【INTERVIEW】連続テレビ小説『風、薫る』で朝ドラ初出演となる甲斐翔真。小川吾郎役を演じて感じたこと、その変化を聞いた。
連続テレビ小説『風、薫る』で主人公のひとり・直美(上坂樹里)に温かい家庭をもたらす小川吾郎役で注目された甲斐翔真。『仮面ライダーエグゼイド』でデビューして、今年で10周年。数々のミュージカルに出演してきた彼が今、映像の現場で思うこととは。
撮影/浦田大作 スタイリスト/村田友哉(SMB International.) ヘアメイク/堀川知佳 文/髙山亜紀
――連続テレビ小説『風、薫る』で朝ドラ初出演を果たしましたが、反響はいかがですか。
「全国放送ですから、多くのみなさんに見ていただけるこの機会に、印象に残る役をいただけてとても嬉しいです。ファンの方もたくさん反応して下さいましたし、家族や親戚一同喜んでいます。今、この記事を読んで下さっているみなさんがどういう気持ちでいらっしゃるのか、想像するとワクワクします」
――取材をしている今日の段階では、まだ直美にプロポーズすらしていないのですが(取材は7月下旬)、この記事が出る頃に吾郎はもうこの世にいないという…。ショックです。甲斐さんから見た小川吾郎はどういった人物ですか。
「小川吾郎の生き方には僕は全肯定というか、役をつくる際もそこまで苦労はしなかったです。台本もすんなり読めました。自分で決めたことは必ずやるし、人を大事にする。そういう性格です。物の捉え方など近いところが多い気がしています」
――登場時の吾郎は、生死を感じさせる病院の中で生き生きとしていて救われていました。どんなことを意識して演じていたのでしょうか。
「直美が抱えている状況(の台本)は読まないことにしていました。そこに寄り添ってしまうと、直美の肩の荷が降りない気がしていたんです。悩みって、何も知らない人に喋ったほうがいいですよね。多分、直美の性格上、自分のことをあそこまで語れる相手はりんさん(見上愛)以外になかなかいないと思ったので。直美とのシーンは意識的に知りすぎないように、ただそこにいる直美のことだけを見ているようにしていました」
――その後、ふたりは家庭を築いていきます。
「幸せであればあるほど、最後が切なくなるだろうなと撮っている時にも意識していました。“これからもこの未来が続いていくように”と思いを込めていたつもりです」
――直美役の上坂樹里さんの印象は?
「僕もそうですが、そんなに喋るタイプではなくて、ふたりともあまり陽キャといった感じではないと思います(笑)。芝居の話も特にしていないです。自然と息を合わせていました。つくり込んでいなかったぶん、ある種、毎回とても新鮮な気持ちでいられました。どんどんナチュラルな会話ができたと思います。役として、お芝居の心地もとてもよかったです。撮影の待ち時間も無理に話したりはしないので、ふたりともダンマリしていることもありました。あのふたり同様、無理のない関係性だったと思います」
――それだけに吾郎との死別は残念です。
「これを読まれている方は見て下さっていると思いますが…。結末を知った上でもう1回、あの頃の幸せを見てほしいです。全てが伏線のように感じられて、また再び楽しんでいただけるかもしれません」

――朝ドラの現場を経験してみていかがですか。
「朝ドラはリハーサルが必ずあるんです。他にはなかなかないことのような気がします。ドラマは、とにかく撮るスピードが求められることが多い現場ですから、リハーサルがあると丁寧につくられている感じがすごくします。あとは、長回しが多いです。シーンの最初から最後まで通すことが多いので、心に従ってお芝居をする環境が整っている気がしました」
――忙しい朝の時間帯に放送されるため、役者さんによっては朝ドラ用の演技を意識する方もいると聞きます。
「僕は、わかりやすい演技、わかりづらい演技などはよくわからないです。伝わればいいと思っています。“人の心”って、きっと思っていれば大体のことは伝わると思うんです。日常生活の中で、“この人、こう思っているんだろうな”って、別に表情に出ていなくても伝わることがありますよね。もちろん、カメラが寄ってくれますので、そういう機微みたいなところを楽しめるのが映像だと思います。僕は出たとこ勝負というか、自分が抱えているものが本番でどう発揮されるのか、ナチュラルなセリフや動きを楽しみながら演じていました」
