【INTERVIEW】舞台『ボクの穴、彼の穴。W』で初めての二人芝居に挑む上川周作。相手役の井之脇海とともに演じるのは、戦場に残された敵対する二人の若い兵士。上川は本作にどう向き合ったのか、そして自身の芝居への思いについても伺った。
本作は、松尾スズキが初めて翻訳した絵本のデビッド・カリ著、セルジュ・ブロック絵『ボクの穴、彼の穴。』(千倉書房)を原作とした二人芝居。2016年の初演、2020年の再演に続き、今回もノゾエ征爾が翻案・脚本・演出を担当する。舞台は戦場だが、ユーモアと人間の根源的な優しさが満ち溢れた作品だ。取材は、稽古真っ只中というタイミングで行なわれ、二人芝居に挑む今の心境を聞いた。
撮影/浦田大作 スタイリスト/チヨ ヘアメイク/大和田一美(APREA) 文/太刀川梨々花
――稽古真っ只中、今の心境はいかがですか。
「これからどういう風にこの物語が動いていくのか、凄く緊張感もあり、そして楽しみでもあります。今は本読みをして、少し立ち稽古が始まった段階で、舞台装置を模型で見させて頂いたりしました。とりあえず今は、自分達が思うままに動き回ってやっています」
――戦場を舞台にしていますが、ユーモアを交えながら面白い作品だと思いました。
「僕もそう思いました。台本を読んで、人間の感情の流れというか、繊細な部分とか。戦場という苦しい状況に追い詰められても、楽しいことを想像したり、例えば“あの人元気かな”“あの人の料理美味しかったな”とか、ふと思い出したりする。突拍子もなく見えるようなことでも、それが凄くリアルに感じたり、思考回路って1つじゃないよなって。色んなことに目が向いたり、思い巡らせたり、そういうのが人間の本来の姿なんだろうなと感じます」
――特に印象に残っている部分やセリフは?
「劇中で、自分自身を自己紹介するシーンがあるんです。名前、年齢、そのあとに、『僕は絶対に人に自慢出来ないことをします。人を、殺します。』と言うんです。そのセリフが僕自身、やっぱり凄く驚いて、実感があとから湧いてくるってこういう事なんだと思いました。そもそも人を殺しにいくって実感の湧くようなことではないと思うんですけど、『そうか俺、今からここに銃を向けるんだ』って未来のことを口に出してみる。とてもじゃないけど、ちょっと逃げ出したくなるように感じましたし、僕の中ではぐらっと心が揺れた瞬間でした」
――稽古に始まる前までの期間は、何か準備されていたことはありましたか。
「空腹と孤独に向き合いながら長い時間を過ごしていく舞台だったので、空腹はどういう感じなのか、実際に短い期間だけどご飯を抜いて試してみました。あとは、舞台とは少し関係ないかもしれないですが、2回山登りに行きました。今思うと、体にフォーカスを当ててやっていたような気がします。もちろんセリフを憶えたり、台本のこの感情はどういう気持ちなんだろうとか考えたりすることも出来ると思いますが、稽古に入るとそういったことに凄く時間を使います。なので、稽古前はとにかく外に出て、体を動かしていました」
――体を動かすことも大事ですね。ちなみに、山登りは1人で行かれたんですか?
「1回目は友達、2回目は家族と行きました。人と行っても途中から無言になっちゃうんですよね、みんな自分と向き合っているなって(笑)。だから、自分の中で会話が始まるんですよ。声には出さないですけど、“石の位置がどこにあるか、右側にあるよ。近づいてきた。踏んだ”みたいな(笑)。目に見えたものをただ心の中で説明しているだけですが、それが舞台と似ているところが結構あることに気づきました」
――二人芝居は以前から挑戦してみたかったそうですね。二人芝居の面白さや難しさは、実際にやってみてどうですか。
「今回の戯曲は会話が凄く多いという訳でもなく、1人で喋っている時間も長かったり、そういう部分が特殊かもしれないですね。でも、後半から掛け合いがあるので、その時に凄く安心するんです。多分それは台本の中で孤独をずっと積み重ねてきたからこそ、面と向かって喋れることの喜びを感じられるのかなと。それと同時に、言葉の中には人同士が傷つけ合うことに対する怖さもあって、表裏一体のような、どっちに振れるのかわからないような部分が演じていて面白いなと思います」
――相手役の井之脇海さんとはお芝居についてお話しされましたか。
「稽古2日目に本読みが終わって、お互いが演じる役同士の熱量や戦争に向かっている精神状態などが凄く一致しているような気がして、それが凄く良かったねって確認し合いましたね」
――では、井之脇さんのお芝居や居方を見て、刺激を受けた部分は?
