【試し読み】「寛解」『愛猫が余命20日と宣告されました』(5)


猫の健康には人一倍気を付けていたはずなのに…。5匹の猫と暮らす著者が、ある日愛猫の「余命20日」という宣告を受けてから、病気と全力で向き合い、闘った全記録。今まで誰も書けなかった、触れられなかったことまで徹底的に詳しく、そしてリアルに書き残しました。

2025年9月27日に発売された『愛猫が余命20日と宣告されました』(著:響介)より、第5章「『寛解』」を公開します。

【試し読み】第4章「2度目のビンクリスチン」はこちら

 

7月16日

 この日も食べなかった。焦る、焦る、焦る。
 二度目のビンクリスチンを打ってから、ほとんど食べない日が続いている。流石(さすが)にこのまま様子見はできないと思い、病院に電話した。

先生「そんなバカな・・・すぐ連れてきてください」

 一刻の猶予もないような、そんな焦りが伝わる声だった。

泣かないと決めたのに涙目になりかけながら病院へ

 おしっこ、うんち、鼻水などの様子を聞かれた。食べていないのでうんちは出ていないが、おしっこはしているし、水も飲んでいる。
 触診や心音の確認を終えた先生はついに、「エコーさせてください」と言った。抗がん剤の副作用だとしたらおかしい、と。
 普通はとっくに落ち着いているはずだ。少し症状が出るのが遅れるといっても限度がある。ここまできたら、抗がん剤自体の副作用ではなく、他に原因があるか、最悪の場合は早くも抗がん剤が効かなくなって、またリンパ腫が増え出している可能性があると伝えられた。

 検査のため、僕は待合室に一人戻った。
 ズボンが破れるほど握りしめ、歯がさらに割れるほど食いしばり、小刻みに震えながらこの文章を打っている。
 頼む、これ以上、これ以上ポーチーをいじめるのは、やめてくれ。

 

7月17日

先生「響介さん、どうぞ」

先生に呼ばれ、検査室に入ると・・・

 恐る恐る検査室に入ると、そこには診察台に寝そべる可愛すぎるポーチーが。可愛いね。本当に可愛いね。
 せっかくちょっと生えてきたお腹の毛も、また剃られちゃったね。

 ポーチーはじつはお腹にドラ●もん的なポケットがついてるんだよね。この柄、大人になって毛が濃くなると見えにくくなってたけど、子猫の頃から変わらずずっとあるんだよね。そのポッケから体内のリンパ腫だけ取り出して、ぽいって捨てられればいいのになあ。

 ああ、ポーチー、お願いだよ。
 これ以上ポーチーが辛い思いするの、見たくないし、そんな思いさせたくないよ。僕頑張るから、必ずどうにかするから、だから、今この瞬間の検査で、悪いものは見たくないよ。
 ああ、帰りたい。足取りが重すぎて、たった2、3歩の検査室内の移動に数分かかっていた気がする。

エコー検査の結果は・・・

 なんと・・・リンパ腫は消えていた。
 素人目にもわかるほど、きれいに。目を疑った。
 えええええええええええええええええ!
 スゴイポポロン! スゴロンじゃん!
 リンパ腫が、腹水が、きれいに消えている。どう見ても。
 え? これって、そうですよね・・・!? 先生・・・!?

先生「あ、寛解してますね~」

 え?
 寛解ってこんな感じで伝えられるん・・・?
 もっとこうホテルとか貸し切って、
 「結果発表!!!!」ドゥルルルルルルル・・・
 「寛解です!!!!!」ドーン!!! ぱふぱふ〜!!!
 みたいな感じじゃないの!???! 嬉しすぎてしょんべん漏れた。(実話)

 抗がん剤治療中、もう泣かないって決めていたけど、この時ばかりは本気で泣きそうになった。
 この時くらい泣いていいだろ。いや、でも全力で泣くのは完全に治療が終わってからだ!
 可愛いポーチー。大好きポーチー。
 嬉しい、嬉しい。

 

