「結婚を意識した途端、恋愛がうまくいかなくなるのはなぜ?」雨宮まみさん+栗原康さん対談【後編】


女性がマイホームを買おうとすることは、社会のくびきから脱していくこと

栗原 家庭に対するモノサシを「突破する」ということが大事なのかなと。雨宮さんの本の中で、マイホームの話がでてくるんですよ。雨宮さんが神戸ですてきなマンションに出合って、マンションを買うことを検討する。一旦諦めるんですけど。

雨宮 ローンが組めなかったんですよ。

栗原 そうですよね。そこで書かれている文章が面白いなと思ったのは、一般的にはマイホームってサラリーマン、男が買うというイメージがある。その時点でマイホームって大っ嫌いなんですけど(笑)。35年ローンを組んだりして、一生同じ会社でひたすらはたらかなきゃいけない。どんなにひどい労働環境にあったとしても、ローンがあるから会社をやめられない。

雨宮 生の負債ですね。

栗原 生の負債を持ってしまう。でも、女性がマイホームを買うというとイメージがちょっと違う。30代、40代の独身女性が家を買おうとすると、世間からは結婚を諦めたんだなと言われたりする。

でも、女性が持ち家を持つということはそこに抗うという意味があるのかなと。そういうの関係ない、ここに住みたいと思ったら世間に捉われずそれを取っていく。

そこに込められているのって、社会のイメージ、くびきから脱していくということなのかなと思って。伊藤野枝が大正時代にやっていたことと同じなんじゃないかと。

雨宮 おお~!

栗原 男性のモチイエ幻想というのとは明らかに違う。それは女性がはたらくということとつながるんですけど。女性がはたらくということは、家で男性のために尽くさないといけないというところから脱するということ。女性がはたらきつづけていくことは、家の縛りから脱していくということと同じなのかなと。「フェミニズム、だいじ。」と。

雨宮さんの本を読んだら、マイホームを買うということも同じだ、女性がマイホームを買うということが、縛りを脱することであって、すごいなと。

雨宮 自分の力でそこにたどり着いたわけではないんです。私も連載を始める前までは家を買うことに抵抗はあったんですが、いろいろな状況が重なって。大きかったのは、友人が好みのマンションを見つけようとする姿がよかったこと。家に関する大きな決断や交渉って怖いものだという印象があったんですけど、宝探しのようですごく楽しそうだったんです。別に結婚を諦めました、という感じではなく、好きな家に住みたい、と家探ししている感じがよくて。

そんな中、神戸でたまたま素敵なマンションを見つけて。その流れでローン返済の勉強をするためにライフプランセミナーに行ったりしたんですけど、前提となっているスペックが正社員で、結婚して子どもを産んだ場合の返済プランがでてくる。最後には退職金でどんと返す計算になっていたりして。非正規雇用の人は無理ですよね⁉ という感じなんですけど。

栗原 うわー! 無理です無理です。

雨宮 だけどそのライフプランセミナーがヒドイということではなくて、そこでは無駄が出ないように、ローンを効率的に返すためのプランを提案しているんですよね。ただ、自分にはあてはまらなすぎて。それで落ちこぼれ感を感じてしまったりするんです。そんなとき栗原さんの本を読むと、力付けられます。これでいいんだ、イヤなことがあったら豚のようにブヒブヒ鳴け! と(笑)。

栗原 豚、大事です。豚、という表現をしたんですけど、どこかで開き直れる感覚を持っているのが大事だなと思っています。家を持たずに生活する新しい考え方の人たちもでてきているし、いざとなったら家なんてなくていいと思えるのは強い。

雨宮さんの『自信のない部屋へようこそ』がよかったのは、部屋を変えるのは自分でも使える魔法だと。部屋は自分そのもの、生き方そのものだと言ってもいいと思うんですけど。自分の部屋をよりよいものへと膨らませていく、無限に人にとっての可能性を広げていく、解放していくというのがすてきなところだなと思います。

雨宮 ありがとうございます。私は生きていくのが基本的に面倒くさい、だるいんです。しがらみがあるからイヤなんですけど。しがらみを捨ててしまえというのが栗原さんの考え方。

私は憂鬱な暮らしをどうやったら楽しくなるかなと考えたときに、自分は家にいることが多いので、そこを変えていきたいなと思ったんですよね。そんな思いで書きましたね。

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雨宮 まみ(あまみや・まみ)
ライター。1976年福岡県生まれ。自身の”女性性”とうまくつきあえないことから生き辛さを感じ、自意識にもがき苦しんだ半生を綴った初著書『女子をこじらせて』(ポット出版)を2011年に上梓。鮮烈な印象を与え、13年・14年の流行語大賞に「こじらせ女子」がノミネートされる。女性の自意識や恋愛、性などをテーマに多くの媒体で執筆。映画や舞台、芸術にも造詣が深く、活躍の幅を広げ続けている。著書に『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』(新潮社)、『東京を生きる』(大和書房)など。

『自信のない部屋へようこそ』


栗原 康(くりはら・やすし)

1979年埼玉県生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に『G8 サミット体制とはなにか』(以文社)、『大杉栄伝ー永遠のアナキズム』(夜光社)、『学生に賃金を』(新評論)、『現代暴力論』(角川新書)がある。趣味は、ビール、ドラマ鑑賞、詩吟。あと、錦糸町の河内音頭が大好きだ。「踊ること野馬のごとく、騒がしきこと山猿に異ならず」。それが人生の目標だ。

『はたらかないで、たらふく食べたい 「生の負債」からの解放宣言』


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