【INTERVIEW】舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』でヤマモト役を務める鈴木勝吾に、演劇の魅力を聞いた。

【INTERVIEW】舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』でヤマモト役を務める鈴木勝吾に、演劇の魅力を聞いた。


『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビューを飾り、その後はドラマ、映画、舞台と活躍し続ける鈴木勝吾。今回挑むのは、北川恵海の70万部を超える大ベストセラーであり、映画化もされた人気作『ちょっと今から仕事やめてくる』の舞台化だ。ブラック企業に悩む青山隆(飯島寛騎)が鈴木演じるヤマモトに出会い、人生を変えていく物語。6月13日に公演を控え、今作への意気込みや、“お芝居をしていないと不安になる”とまでいう演劇への熱い想いを語ってもらった。

撮影/浦田大作 文/浅川美咲


――もともと『ちょっと今から仕事やめてくる』の原作や映画はご存知でしたか?

映画を拝見していました。好きな作品で、(役が決まってから)もう一度観ました。

――初めて観た時と、ヤマモト役を演じることが決まった後に観た時とでは、作品の印象は変わりましたか?

どうだろう…。最初は青山に感情移入しやすい話ではあると思います。でもヤマモトのミステリアスな部分に惹かれるところもあって。ヤマモト役が決まってから観ると、ヤマモトはなんでこういう行動をして、どう生きてきたのかなと凄く興味が湧きました。

――明るく見えて、実は辛い経験をした過去がある役ですね。

ヤマモトはこの物語の中で唯一、もう生き方を見つけた人、『ちょっと今から仕事やめてくる』と言ったあとの人だと思います。どう生きていけばいいのか答えを出している人。青山よりも一歩先にいる、そういう部分を大切にしていきたいです。

――今作は働くということについて深く考えさせられる作品だと思いますが、鈴木さんにとって仕事と、役者業はイコールで繋がりますか?

凄く難しいです…。仕事としての役者なんですが、でもやっぱり演じるというプレイの部分が強いです。仕事という概念がなくて、生きる=役者という感じかな。『シャーロック・ホームズ』が、謎がないと生きていけないのと同じで、今は僕自身がお芝居をしていないと人生が不安定になってしまうと思っています。
――役者という道を選ばれて、よかったと思いますか?

正直悩んだ時期はありました。よかったと言えるように、一日一日今日という日を頑張ろうと思っています。先程、仕事=役者業ではないと言いましたが、こうやって取材というお仕事を受けさせて頂いて色んな人に作品を知ってもらえます。だから一旦舞台から降りると、役者という職業は色々やらなければならない仕事という部分もあるなって考えたりもします。

――役者は演じることが大前提の仕事ですが、それだけではない。

だから責任が生まれてきます。そういう意味では人とは違う道を選びましたが、自分に対する責任と、人に対する責任があるところでは、本当にどんな仕事も一緒だと思っています。

――自分に対する責任と、人に対する責任、ですか。

転機だった24~25歳の前後では緊張の理由が変わりました。以前は自分が何か失敗してしまったらどうしようという緊張でした。でも転機の後は、時間を使って観に来てくれる方々の前で、何か失敗してしまったら失礼だなと。提供するということに対して、失敗作を見せる訳にはいかないという気持ちです。

――悩んだ時期を乗り越え、役者を続けていこうと思われたきっかけはなんですか?

人間は生きていると、自然と目標が出来るじゃないですか。今日は美味しいご飯を食べたいな、来月はスノボーに行きたい、仕事でこの業績を達成したいとか。だから生きているのは大前提で、その目標が無くなると、漠然と生きているということだけが浮き彫りになるんです。そうなると、なんで生きているのかわからなくなってきて…。その状態で演劇をした時に、生きているんだからもうひと搾りしてみようと思って。最近は、“死ぬ気で”という言葉が凄く好きなんですが、命までは取られないだろうという覚悟を持っています。その時はまだまだ今より未熟でしたが、その時なりに振り絞った結果、見える景色が全然違いました。

――どんな景色でしょうか?

お客さんがいるのは当たり前じゃないし、僕がやってることも当たり前じゃない。それに携わる色んな方達の存在も当たり前じゃないということが今まで以上に見えました。その時に生きているのがあたり前で演劇をしてるんじゃなくて、演劇をしたいから生きている。序列が変わったんです。だから、役者=生きることに近い。救ってもらった演劇に対して、誰かを救うことが出来たらいいなと思います。

――そこまで鈴木さんが動かされる演劇の魅力とはなんでしょうか。

う~ん…。その時は漠然と感動したということだと思います。カーテンコールや、お芝居する場にお客さんがいることに、生きている実感が湧きました。達成感や充実感もあったのかもしれません。

――鈴木さんは今作に対して、“演劇ならではの物語にしていきたい”とコメントされていましたが、演劇ならではとは?

ひとつは強がりです(笑)。色んな媒体がある中で舞台化させて頂くので、舞台が一番面白かったねって言ってもらえるように意気込んでやろうという覚悟。演劇はそこに物語があって、目の前で体感出来る、ほかの媒体よりも、より生にこの物語を感じて頂けるものだと思います。今作の社会問題というテーマは、一見他人事のように聞こえてしまうかもしれません。それを凄く身近に感じて頂けるように、劇場という限られた空間の中で出来ること、演劇ならではの接し方でお客さんに届けることが出来るんじゃないかと考えています。

――映像とは違って生の声を届けられるという点も魅力ですよね。

そうですね。それに、映像は何度も見れますが、舞台は一回しか観ることが出来ない。何度も足を運んで頂いても、またきっと違うものが観れるナマモノです。

――鈴木さんは今まで多くの舞台を経験されてきて、ナマモノだからこそ感じたことはありますか?

