【INTERVIEW】映画『若き見知らぬ者たち』に出演する福山翔大。役どころは、主人公・風間彩人(磯村勇斗)の弟で、総合格闘技の選手である風間壮平。福山にとって1年間、壮平という人間に向き合い続けた日々はかけがえのない時間だったと語る。
映画『佐々木、イン、マイマイン』が若者から圧倒的な支持を集め、新人賞や海外の映画祭を賑わせた内山拓也監督の、商業長編デビュー作となる『若き見知らぬ者たち』が10月11日より公開となる。魂が揺さぶられるような登場人物それぞれの生き様が描かれている本作で、福山翔大演じる風間壮平は、借金返済や母の介護を掛け持ちしながら総合格闘技の選手として生きている。福山は作品や役とどう向き合ったのか、撮影の日々を振り返りながらたっぷりと語ってもらった。
撮影/浦田大作 スタイリスト/荒木大輔 ヘアメイク/カスヤ ユウスケ 文/太刀川梨々花
――脚本を読んで、物語に対してどのような印象を受けましたか。
「この物語をどう届けるべきかというか、どう風間壮平として生きるべきか、その使命感のようなプレッシャーがありました。それと同時に苦しい物語ではあるのですが、微かな光を逃さないように演じたいと。この作品が出来るまでの経緯も内山監督から色々と聞いていたので、並々ならぬ思いを全身全霊で表現したいという強い想いがありました」
――演じる風間壮平という人物の内面的な部分や、キャラクター性に関してはどう捉えていましたか。
「今回に関しては、演じるという言葉は捨て去っていて。クランクインする日までの1年間、総合格闘技の練習をさせてもらい、ジムに通う日々が自ずと壮平を生きる1つの大切な過程でした。初めはジムの扉をどうやって開けるのか、どんな歩き方をするのかというところから、日々練習を重ねていく中で、いつもとは少し違う歩き方に勝手になっていたり、こういった過程全てを壮平として生きるにあたって自分の中に取り込んでいこうと。それと同時に兄(磯村勇斗)、母親(霧島れいか)、日向(岸井ゆきの)との関係性を自分の中ではこういう方向なのかなと色々考えましたが、何者かになろうとするのではなく、自分自身が壮平なんだと思って、1年間生活を重ねてみようと思いました」
――内山監督とは壮平についてお話しをされましたか?
「内山監督とは凄い時間をかけて作品に入る前からお話しさせてもらっていたのですが、あまりにも多く会話を重ねすぎて具体的に思い出すのが難しいです(笑)。僕が1年間のトレーニングとどう向き合っていくか、その入口を監督自身も体感したいということで、途中まで実際に監督と一緒にトレーニングを受けました。常に内山監督は僕の疑問に対して100パーセントで答え続けてくれます。それが本当に心の支えでしたし、信頼している監督です」
――磯村勇斗さん、岸井ゆきのさんはじめ共演者の方とのお芝居で引き出されたものは?
「兄とのやり取りは、本編で2シーンしかないんです。その数少ないシーンの中に2人の関係を、これまで生きていた温度を表現しないといけない。僕がどんな状態であっても、目線を合わせなくても、磯村さんは兄で居続けてくれました。背中や横顔で僕の存在を受け止めてくれた、その安心感が凄く有難かったです。岸井さんはどんな時でも、日向として現場にいて下さって。僕が朝、現場で会った時も常に明るく接して下さいました。やっぱりどうしても、それぞれがある十字架を背負って、生きている作品なので重たいムードになりがちだったんですが、岸井さんの存在がひまわりのようで、その優しさに何度も救われました」
――それぞれ抱えている思いがあって、口には出さないけれど表情だけで伝わるものがありました。
「壮平は比較的にそういうシーンが多いですよね。今まで演じてきた作品の中で、無言で何かを見つめている、なんというか何かに到達出来ずにニュアンスやムードを作ってカメラの前に立ってしまった瞬間が今でも後悔として残っているのですが。今回はどのシーンにおいてもちゃんと自分の心の中で身が詰まっているというか、本当に何かを思っている。ただ、最後のシーンだけは正直何も思えなかったんです…空っぽで不思議な体験でした。それを観て下さるみなさんがどう捉えるのか、逆に楽しみでもあります」
――今回は、役と向き合う時間が長かったと思いますが、壮平として生きた時間は苦しかったのでしょうか。
「苦しさもあったし、肉体的な疲労もあったし、日に日に大きくなっていく自分の体をみて驚いたりもしました。日々、自分の喜怒哀楽に向き合えました。撮影が近づいてくることがもの凄く怖くなる日もあったし、明日にでも撮影したいと思うような時もありました。今まで1年間、役に向き合うという経験はなかったので、本当に今思い返しても不思議な時間だったし、かけがえのない時間です。そして、役者としては、明日やることが明確にあることの有難さを凄く感じました。やっぱりこの仕事は作品を終えて、次の作品に向かうまでのインターバル、その時々で仕事の向き合い方があると思いますが、1年間1日たりともある意味、休みがないっていう常に向き合うものがあることは本当に幸せでした」
――福山さんも1年間の中で、ほかの作品にも入られていて、役の切り替えはすぐに出来るものでしょうか。
「その時は壮平の存在は、どの役や作品にもついて回らないです。家に帰るとトレーニング機材やプロテインとかが常に目に見えるところに置いてあるので、その時に『あ、そうだ壮平だよね』という。家を出たら壮平の存在をシャットダウンするような取り組み方をしていました」
