【試し読み】無慈悲な寿命とリンパ腫の怖さ『愛猫が余命20日と宣告されました』(2)
6月12日
先生「リンパ腫の治療を行い、寛解した猫ちゃんの平均余命は、半年です」
・・・? 半年・・・?
え?? え? え? え??
響介「ちょっと! 間違えてますよ! 僕が聞いてるのは寛解後の話! それ無治療の話でしょ笑!」
先生「治療が全てうまくいって、寛解した子の、平均余命が、半年前後です」
バタン。椅子で失神した。完全に、気を失った。
検査の日、駐車場で倒れたあの比じゃない。後頭部を壁にガン!っとブツけて目が覚めた。
意味がわからない。だって、え? 治療するんだよ?
じゃあ、ポーチーとは、どんなに頑張っても半年しか一緒にいられないの?
衝撃的すぎる事実
実際、猫の悪性リンパ腫は、寛解しても70%前後が半年〜9ヶ月で命を落とすらしい。寛解しても再燃する可能性も高いため、抗がん剤が効かなくなっていき、いずれコントロールできなくなり・・・という感じらしい。
しかし、逆に言うと、20%前後は1年を越すことができる。
・・・うん、冷静に考えて・・・1年って短すぎるだろ。
「延びた」に入らねえよ。そんなの、猫の匂い吸っていたら、体感5分で過ぎちゃうんですけど。
もちろんこれはデータ上の話で、2年生きた子もいる。先生の患者さんで9年生きてる子もいるらしい。SNSでも「6年再燃なし」とか「再燃なしで天寿をまっとうしましたよ!」という子もいる。
だから、確率がどんなに低くても、そういう前向きな話を聞いて、信じて、進むしかないんだ。
6月13日
僕なりに調べたこと、そして先生に教えていただいたメリットやデメリットをここでまとめておこうと思う。
ただし、「猫マスターがこれにしてたからこれが正解!」とはならず、あくまで獣医師の先生と「その子に合う」最適な治療法を選択してあげてください。
抗がん剤治療とは
専門的な話は専門家に任せるとして、僕なりにものすごくかみ砕いて説明すると「身体中の良い細胞も悪い細胞も、全部まとめて攻撃しまくるやばい薬」って感じです。
がんやリンパ腫などは非常に反応が良く、早ければ1日で腫瘍が消えることもあるらしい。その反面、身体を守っている大事な細胞までも破壊していくため、いわゆる「副作用」が出てくる。よくドラマなどで見るような脱毛、吐き気、下痢、倦怠感、などなど。
「それもう、副作用の方がやばくね?」みたいな状態になってしまうわけです。
が、しかし。じつは動物の抗がん剤は副作用が出ないように抑えられている。猫や犬の抗がん剤は、人間への投与に比べてかなり少なめで、入院が必要なレベルの副反応が出る確率は全体でも5%未満くらいらしい。
というのも、やはり身体が小さい分、人間と同じような使い方をするとそれだけで死んでしまったりする可能性があるので、副作用に耐えられる量に調整されているのだ。つまり、猫の抗がん剤治療は、思ってるよりヘヴィではないのです。すごい!
実際、僕も最初はめちゃくちゃ不安だった。
「抗がん剤・・・? ツルツルの猫になっちゃうの?」
「吐き気とかで動けなくなったり・・・?」
しかし、そこまで強い症状が出る子は稀(まれ)らしい。ただ、白血球や血小板が著しく減ると敗血症やその他の病気を併発することもあるため、抗がん剤を打ったら必ず1 週間後に血液検査をするのが鉄則。その数値に問題が無いことを確認して、次の注射へ、と進めていく。
抗がん剤の主な副作用まとめ
病院で教えてもらった、主な注意点を整理しておこうと思う。
◎骨髄:白血球や血小板の減少(骨髄抑制)
副作用として出るのは投与後1週間~10日あたり。白血球や血小板が減ると免疫力が落ち、感染症にかかるリスクが高まる。リスク回避のために抗生物質を一緒に飲ませることもある。
◎消化管粘膜:嘔吐・下痢
副作用として出やすいらしい。厄介なのが、下痢が続くと細菌感染しやすくなるため、免疫力が落ちている最中の下痢は最悪コンボ。嘔吐については、猫は元々よく吐く動物なので難しいが、副作用なのかそうでないかを判断できるように色や量、頻度などチェックしなければならない。
◎毛根:脱毛(ヒゲが抜ける)
けっこう心配だったのですが、猫はほとんど脱毛しないらしい。強いて言えば、ヒゲが抜ける子はいるとのこと。ヒゲは人間にとっての髪の毛ポジションだったのか。
抗がん剤の使い方
抗がん剤治療は大きく分けて、単剤(一つの抗がん剤を使う)と多剤併用(複数の種類を組み合わせて使う)の2タイプがある。
単剤療法では、リンパ腫に効果が最も期待できるドキソルビシンを3週間ごとに使用する方法が主流らしい。
一方の多剤併用療法は、異なる複数の抗がん剤を、違うタイミング・違う組み合わせで打っていき、多方面から腫瘍を制御する方法。単剤療法に比べ、治療成績が良く、治療効果、予後の良さが長く続くことが期待できるらしい。
ただし、デメリットもある。通院は週1回ペース(単剤なら3週間に1回)で毎週の血液検査が必須、単剤より副作用が出やすい、単剤より治療費が上がる、飼い主のスケジュール管理が大変、猫のストレスも増える、などだ。会社勤めの人は特に要注意!
