【INTERVIEW】田中圭×矢崎広が初共演。舞台『母さん、ラブソングです。』で兄弟を演じるふたりが語る、互いへの信頼と作品への思いとは。

【INTERVIEW】田中圭×矢崎広が初共演。舞台『母さん、ラブソングです。』で兄弟を演じるふたりが語る、互いへの信頼と作品への思いとは。


田中圭にとっては4回目、矢崎広は念願の初タッグとなる脚本&演出・鈴木おさむ作品。『母さん、ラブソングです。』という独り言のようなタイトルのふたり芝居は、落ちぶれたミュージシャンの兄と、彼を支え続けてきた弟の物語だという。まだまだ準備段階のふたりに今だからこその本音を語り合ってもらった。

撮影/sai スタイリスト/【田中】荒木大輔、【矢崎】矢島世羅 
ヘアメイク/【田中】大橋覚(VANESSA+embrasse)、【矢崎】野﨑文志(SUN VALLEY) 文/船田恵

同じ事務所に所属する先輩・後輩の仲。田中圭と矢崎広はそれぞれ舞台芝居において着実に爪痕を残してきたが、意外にも共演は初。そんなふたりに鈴木おさむが用意した環境は、ステージ上にはたったふたりだけ。取材段階では台本も完成しておらず、探り合いの対談になるかと思いきや、予想に反して早くも兄弟感満載の賑やかで自由な語らいとなった。

――まずはお互いを“他己紹介”していただけますか?

田中「長い付き合いになる後輩のひとりで、まだ満足に仕事がないころからお互いを見てきているので、今の矢崎の舞台芝居における活躍は純粋に嬉しいです。僕の場合はどちらかと言えば映像作品のほうがイメージ強いと思うんですが、実は舞台も好きなので、矢崎がそこでステージアップしてきたのは知っているし、すごく真面目に作品や芝居に向き合っていて、主戦場で積み重ねてきた実績にはリスペクトしかない。共演歴がないから役者としてどうこうを語ることはできないけど、歩んできた軌跡が地に足の着いた“舞台人”を物語っていますよね。だから今回、それこそ舞台という僕らが大切にしている場で、がっつりふたり芝居ができることは待ち遠しいし、小細工なんか取っ払ったぶつかり合いができるんじゃないかなと思っています」

矢崎「僕は以前から圭さんの芝居が大好きで。とにかくうまいんですよね。キャラクターを自分のものにして自然体に見せる技術は、数多くいる役者の中でもずば抜けている気がします。その背中をずっと追いかけてきた先輩であり、まだまだ越えられないと思える存在が同じ事務所にいること自体、本当に恵まれた環境だと感じています。僕も人間なので“いつかは追い越してやる!”と思いながらやってきましたが、いつまでも後ろ髪すら見えなくて、そんな圭さんが1から役柄に向き合う姿を観察できる機会を頂き、今からすごくワクワクしています。いろいろ盗ませてもらおうと企んでいますし、もしかしたらこの舞台で追いついて追い越しちゃうかもしれないです(笑)」

田中「僕が(小栗)旬くんに感じているようなことを言ってくれて、いやぁ、嬉しいね」

矢崎「本当に尊敬している先輩なので、舞台を観に来てくれた時にダメ出しをお願いしたら、『イヤだ』と。欲しいのにくれないんですよねぇ」

田中「なんでだろう、寝てたのかな(笑)」

矢崎「いやいや、『おまえの芝居、好きだよ』とは言ってくれたじゃないですか」

田中「ちょっと、覚えてないぞ」

――いやいや、思い出してみてください(笑)。

田中「個人的な好みとして、自分をどう見せるかにこだわる芝居があまり好きではなくて。矢崎はなんて言うのかな、まっすぐで不器用なところがあって、“こう見せたい”“こう伝えたい”があったとしても、うまくいかないタイプだと思うんですよね」

矢崎「そんなことはないです(笑)」

田中「僕自身は、本来芝居には必要ない思考だと感じていて。もちろんそれが飛び抜けてうまい役者もいるし、かっこいいなと思う時もある。でも、好みで言うと、不器用ながらも目の前で起こることや湧き上がる感情にぶつかっていく芝居のほうに惹かれるんです。たぶん、そういうことで好きだと言ったんだろうね」

矢崎「(ホッとした仕草で)確かに僕は“こう見せたい”という技術面が先立つよりも、まずはハートから役柄を考えます。その感情にいたる過程が結果的にこう見えたらいいなと作っていくタイプだし、そのほうがキャラクターも本物に近づける気がしています。もしかしたらそういう姿勢を圭さんが受け取ってくれたのかもしれない」

――ということは、矢崎さんは田中さんのお芝居にもそこを感じている?

