【INTERVIEW】『デメキン』で最凶の不良を演じた笠松将インタビュー!

【INTERVIEW】『デメキン』で最凶の不良を演じた笠松将インタビュー!


お笑いコンビ「バッドボーイズ」の佐田正樹の自伝小説を実写映画化した『デメキン』(12月2日公開)。人気急上昇中の若手俳優・健太郎が主人公の不良少年を務める同作で、主人公達の最大の敵となる蘭忠次を演じたのが、俳優・笠松将だ。最凶の不良を存在感たっぷりに演じきった笠松だが、撮影時は孤独とも向き合わなればならない、精神的に追い込まれる現場だったと振り返る。そんな彼に、作品や自身の演技について聞いた。

 撮影/刈谷恵利加 文/中田宗孝

――演じる役が決まった時の率直な気持ちを教えて下さい。

『デメキン』は役者オーディションを経て決まりました。オーディションに臨む前に原作小説を読んでいたこともあり、健太郎君が演じる正樹と一緒に行動を共にする主人公側の不良グループのメンバーを演じるつもりだったのですが、こういう配役になるとは驚きました。敵役なので、自分の役に対するベクトルは、主人公グループとは反対に向かうようにしていかないとな、とまず思いました。

――主人公の最大の敵として立ちはだかる忠次役となりましたが。

今作では、たまたま正樹が主人公の物語ですが、僕は僕で、忠次という主人公を演じるような気持ちで撮影に入りました。山口(義高)監督とも撮影前にそのようなニュアンスの話を交わしました。

――役作りはどのように取り組んだのでしょうか?

僕は“役作り”という言葉をあまり使いたくないんです。僕の中では“セリフを入れていく”、このような表現で演じる役と向き合っています。『デメキン』は、原作小説や漫画と、台本以外にも役への参考にできるモノがたくさんあったし、プロフェッショナルのスタッフが忠次の衣装や髪型を物語の世界観に合うように作り込んでくれました。だから、自分がキャラクターの新しい何かを生み出すというよりは、提案されたモノの中から選択していくというイメージでやっていった感じですね。気持ちの部分では、誰が見ても忠次になりきっているかではなく、自分がどこまで忠次だと思えるかどうかに意識を集中させていました。

 
――“セリフを入れていく”という笠松さんの考え方は、他の作品でも同様ですか?

はい。演じる役のビジュアルは先程お伝えしたように、プロのスタッフさんたちが作ってくれるので、自分はそれほど考えません。演じる場(セット)についても、どの現場も自分がこんな感じかなって思う以上の空間が用意されています。そうなると、僕個人が撮影前にその部分についてあれこれ思いを巡らせるのは、ムダだなって(笑)。役についても、動き回るキャラクターだから、運動してスタミナつけようとか、左利きの役だから日頃から左手を使って生活しようなんて考えないタイプですね。事前に登場シーンのシチュエーションなどを入念に考えて準備した結果、実際の現場で、演技を柔軟に変えられなくなるのが嫌なんです。だから自分は、本番までに“セリフを入れていく”。これだけをしっかりやります。

――敵役の忠次は“圧倒的な悪”を醸し出さなければならないキャラクター。セリフを覚える以外にも気を払う部分はなかったのですか?

……お芝居をするうえで考えたことと言えば、表情と喋り方です。どういう感情に自分をもっていけば、極悪に見えるかはすごく考えました。最終的に自分が選んだのは、目力を入れながら、セリフはゆるく喋ること。目の演技に関しては、いわゆる不良が眉間にシワを寄せてガンを飛ばすというのではなく、一人一人をしっかりと睨みつけながら、相手を洗脳していくイメージ。喋り方は、他の作品でセリフを言う時よりもゆっくり、低めのトーンで、聞かせるような口調で忠次を表現しました。

――現場入りしてお芝居に挑むわけですが、撮影はいかがでしたか?

現場は淋しく、孤独で、辛かっです。健太郎君たちが演じる不良グループとは控室が別で、僕たちの不良グループのメンバーは隔離されていたんです。健太郎君たちと会うのは本番のみで、中には最後まで一言も会話を交わさなかった共演者の方も大勢います。だから撮影の待ち時間は「自分の居場所がないな」と感じていました。他の作品でも主人公のライバル側にいる役で撮影に参加する機会がありますが、それがいいか悪いかは別にして、スタートとカットの間だけ僕を敵として見て、カットがかかれば敵見方関係なく、役者同士で「今の演技どうでした?」なんて軽く談笑するような普通のコミュニケーションが取れていたんです。『デメキン』の現場では、それすらも聞ける人が自分の周りにいない。他の役者さんと雑談した思い出が一切なく、ただただ、精神的にキツかった印象だけが残りました。

――主人公側の出演者の健太郎さんや山田裕貴さんは、インタビューでは『デメキン』の現場を楽しそうに振り返っていただきました。

羨ましいです(苦笑)。実際、健太郎君たちは本当に楽しそうなんですよね。「よっしゃっあ、やるぞ!」なんて明るい掛け声も遠くから聞こえてきてましたし。こっちは、向こうとは撮影に臨む空気が明らかに違い、本場前はひたすら忠次という人間と向き合う時間でした。忠次とは別の笠松将という人格でも、明るく楽しい現場のノリに少し苛立ちを感じてかもしれません。「ここは仕事場だぞ」みたいな(苦笑)。ただ、そんな自分のマイナスな感情を、演技にぶつけることができました。マイナス(自分の気持ち)✕マイナス(敵役)でプラスに変えていくような。撮影後に他の出演者と隔離したのが監督の演出の一部だったと知るんですが、撮影の待ち時間もそういう環境の中で過ごしたからこそ、とても役にのめり込めましたし、監督に感謝もしていますし、今でこそポジティブに受け取っています。……ですが、やっぱり淋しかったです(苦笑)。