7月18日

「寛解」

 たった二文字。この二文字を目指してポーチーと頑張ってきた。
 前進しているのか、後退しているのか、何もわからない毎日だった。不安で不安で不安でいっぱいだった毎日が、「正解だったんだ」と思えた。この「寛解」が、僕らを肯定してくれた。悩みながらもちゃんと、前進してたんだ。
 ポーチー、僕たち、間違ってなかったみたいだよ。家にいるみんなに、報告しなきゃね。
 そんな嬉々とした感情で埋め尽くされ、とある現実を忘れてしまっていた。

 じゃあ、なぜ食べない。
 寛解した。吐き気や下痢など変な症状もない。だとしたら逆に、食べない原因が見当たらないのだ。
 もしかすると・・・

ポーチーにとって辛すぎる数週間だったのではないか

 朝晩の投薬、頻繁な通院、夜のケージ生活・・・副作用のだるさもあるだろうし、そりゃ、しんどいよね。
 検査で原因がほぼ見当たらないことから、食べない原因はおそらく心因的なことなのではないか。
 あまりに辛そうなポーチーを見て、ふと思った。
 「寛解したのなら治療をやめてもいいのでは?」
 でも、先生はこう言った。

先生「犬猫のこういう姿を見て“抗がん剤治療は可哀想だ。もうやめさせたい”と言う飼い主さんも多いんです。でも、僕ら獣医師からすると、こんなに効いていて、寛解に進んでいるのに、今やめちゃうの?と思うことも多いんです」

 その通りだ。
 やめさせてあげたい・・・そう思ってしまったけど、いっときの寛解で終わらせちゃダメだ。ここからみんなで、毎日を最高に幸せに楽しく過ごすためには、最強に元気じゃなきゃ。
 だから、人間の、僕のエゴで、治療を続けさせてくれ、ポポロン。またポポロンとおにごっこしたいし、爆裂大ジャンプも見たい!

先生「寛解が確認できた今、内臓の負担を深く考えたりせず、とにかく食べさせることを優先しましょう! 食欲増進剤を出しますので、それで食べるようなら、治療を再開しましょう!」

 先生はそう提案をくださいました。
 食欲増進剤の効果は1日程度しか持たないらしいが、その1回「食べられた」という体験が、「また食べたい」という気持ちにつながることを狙っての判断だ。
 まずは食べてもらう。それから!
 だって、寛解してるんだもん!!!
 我ら! 最強の猫戦士! ポーチーレンジャー!!!

 

7月19日

朝イチで病院へ行き食欲増進剤をもらい、昼帰宅

 その直後に薬を飲ませて、ご飯を食べることを祈る。
 と、祈るモーションをする間もなく・・・食べ出した!
 食欲増進剤すごすぎる。数口食べて、お散歩。また少し食べて、お散歩。量は少ないがそれでいい。全く食べなかったことを思えば、すごい進歩。

 久々のおうちパトロールだ。ポーチーの日課、リビングの見回り。家中をドスドスと足音を立てて歩く。ポーチーは立派にこの家を守ってくれてるんだ。
 ちなみにパトロール業務中は一心不乱に集中しすぎて僕のことをただの障害物だと思っている。顔も見てくれません。僕もたまに後ろをついて行かせてもらっているのだが、完全に研修生扱いで「見て覚えろ」スタイルなので、いまだにルールがわかりません。すみませんポポロン先輩。
 外敵が来ないか、危険なやつがおらんか、ものが壊れてないか、響介が漏らしてないか・・・などなど。ポーチーが寝てばっかりだったから誰もパトロールしてくれる人いなくてさ!!!

理想的な進行を見せた

 夜、2階のスタジオ(我が家で唯一、猫の立ち入り禁止の部屋だ)からリビングに降りると、リュックの介護? 付きで一緒に僕を待ってくれていた。
 薬のおかげとはいえ、「食べる」という行動が癖づいてくれると、きっとその後も安心だ。「薬が切れたらまた食べなくなるのでは・・・?」という心配も拭い切れないが、でも「食べてる」。
 その事実が目の前にある。

 リンパ腫が寛解し、身体の中はもうきれいなはず。だから、「食欲」さえ戻ってくれれば、あとはそれだけでいいんだ。
 しかし先生から伝えられていた唯一の懸念点。「食欲増進剤のとある副作用」が翌日出てしまった。

(次のページへつづく)

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愛猫が余命20日と宣告されました
著:響介 監修:服部幸


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