矢崎「そうですね。シンパシーを感じますし、目指すべき場所はここだというのを示してくれる存在です。圭さんのどんな芝居を見ても“うまいな”“ずるいな”と思うんです。今の話を聞いて、見せかけを好まない圭さんだからこそだと合点がいきました」

――既に兄弟感がありますが、最初にキャラクター設定を聞いた時のお気持ちは?

田中「僕はもう(鈴木)おさむさんとは舞台が4回目で。なんかこう、“はい、はい”じゃないけど、母親がキーになっていたり、まぁやってくるよねって(笑)。ただ、台本に書かれたセリフとしての言葉や今回は歌、そこがまだ見えていないので……設定だけで言うなら、今のところイージーかなって感じです」

矢崎「また、やめて! 取材でイージーとか、何言ってるのよ、よくないですよ!」

――(笑)。でも、鈴木おさむさんは田中圭という役者のありとあらゆる部分をさらけ出そうとしていませんか?

矢崎「わかります。それは僕も感じます。すごく愛のあるプロット、設定だと思いました。だから今回、また違う『芸人交換日記』のようなパワーが生まれそうな気がして、僕はそこに必死に食らいつかないといけない。おさむさんと圭さんの愛が竜巻のようになっている中に、どう入って行けばいいのかなと」

田中「セリフみたいなこと言ってる」

矢崎「怖さがあるんですよ。でも、僕が演じる弟・踊楽(ようた)は物事をどこか俯瞰で見ていて冷静な部分もあるので、稽古場含めてどうしていけばいいのかを考えられそうな役柄だとも思いました」

田中「僕がさっきイージーと言ったのは、なんか踊楽は難しい役だなと思って。もちろん幕が開いてみないとわからないし、長い公演期間のふたり芝居で体力と気持ちが削られていく可能性もあるけど、キャラクターから想像すると、しっかりぶつかれる作品になるような気はしていて。毎公演お互いにちゃんとぶつかるのはすごく大変だし集中力もいるけど、だからこそあの本番数を乗り越えられるんじゃないかなと。ゆくゆくハードになることは見えているので、逆に今くらいはイージーと言っておいたほうがいいんです」

矢崎「よくはないです!」

――田中さんが躍楽を難しいと感じたのはなぜ?

田中「自分の感情に自分自身もめちゃくちゃ迷っている人じゃない? その複雑さを芝居で表現するっていうのは、おそらくものすごく難しい。表現しようとした瞬間に嘘になっていくから」

矢崎「どうしてハードルを上げるのよ?」

田中「僕が演じる詩於(うたお)は感情通りにいけるかなと思っていて。もちろん複雑な感情もあるけど、複雑な感情のまま演じられそう。ただ、踊楽は弟というポジションもそうだし、抱えているものもあって、そういう部分がどこまでセリフとして出るのかはわからないけど、隠しているだろう兄貴に対する憧れや嫉妬も含めて、相反するふたつの気持ちをセリフに乗せる表現は本当に難しいだろうなと。全部セリフで説明できたらラクなんだけど、そうはならないはず」

矢崎「やだやだ、この対談を読んだ方々が僕を評価しながら観ることになる」

田中「評価されたら負けじゃん。役者・矢崎への評価が乗っかっちゃったらアウトじゃん」

矢崎「どういうこと?」

田中「だって、踊楽がどういう人なのか以外はいらないじゃない。物語を伝える役割の僕らにとっては」

矢崎「なるほど」

田中「だからもう、がんばって!」

矢崎「え、もっとうまくフォローしてくださいよ」

田中「僕もがんばる。一緒にがんばる」

――矢崎さん、どうですか、今の田中さんのご指摘。

矢崎「僕が信じていることは、踊楽の要素を僕自身が抱えられていれば、絶対にお客さんに汲み取ってもらえるだろうと。そういう感覚を信じてここまで舞台を続けてきたし、自分もそこだけは揺るがないでいたい。あとは、圭さん演じる詩於と兄弟であるという真実味を重視して、今日の取材みたいに圭さんの懐に入れるような関係性を築きながら乗り切りたいです」

――現状それぞれのキャラクターで核になりそうな部分は?

田中「芝居をするうえでキャラクターのバックボーンとかを考えたり作ったりする話はよく聞くけど、そういうことはしたことがないからなぁ」

矢崎「ええっ!? ないの? 考えたこともないの?」

田中「ない、ない」

――すごいですよね。いつも同じことをおっしゃるんですけど。

矢崎「すごいな。それであのパワー。だとすると、今僕が驚いている状態……もうこの関係性こそが“兄弟”に繋がる気がします。僕は準備をするほうなので」

田中「準備はするよ。セリフはしっかり覚えるし」

矢崎「それは最低限でしょ。役者の唯一のデスクワーク」

――矢崎さんは現時点でどんな核をイメージしていますか?

