【試し読み】「寛解」『愛猫が余命20日と宣告されました』(5)
7月20日
食欲増進剤の副作用とは
ズバリ、落ち着きがなくなる、のだ。
ウロウロウロウロしたり、飛んだり跳ねたり、唸ったり。要は興奮状態にすることで、欲を爆発させて食べたくさせるからだ。
大きな声で鳴きまくって飼い主が寝られなくなることもあるらしい。同居猫がいるとケンカになったりすることも多いらしく、先生からその注意も受けた。
しかし、ポーチーには聞いていない副作用が出た。
それは、鳴き声が・・・「パッポー」に変わってしまう。
どう聞いても・・・パッポーだ。脳内再生していただく時は、完全に鳩時計のアレでいいです。パッポー・・・パッポー・・・。
先生が言っていたような、「アオアオアオ!!!」と馬鹿でかい声で家中に響き渡る勢いで鳴く、みたいな感じじゃない。同じ部屋にいないと聞こえないくらい絶妙に控えめな音量で、
ポポロン「パッポー・・・」
響介「ぽ、ぽぽろん・・・?」
ポポロン「ポッ・・・パッポー?」
返事までする。
悶えるほど可愛い。可愛すぎて気付けば僕も一緒に「パッポー!」と言っていた・・・。
この時、不意に思い出がよみがえった。
ポポロンの名前の由来
そういえば、ポポロンの名前の由来は、我が家に来て初めてキャットタワーから降りた時に「ポポロンッ!!!」って声を発したからだったんだよな。
そんで僕の好きなお菓子がポポロンだったから。だからポポロンになったんだよね。
もし出会いが今だったら、ポポロンじゃなくてパッポーになってたな・・・。10年前に出会えて「ポポロンッ」って言ってくれて、ありがとう。
パッポーも可愛いから、好きよ。
でもやっぱりポポロンって名前が好きだよ。
と言いながら、結局「ポーチー」と呼んでる僕。飼い主が溺愛しすぎて、猫の呼び名が変わるのはあるあるだと思うが、猫自らネタを提供するパターンもあるとは思わなかった。
パッポーと鳴くポポロンは、愛しくて可愛くて、そして音量も控えめで、やっぱり優しい子。おかげでポポロンを抱いてぐっすり眠れた。
翌日もしっかりご飯を食べた。さらに次の日も食べた。
すごい。素晴らしい。すごいよポーチー。
これなら抗がん剤の再開の目処が立ちそうだ。
7月21日
今日は病院へ連れて行くことに。と思ったら、ポポロンがいない! どこ!?と思ったら、お得意の布団の中!!
季節問わず布団にもぐるのが好きなポーチーですが、抗がん剤治療が始まってからは、一度もその姿を見ていなくて・・・。「健康な時ならではのムーブ」だったんだなと凹んでいたのですが、久々に見れた!
やっぱり元気が戻ってきてる証拠なんだな。
改めて「寛解」とは
寛解という言葉に希望を膨らませ、ひたすらそこを目指して頑張ってきているが、実際問題として寛解というのは、「症状がなく、検査で腫瘍が目視できなくなった状態」のことを言う。
つまり、今は見えていないだけで、エコーやレントゲンなどの検査をすると「じつは裏側にあった」なんてこともあり得る。これは人間の抗がん剤治療でもよくあることらしい。
そのリスクを減らすために、抗がん剤プロトコールはしっかり完走すべきなんだ。
そしてもう一つ大事な理由がある。それは、再発を防止する(遅らせる)ため。腫瘍が消えたからといってそこがゴールではありません。
来月再発するかも。再来月かも、半年先かも、来年かも。いつ戻ってくるかわかりません。しかも、再燃した時のリンパ腫は前よりも強くなっています。抗がん剤が効きにくくなっています。
その時にあたふたするのではなく、今のうちに“再発の確率を1%でも減らしておく”のが大事なのです。より長く、良い予後のために、しっかりと腫瘍の根源ごと叩く!
