【INTERVIEW】成田凌/映画『L-エル-』で演じた役柄への想い、役への真摯な姿勢から垣間見えた意外な姿とは?
独自の世界観を持つ映画『L-エル-』では波乱の人生を生きたエルと愛を交わしたピュアなパン屋さんを演じ、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』ではどこの会社にもいそうな後輩を演じている成田凌。役に対する想いを真剣に話していたかと思えば急に突拍子もないことを言う。決して正体を掴ませない、そんな魅力あふれる成田に作品について話を聞いた。
撮影/古川義高 文/山岸若菜
――今回の『L-エル-』は、CDのコンセプトストーリーから映画化された作品ですが、その話を最初に聞いたときは、どう思われましたか?
「話を聞いたときはどういうものか想像も出来てなかったんですけど、監督と初めてお会いさせていただいたときに仮編集された映像を見させていただいて。そのときに、“あ、これはすごい空気感と言うかすごい世界だな”と思って。こういう世界観に自分自身が入ることが面白そうだなと思いました。もともと好きな世界観なんですよ。ティムバートンが好きで、勝手にそういうテンションに近しいものを感じたので、撮影に入るのを楽しみにしてました」
――全体をとおして『L-エル-』を観られた時、パン屋さんのシーンにはどんな印象を持たれましたか?
「客観的に客として観たときは、唯一心が休まる場所というか。エル本人も感じてた、心を許せる場所というか。そういう場所になれたらいいなと思いましたね。でもパン屋さん以外の場所でもエルは幸せな時間をなんとなくは過ごしてるはずなんですけどね。“表面的な優しさ”ではあるかもしれないけど。他の場所は“表面的な愛”に溺れさせられてたみたいな感じですよね」
――“表面的な愛”ではなくお互いがきちんと向き合った愛を、やっとパン屋さんと交わせたという…
「でも逆に言えばパン屋さんは穢れを知らないから、エルの過去を少し知ってキャパオーバーになってしまったという懐の浅い人間なんですけどね(笑)。若干ね(笑)」
――そうですね(笑)
「悪い事ではないんです。知らないことを急に知ると、やっぱいっぱいいっぱいになって、わーってなるから、普通」
――パン屋さんを演じる上で、こういう見せ方にしようと思われた部分はありましたか?
「“わかりやすさ”を1番大事にしたいと思って。パン屋さんをリアルに考えないで、みんなが考える想像のパン屋さんの理想形をやろうと思ってました。まぁ、短期間でめちゃめちゃ太ることとかはできなかったんですけど」
――(笑)
「だから動きで見せたいなと。職人だから大胆にバンバン生地をうつのと、細かいところは繊細に、本当に繊細に繊細にやろうと。そこに関しては、わかりやすさと説得力がなきゃいけないから、練習して挑みましたね」
――練習期間は長かったんですか?
「全然全然。衣装合わせからインまで3日くらいしかなかったです。本当にいろいろなことがスピーディに終わりましたね。でもこれはこれで楽しいし、撮影が最近だったから、記憶が鮮明なまま取材も受けられるし(笑)」
――パン屋さんの実直さと言うかピュアさが、パンの作り方だったり、子供に対する接し方とかで感じられました
「そうなんですよね。セリフが少ない中で人生を表さないといけない分、やっぱり撮影中に監督に質問することも増えていくし、子供に対する接し方は1番考えた部分です。ぶっきらぼうな人間だからといって、子供にパンを渡すとき立って片手で渡すのか両手で渡すのか、座って片手で渡すのか、両手で渡すのか。そこで人間性が一つ出ちゃうから。そういう一つ一つの所作で人間が作られていっちゃうから。短~い時間、数10分の時間の中にひとりの人間の生き方をうつすのはそのひとつずつの所作の積み重ねで。ひとつずつの所作という点をうっていって、見てる人がそこに線を引く感じで。だから…。今、スティーブジョブスの言葉を丸パクりしたんですけど」
――そうですね。…丸パクりはやめてもらっていいですか(笑)?
「(笑)。そういう作業だな~と思って」
――監督さんからはどんな指示がありましたか?
