ピーナッツ密度が高すぎる台湾の大人気なお菓子「花生酥」と私の甘くてしょっぱい馴れ初め。

ピーナッツ密度が高すぎる台湾の大人気なお菓子「花生酥」と私の甘くてしょっぱい馴れ初め。



優美でおいしい台湾茶。
淹れ方やお作法のハードルが高そうだけど、実は自由に楽しめるもの。好きなところをつまみながら自分の茶道を探す、台湾在住コーディネーター・青木由香さんのお茶ごとエッセイ。


好きでも嫌いでもなかったピーナッツが、台湾で暮らしていると気になるようになる。ごはんもおやつもあらゆる形で毎日のように出くわす。ということで当然、ピーナッツ関連でおすすめしたいお茶請けも多くなります。その中でも、特に馴染みの深い花生酥(ホァーシェンスー)というお菓子を紹介というか、私の花生酥物語というか、思いの丈をぶつけます。


△花生酥は色んなメーカーから出されている。左から、正義というメーカーのもの(約165元 日本円で約660円)。同じように布田のもの(約230元 日本円で約1,000円)、正一のもの(145元 日本円で約580円)。

花生酥は、私の店ではイヤになるくらい売れるのだけど、それは追い追い匂わせていくとして……。どんなお菓子かざっくり説明すると、ピーナッツペーストを固めたクッキーのようなもの。澎湖(ポンフー)という離島の名産品です。濃厚なピーナッツ風味が特徴で、食べたら後を引く感じがお茶を欲する、今や日本の台湾通には外せない台湾土産の一つです。

クッキーとの違いは、油分はバターではなくピーナッツから出る油であること。レシピによって煮溶かしたラードを混ぜてサクサク感を増しているのもありますが、人気のメーカーは、ラードは使っていません。作り方も炒ったピーナッツをペーストにして、小麦粉を空炒りしてから混ぜ、麦芽糖と砂糖を足して成形する。クッキーのように材料を混ぜた後に焼かないからか、口に入れたらホロッと崩れるところが魅力的です。

 

私と花生酥の出会いは、約20年前の、台北・天母(テェンムー)の士東市場。小さなスペースに調味料を並べる店で、おじさんがくれた試食がお初になります。

「ナニコレ! うまい!」

当時は、私もまだ店も開いてなかったので、知人に渡して布教していたらファンが増え、時々日本からも頼まれるようになって大量に送ることもありました。小柄な人が一人くらい入りそうなポリ袋にドッカンと大量に購入して、自分の結婚式で配るといった風に、お気に入りの歴史を重ねていきました。

 

それから、私は自分の店を始めることになります。その時、心に決めたのは「お金になるからと売れるものを並べるのではなく、好きで自信を持って勧められるものだけを扱う」こと。いろいろあって突然店を開いたのでオープン当初は商品が揃わず、たった3種類のスカスカな店でスタート。そのうちの一つはこの花生酥でした。

花生酥のパッケージは演歌風です。今でこそ台北のあちこちで売られていますが、当時は今のように観光のお土産に無名な台湾レトロ食品に手を出す風潮はありません。そのままだと手に取ってもらえず、袋の中に綺麗にぴっちり並べて詰め替え、紙の紐をかけていました。一手間を加え、試食を出しまくる。「推し」の草の根運動です。それに加えて、私の職業柄うちの店がメディア取材を受けることもあり、花生酥が知名度を上げていきました。

私が最初に市場で惚れた花生酥は、「正義(ヂェンイィ)」というメーカーのもの。正義の花生酥が長くメディアで露出していることもあり、こっちを所望される方が多い。正義は、個包装がキャラメル包み。賞味期限は、製造日から40日。家内制手工業な手作りで、入荷量の確保に苦労します。それに店主が怖い。仕入れに神経も使います。


△正義の花生酥。材料は、落花生、砂糖、麦芽糖とシンプル。他の2種と比べて甘さしっかり目で懐かしい味。パッケージも一番演歌風。

それで、あらゆる花生酥を集めて食べ比べ、「正一(ヂェンイー)」も扱い始める。こちらは、少しだけ怖くないのと、アルミ個包装されているので、正義よりサクサク。賞味期限も製造日から60日。味は、かなり似ているけど、バターを使っている分、少しまろやかな甘さです。


△正一の花生酥。材料は、ピーナッツバター、砂糖、麦芽糖、バター、塩。バターと塩が入っている分、正義に比べて甘さはまろやか。

これらのメーカーは澎湖にあり、島は風が強く飛行機や船がよく欠航します。出荷が予定通りにいかない上、一族で手作りしている家内制手工業の製品。正義は、年に何度かは家族旅行で大きなお休みもとります。花生酥を目掛けてわざわざ来るお客さんが買えないという事態を減らしたくて、もう一件お気に入りの「布田(ブーティエン)」も店で推し始めました。

これは、フランスのバターを使った毛色が違う花生酥。洋風な感じで布田派になるファンも続出。賞味期限3ヶ月。入荷時に怖いことは起こりません。


△布田の花生酥。材料にこだわった現代バージョン。台湾最大のピーナツ産地雲林産の残留農薬検査済みのピーナッツを使用。

社会の授業みたいになるけど、台湾のピーナッツの生産量は世界45位、日本は60位(2023年)。台湾の国土面積は日本の約10の1以下なのに、ピーナッツの年間生産量は日本の3倍はあって、ある年は、日本の5倍という数も叩き出しています。どうゆうピーナッツ密度なんだと。当店の始まりを支えたスタメンもピーナッツ。製造者の塩対応に耐えつつ、ぶっちゃけ薄利なのに3種も扱う私もどんだけピーナッツおばさんか。それだけ台湾のピーナッツ、美味しいです。お茶に合います。花生酥の人気は当分収まることは無いでしょう。

 

今日の一皿。冷凍した花生酥

花生酥を、温かいお茶と一緒に冷凍で食べてみませんか。夏場のお茶請けはひんやりスイーツがおすすめ。冷凍すると保存も効いて、ピーナッツの油脂があるからガチガチには凍らず、冷凍庫から出してそのまま食べられます。冷たいと甘さがストレートに伝わってこないので、ひんやり甘さ控えめな感じがお気に入りです。

そして、乳脂肪分が低く安いアイスと一緒に食べたら濃厚に食べられてお得な気分になりました。ボソボソがアイスのクリーミーさとマッチングです。アイスの分甘さは増すので、少し塩を振ってください。特に正義の花生酥は、気温が高くなるとじわっと油が滲むので(味に影響はありません)、気温があったかくなったら保存を兼ねてぜひ冷凍でも。

*次回は6月2日(月)に公開予定です。

\青木さんのお店もチェック!/
『你好我好(ニーハオウォーハオ)』
https://www.nihaowohao.net/
日本から購入できるオンラインストアも!
https://nihaowohaostore.com/

\好評発売中!/
暮らしの図鑑 台湾の日々
著:青木由香
発行:翔泳社


Written by aokiyuka
青木 由香

台湾在住20数年。コーディネイト、執筆、Podcastを通して、日本に台湾を紹介している。台北でセレクトショップ「你好我好(ニーハオウォーハオ)」を経営。
Instagram @taiwan_aokiyuka 
ショップ&アートギャラリーSTORE「你好我好」 @nihaowohaostore
お茶ブランド「香香臺灣」  @xiangxiangtaiwan
Podcast 楽楽台湾 PODCAST

»この連載の記事を見る