だから僕は、こんなに辛い抗がん剤治療を、嫌だよ! 嫌だけど!!! 続けるために頑張るのです。
病院へ着き、血液検査の結果は問題なし。治療続行することに。抗がん剤を打ち、今までもらっていた整腸剤や抗生剤、吐き気止めに加え、緊急時用の食欲増進剤も1日分もらっておいた。
食欲増進剤を飲ませる機会がある方は気を付けてください。鳴き声パッポーになりますよ。
7月23日
今までは抗がん剤を打ったあと、数日間は割と元気だったのに、今回は、初日から食べません。翌日も食べるそぶりすらない。
口や鼻先にペースト状のご飯をつけてぺろっと舐める、程度だ。水を飲む量も露骨に減っていて脱水も心配になってくる。
あまりに食べないので心配になり病院へ
しかも泡を吹くようになってしまった。薬を飲んだあとでもないのに。これは吐き気や気持ち悪いなどの時に見られる症状だ。
先生に診てもらうと、「おおお、これは、皮下点滴、しましょうか」と即答で点滴することに。
そして・・・
先生「食事補助を視野に入れた方がいいかもしれないですね」
ああ・・・この選択肢が出るということは、けっこうまずいのかもしれない。
7月25日
ところで僕が言う「食べない」は「自発的に食べない」を意味している。口元に持っていって、ぺろっとしてくれれば最高だし、してくれなくても鼻や手、口の周りに軽くつけてあげて、“嫌がってつい舐めてしまう(毛づくろいしてしまう)”という猫特有の反射を利用して、口に入れてもらうイメージだ。
ただ、あまりに何回もやるとストレスになるので緊急時のみ。
ここ数日で最も状態が悪い
いや、数日どころか過去最高に状態が悪い。
食べない上によだれが止まらない。ぐったりしてあまり動かない。当たり前だ。何日もご飯を食べていないなんて、人間だったら歩くことすら大変だろう。
毎朝病院の先生に電話して、必要があれば連れて行ってを繰り返す毎日。幸い水は飲むようになったので脱水はない。
ポーチーはずっと暗がりにいる。気持ち悪い時の定位置になっているリビングイン階段の下か、最近はなぜか3階に僕が作った猫小部屋にもよくいる。
ここ、秘密基地みたいにしたくて僕がDIYで作ったのに誰も使ってくれなくて、僕が閉じ込められた可哀想な部屋だったんだけど・・・笑。でも結果的に「一人になれる静かな暗い場所」になってくれているなら、結果オーライだろうか。
そんな中でも、一つだけ変わらないことがある。
僕の膝には乗ってきてくれるんです。ちょっとだけね。
1日1回、水を飲んだあとに「ついで」みたいな感じで、膝に来てくれる。パトロールの警察官たちの寄り所の一環みたいな。
それが心地いいのか、暇つぶしなのか、僕があまりに寂しそうな顔してるから気を遣ってなのか、わからない。でも膝に乗るという日課だけは、忘れないでくれてる。
いや、本音で言うとさ。「膝なんか忘れていいから飯食うの思い出せよ」と思います。
でも、今のポーチーにとっては「僕の膝>>>>>ご飯」という圧倒的な優劣がついているのだ。すげえな僕の膝。
7月26日
本来であれば抗がん剤を打つ日を迎えた。しかしこの1週間、ポポロンは自発的に一度もご飯を食べていない。口や鼻につけたペーストご飯を舐めさせていた程度。
抱っこして体感でもはっきりわかるほど痩せている。
そんな状態で無理して抗がん剤を打って、また副作用が出て、また1週間食べられなくなったら? 2週間絶食なんて、まともに考えて無理だ。無理。不可能。無理無理無理。
僕の心も、持たない。心配で仕方がない。怖い。
先生はどんな時でも猫ファースト
先生「本来は毎週打つのが理想ですが、猫の体調とちゃんと相談しながら調整するべきと考えています。1週間くらいならおそらくズレても大丈夫ですから、焦らないで。
もし今日スケジュール通り抗がん剤を打って、また食べられなくなったら・・・1ヶ月のうちに何日ご飯を食べてるんだろう? って話になりますよね。そんなの辛すぎますよ・・・」
悔しそうな顔でポーチーを見つめながら呟いた。
それにしても、副作用なんてとっくに終わってるはずの日数なのに、なぜこんなにずっと食べないし、気持ち悪そうなんだろう。
頭を抱えている先生。そして、ふと僕の脳裏によぎった疑問。
響介「なんか、もしかしてなんですけど、これってカリシウイルス的なこと・・・とか、あったりしませんか?」
その瞬間、先生の表情が変わった。
先生「・・・!!! そうだ、確かに! ポポロンくんの体内に潜むカリシウイルスが出ちゃってるんだ・・・!」
7月27日
キャリアとは?
