いいなーお気楽で。だったらお前ちゃんとした社会人として扱われなくてもしょうがないよ。辛い思いしていないんだから」と言われるのが怖くて仕方なくて。この前仕事でAV女優さんにインタビューしていて、「この仕事してて良かったことってあります?」と聞いたら、「満員電車乗らなくて良いことですかね~」って言われて。「だよね~!」ってなりました。

栗原 ですよね~!

雨宮 みんな乗らないほうがいいと思っているはずなんですけど、なかなかそういう方向にはいかないじゃないですか。ずっといかないということは、もうそういうことなんだろう。しょうがないことなんだろうなって思うし、なんとなく自分の中でそこに逆らう気力がはぎとられていってたんですけど、それを鼓舞するような力が栗原さんの文章にはあって。別にいいじゃん、乗らない方向に努力したほうがみんな幸せになるのに。って。やっぱり満員電車の中で人間的な優しさを保つのって無理じゃないですか。

栗原 満員電車って、はたらくことの象徴なんですよ。高校生の頃、2時間半かけて埼玉の実家から千葉の市川まで満員電車に乗って通ってたんですけど、いつもは人に挟まったまま気持ちよく寝ていたのが、ある日気持ち悪くなってしまって。前の人の肘がおなかにバンと入ってきて、そのまま吐いちゃったんですよね。それが前にいたサラリーマンの靴にかかってしまって。普通、いたいけなヒョロッとした高校生が体調悪そうだったら心配するじゃないですか。でも、満員電車の中ではそういう感じじゃなくて、周りをみるとみんな無視で。そこで、サラリーマンがゲロがかかったことに気づいた瞬間、自分の鞄でぼくの背中をバンバン叩き出したんですよ。

雨宮 あれ、こわいですよね。本にも書いてありましたけど。ホラーですよ。

栗原 次の駅で降りたんですけど、それ以来、満員電車がこわくてこわくて。それから、さぼるのは良いことなんだと思って。ちょくちょく電車を降りるようになったんです。満員電車、避けたいですよね。

―――後編へ続く―――

 

雨宮 まみ(あまみや・まみ)
ライター。1976年福岡県生まれ。自身の”女性性”とうまくつきあえないことから生き辛さを感じ、自意識にもがき苦しんだ半生を綴った初著書『女子をこじらせて』(ポット出版)を2011年に上梓。鮮烈な印象を与え、13年・14年の流行語大賞に「こじらせ女子」がノミネートされる。女性の自意識や恋愛、性などをテーマに多くの媒体で執筆。映画や舞台、芸術にも造詣が深く、活躍の幅を広げ続けている。著書に『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』(新潮社)、『東京を生きる』(大和書房)など。

『自信のない部屋へようこそ』


栗原 康(くりはら・やすし)

1979年埼玉県生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に『G8 サミット体制とはなにか』(以文社)、『大杉栄伝ー永遠のアナキズム』(夜光社)、『学生に賃金を』(新評論)、『現代暴力論』(角川新書)がある。趣味は、ビール、ドラマ鑑賞、詩吟。あと、錦糸町の河内音頭が大好きだ。「踊ること野馬のごとく、騒がしきこと山猿に異ならず」。それが人生の目標だ。

『はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言』


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