ひとつは『ショウ・マスト・ゴー・オン』であるということですよね。何が起こっても、カット、NGのかからない、そこが絶対にほかの媒体とは違うところです。もうひとつは、可能性が無限大だなと凄く思います。物語によっては壁が海になったり、客席側も色んなところが変化するじゃないですか。いきなり登場人物が客席に降りてくることもありえる訳ですし、本当は無いものを表現することに関して、無限の可能性を秘めた空間、魅力的な表現な場所だと思います。


――ナマモノに対するプレッシャーも感じますよね。

何回やっても舞台のそでから出ていく時は緊張するよね、と役者仲間と話しています。初日は如実にそうですし。なぜか3日目が緊張する舞台もある。適度な緊張感、それはいくらやっても慣れません。

――今作の演出・深作健太さんにはもうお会いしましたか?

まだお会い出来ていません。

――深作さん演出の舞台を観たことは?

まだ拝見したことがなくて。今回は深作さんと飯島寛騎君と『ちょっと今から仕事やめてくる』の3つの情報で是非やりたいですと言いました。僕は個人的にデビュー10周年で、30歳になった年に、はじめましてのことばかりで凄く楽しみです。

――飯島さんとは今作についてお話をされましたか?

まだ今日でお会いしたのが2日目なので煮詰まった話はしていません。ただ、対談の取材で一緒にお話しをする中で、作品に対する想いや役に対する想いを知れました。今の現時点ではこういう風に捉えているんだな、というのは伝わってきました。

――おふたりの掛け合いが大事になっていく作品ですもんね。

そうですね。僕に関しては飯島君しか関わらないんじゃないかな? というぐらい。スタッフさんや深作さんももちろんですが、最初のほうは飯島君としっかりふたりで作っていかなきゃいけないなと思っています。


——デビュー10周年で30歳という節目ですが、この仕事を始める時に思い描いていた夢には近づけましたか?

若いころは外面でしか掲げていなかった夢ですが、今は何周かして近づけたかなという気はしています。最初は形しか見えていなくて、一番大切な部分に気づいていませんでした。ですが、今はわりと明確に大切なことのために頑張れていて、今は今なりの歩き方が出来ています。

——当時の夢はまだ変わってはいませんか?

変わってないですね。小さいころはただヒーローになりたくて、役者というイメージはありませんでした。ヒーローとしてデビュー出来ましたが、ヒーローになりたいというのは形で、人に夢を与えたいという言葉にも置き換えられて。もっと大切なことはそこにありました。この監督の作品、この演出家の舞台に出たい、誰と共演したい、というのはもちろんあります。ですが、それは全部より多くの人に自分のお芝居や演劇を届けるため、その作品のメッセージを届けるため、僕を届けるということが目標なので。全部がそこに到達する手段っていうと語弊があるかもしれませんが、必要なパーツです。本当に大切なものが自分の中で確証を持って見えているので、あとは進んでいく過程で色んなものに出会えればいいなと思っていますね。

——今後の目指す先を教えて下さい。

もちろんずっと役者をやっていきたいですし、役者として作品のメッセージを届けたいです。そのためには必死に生きていかなきゃいけなくて、生きているからこそ伝えられることはいっぱいあると思います。それがお芝居なのか、お芝居の中でも映画、ドラマ、舞台なのか、歌、小説、と色々ありますが、自分が必死に生きてきたものに対して、なにかみなさんに届けられるものがあるならば、それを最後まで届けていきたいなと思っています。

——映像も舞台も幅広く考えていますか?

そうですね。ただより広く色んな方々に届けられるものとなると、もちろん映像は広がりやすいかもしれない。でも舞台のほうが限られた人数ですが、情熱のあるものがやれるのかもしれない。どっちがどうで、どっちがベストな選択肢なのかはわかりませんが、それは必死に頑張った結果、出会った人によって導かれる道だと思うので。こだわらずに、もちろん全部やっていきたいです。

 


  ●プロフィール

鈴木勝吾/すずき・しょうご

1989年2月4日生まれ。神奈川県出身。2009年に『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビュー。昨今の出演作にドラマ『京都南署鑑識ファイル11』、舞台『ジョーカー・ゲーム』『エン*ゲキ#03「ザ・池田屋!」』『LADY OUT LOW!』『少年社中×東映「トゥーランドット」』など。待機作に、DisGOONie Presents Vol.5『Phantom words』(3月15日~)、ミュージカル『憂国のモリアーティ』(5月10日~)、舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』(6月13日~)を控える。Twitter @Shogo_Suzuki_


  ●作品紹介

『ちょっと今から仕事やめてくる』

原作/北川恵海
演出/深作健太
脚本/田村孝裕
出演/飯島寛騎 鈴木勝吾 中島早貴 葉山昴/田中健

ブラック企業で働く青山隆(飯島寛騎)はノルマの厳しさや部長(田中健)からのパワハラに悩みながら仕事をする日々を送っていた。そんな中、疲労のあまり、駅のホームで意識を失い電車に轢かれそうになったところを、アロハシャツを着た男・ヤマモト(鈴木勝吾)に助けられる。この偶然の出会いが青山の運命を変えていくことに――。

日程:東京公演2019年6月13日~23日
劇場:CBGKシブゲキ!!
チケット一般発売:3月17日(日) 10:00 ~ 6月19日(水) 23:29
https://www.chottoimakara.com/