猫は一度ウイルス感染するとキャリアといって体内に菌を残し続けてしまう。
健康な猫が体内に菌を保有し続けていたとしても、基本的に普段の生活では免疫力が勝つので、症状はほとんど出ないのだが・・・季節の変わり目やすごく寒い日、暑い日が続くと涙が出たりくしゃみをする子を見たことはないだろうか?
そういう子は、ヘルペスウイルスなどのキャリアになっていることが多い。特に野良猫出身だったり、外中飼いの子はかなりの高確率でキャリアだ。(親が持っていたらほぼ100%子どもに感染、のループ)
そう。数年前に起きた地獄の思い出。
5匹一斉にウイルスに感染してしまって、でもポポロンが明らかに一番症状が重かった。あれもカリシのせいだった。
なんなんだよ。僕はバカか。
今、抗がん剤、リンパ腫・・・副作用副作用、ってそればかりになってたけど、こうして振り返ってみたらあの時と全く一緒じゃん。
僕の目につかない、猫の目につかない場所に移動して、よだれを垂らして、何も食べない。
なんで気が付いてあげられなかった。
ただ、自分を擁護するわけではないが、抗がん剤治療というのは、日々が本当にいっぱいいっぱいで、辛くて悲しくて、選択の連続で、苦しい毎日になる。そんな中で過去を振り返って正常な判断をできる飼い主がどれほどいるだろうか。
いや、たくさんいるだろう、強い人はたくさんいる。
でも、僕は、心が弱かった。選択を、未来を、ポーチーの今を、全てを間違いなく越えていくことに、いっぱいいっぱいで、正常な判断ができていなかったんだ。
気が付いてあげられなくてごめん。
ただただ、その言葉で頭の中は埋め尽くされていた。
抗がん剤の副作用は・・・
抗がん剤の副作用により、「免疫低下+食欲不振=体力がさらに落ちる+消化器障害=気持ち悪い」という最悪の身体のコンディションで、体重減少、さらに免疫が落ちる、という最悪のコラボの最中に・・・カリシウイルスがつけ込んできたのだ。
「お、こいつ弱ってるぞ、今だ~」といった具合だろう。ふざけんなボケクソが。免疫力の落ちているポポロンをここぞとばかりに攻撃を始めたというわけだ。
つまり、2~4日目の吐き気や食欲不振は「抗がん剤の副作用」だった。その後、本来なら副作用が落ち着くであろう時期にもかかわらず続いていたものは「カリシウイルスの症状」だったのではないか。
とはいえ・・・答えに辿(たど)り着いたから解決だ~やった~!なんてことにはならない。
食欲がない、体調が悪い事実は変わらない上に、人間と同じで免疫力が上がらなければ菌を退治できない。つまり、結局のところポーチーの体力が戻らない限り、この状況は打破できないのだ。
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【試し読み】その時は突然にやってくる『愛猫が余命20日と宣告されました』(1)
本書の内容は、飼い主である著者による実体験に基づく記録です。ただし治療内容については全ての背景を網羅しておらず、また、医学的・専門的な表現をわかりやすくするために言い換えている場合もあります。あくまで一例としてお読みください。猫の病状は個体ごとに異なりますので、必ずかかりつけの獣医師の診察を受けたうえで、適切な治療を行ってください。
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『愛猫が余命20日と宣告されました』
著:響介 監修:服部幸
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原作:響介
漫画:ちとせ
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響介
本業:猫マスター
副業:作編曲家、サウンドプロデューサー、ギタリスト、音楽大学非常勤講師
保有資格:【猫健康管理士】【猫疾病予防管理士】【猫のシニア生活健康アドバイザー】
猫と追いかけっこがしたくてマンション購入。猫ともっと本気で追いかけっこしたいがために注文住宅を建築。曲の締切、猫のご飯の締切、住宅ローン(残り30年)に日々追われながら猫たちとのおにごっこの必勝法を模索する日々を過ごす。おにごっこで勝つために次は山か島を買うらしい。
著書に『借金1000万作曲家の人生を変えてくれた猫の話』(ワニブックス)、『猫を飼うのをすすめない11の理由』(サンマーク出版)、『下僕の恩返し』(ビジネス社)がある。
ブログ「リュックと愉快な仲間たち」 https://rikkusora.com/rikku/
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