【INTERVIEW】染谷俊之/ダメな男達の珍道中、再び! 映画『天秤をゆらす。』に出演の染谷俊之に訊く、本シリーズに懸ける想い。
アラサー男子の自堕落な日々と成長を描いた『カニを喰べる。』『羊をかぞえる。』に続くシリーズ第3弾『天秤をゆらす。』がいよいよ公開間近。第1作目から田宮を演じている染谷俊之は、“空気感”“フラット”と何度も口にする程、この作品に等身大で臨んでいるようだ。シリーズを通して彼は、本作をどのように捉えているのだろうか。
撮影/浦田大作 文/池上愛
――第1作『カニを喰べる。』はロードムービーの印象が強かったですが、第2作の『羊をかぞえる。』、そして今回の『天秤をゆらす。』はファンタジー要素が強くなっていますね。
「最初は田宮と青島で始まった物語でしたけど、第2弾は廣瀬智紀演じる丸井君が加わり、第3弾では3人組になった要素がより濃厚になった気がします。そして旅の途中でふたりの男の子に会うという…そのストーリー展開は、台本を読んだ時に衝撃を受けたし、シリーズが進むに連れて過去の作品が深まっていくのが凄いなと。毛利監督凄いな! と(笑)」
――元々シリーズ化することは決まっていたんですか?
「いや、考えてなかったと思います。最初はほんとに、ただただカニを食べるまでのロードームービーでした。終わったあとにこの続きがあったら面白いねという話をしていたら第2弾が実現して。そして今回の第3弾に繋がった。シリーズが進むに連れて見てくれる方々も増えていって凄く嬉しいです。まさかここまで大きくなるとは思わなかったので」
――最初はクラウドファンディングから始まってるんですよね? それを考えると凄いですね。
「本当にそう思います。第1作の時は、お客さんと一緒に観るイベントもあったりしてとても楽しかったです。実際にリアルな感想を楽しむことも出来て、その結果が今に繋がってるんだろなと」
――『カニを喰べる。』の話になってしまうのですが、中学のころの冴えない同級生に会いに行ったら、大人になれよと説教されるシーン。あそこが本当に刺さりまして。
「刺さりますよね。僕も凄くわかります。地元の友人は子供がいたりしますし、ああそんな歳になったんだなと感じました」
――自分と照らし合わせると泣きそうになってしまいました(笑)。
「ははは(笑)。ダメなふたりに同調してしまうんですよね。そのふたりが旅しながらちょっとずつ成長していく、その過程がいいなぁって。主人公がなんでも出来る人じゃないというのがいい」
――はい。だからこそ共感出来るし、応援したくなる。
「そうなんですよね。彼らをみて心がほっこりするというか」
――『天秤をゆらす。』に戻りますが、そんなダメなヤツでも作品を通して成長しています。今作の役作りとしては、田宮はちょっと成長したところから入るのか。それともダメなままなのか。
「根本はダメなヤツです(笑)。そこは変わらないんですけど、ちょっとだけ成長しています。そのちょっとというのは、将来の夢があるということ。以前は何もやることがなかったけど、今は小説家を目指している。そのちょっとした成長は見せたいなと思っています。でも基本はお金がないし、借金もしているし、定職にもつかずバイトのまま。根本の性格は変わっていないから、色んなことに巻き込まれてしまうんです。お人好しなダメ男ですね」
――そこに愛着が湧きますか?
「そうかもしれません」
――田宮や青島って、何もないふたりと言いながらも、結構行動に移せる人なのかなと思ったんです。自分の生活がダメだなと思いつつも、変えようと実行するのって難しいのではないかと。
「多分普段はほんとに何にもなく終わってしまう生活なんだと思います。それがあることがきっかけで色んなことが生まれてくるだけで。だから彼らが特別とかではなく、誰にでも起こり得ることかなと。……ファンタジーなことは起こり得ないですけど(笑)、ちょっとしたきっかけがあれば、みんな変わるチャンスはあるんじゃないでしょうか」
――監督の毛利さんはどんな演出をされますか。
「物凄く生っぽさを重要視している監督です。そもそも僕と(赤澤)燈は凄く仲良しで、撮影現場でもフラットにいられる関係性なんです。その環境のままお芝居に臨めるようにして下さるのが毛利監督。いくら仲良しとはいえ、撮影現場のそれこそファーストカットは凄く緊張するんですよ。どんなに現場を重ねていても。でもありがたいことに、この現場では力みがなく演じられる空気を作って下さいます。その雰囲気が映画にも現れていると思います」
――染谷さんと赤澤さん、廣瀬さんのリアルな部分がこの作品にもリンクしている感じ?
