【INTERVIEW】仁村紗和/初出演映画『無伴奏』について語る

【INTERVIEW】仁村紗和/初出演映画『無伴奏』について語る


3月26日公開の映画『無伴奏』。直木賞作家、小池真理子の半自叙伝的な同名小説を映画化した本作は、昭和40年代半ばの仙台を舞台に、主人公・響子(成海璃子)ら4人の男女の恋愛模様を切なく耽美的に描いた物語だ。響子は、渉(池松壮亮)に夢中になる前までは、友人のレイコ、ジュリーと一緒に学生運動に精力的に活動していた。そのジュリーを演じるのが、映画初出演となる仁村紗和だ。初めての現場で彼女はどんなことを吸収したのだろうか。

撮影/吉田将史 文/池上愛

 

 

――映画『無伴奏』はどのようなきっかけで出演されたんですか?

「成海璃子さん演じる響子の友人役としてオーディションを受けました。その時はレイコとジュリーのどちらの役もやったんです。私はレイコのほうが自分に近いかも、と思いながら臨んだんですけど、ジュリーに決まってびっくりして」

――矢崎監督とジュリーという役どころについてどんなことを話しましたか?

「『ジュリーはこの映画で一番明るい人であってほしい』と。ジュリーは男勝りで熱血的にアジ演説をやるような女の子。元気であっけらかんとした役です。そんな話をしているうちに、自分にも結構近いものがあるなと……」

――仁村さんは“あっけらかん”ですか(笑)?

「はい(笑)。結構楽観的なんです」

――そうなんですね(笑)。原作は読まれたんですか?

「はい。オーディションを受ける前に読んで、衝撃的な展開に驚きました。だけど矢崎さんの映画を何本か観たことがあったので、これは矢崎さんに合うだろうなあとも思っていて。成海さん、池松(壮亮)さん、斎藤(工)さん達の関係性と、私達の関係性はちょっと雰囲気が違うので、私達のシーンでほっこりしてもらえたらなと。詳しくは話せないですけど……本当にこの映画は衝撃的なことが多いので(笑)」

――私も映画を観てびっくりしました。ところで舞台設定は1960年代後半~70年代となっています。アジ演説、学生運動について、何か勉強はされましたか?

「資料として助監督さんが用意して下さったDVDを頂きました。当時のアジ演説を観たんですけど、本当に激しく叫んでいて、ほぼ何を言ってるか聞こえないぐらいなんですね。人が亡くなったりもしたみたいで、本当に危険な場所だったようです。本番では人生でこんなに叫んだことはない! というくらい大声で演説しました」

――では、結構準備して挑むことが出来ました?

「そうですね……でも、アジ演説の予定のない卒業式のシーンの日、朝現場に行くと『やっぱり卒業式でもアジ演説やってほしい』と言われて。あれは大変でした(笑)」

――「卒業式、粉砕!」と叫ぶシーンですね。

「そうです。あの時、物凄く叫んでましたけど、当日の朝言われてびっくりしました。正直、初出演の映画だったので、現場はこんなこともあるんだなぁと思いました(笑)」

――アジ演説って、物凄く熱量がいると思うんですけど、どのような気持ちで演じられましたか?

「響子より私のほうがアジ演説に慣れているという設定だったので、堂々とすることを心がけて。流石に朝、台本を渡された時は、それを慣れているように言わなきゃいけなかったのできつかったです。でも、堂々としたつもり……ではあります(笑)。先生から『止めろー!』って怒られるんですけど、もし自分だったら絶対『すみません!』て言っちゃうんで、負けじとぐぅーっと先生を睨みつけながら叫びました」

――当日に追加された台詞だったとは。

「正直、動揺はしました。それに矢崎さんも、自分から意見を求めていかないと、ヒントをくれない方ですし」

――指示は特にないんですか?

「そうですね。だからこそ、焦らずゆっくり自分で探ることが出来たというのもありますけど、何せ初めての映画なので(苦笑)。私が思ってることと、矢崎さんが思ってることは同じなのかなって不安になる時もありました。だからアジ演説の時も、これでいいのかなあという気持ちがあって」

――もう1回、もう1回、と繰り返すことも?

「ありました。ここをこうしてという指示はなくて、自分で考えながらもう1回を繰り返していく感じでしたね。でも、矢崎さんは凄く優しい方なんですよ。初めての映画が矢崎さんの作品で良かったと思ってます。勉強させてもらいました」

――撮影以外でお話しする機会はあったんですか?

「撮影以外では、試写でお会いしたぐらいなので、そこまでお話は出来なかったんですけど。打ち上げでは楽しくお話しさせて頂きました」

――プレスを拝見したところ、矢崎監督は衣裳合わせが1回では決まらない監督だと書いてありましたが、ビジュアルはどのように決めていったんですか?