「いや、逆ですね。指示を受けに行くというか。これとこれとこれの選択肢ありますけど、ちなみに僕の一押しはこれですみたいな。で、選んでもらってとりあえずやってみて。僕か監督があまりはまらないなとか思ったら別のことを考えながらやってみたり。やっぱ、ね。そこは遠慮したらダメかなと思って。この作品のためにやることだから。僕が良くなるということではなくて、作品を良くするためだから、すべてのカットで質問ばっかりしてましたね」
――では質問して作り上げた上で、成田さんが思うパン屋さんのイメージは最終的にどうなりましたか?
「最終的に? どうなんだろう。自分が…ねぇ…ちょっとわっかんないです(笑)。もちろん実直にやったし、ぶっきらぼうなわけではないってことは表現しようと思ったし。でも、やっぱ純粋という言葉が一番似合う人間になったかなと思いますね。相手からの感情をもらって表現してましたし。怒りの感情とかは人間誰しも持ってるけど、笑顔とかは他の誰かから感情をもらってから出るものだと思うから。最初はほとんど笑ってなかったけど、エルと結婚して子供ができて、優しくしたいと思わせてくれる人間と出会ったから笑顔が生まれて。本当スポンジのようにいろんな感情を受け入れて生きてきた人間なんだと思うんですよね。パン作りをひたすらやってきた人だから、ピュアで無垢な人になったのかなと思いましたね。実直って言うかピュアなんだと思う。難しかったですけどね」
――ふたりの時間の経過を映し出していたシーンは愛に包まれていましたね。
「エルにいろいろなものをもらったから、パン屋さんもどんどん変わっていって。服装も変えてもらって、髪型もちょっと垢抜けてみたいな(笑)。細かいですけど、そういうことがあっていいのかなって思って変えていきましたね」
――ヒロインのエルについて伺いたいのですが、何度裏切られてもずっと相手を信じていく女性を、成田さん的にはどう思いますか?
「成田さん的に? う~ん。騙され続けていく…。でもしょうがないですよね。優しいんすもんね。…でもちょっと僕はダメかな(笑)。なんかちゃんと、人を見てから人間付き合いしてほしいな…って思いますけど。でもわかんないもんなのかな。もしかしたら自分がそうなるかもしれないし。エルは本当に優しいからしょうがないんでしょうね。悪い事されても許せちゃうし、それこそパン屋の主人ではないけど、経験したことが無い事だから、好きという感情があれば、“本当はこういう人じゃないの”って思い続けちゃうんでしょうね。エルはしょうがないんだと思います。知らないんだもん。でも知らないことは罪ですからね」
――成田さん自身が、演じることに興味を持たれたのはいくつくらいからですか?
「元々テレビっ子で、映画もテレビも好きで表に出るのも好きだったんですよ。小学生の頃からステージの上で踊ってみたりとかコントしてみたりとか。だからなんとなく考えてはいたんですけど、はっきり興味を持ったのは19歳ですかね。美容師になろうと思って学校に通ってはいたけど、やっぱり表に出ようかな~って思ってた時に声をかけていただいて。そこからこういう方向を考え出して。ずっと好きだったので、自分が表に出ることは疑問に思わずにきましたね。あとモデルの仕事を始めたことは大きいのかなと。このあいだ同じような仕事をしている人としゃべってたんですけど、モデルをやったことによって立ち振る舞いとか、カメラの前に立ってる様子とかが変わってきたから。モデルをやってて良かったなって思いました。まぁ全然違う仕事ですけど、表現ってなったら一緒なので」
――今ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』にも出演されてますけど、『L-エル-』とは全然違う不思議系イケメンの役ですが…
「不思議系イケメンってただ言いやすくて言ってるだけですよ(笑)。まだ役に関してなんにも決まってない状態で一報出しがあったので、きっと誰かがつけてくれたんだと思いますけど。今までで1番リラックスした気分でやってますね。なんも考えないで…って言ったらちょっと変かもしれないですけど、好きに、自由に演じさせてもらってます」
――自分の中ではどういうイメージなんですか?