――作品を振り返ってみて、心が先に動いたようなシーンはありましたか。
「すごく長いシーンだったなと思ったのは、子供に“明”と名前をつけるところです。頭から最後までずっと長回しで、多分5~6分回していたと思います。ですが、体感的には本当に1分くらいにしか感じなかった。入念にリハーサルをして、“セリフ大丈夫かな?”とか、そういう心配も一切ない状態で没頭できました。その瞬間のことにフォーカスできた記憶があります」
――朝ドラへの初出演で、ご自身にとって挑戦だったことはありますか。
「映像の演技は奥深いものです。いろんな表現の仕方がある中、僕の持ち味はなんだろうと、日々探求している最中です。撮影中もそうですが、本番を回したあとチェックする際も“もっとこういう顔ができるかもしれない”“このセリフはもうちょっと丁寧に言ったほうが伝わる”など、細かいところを模索しながらやっていました。最終的には、小川吾郎に関してはとにかく素直に演じることを心がけていました」
――また新しい魅力が開花しましたね。
「映像に関しては、意外に今まで凛々しい役を演じたことがなかった気がします。軍人ですから、凛々しくする瞬間があります。すっと立って敬礼するとか、さっと目の色が変わるとか。これから映像でもいろんな役をやってみたいと思いましたし、映像の可能性をかみしめながら撮影していました」

――去年は大河ドラマ『べらぼう』にも出演し、大河と朝ドラと、多くの方が目標とする作品を経験しましたが、心境の変化はありましたか。
「ただ出られればいいのではなく、出た時に自分がどれだけ作品に対して貢献できるかが大事だと思いました。本当に役に恵まれて、とても素敵な脚本と演出に助けられました。今、みなさんが小川吾郎ロスになっていることを願うばかりです(笑)」
――今年はデビュー10周年です。どんな10年でしたか。
「短かったですね。10年前に『仮面ライダー』でデビューして、そこから一歩一歩、登れる範囲の階段を上ってきたのかなと思います。気づけば10年という感じなので、自分の中では“長かった”という感慨はありません。映像の期間と舞台の期間がわかれていて、あまりにも違う世界線すぎるからかもしれません。多分、映像を10年やっていた場合と、体の感覚や思考が全然違う気がします。最近になってまた映像を経験し、舞台をやってきてめちゃくちゃよかったと心から思えています。本当に必要な10年だったなと思います」
――舞台を経験してどんなことが役立っていますか。
「舞台では稽古期間があるので、作品のことを考える時間が多く、濃密に過ごせます。なおかつ舞台は生なので、お客さんを目の前にしたミスのできない状況で120%を目指してやっていく修羅場感があります。その中でつくり上げたものを最大限発揮するのは結構面白い作業です。それを5年間経験したあとに映像の芝居に戻ってくると、5年前とは違うアプローチの仕方になったりします。人前に立つ場数が圧倒的に用意されていたので、カメラ前に立つ時の覚悟もまた違ってきます。舞台をやる上で映像もできたほうが舞台にいい影響があって、その逆も然りだなとすごく思っています」

――10月にはミュージカル『ミス・サイゴン』が控えています。映像から今度は舞台で、再び軍人役です。
「日本兵とアメリカ兵だと環境も全く変わってくるとは思うのですが、それでも国を守るという思いは同じです。そこにはやっぱり共通した何かがあると思うので、掘り下げていきたいと思っています。“国を守ろう”という魂みたいなものはどこから生まれてくるんだろう。自分の身を守るのも大変な時代に難しいことですよね。気持ちの芯の部分をどう構築していくのか、これから楽しみです。約1年ぶりに稽古をするんです。より細かいアプローチができそうな気がしています」
――演技をする際、大切にしていることはありますか。
「本心をなくさないことかなと思います。全ての役に共通するのは本当に思って喋るか、本当に思って喋らないかの二択です。だから、本当に思わないことはありません。出力する場合と出力させない場合、どちらにも本心があるんです。例えば、棒立ちの人は何も考えていないように映ってしまうけれど、よく見てみると、ただ立っているという選択をしているんです。あえて言わないという選択をするという本心があるはず。そこは常に意識を持っています。なんでこの人はここに立っているのか、なぜ何も言わないのか。あるいは、どうしてこんなに饒舌なのか。そこの本心みたいなところはどんな役にもあります。演技になると、難しいんです。それは嘘ですから、虚構の世界で人をつくらないといけない。役に血を巡らせるためには、まず思考を巡らせないといけないんです。いつもそう思っています」
