【INTERVIEW】ドラマ『良いこと悪いこと』、Netflixオリジナルドラマ『匿名の恋人たち』に出演中の秋谷郁甫が、話題沸騰の2作にたどり着くまでの軌跡を語る。
考察合戦の熱がますます高くなっている今期最注目のドラマ『良いこと悪いこと』と、配信開始からたったの2週でNetflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ部門)入りした国が31カ国に及ぶという快挙を果たした『匿名の恋人たち』。刺激だらけの現場で、21歳の秋谷郁甫が感じた作品づくりの魅力とは。
撮影/京介 文/船田恵
――役者になったきっかけは高校1年生の時にお母様が現事務所へ出された履歴書だと伺いました。
「そうです。両親と姉の4人家族なのですが、3人ともマスコミ業界で働いていて、家でもよく仕事の話で盛り上がっていたので、興味自体はずっとあったんです。ただ、自分が表に出る側になることは全く想像していなくて。仕事が大好きで誇りを持って働いている父の背中を見ながら、ゆくゆくは僕も同じ”裏方”にまわりたいと思っていました」
――お母様はなぜ応募を?
「後々聞いた話だと、父と姉は名前が出るけど顔は出ない職種、母はかつて表に出る仕事をしていた頃もあったのですが、名前が出るほどでもなかった。だからもし息子が同じ世界に入りたい気持ちがあるなら、名前も顔も出して、表現の世界でしっかりと活躍してほしいと思っていたそうです」
――そんな願いがこもっていたと。
「だいぶ経ってから聞いて、身が引き締まりました。一番身近にこの世界の厳しさを知っている人達がいて、そのうえで飛び込んだ裏側にあった想い。あらためて、全力で頑張らなくてはと」
――最初は事務所のレッスンを受けていたんですよね?
「はい。でも、演技の経験も皆無で、何もわからない状態。目の前で交わされていたのは、『排水溝に絡まった髪の毛の気持ちで動いて』とか『ずっと回されている扇風機の気持ちで言ってみて』という言葉。初めて見る景色が衝撃で、それがエクササイズなのかどうかも理解できないまま、恥ずかしさと少しの怖さで固まっていました。普通に台本があってセリフを言う練習だと想像していたので」

――次第に慣れましたか?
「いや、当初は“ちょっと行きたくないなぁ”と思ったりもしていました。そんな時に、レッスンに対する向き合い方を改めようと決意する機会があって。当時僕はまだ事務所に本所属にもなっていない若干15歳の高校生で、正直真剣具合が足りていませんでした。同じレッスン生の中に22歳くらいの先輩がいて、セリフ合わせやいろんなことを教えてくれたんです。その方が、ある日を境に全然来なくなってしまって。聞けば、大学卒業で進路を決めなければならない時期で、役者への道を断念したと。あんなに真面目に取り組んでいて、お芝居が好きで、夢を持っていた方でも、そういう決断をせざるを得ない。ガツンと殴られたような気持ちでしたね。全身全霊で臨めていない自分を失礼なヤツだと感じたんです。そこからです、レッスンに行くのが本気で楽しくなったのは」
――わずか15~16歳で貴重な経験を。
「向き合い方や気持ちひとつで大きく変わるものですね。自分でもはっきり認識できるくらい、お芝居へのスタンスが変化しました。ありがたいことに、そのあと本所属にもなることができて」
――プロとして挑んだ最初の現場のことは覚えていますか?
「鮮明に覚えています。『先生を消す方程式。』という連ドラです。事務所の先輩・田中圭さんが主演だったので、本当に心強かった。当然ですがレッスンとは別世界で、通用しないことだらけでした。レッスン時は先生に顔を見せる角度を意識していたけど本場ではいくつもあるカメラの位置把握、細やかにつくられた教室セットに太陽光を再現するためあてられる照明の熱さ…みなさんこんなに強い熱を浴びながら涼しい顔でお芝居しているのかと驚嘆しながら、もう全部が衝撃でした」
――そこから役者への想いは揺らぐことなく現在へ?
「揺るぎませんでした。先輩達が自分のやりたいことを追求している姿がとってもかっこよく映りましたし、しんどいことがあっても他人には見せない努力をしていることは僕自身の家族を見ても知っていたので、目の前にある台本や現場を全力で楽しもうと思いながら過ごしていたら、2025年11月です(笑)」