また、多剤併用といっても、適当にいろんなやつ打ちまくろうぜ~って話ではなく、きちんと医学的に成果の高い「プロトコール」というものが考えられているのです。
抗がん剤プロトコールとは
ざっくり言うと、長年の研究とデータに基づいた「複数の抗がん剤をこの手順でこの組み合わせで打つと成績が良さげですよ~」というもの。
有名なプロトコールには次のようなものがある。
◎COPプロトコール
C:シクロホスファミド(エンドキサン)
O:オンコビン(ビンクリスチン)
P:プレドニゾロン(ステロイド)
の略で、これらを決められたタイミングで毎週打っていく。
◎CHOPプロトコール
上記の3つに加え、単剤でよく使われるドキソルビシンを加えたプロトコール。薬の量が増える分、リンパ腫が抗がん剤に対抗しにくいのでより強固な組み合わせになるが、心臓や腎臓への負担が大きいため年齢や持病と要相談。
◎R-CHOPプロトコール
さらにさらにリツキシマブ(リツキサン)という抗がん剤を追加したバージョン。種類が増える=リンパ腫が抗体を持つのを遅らせられるが、身体への負担もあがる。
◎UW-25プロトコール
CHOPをベースとしたプロトコールで、2002年にウィスコンシン大学が発表したもの。前述したプロトコールは「寛解後もプロトコールはやりきる」が基本なのだが、これは少し特殊で、CHOPベースの抗がん剤を投与量や頻度を調整し、症状が消えていれば25週で一旦治療を終了する。再発時に同じプロトコールを使い、再度消失状態に持っていける可能性が高いとのこと。
いろいろ書いたが、基本はかかりつけの獣医師さんと相談して決めていくのがいいと思う。
ちなみにプロトコール実施中は抗がん剤だけでなく、整腸剤、吐き気止め、胃腸を動かす薬、ステロイド、抗生物質、他に症状があればそれに対して処方・・・という感じで、山ほど薬が出ることも。
予防、対策をしておかないと副作用で大きなダメージを負ってしまうこともあるので、必要なものだ。病院の方針によって「副作用が出たら処方する」タイプと「絶対副作用が出ないように先に飲ませる」タイプがあるらしい。
治療のステップは大きく4段階
猫のリンパ腫の治療は、① 導入期、② 維持期、③ 再導入期、④ レスキュー期に区分される。
① 導入期は、寛解(腫瘍が見えなくなる状態)を目指して、抗がん剤を投与していく期間。無事に寛解となれば次のステップへ。
② 維持期は、抗がん剤はお休みして、1ヶ月に1回、定期検査で状態をチェックしながら過ごす。この期間をいかに長くできるか、が抗がん剤治療のキモになる。
③ 再導入期は、再燃(リンパ腫が復活)してしまったら、再び治療へ。前と同じプロトコールが効けばそのまま、効き目がないようであれば種類を変えて寛解を目指していく。
② 維持期(2度目)。再導入後、寛解が望めたとしても・・・この寛解期間がだんだん短くなってくる。多数の抗がん剤が効かなくなったり、使用できない状況になってしまった場合、次の段階だ。
④ レスキュー期は、即効性重視の抗がん剤を使用する。しかし持続性が短いものが多く、リンパ腫自体も強い耐性を持っているため、打った直後は元気!なのに、2日目にはぐったり・・・なんて地獄のような辛い状況になることも。
その時、その子の最期とどう向き合うかを、本当の意味で考えなければならないのかもしれません。
6月14日
先生がポポロンに最適だと判断してくれたのは・・・
COPプロトコール
一般的なやつ! シクロホスファミド(エンドキサン)とオンコビン(ビンクリスチン)を毎週交互に打っていって、毎日プレドニゾロン(ステロイド)を口から投薬という感じ。
抗がん剤は合計6回ずつ、そして、ステロイドの量を最初は2錠、次の週は1錠、半錠、1/4錠と毎週減らしていく。
長い戦いだ~。猫の抗がん剤治療は副作用が少ないと言われてるが、本当に大丈夫なんだろうか・・・?
とにかく心配で先生に何度も確認してしまった。
先生「猫の抗がん剤治療はQOL最優先です。副作用は本当に少ないようになっていますよ」
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)、つまり生活の質。極端に言えば、限界ギリギリまで抗がん剤を打って24時間ゲーゲー吐いて、好きなご飯も食べられない、大好きな飼い主とも遊べない、キャットタワーにも登れない・・・。そんな状態になってしまったら、動物として、生きていて辛いだろう。
だからこそ、動物の抗がん剤治療における最重要点は「いかに生活の質を落とさずに過ごせるか」にあるのだ。
完治は難しい病気。それならば、少しでも長く、「その子が心から幸せな時間」を作ってあげること。幸せな時間を一緒に過ごすこと。
この考え方を持って治療に臨めると、多少なりとも心構えができると思う。
まだ始まっていないのにこの葛藤。まだ始まっていないのに、この気持ちのざわめき。
でもね、全てはポポロンのために。今はやるしかない。
猫のための家を建てたけど、まだまだ次の目標は尽きない。無人島でみんなと暮らしたいし、老後は山を買ってでっかい平屋で安全におにごっこしたいし、僕の“妄想猫物語”はまだ途中なんだ。
僕の原動力は、いつだって猫。
時間もお金も、頭の中のキャパも全部、猫に捧げてきたけど、その何億倍も、猫たちから幸せをもらってる。だから僕は、猫のために恩返しをし続ける人生を選んだんです。
我が家の猫を、世界最強に幸せな猫にするんです。
やるよ。
ポポロンが幸せな時間を1秒でも長く過ごせるように。
(次のページへつづく)
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『愛猫が余命20日と宣告されました』
著:響介 監修:服部幸