――共感できない役はどうしますか。
「簡単なやり方としては、その役が経験したようなことを調べます。例えば、“この人なんでこんなことをしているんだろう。ちょっとわからないな”っていう人を街中で見かけたとします。今、この瞬間の人間がわからない。でも、その人の人生の点がそこというだけで、線で見た場合、この人はどういう育ち方をしてどういう人と出会ってそうなっていったのか、綿々と続いていきます。役を点で捉えてしまうと、難しいんです。『ミス・サイゴン』のクリスという役も点で捉えると本当に難しくて理解できないかもしれない。ですが、線や面で考えた時に、目に映っているものは本当にごくわずかな情報なので、それ以外のところから仕入れます」
――なるほど。時代も違えば、アメリカ人で軍人となると、本来なら遠いところにある人ですよね。でも、人間としては理解できることがたくさんあるはずですね。
「そうなんです。極論でいうと、言語とか文化とか国とかはどうでもよくて、人はみんな一緒なんです。アメリカ人の血を引く人が日本で生まれ育ったら、日本語がペラペラで英語は喋れなくて日本の文化を尊重して生きることになる。人体は関係ないと思います。ミュージカルの面白いところは、アメリカ人の役もできるし、フランス人の役もできるところです。だからこそ僕はみんな一緒だと思うんです。アメリカ人だったら、身振りや手振りが大きくなるとか、イギリス人だったら、謎に上品さがあるとか、そういうところはもちろんテクニックとしてあります。でも、セリフや歌、出力の仕方はみんな人間なので一緒だと思っています。映画が世界中でヒットするのは、人種や国境を越えてみんなが感動しているから。演じる側も本心に立ち帰るということが大事だと思います」
――このお仕事をしていて、達成感を感じることはありますか。
「あんまり達成しようと思ってやってない節があります(笑)。とりあえずやっているスタンスで、それがいいものになればいい。そこに上限はないし、ゲージもノルマもありません。うまくできたなと自分で思ったことは一度もなくて、それはお客さんが判断するものだと思っています。作品の力になれたり、お客さんや視聴者の方々が喜んでくれたり、感動してくれたりすることにこれ以上ない喜びですし、幸せを感じます」
●プロフィール
かい・しょうま
1997年11月14日生まれ、東京都出身。2016年、『仮面ライダーエグゼイド』でドラマデビュー。2020年にはオーディションで『デスノート THE MUSICAL』の夜神月役に抜擢され、初舞台で初主演を務める。2021年、映画『偶然と想像』が第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。以降、『RENT』『ロミオ&ジュリエット』『エリザベート』など、数々の大作ミュージカルに出演。昨年は『キンキー・ブーツ』のローラ役が話題に。10月からは『ミス・サイゴン』にクリス役で出演。
●作品データ
連続テレビ小説『風、薫る』
脚本/吉澤智子
原案/田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』(中央公論新社)
語り/研ナオコ
出演/見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 甲斐翔真 平埜生成 多部未華子 中村倫也 水野美紀 坂東彌十郎 他
激動の時代に幸せを求め生きる、型破りなふたりのナースの物語。日本初の看護婦養成所に入所した一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)。やがて帝都医大病院でトレインドナースとしてデビュー。友人の見舞いに訪れた陸軍二等軍曹の小川吾郎(甲斐翔真)はそこで直美と運命的な出会いを果たす。生まれてすぐ親に捨てられ、教会に保護されて育った直美だったが、ふたりは幸せな家庭を築く。ところが戦争がふたりを引き離してしまう…。
衣裳協力:ニット¥40,000、パンツ¥72,000、靴¥72,000(全てTHE VIRIDIANNE/03-5447-2100)