「そうですね。燈と智紀なら、きっとこう返してくるんだろうなとか、ここで何か入れてくるんだろうな、みたいなのはちょっと予想出来るんですよ」
――それは本人の性格とかそういうところからですか?
「はい。知った仲だからこそ良さが表われている作品だと思います」
――先程、“生っぽさ”とおっしゃっていたんですけど、例えば原作モノの舞台では、生っぽさとは逆の演技が必要になってくると思いますが。素を活かすような役どころと、キャラを作り込む役どころ、どちらが難しいなどあるのでしょうか。
「どうなんですかね。う~ん……自分にとって楽な役はないものだと思っているので、どっちも大変ではあります。この役はいかに脱力するかっていうのが重要でした」
――どういうとこから作っていかれたんですか?
「『カニを喰べる。』の時は、もし自分がこの業界に入ってなくて、全く夢もなくだらだらと過ごす人間だったらどうなるんだっていうところから作っていきました。僕、根がだめ人間なので(笑)、そういう要素を使ったりもしました」
――ダメ人間なんですか(笑)。
「休みの日は何十時間も寝ちゃうんです」
――24時間しかないのに?(笑)
「24時間越えたこととかもあるんですよ。日付をまたいでて、“あれ今何日?”みたいなこともあったりしちゃう(笑)」
――そこまで寝れるのも逆に凄いですよ。
「寝るのが大好きで。とにかくちょっとめんどくさがりやで、外出るのも好きじゃなくて。根がだめなんです(笑)」
――ははは(笑)。忙しい俳優とは思えないエピソードですね(笑)。
「確かに(笑)。お芝居の仕事はとても楽しいし、応援してくれる方々がいるので頑張れています」
――元々は教師になりたかったんですよね?
「はい。でも映画『ウォーターボーイズ』を観てから、なんで演じる側にいないんだろうっていう興味が出てきて。僕は学校が好きだったので、『ウォーターボーイズ』っていう学園ものにちょっと憧れたんです。とはいえ、そう簡単に役者をやれる訳ではないですし、学校が好きだから教師を目指してたんですけど、ご縁があって今の事務所に入りました。そんなこともあって、学園ものに憧れはあります」
――同年代の俳優さんと共演されることが多いですが、今回の廣瀬さんとか赤澤さんといった共演者の方々は、どういう存在ですか。
「仲間です。あいつが頑張ってるから俺も頑張ろう、そう思わせてくれる存在というか」
――現場とかで役のことについて話したりするんですか?
「役のことは全く話さないです。それがいいところだと思います、逆に」
――この作品ならではの部分?
「ならではですね。向こうがこうくるかな? というのがわかるのと同じで、自分がこうしていきたいというのもわかってくれる。だから特に話すこともいらないし、各々に委ねて、出してきたものをフラットに返すことで成立するんです。この関係性が凄く心地いいですね。それに映画自体も何も考えずに観て頂ける映画だなって思っていて。メッセージはこれですっていうのがある訳ではない。僕は映画の感じ方はそれぞれ自由だと思っていて、お客さんが観て感じたことが全て。だから僕達からのメッセージではなく、何でもいいからお客さんが何か感じるものがあればいい。その思いは強くあります」
――撮影で印象に残っているシーンはありますか。
「ネタバレになってしまうので詳しくは明かせませんが、トンネルで子供に向かって『がんばれー!』という部分。そこがグッときました」
――1作、2作目ではわからなかった設定とか出てきましたよね。
「そうそう。田宮と青島は小学校からの付き合いだったんだということとか」
――部活が同じだったということから、てっきり中学の同級生なのかなと思っていたら。
「そうそう、僕もそう思ってたんですよ。小学生は一緒で自然と仲良くしていて、中学生は同じ部活で高校は別々に行って。で、しばらくして出会って、カニを食べに行くっていうのから始まって。その出会いから全ては始まった感じですね」
――こういうのって男性だから出来ることなのかなとも思いました。
「ああ、そうかもしれません。確かに男性ならではって感じしますね。男子校のノリというか」
――そこが多分、女性ファンのみなさんが観て、いいなと思う部分なのかもしれません。
「そういう楽しみも味わって頂ければ嬉しいですね」
――これはどのくらいで撮影されたんですか。
「五日ぐらいです」
――森の中や滝の中に入るシーンも多くて。
「ずっと大自然でした(笑)」
――みなさん落とし穴にストーンって落ちてましたね。
「(廣瀬)智紀が最初に落ちるシーンとか、これから落とし穴に落ちるんだなって思いながらほんとに笑いをこらえるのに必死でした(笑)」
――あれは面白かったです(笑)。
「しかも落ちる瞬間に智紀が、自分なりのアレンジを加えてくるから。それもめちゃくちゃ面白くて」
――アドリブ的なこといれられるんですか?