「どういうイメージなんだろう? ま、後半に向けてちょっと言えないこともありまして、実は。目立たないようにうっすら自分の中にそれを入れながら、いち部下として、ある種本当に変な言い方ですけど普通の人間、こういうゆとりの後輩がいていいんじゃないかなっていう感じでやってます。表現として“あぁこういう後輩ね”みたいな。話の主軸じゃないところでやっているので、遊びを多少入れてもいいかなって。その言えないこと、言えたらいいんですけどね(笑)」
――表情をみていると楽しそうです
「気が楽にやってます。現場ではカットをいっぱい割って撮ってるから、カット変わったとき“僕さっきどんな顔してたっけ?”とかもあります(笑)。リラックスした現場なので。表情とか、自分でもこんなにやんなくていいかなとか思ったり」
――気持ちやりすぎてますか(笑)?
「気持ちちょっとやりすぎたかな~。でもコメディだし…」
――そこがアクセントになってたりもしますし
「そうそうそう」
――映画やドラマ、過去の作品も見させていただいて、どの作品の役も話し方に特徴があるというか。演じる時に話し方を意識されている部分はあるんですか?
「作品ごとに絶対変わってるとは思うんですけど、自分では正直わからなくて。でもこの役だったらこのくらいの音量で話そうとか、音域とかこのくらいの高さなのかなとか考えて、なんとなく変えてる部分はあります。あとイントネーションがちょっと人と違うねって言われるときがたまにあって。地方出身でもなんでもないんですけど。それは多分小っちゃい頃から兄貴とふざけてしゃべってたからだと思います。なんか、兄貴も変なんですよ。小っちゃいころからふたりで変なしゃべり方をしてたから。今もしゃべるとすごい似てるんですよ。だから兄貴のせいだと思います」
――そのイントネーションはデメリットではないと思いますよ。役によって違う雰囲気ではあるんですけど、それぞれが見ていて記憶に残るというか。
「本当ですか。なんか、演技プランとかいうのあるじゃないですか。このセリフをこう言おうとか。なるべく他の人がやらないようなテンションでやりたいなとは思ってますね。基本的には他の人が選ばない選択肢の中でチョイスして、いくつかパターンがある中の違う言い方をしたいと思ってやってます」
――その選択肢が持てるってすごいですね。
「どっかでオリジナリティみたいなものがないと。自分のオリジナリティはまだ全然わからないけど。どれくらいの人が日本で役者をやってるのか知らないですけど、その中で無いところ無いところをついていく人間でありたいなと思ってますね。面白がってもらいたいし。普通でいいって言われたら普通もやるし」
――チャレンジできる場所でチャレンジされていくということですよね。では2016年は活躍の場が広がった年だったと思いますが、2017年はどういった年にしたいですか?
「毎日芝居がしたいです。別に休みもいらないんで。来年もいろいろ決まっているので今決まってる仕事を一生懸命や…ります。あとはなんだろう。(熟考して)…がんばる(笑)! あ、あと来年一緒に仕事する人と絶対もう1回仕事する! また一緒にやりたいと言ってもらえるようになりたいです」
●プロフィール
成田凌(なりたりょう)
1993年11月22日生まれ、埼玉県出身。2013年から『MEN’S NON-NO』専属モデルとして活躍し、2014年ドラマ『FLASHBACK』で主演デビュー。ドラマ『学校のカイダン』、『ふれなばおちん』などに出演し、アニメ映画『ONE PIECE FILM GOLD』ではカーブ役、『君の名は。』では勅使河原役で声優にも挑戦。現在はTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』に出演中で、今後も『L-エル-』、『キセキーあの日のソビトー』と出演映画の公開が控えている。
●作品紹介
(C)2016映画「Lーエルー」製作委員会
『L-エル-』
監督:下山天
出演:広瀬アリス、古川雄輝、高橋メアリージュン、平岡祐太、前川泰之、成田凌、弥尋、Mikako(FAKY)、古畑星夏、田中要次、高橋ひとみ
原作:Acid Black Cherry 4th ALBUM「L-エル-」より
配給:東宝映像事業部
絶大な人気を誇るロックアーティストAcid Black Cherryコンセプトアルバムが待望の映画化。“色のない街”で生まれ、両親に愛情を注がれて幸せに育った少女エル(広瀬アリス)。ところが両親の突然の事故死により、エルの人生は一変していくこととなる。誰かを信じては裏切られ、また誰かを信じては傷つけられる。襲い掛かる運命に翻弄されながら、波乱の人生を生きたエルの壮大な愛の物語。
11月25日(金)から全国ロードショー
http://acidblackcherry-movie-l.net/