 
――今作では拳と拳を交える大乱闘シーンが大きな見どころになっています。アクション演技はいかがでしたか。

撮影前に約2週間のアクション指導の先生による練習期間がありました。個人的に、自分のアクション演技はまだまだな部分があると感じていたので、きちんと練習しようと臨みました。喧嘩シーンでの攻撃側と防御側では、まったく違うアクション演技をしている感覚なんです。攻撃する方は純粋に動きを憶えることがたくさんありますし、何より自分からアクションを起こしてしていかないとストーリーが進みません。攻撃を受ける方は、基本的な身体能力がないとパンチやキックを受けられない。どちらも難しいですね(苦笑)。練習期間中は、健太郎君とペア練習する機会もあったので、お互いの動きの癖を確認しあいながら取り組みました。

――クライマックスには、正樹(健太郎)と忠次(笠松将)の壮絶なバトルが用意されています。アクション演技に熱が入り、我を忘れて本気モードのスイッチが入ってしまう瞬間がありそうですが。

それが意外と冷静な自分がいて。激しいアクションの連続なので、正直セリフが飛ぶかなと思ったんですが、そのようなこともなかったです。クライマックスのシーンでは、「どっち勝つかわからんぞ」みたいな、張りつめた空気が僕と健太郎君の間に確かに流れていたのですが、不思議です。

――今、振り返ると、殴り合いの最中にもかかわらず、ご自身が冷静さを保って演じられた理由は分かりますか?

そうですね、壮絶な殴り合いをしていて、一見、正樹(健太郎)と互角の勝負をしているように見えるんですが、弱い自分を必死に隠しながら戦いに挑んでいる忠次の気持ちを、演じている僕だけは感じ取っていたんでしょうね。正樹を倒すために熱くなっているんだったら、僕のアクション演技も危険な感じになっていくんでしょうけど、そうではなかった。忠次にとっては“ある結末”を目指すための戦いだったんです。僕は、そんな彼の思いを実現させるための演技をするだけですから、自分自身を見失うことなく、周りがしっかり見えた状態だったので、練習どおりに行動できました。

 
――物語の結末を知れば、撮影時の笠松さんの心境も分かるのですね。撮影後は宿敵だった健太郎さんたちともコミュニケーションを取れましたか?

いえ。クランクアップの後も、撮影前と関係は変わらずです。僕が健太郎君たちと仲良くしていたら、これから『デメキン』を観る人はどう感じるだろうということがよぎりました。主人公と敵が仲良くしていたら、お客さんも「何を見せられてんだろう……」ってなるじゃないですか。僕自身がそう思ってしまうタイプなので、撮影が終わったからって、すぐに距離を縮めるのは違うなと思っていました。今後、『デメキン』が評価されて、その後また何かの作品で健太郎君たちとご一緒させていただいた時、「あの時はああだったよね」なんて語りあえれば嬉しいです。それがまた俳優としての僕の今後のモチベーションの一つにもなりますし。

――今後、挑戦したい役柄はありますか?

二面性のある役はいつか演じてみたいです。そんなキャラクターが登場する作品が個人的にも好きなんです。映画『アメリカンサイコ』の主人公のような。普段の僕も、ハイテンションだったり、イライラが続いたりと、感情の波が激しいタイプです。なので、人間の二面性というか、裏と表、陰と陽、どちらの気持も分かる。それをいつか演技の場で表現してみたいです。

――二面性のある人物を演じるのは難しそうに感じます。

簡単にはいかないからこそでも誰かが演じられたということは、僕にだってできるはずと思いたいし思い込みたいです。

 


 ●プロフィール
笠松将/かさまつ・しょう

1992年生まれ、愛知県出身。2013年から俳優活動を始め、映画・ドラマ作品に出演を重ねる。主な出演作は、ドラマ『弱くても勝てます』(14年)、『プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~(17年)、『ウチの夫は仕事ができない』(17年)など。映画『デメキン』(12月2日公開)『リベンジgirl』(12月23日公開)、『不能犯』(2018年2月1日)の出演を控える。


  ●作品紹介

『デメキン』
赤髪リーゼントがトレードマークの不良少年・正樹(健太郎)。彼はデメキンと呼ばれていじめられていた過去を払拭し、現在は、親友の厚成(山田裕貴)たちと不良チーム「亜鳳」を結成して、ケンカに明け暮れる日々を過ごしていた。福岡一のチームを目指す彼らの前に、血気盛んな札付きの不良たちが次々と立ちはだかり……。

原作/佐田正樹『デメキン』
監督/山口義高 
脚本/足立紳
出演/健太郎、山田裕貴、栁俊太郎、今田美桜、髙橋里恩、田中偉登、福山翔大、三村和敬、藤木修、岩永ジョーイ、神永圭佑、成田瑛基、笠松将、黒石高大、くっきー(野性爆弾)、ケン(水玉れっぷう隊)、坂田聡ほか
12月2日(土)シネマート新宿ほか全国ロードショー
<ウェブサイト>http://demekin-movie.com/
(C) よしもとクリエイティブ・エージェンシー/ワニブックス/秋田書店・ゆうはじめ(C) 2017 映画『デメキン』製作委員会