――『匿名の恋人たち』は世界で大反響ですね。
「チームワークが素晴らしい現場でした。小栗(旬)さんが僕達もリラックスできるような環境を作って下さいましたし、ショコラティエメンバーの結束力もすさまじかった。月川(翔)監督が最後に、『君達はいつ目線をやっても芝居を止めている瞬間がない。カットがかかるまでみんなで楽しみながら演じている姿は本当に魅力的だったし、すごいこと』と言ってくれて。ショコラティエのチーフ役の伊藤歩さんがコミュニケーションをたくさん取りながら、引っ張ってくれたおかげだと思います」
――どのようなコミュニケーションを?
「小栗さんとハン・ヒョジュさんのシーンをショコラティエみんなでモニター前へ見に行って、ふたりの空気感を受け取りながら、『じゃあ私たちはこういうテンションでいたほうがいいかな』とか、実際にそれをやるかどうかは置いておいて、そういうコミュニケーションを積極的にしていこうという姿勢でしたね」
――お話を聞いていたら、ショコラティエチームに注視して見返したくなってきました。
「ははは! 結構細かな動きやお芝居をしているので、注目して見返してくださる方々が増えると嬉しいです。『匿名~』の現場では、みなさんの胸を借りながらお芝居をさせていただきました」

――そして、展開が気になって仕方がないドラマ『良いこと悪いこと』について。
「視聴者のみなさんの考察がハイレベルすぎて、毎回驚いています」
――新木優子さん演じる週刊アポロの美人記者・猿橋園子を慕う後輩記者・松井健役です。
「4話の後半で慕っているはずの園子さんのパネルを松井が思いきりビンタしたことで、一気に事件との関わりが疑われました」
――秋谷さん、犯人を知っているんですよね?
「今は台本もいただいているので、さすがに(笑)。でも、ギリギリまで教えてくれなかったんですよ。『秋谷には教えないほうが面白い』とプロデューサーさんやマネージャーさん、間宮(祥太朗)さんまでもが思ったようで(笑)。新木さんや深川(麻衣)さんに『(あなたは)犯人ですか?』と聞いていたら、プロデューサーさんがものすごい勢いで走ってきて、『言わなくていいからね』って」
――伝えないほうがお芝居も濁らないでいいと感じたのかもしれないですね。
「それはあると思います。確かに知ってしまったら少し意識してしまう気はします。だからある意味僕自身も、視聴者目線で松井を演じていましたね。最初はまだ記者としてペーペーでミスも多く、先輩達への憧れが強い。特に園子さんへの想いは演じるうえでも軸として持っておこうと考えていました」
――松井は弟キャラといいますか、ちょっと犬っぽい感じもありませんか?
「そこは全然意識していなかったんですけど、確かに言われます。監督には『松井としてのかっこいいを全力でやって』と言われていたので、クールを気取っていたはずなのですが、結果として周りの方々との掛け合いの中でそういう温度感が出てきたのは面白いですし、嬉しい気持ちもあります」

――犬っぽい松井がパネルをぶっ飛ばしたからインパクト大だったのでは? あのビンタ具合の演出はあったのですか?
「監督からは、『パネルが遠くに飛べば飛ぶほどいい』と言われました。できるだけ遠くに飛ばすことだけを考えて、殴るような勢いで挑みましたね」
――松井、いったいどんな人なのでしょう?
「とっても真っ直ぐな人だと思います。ビンタも急にひょう変したわけではなく、真っ直ぐな故の行動だと捉えています。ドラマを見続けていただければ、この言葉もきっと腑に落ちるはず…です」
――世界中どこを探しても結末が転がっていないので、絶対に見届けます。
「オリジナル作品ですから! SNSを眺めていると、考察を極めたような方々がいて、“こんなところまで見ているのか”“そんな視点もあるのか”“僕も気付いていなかった”と、感情が忙しいです。と同時に、この作品はいじめや友情などを通して誰もが抱えている問題や意識を問いかける要素もあって、セリフやエピソードが刺さるんですよね。いじめはダメだとか単純なことでもなく、なんかこう、自分がこれまで考えてきた価値観のようなものを改めて知ることになるというか、そういう気付きがあるドラマだと思っています」
――記憶違いとか、自分に置き換えてヒヤッとするエピソードもたくさん。
「“あるある”も多いですよね。結末はびっくりされる方もいると思いますが、楽しみにしていて下さい!」
●プロフィール
あきや・いくほ
2004年2月11日生まれ、神奈川県出身。2020年、ドラマ『先生を消す方程式。』で俳優デビュー。現在Netflixオリジナルドラマ『匿名の恋人たち』が配信中。12月19日(金)からはAmazon Prime Videoにて『人間標本』が配信開始。
●作品紹介
『良いこと悪いこと』
出演/間宮祥太朗 新木優子 森本慎太郎(SixTONES) 深川麻衣 戸塚純貴 剛力彩芽 木村昴 藤間爽子 工藤阿須加 松井玲奈 稲葉友 森優作 水川かたまり(空気階段)他
脚本/ガクカワサキ
演出/狩山俊輔 滝本憲吾 長野晋也
プロデューサー/鈴木将大 妙円園洋輝
チーフプロデューサー/道坂忠久
音楽/Jun Futamata
小学校時代の同級生を次々と襲う連続殺人事件。標的になった6人を狙う真犯人とは? 高木将(間宮祥太朗)、猿橋園子(新木優子)、小山隆弘(森本慎太郎)らは、次第に驚きの真相に迫っていくー。
日本テレビ系にて毎週土曜夜9時~放送中