「結構多いですね。でもそこを丸井君でやっているんで、それがまた面白いんです」
――キャラの中でも丸井君は、田宮や青島ともちょっと違うジャンルの男の子ですね。
「そうですね。お人よし過ぎるし、超天然。なかなかいない男です(笑)」
――借金を被るぐらいですからね。
「ふたりも凄いお人よしなんですけどね。ベクトルが違うお人よし(笑)」
――結構今回は言い合うシーンとか多かった印象がありました。
「そうですね。このシーンはセリフとかはなくて、“ここでしばらく言い合って下さい”みたいなことを監督に言われました。セッティングしてる間に燈とどういう感じでやろうかみたいな話をしました。染谷と赤澤でやっちゃうと笑いになっちゃうんですけどね(笑)。なんといっても、燈は最多共演者なんです。15~6回くらいは同じ作品で一緒にやっていきている仲なので、出来る業なのかなと」
――相方並みですね。
「ははは(笑)。ふたりでご飯もいったりします。だけどお仕事は違う期間もあるし会えてない時間もあります。あいつも頑張ってるから頑張ろうという切磋琢磨し合える仲です」
――今年ももうすぐ終わります。この1年の印象に残っていることとは。
「今年は凄く目まぐるしい1年でした。僕は毎年めまぐるしいと言ってるんですけど、今年も去年よりも本当に目まぐるしかったです。あっという間に過ぎて、楽しくて、充実した1年でした」
――作品が重なったりしませんか?
「重なります。今年は結構特に…上旬がばたばたしていて、去年12月の時点で3本重なっていたんです。舞台の本番に出演しながら違う顔合わせに行って、また別日に違う顔合わせにいく。まだ稽古に入ってもいないのに、次の更に次の作品の稽古が始まって……みたいな感じでした。でも僕がいつも思うのは、悩むんじゃなくて考えろ。どうしよう無理だと思ってもしょうがない。だったら悩むんじゃなくて考えようということをモットーにしています」
――来年の展望を教えて下さい。
「仕事面では今年の目まぐるしさを更新出来るような1年にすること。プライベートでは…、僕は今年、初めて一人旅で温泉旅行に行ったんです。それが凄く最高で。来年はひとりで海外に行ってみたいですね。色んな刺激を受けて世界観を広げたいです……って綺麗事か(笑)。本当は何も考えずに、旅に出たいだけですけれど(笑)」
●プロフィール
染谷俊之/そめや・としゆき
1987年生まれ、神奈川県出身。ミュージカル『テニスの王子様2ndシーズン』『弱虫ペダル インターハイ篇 the second order』など話題作に次々と出演し人気を集める。舞台『剣豪将軍義輝 前編』では主演を務めた。舞台『私のホストちゃん REBORN』は2017年1月11日(水)~上演予定。
●作品紹介
(C)2016「天秤」製作委員会
映画『天秤をゆらす。』
監督・監督/毛利安孝
製作/長田安正/佐伯寛之/菅谷英一
出演/廣瀬智紀 染谷俊之 赤澤燈 三谷鱗太郎 石野湘太 平野常次郎 加藤啓 塩川渉 ほか
配給/ユナイテッドエンタテインメント
お人好しの友人・丸井(廣瀬智紀)に誘われて温泉旅行へやって来た田宮(染谷俊之)と青島(赤澤燈)。しかし山奥の秘湯へ向かう途中で迷子になり、森の中で死体を発見してしまう。そんな中、田宮や青島とはぐれてしまった丸井は、「ガイコツの滝」を探しているという少年2人組に出会い、一緒に行動することに。一方、田宮と青島は丸井を心配しながらも、口論となり険悪な雰囲気に陥っていた。冴えないアラサー男達の成長を描いた『カニを喰べる。』『羊をかぞえる。』に続くシリーズ第3作。
2016年12月23日公開
公式HP http://tenbin.united-ent.com/