「ジュリーは髪の毛がストレートというのは決まっていました。あとは『ツインテールはどう?』ともおっしゃっていて」

――ツインテールという候補もあったんですね。

「あの年代はおさげとかツインテールをする女の子が多かったんです。最初は高めの位置でツインテールをしようか、という意見もあったんですけど、最終的に下ろしたままになりました」

――響子はミニスカートを履いていて、ジュリーはズボンが多かったですよね?

「そうですね。スカートのシーンは1日だけだったかな。ほぼタートルネックにバギーパンツでしたね。制服廃止闘争委員会のシーンでは、セーラー服をその場でバッと脱いでいくんですけど、響子とレイコはワンピースタイプのシミーズなんですけど、私はズボンみたいなものを履いているんです。その年代の古着が役衣裳にもなっていたりして、凄く衣裳にもこだわりが感じられました」

――あの当時の学生達は物凄い熱量を持ってましたけど、そこに共感する部分はありますか?

「ありましたね。制服、廃止! まではいかないですけど、校則には反発してましたねぇ。関西のほうは、みんなスカートを長くしたがるので」

――え、そうなんですか?

「そうなんです。本当はくるぶしぐらいまでスカート長くしたいんですよ」

――それ、スケバンじゃないですか(笑)

「でもほんま、かなり長いスカートの子いますよ。ここに関西出身の人がいないのが悔しい(笑)」

――それがオシャレってこと?

「古着っぽく着こなすというか。短めの靴下にロングスカートを合わせるような感覚です。で、上はトレーナーを着たりとか。でもそういう着こなしは校則NGなので、放課後になったら腰穿きにするんです。是非大阪に行った時に見て下さい、制服の女の子を(笑)」

――あはは(笑)。ちなみに仁村さんのクランクインはどんなシーンでした?

「バロック喫茶『無伴奏』に全員集合するシーンです」

――初めて出演する映画のクランクインの日って、どういう気持ちなんでしょうか?

「本当に探り探りでした。現場で起こることを全部身につけてやろう! という気持ちが大きかったです。尊敬する俳優さんばかりが集まっていらっしゃるので、その背中を見て勉強しようと」

――喫茶店「無伴奏」は象徴的な場所でしたね。実際にあった無伴奏を再現しているんですよね?

「そうですね。ほぼ一緒だと原作の小池真理子さんもおっしゃっていました。座席も向かい合ってなくて、電車のように一方に向いてるんです。最近そういうカフェを渋谷で見つけたんですよ!」

――へぇ~そうなんですか。

「ライオンという喫茶店で。座席も全部一方向きでした。座席の前のほうに置いてあるスピーカーから音楽が流れてて、“無伴奏や!”と思いました(笑)。異空間にいるような、タイムスリップしたような感じでしたね」

――映画に登場する「無伴奏」も地下に降りていく感じが異空間でしたね。

「いい雰囲気ですよね。ただ、今の高校生が入るような喫茶店じゃないですが(笑)」

――確かに(笑)。それでは共演者についてもお聞きしたいんですが、成海さんはどんな方でしたか?

「思ったよりゲラな方でした」

――笑い上戸だったんですか。

「そうです。なんでも笑う人で(笑)。私はこの映画の中で元気な役だから、ずっとムードメーカーにならないといけないって思っていて。矢崎監督やプロデューサーの登山さんからは『成海さんだからって遠慮せずに、距離を縮めてほしい。画面にその関係性が映ってしまうから』と言われて。もう頑張ってアタックしていきました(笑)。だけどその度に、明るい成海さんが引っ張ってくれたので、凄く助かりました」

――自ら話しかけていったんですか?

「そうですね。ご飯の時も『隣、失礼します!』みたいな(笑)」

――成海さん演じる響子の自宅部屋に押しかけるシーンがありましたね。

「はい。あのシーンが私のクランクアップだったんです。あの時はだいぶ距離は縮まっていました。にんにくを食べるシーンがあったので、成海さんつらかっただろうなって……私のにおいが(笑)」

――あはは(笑)。

「テスト含めて5~6個は食べました。めっちゃ美味しかったんですけど、セリフを言う度に、ぷ~んとにおってるだろうなと(苦笑)」

――プラスアクトで成海璃子さんを取材させて頂いた時、この映画を撮影しながら“女優を引退してしまおう”くらいに思っていたそうで。

「いや、もうほんとそれくらい気張ってらっしゃったみたいで。スタッフさんも2日間くらい寝てない方もいたり、現場はかなりタイトなスケジュールだったんです。成海さんは特に、全シーン出てるといってもいいじゃないですか。ちゃんと寝れてたのかな……とか思っちゃいました。色々考える役どころでもありますし」

――撮影はどれぐらいの期間だったんですか?