「セリフ1つ1つの感情の流れとか、繊細な部分が凄く丁寧なんですよね。台本の中から掴み取れるものを、井之脇君は自分自身に置き換えてリアルに想像して、全部自分のことのように考えて作っているんじゃないかって思うくらい芝居がリアルなんです。そういう部分を僕は間近で見て、心が揺さぶられて、どんどん引き込まれていく。だから、一緒の舞台に立ってお芝居をする時は、僕も繊細かつ色んな振り幅をもっていけるようにしたいなって思っています」
――上川さんはドラマ、映画、舞台と幅広く出演されていますが、今お芝居の面白さっていうのはどんなところに1番感じていますか。
「自分じゃない人を演じられることに凄く面白さを感じていて。自分だったらあまりこう思わないな、逆にこれは凄く共感出来るなとか、役との距離を照らし合わせながら、じゃあ役はこういうことを考えているのかなと想像していくのが楽しいです。なので、役を通して自分を知り、自分を通して役を知ることが凄く面白いなと思っています」
――舞台と映像で、見せ方の違いはあったりしますか。
「結構違うんですよね。舞台だと客席が固定なので、お客さんの視点が決まっている状態で、動きを大きく前に出て表現するのか、逆に際立たせたいから小さくやるのか、自分とお客さんとの距離感を常に見つけていかないとお客さんに届かないんじゃないかと思うんです。映像だと同じシーンを作るのに、何度もカメラ位置を変えながらやったりするので、繊細な動きをカメラが寄って撮ってくれたりします。その切り取り方の軸が違うのかなって感じますね」
――日々、お芝居と向き合っていく中で、変化を感じた部分はありますか?
「20代のころに演じていた役は全く知らない未知の体験が多かったような気がするんです。例えば、新入社員の役だったら全く知らない仕事のことを上司から教わって、自分の中に落とし込んでやっていくみたいな。ですが、30代になった今は自分が経験したことを演じていく機会が増えるので、説得力がより必要になってきます。自分が年を重ねて演じる時に、教わる立場から教えていく立場になっていることに変化を強く感じています」
――今後、新たに挑戦してみたいことはありますか。
「ちょっと趣味みたいな話になっちゃうんですけど、最近釣りをしたんですよ。そこで鮎釣りをしたら、釣り方が凄い不思議なんですよね。おとり鮎って言って、生きた鮎で釣るんです。最初は難しかったですが、6匹ぐらい釣れて新感覚でした(笑)。あと、井之脇君が山に詳しくて、色々話を聞いて、僕も山に興味を持ったので、今挑戦したいことでいうと山登りか釣りですかね」
――役者としてはいかがですか。
「人を応援したり、元気づけられるような役をやっていきたいです。シンプルに頑張れということではなくて、例えば僕自身が必死になっている姿を見てもらうことで、役に感情移入したり、元気づけたりすることも出来るかなと。生きている限り色んなことに挑戦出来るんだってことを日々感じますし、その気持ちを大切にしていきたいです」
――最後に、本作の見どころを教えて下さい。
「極限状態に追い込まれた2人の兵士が、孤独で苦しみながらも、過去や未来に思いを馳せたりします。色んな想像をしたり、感情の変化や臨場感を劇場で味わって頂きたいというのが1番ですね。そこを僕も繊細かつ大胆に表現したいと思っているので、是非観て頂きたいです」
●プロフィール
かみかわ・しゅうさく
1993年2月18日生まれ、大分県出身。アニメ『大家さんと僕』では主役の僕(矢部太郎)の声を担当するなど、舞台、ドラマ、映画と幅広く活動中。2021年映画『CHAIN/チェイン』にて初主演を務める。主な出演作に、舞台『ドクター皆川〜手術成功 5 秒前〜』、ドラマ『西郷どん』『いちげき』『ダブルチート 偽りの警官 Season1』、映画『女優は泣かない』『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』など。放送中の連続テレビ小説『虎に翼』では主人公の兄・ 猪爪直道役を個性豊かに演じ話題に。今後は、朗読劇『蒲田行進曲』が京都・春秋座にて10月19日、20日に上演。映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が11月公開。
●作品紹介
モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』
翻案・脚本・演出/ノゾエ征爾 訳/松尾スズキ
原作/デビッド・カリ セルジュ・ブロック
出演/〈ボクチーム〉井之脇海×上川周作、〈彼チーム〉窪塚愛流×篠原悠伸
松尾スズキが初翻訳したフランスの絵本『ボクの穴、彼の穴。』を原作にした二人芝居。〈ボクチーム〉井之脇海×上川周作、〈彼チーム〉窪塚愛流×篠原悠伸の2チームで上演される。戦場に取り残された敵対するふたりの兵士、ボクと彼。ボクが手にする戦争マニュアルには「彼は血も涙もない、本当のモンスターだ」と書かれている。殺すか、殺されるか。ふたりはそれぞれ空腹に耐え、星空に癒され、家族を思う。やがて限界が訪れたボクは相手の穴に向かう…。
【東京】9月17日(火)~9月29日(日) スパイラルホール(スパイラル3F)
【大阪】10月4日(金)~10月6日(日) 近鉄アート館