矢崎「兄への愛情の方向性ですかね。どういうふうに矢が引き絞られるのか。母親という存在もありながら、兄とどう向き合っていくのか。入り混じる感情が核になると考えています」

――田中さん、矢崎さんのようなコメントはありませんか?

田中「ははは! だからさ、あれじゃない? 詩於は音楽を生業としていて誰かに刺さる応援歌は作れるけどラブソングだけは書けない。じゃあ“ラブって何?”だけど、愛にはさまざまな種類があって。母親との距離が広がってしまったのも愛のせいだろうし、自分自身への愛には自信が持てない人で、そういう彼なりの“愛”はあるのにどうしてラブソングが書けないのかは気になっているかもしれない」

矢崎「そういうことを言えばいいんですよ(笑)」

――ステージ上に母親役はいないんですよね?

矢崎「いません。だから、母親の存在もふたりで作り上げていくようなイメージですよね。おそらくそこへの話し合いや稽古の仕方があるんじゃないかなぁと。“こんな母親”を共有しないとならないですし、圭さんも人前では『俺、何もしないよ』なんて言ってるけど、いざ稽古場に入ったらいろいろと向き合ってくれると思うんですよ」

田中「もしかしたら矢崎相手に照れる可能性が……付き合いの長い後輩に対して急に芝居で自分をさらけ出すことに照れてしまう可能性もゼロではない。そうなったら嫌だけど、もし照れずにいけたら、やりたい放題やっていい相手だと思っているので、遠慮なくいきます」

矢崎「極端すぎない(笑)? あと、楽しみにしているのが、宇宙一セリフ覚えが速いという噂を目の当たりにできること。同じ台本を手にするので、『もうそんなに入ってるの⁉』って驚愕するはず」

田中「昔よりだいぶ衰えたけどねぇ。とにかく初共演で兄弟役だし、僕は芝居自体も久しぶりなので、楽しみながらも“これがエンタメだよね”と感じていただけるものをみなさんにお届けできるようがんばります」

矢崎「本当に、『やっぱり舞台って楽しいよね』と言ってもらえるような作品づくりができるよう努めますので、ぜひ劇場へ足を運んでください。お待ちしています!」

田中「はい、心よりお待ちしております!」


●プロフィール
たなか・けい
1984年7月10日生まれ。東京都出身。近年の主な出演作に映画『あの人が消えた』『劇場版ドクターX』『おい太宰』、ドラマ『おっさんずラブ』シリーズ、『わたしの宝物』、舞台『夏の砂の上』『Medicine メディスン』『陽気な幽霊』などがある。また7月17日公開映画『キングダム 魂の決戦』に出演している。

やざき・ひろし
1987年7月10日生まれ。山形県出身。ストレートプレイからミュージカルまで幅広く活躍。近年の出演作に『ボニー&クライド』『最後のドン・キホーテTHE LAST REMAKE of Don Quixote』『最後の事件』、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.3『リア王』などがある。


●作品データ
『母さん、ラブソングです。』
【脚本・演出】鈴木おさむ 【楽曲提供】平井大
【出演】田中圭 矢崎広

2011年の『芸人交換日記』から始まった鈴木おさむ×田中圭の最強タッグ。前作『もしも命が描けたら』以来約5年ぶりとなる新作は、実力派俳優の矢崎広とのふたり芝居で繰り広げられる兄弟の物語。鈴木おさむの完全新作書き下ろしである今作は、「ラブソング」がキーワード。重要な楽曲提供を担うのは、優しく温かな歌声が幅広い世代から支持されている平井大。「母へのラブソング」が意味するものは? そして、どんな曲なのか? 兄弟は目を背けてきた自分たちに向き合っていくーー。

【東京】7月31日(金)~8月16日(日)東京芸術劇場プレイハウス
【仙台】8月29日(土)~8月30日(日)電力ホール
【名古屋】9月4日(金)~9月6日(日)Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
【上田】9月12日(土)~9月13日(日)サントミューゼ大ホール
【大阪】9月18日(金)~9月22日(火・祝)SkyシアターMBS

衣裳協力:【田中】パンツ¥44,000(サバイ/イボルブ03-6823-5074)、その他スタイリスト私物【矢崎】シャツ¥30,800 texnh(テクネ)/canall(カナル)03-6661-6190、Tシャツ¥6,990 UNFILO(アンフィーロ)/オンワード樫山 03-5476-5811、デニム¥30,800 saby(サバイ)/evolve03-6823-5074、サンダル¥70,400 Paraboot(パラブーツ)