「1カ月弱くらい。無伴奏のセットは綱島で、無伴奏の外は甲府、響子の家は栃木で、それ以外は仙台での撮影。学校のシーンも実際の学校で撮影して。リアルな生徒さんもいたので、アジ演説うるさくてすみませんという気持ちで(笑)」

――インスタグラムに料理の差し入れ写真が上がっているのを見たんですが。

「あ! そうなんです。まさしく『無伴奏』のケータリングでした。仙台の野菜で作られたもので、凄く心が温まりました。めっちゃ美味しかったです!」

――仙台はどうでした?

「町中での撮影はなかったのですが、念願の牛タンを食べれたので嬉しかったです(笑)」

――食べ物は大事ですね(笑)。それでは、仁村さん自身についてもお聞きしたいんですが、出身は大阪なんですよね。上京してどれくらいになるんですか?

「今年の2月で2年になりました」

――女優を目指すために東京へ?

「上京した当時は、お芝居もやってみたいなとは思ってたんですけど、大阪でずっとモデルをやっていたので、上京した時もモデルさんになるつもりでいました。でもオーディションを色々受けさせてもらう中で映像のお仕事も多くなってきて、もっと勉強したいなという思いが出てきたんです」

――今、演技のお仕事を重ねる中で、お芝居の楽しさは感じてますか?

「そうですね。もっと学びたい意欲が増してきています」

――どういうところが面白いと感じますか?

「人の気持ちを凄く考えるお仕事だから、ですかね。自分の事のように考えたり、感情移入したりするじゃないですか。そこが凄く面白いし楽しいんです」

――色々考えるのが好きなんですか?

「そうかもしれません。友達の悩みとかも聞いたりします」

――聞くほうなんですね。

「しかもおせっかいなんです。女の子って結構愚痴を言ったらスッキリするじゃないですか?」

――「わかる~」って言っておけば大丈夫みたいな。

「そうそう! でも、私はこうすればああすれば、って言っちゃうんです。だから、そんなにはアドバイスいらん! っていう感じの扱いをたまにされます(笑)」

――(笑)。だから、自分の演じる役は、その他の登場人物に対しても、この人ってこうなのかな、みたいなことを色々考えるんですね。

「はい。この人だったらどういう風な行動をしたり表現をするかなって考えたりするのが好きですね」

――バラエティー番組も結構出てらっしゃいますよね。

「初めてのバラエティーは『世界ふしぎ発見!』でした。全問不正解で(笑)」

――ダメでしたか(笑)。

「いや、本当に難しかったんですよ! テーマが宇宙で、予習するにも広すぎて!」

――確かに(笑)! バラエティーもまた違うフィールドですよね。

「ほっんと、バラエティーって難しいです。まだまだ勉強です!」

――モデルという場所がスタートで、今は色んなフィールドに羽ばたいている最中なんですね。では、初めての映画出演で、完成作をご覧になっての感想も聞かせて下さい。

「自分に対してはまだ客観的に観れていない部分があります。エンドロールに自分の名前が流れた時は、ドキドキしました。矢崎さんはよかったよと言ってくれましたけど、ほんとに大丈夫かなあって不安になったりもして。まだまだ未熟だなと思いながら観ていました」

――映画の現場は、仁村さんにとってどんな場所でしたか?

「映画っていいなぁと感じられる場所でした。元々映画が大好きなんですけど、『無伴奏』に参加して、より大好きになった気がします。ひとつの作品を作り上げた達成感みたいな。上映が始まったらもう1回観たいですね。試写ではストーリーをちゃんと追えなかったので、改めて観に行きたいと思っています」


■プロフィール

仁村 紗和(にむら・さわ)
1994年生まれ、大阪府出身。住友生命のCMで「おつる」として出演し話題に。主な出演作にドラマ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』(7・8・9話)、Baes Ball Bear『それって、for 誰?』MV出演、バラエティー『世界ふしぎ発見』『痛快TVスカッとジャパン』などがある。映画『無伴奏』で映画初出演。


 ■映画紹介

©2015「無伴奏」製作委員会

『無伴奏』
監督/矢崎仁司
原作/小池真理子(『無伴奏』新潮文庫刊、集英社文庫刊)
出演/成海璃子 池松壮亮 斎藤工 遠藤新菜 松本若菜 酒井波湖 仁村紗和 斉藤とも子 藤田朋子 光石研
配給・制作プロダクション/アークエンタテインメント
3月26日(土)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー


▶映画『無伴奏』公式サイト
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