――後半に出てくる格闘技シーンは壮平の見せ場になってきますが、動きや技など流れはどのように進めていきましたか。
「0からみなさんで会議を重ねて作っていきました。今回は総合格闘技ということで、日本映画では今まであまりなかったですし、ボクシング映画というジャンルの格闘技作品はありますが、『殴る・蹴る・掴む・絞める』その全てを見せていかないといけないので、実際の試合を見漁りまくりました。今後、総合格闘技というジャンルを日本、ハリウッドなどでやっていく中での1つのモデルケースとしても恥ずかしくないものを作りたいという思いがあったので、スタッフキャスト一同、大変ながらも情熱的な時間でした」
――本作は4か国(日本、フランス、韓国、香港)の共同作品ですが、海外の方にも観て頂く機会があります。
「4か国合作という作られ方が特殊だと感じました。僕達がやれることは時間をかけて心を注ぎ込んで、結果として海の向こうの方々の心に刺さってくれたら嬉しいなと思います。より多くの方に観て頂けるチャンスがある作品だと思うので、この物語がどう広がっていくのか気になります」
――より多くの方に届いてほしいですね。本作で伝えたいメッセージを頂けますか。
「声を上げることは相当エネルギーのいることですよね。今の世の中、色んなことに口を噤んで、家に持ち帰って布団の中にうずくまるような日々を過ごしてしまう、明日を迎えるのが嫌だとか、自分がここにいてもいいのかなというようなことも生きていたら誰しもあると思うんです。そう感じた時に、ちゃんと居場所があるんだよ、そういう気持ちを持っていることも分かっているよと、心に寄り添える作品になっていると思うので、1人じゃないってことを映画から感じて頂けたら嬉しいです」
――福山さんはお芝居をする中で、新しい感覚や強みを実感することはありますか?
「毎回、座組も演じる役柄も違うので難しいなと思うことが多いのですが、スタッフさんとのコミュニケーションや距離感、現場に対して余裕が少し生まれる、その小さな成長は感じます。お芝居に対して、きっとこれでいいんだというものを見つけてしまったら、僕は危うい気がしていて。それこそ何かのモデルケースに当てはまるような表現しか出来なくなるような気がしています」
――お芝居の魅力や面白さはどんなところに感じますか。
「喜怒哀楽全てをちゃんと確認出来るというか、お芝居をすると生を実感出来るところが僕は大きな魅力だと思います。僕が世界中の映画に救われてきたように、本当に1人でどうしようもない夜を助けてくれる1つのツールになるのが、映画、ドラマ、音楽などのエンターテイメントだと思うので、その中にお芝居というのは絶対に含まれています。映画で世界を救えるとは思わないけれど、そういった作品を作れるようにお芝居と向き合っていきたい。もう我慢の限界かもと、心のダムがこぼれそうになる時もあるのですが、そんな時でもお芝居をすれば少し楽になっている、自分にとっての浄化作用でもあると思います。僕が俳優をやめない限り、思考を続けられる、答えがないことを日々考えられることが幸せなのかな」
●プロフィール
ふくやま・しょうだい
1994年11月17日生まれ、福岡県出身。2013年、ドラマ『みんな! エスパーだよ!』で俳優デビュー。その後、ドラマでは『学校のカイダン』『わにとかげぎす』『恋はDeepに』『1回表のウラ』『Dr.チョコレート』『ACMA:GAME アクマゲーム』など、映画では『ガチ★星』『JK☆ROCK』『ブレイブ -群青戦記- 』『てっぺんの剣』などに出演。今後は、映画『チャチャ』が10月11日公開。
●作品紹介
©2024 The Young Strangers Film Partners
『若き見知らぬ者たち』
原案・脚本・監督/内山拓也
出演/磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 ほか
配給/クロックワークス
風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父の借金を返済し、難病を患う母、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、同じく借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。息の詰まるような生活に蝕まれながらも、 彩人は恋人の日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えている。 しかし、彩人の親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う、つつましくも幸せな宴会の夜、彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまい・・・。
10月11日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
https://youngstrangers.jp/
衣裳協力:シャツ¥25,800(STEAF/STEAF SHOWROOM 03-6721-0549)、パンツ¥48,100(Cellar Door/untlim 03-5466-1662)、その他スタイリスト私物