「人と違うことが怖い」…公認心理師が解説する、あなたの“生きづらさ”の根底にある「かくれトラウマ」とは?(その1)
「理由のわからない生きづらさや反応には、かつて生きのびるために必要だった心の働きが隠れています」——そう語るのは、トラウマケア専門「こころのえ相談室」代表で、公認心理師の井上陽平さん。
「いつも緊張して気が休まらない」「人の反応を気にしすぎてしまう」「気力が湧かず、何をするにも体が重く感じる」……こうした日常の“生きづらさ”の背景には、実は子ども時代や過去の経験で受けた心の傷=「かくれトラウマ」が影を落としているかもしれません。
ここでは、井上先生による新刊『かくれトラウマ 生きづらさはどこで生まれたのか』から編集・抜粋し、目に見えない心の傷=「かくれトラウマ」について、当事者の体験を手がかりに、その反応がどのように形作られたのか——全3回にわたって紹介していきます。
「人と違う」のが怖くてたまらない……
さて、第1回は「人と違うのが怖くてたまらない」という当事者の体験をもとに、「普通」に合わせ続けてきた“生きづらさ”のケースについて、以下、ご紹介しましょう。あなたも、身に覚えはありませんか?
——「人と違う」ことが、ずっと怖かった。「話し方おかしいよね」「なんか変だよ」。
そんな何気ない言葉が、心に深く突き刺さったまま抜けない。それ以来、周りから少しでも浮かないように、常に自分の言動を気にして生きてきた。「今、変じゃないかな?」「私、ちゃんと〝普通〟に見えてるかな?」って。幼い頃から親に言われていた。「みんなに合わせていればいい」「出しゃばるな」「自分の意見は言わなくていい」。
そんな言葉に、自分らしくあることは悪いことなんだ、と思うようになった。だから私は、笑い方も、話し方も、歩き方までも、鏡で何度も練習して、〝普通〟を必死で演じてきた。でも、そのたびに「本当の自分」が遠のいていく感覚があった。本当は、私にだって好きなことや、やりたいことがあったのに。

(イメージ:イラストAC/まみなる)
気づけば、やっているのは誰かの真似ばかり。他人の期待に合わせて、他人の色に染まり、自分の輪郭がぼやけていく。「普通でいよう」とすればするほど、仮面が増えていく。どれが本物かわからなくなる。笑顔の裏で、「違う」と心が泣いているのに、それを言葉にするのが怖くて、誰にも伝えられない。心のどこかで「いつか壊れてしまうんじゃないか……」と怯えながら、息をひそめていた。
誰かの真似じゃない、自分として呼吸できる場所がほしい。けれど、「違う」と思われるのが怖くて、一歩も踏み出せなかった。
「私、このまま存在しちゃいけないのかもしれない」―そんな思いが、気づけば日常を支配していた。自分のことを考えれば考えるほど、他人に合わせてばかりの人生しか思い出せなくて、「私は誰なんだろう」と心が沈んでいく。本当はただ、「そのままで大丈夫だよ」って言ってほしかっただけなのに。
「違っていてもいい」と、自分に許したい。
その願いが、今も心の奥で、小さく灯り続けている。
身を隠すことで生きのびてきた、あなたへ
それでは、公認心理師で、トラウマ専門カウンセラーの井上先生からのメッセージをお届けしていきましょう。
——「人と違うことが怖い」そう感じながら生きてきたあなたが、どれほど神経を張り詰めて、周りに合わせてきたのか──その姿が目に浮かぶようです。「話し方おかしいよね」「なんか変だよ」。何気なく放たれたその一言が、どれほど深く胸に突き刺さったか。きっと、言った人には想像もできなかったでしょう。
けれど体は、言われた瞬間からずっと、身を守るように緊張し、心は「目立たないように」「普通でいなきゃ」と反応し続けてきたのだと思います。言葉やしぐさにまで注意を向けながら、「浮かないように」と過ごしてきた。
「出しゃばるな」「自分の意見は言わなくていい」そんな親の言葉も、自由を縛る鎖になっていたのかもしれません。心のままに動くことが危険に思える家庭では、子どもは本音を静かに奥へとしまうしかありません。でもそれは、自分らしさをあきらめたわけじゃない。ただ、身を隠すことで生きのびる道を選んだだけだったのです。

(イメージ:イラストAC/まみなる)
笑い方、話し方、歩き方。どれも、誰かと比べる必要はありません。「普通ってこうかな?」と必死に身につけた動きや言葉は、安心を求めて周囲に溶け込もうとした積み重ねです。でも、その努力の陰で、自分の感覚が遠のく思いもあったでしょう。「私って何が好きだったっけ?」と立ち止まったとき、鏡の中の自分が他人に見えたこともあったかもしれません。
「このままの私で生きていていいのかな」
そんな不安が広がるとき、体が硬くなり、息も浅くなる。日常で少しずつ疲れが積もっていくのも無理はありません。でもね、心の奥には、ちゃんとあたたかい願いが残っているんです。「違っていても大丈夫」「そのままの私でいたい」。その気持ちは小さくても今も心に生きている。その願いこそが、ずっと抑え込んできた〝本当の声〟です。
だからまずは否定せずに、その声に耳を傾けましょう。「私は私のままでいいのかもしれない」。そう思える瞬間は、これから少しずつ、あなたの中に芽吹いていきます。
肩の力を抜いて、自分らしく呼吸できる場所を探していい。そこで、ほんの少しずつでも、自分を許していけたらいいのです。
トラウマの影響は、人によってさまざまな形で表れるのだそう。たとえば……。
・いつも緊張して気が休まらない
・人の反応を気にしすぎてしまう
・気力が湧かず、何をするにも体が重く感じる
・自分の気持ちがつかみにくい
・人と親しくなることに不安を感じる
・注意されたり怒られたりすると、必要以上に動揺する
こうした日常の「生きづらさ」の背景には、子ども時代や過去の経験で受けた心の傷が関係している場合があります。自分ではトラウマを意識していなくても、その影響は無意識のうちに心や体に残り、今の生き方に影を落としていることがあるのです。
『かくれトラウマ 生きづらさはどこで生まれたのか』には、井上先生による数々の臨床をもとにした、かくれトラウマを癒すアプローチが満載。この機会に、本書を片手に自らと向き合う時間を作ってみませんか——?
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『かくれトラウマ 生きづらさはどこで生まれたのか』
著:井上陽平
井上陽平(いのうえ・ようへい)
公認心理師/トラウマ専門カウンセラー
日本心理臨床学会、日本精神分析学会所属
トラウマケア専門「こころのえ相談室」代表
児童養護施設・情緒障害児短期治療施設での活動を経て開業。愛着の回復、解離の安定化、PTSD 反応、過覚醒・感情麻痺、HSP 特性の理解と調整など、「安全に生きられる感覚が戻ること」 を中心に据えたトラウマケアを行っている。ソマティック(身体感覚)、神経系調整、イメージワーク、対話を組み合わせ、過緊張、疲労感、解離、フラッシュバック、感情の麻痺など、神経系に刻まれた反応に多角的にアプローチ。複雑性/発達性トラウマ、カサンドラ症候群、モラルハラスメント、性被害後の身体反応など、「理由がわからない生きづらさ」を抱えるクライエントと数多く向き合っている。
X(旧Twitter) @e98SnMZJchhlqjt
トラウマケア専門「こころのえ相談室」 https://trauma-free.com/








