【INTERVIEW】アジア各地で人気を博すフィガロ・ツェン。日本のドラマ初出演作『サウナーマン~汗か涙かわからない~』について聞いた。

【INTERVIEW】アジア各地で人気を博すフィガロ・ツェン。日本のドラマ初出演作『サウナーマン~汗か涙かわからない~』について聞いた。


台湾ドラマ『イタズラなKissII』や『ずっと君を忘れない』などに出演し、日本のファンからも熱い視線を送られるフィガロ・ツェンが『サウナーマン~汗か涙かわからない~』で日本のドラマ初出演を果たした。台湾で15年に渡るキャリアを築きながら、今なぜ海を越えて、新たなスタートを切ったのか。奇しくも同ドラマで共演した水間ロンも同様に中国での活動を開始したばかり。お互いに縁を感じあったふたりにしかわからない絆についても言及した。

撮影/浦田大作 ヘアメイク/渕直志(kief) 文/髙山亜紀

——『サウナーマン~汗か涙かわからない~』の撮影はどうでしたか?

「台湾にもサウナはあるので、翌日の仕事のために身体のメンテナンス目的で行くことはあります。とはいえ、実際に自分がサウナに行くのと、『サウナーマン~』での撮影とでは全く正反対の状況でした。プライベートで行く時はリラックスしたり、体をベストなコンディションにするために行きます。でも、『サウナーマン~』は私にとって初めての日本ドラマの撮影。自分にとって大きな挑戦で、しかも眞島(秀和)さんや山中(崇)さんといった、いつもテレビで見ていた役者さん達と実際に芝居をする現場は夢のような環境でした。監督も含め、みなさんプロフェッショナルな方々ばかりで、せっかくみなさんと仕事出来るのだからとなるべくひとつももらすことのないよう、全神経を集中して周囲を観察していました。リラックスしている場合じゃなかったです(笑)。ある意味、現場を最高の状態で味わえました。勉強になることばかりでした」

——中国人で通訳もする役ですから、セリフも中国語と日本語と混乱しそうですよね。

「はい。今回の役どころはとても難しかったです。ただ、半月ほど前に台本を頂けたので、準備をする時間はたくさんあって助かりました。加えて、今回とてもよかったのは撮影の前日に共演する水間ロンさんとしっかり練習出来たことです。本番に入るころにはすっかりセリフが頭に入った状態で撮影に臨めたので、とてもありがたかったです。私は演技をする際、意識せず、自然にセリフが出てくるようにしておきたいのですが、今回もそうすることが出来て、ほっとしました。もちろん緊張もしてしまいましたが、中国語と日本語の同時通訳もしなくてはいけないという厳しい挑戦を楽しみながら演じることが出来ました」

——水間さんから何かアドバイスはありましたか?

「水間さんにはたくさん助けて頂きました。私は“芝居はひとりでやるものではなく、みんなで作り上げるもの”と考えています。水間さんと役の設定に近い形で準備の段階から一緒に練習して、積み上げていけたことは大きな支えになりました。水間さんには自分の話す日本語のおかしなところを直してもらい、逆に私は水間さんの中国語のセリフをチェックし、お互いに阿吽の呼吸で、まるでドラマのキャラクターそのままの感覚で本番に臨めました」

——水間さんはこれから中国でも、フィガロさんは日本でも、それぞれ海を渡って仕事をしようとしている、志が同じ者同士といった印象を受けますが、何かそういった話はしましたか。

「正直、そういう話題について、お互いじっくり話したことはないんです。でも、このタイミングで、この作品で出会えたことには不思議な縁を感じています。先程、お芝居はひとりでやるものではないと言いましたが、その反面、役者の作業はとても孤独でつらいものなんです。その気持ちを互いに理解し、共有し合えたことはとても大きいです。水間さんが中国語のセリフの勉強を懸命にされている姿を見て、僕も日本に来たからには日本語の勉強をもっともっとしなければと決意を新たにしました。周りの方々にはたくさんサポートして頂いているのですが、まだまだ思うように出来ないこともあり、苦戦しています。水間さんとは互いに励まし、支え合える関係性。相棒のように思っています」

——会話劇なので、難しいところもあったと思います。

「そうなんです。ナレーションもいっぱいあります(笑)。でもそこまで苦労だと思わなかったのは、過程を凄く楽しめたからだと思います。性格的に新しいことに挑戦することが好きなので、今回もすっかり楽しんでいる自分がいたんです。同時に『サウナーマン~』のスタッフ、キャストのみなさんが自分に信頼を寄せてくれていたことにとても感謝していました。せっかくチャンスを頂いたのだから、努力を惜しまず、お返ししたいという気持ちで頑張りました」

——眞島さん、山中さんと共演した印象は?

「不思議な感覚でした。小さいころから日本のドラマが大好きで、それを観て育ってきているので、もちろん眞島さん、山中さんの出演作も観ています。おふたりの出演作が自分に与えている影響もたくさんあります。そんな方々と共演している自分が信じられませんでした。撮影中、中国語のセリフは相手に通じていないという設定なのですが、実際の私達もそういう言葉の壁はありました。そんな時は言葉ではなく芝居で応えてくれるようなところがおふたりから見受けられ、言葉がないぶん、心のコミュニケーションが出来ているなと実感しました。なかなかない経験で、あまりに感激してちょっと興奮気味で(笑)。もっといい芝居で返したいという気持ちになりましたね」

——それはお互いにいい関係を築けましたね。

「実は現場で、ちょっとしたアクシデントにより生まれたセリフとアクションがあります。もともと台本にはなかったものを、監督が面白がって生かしてくれた場面です。オンエアを見て頂いたら、とても面白いはずです」

——眞島さんは『おっさんずラブ』の盛り上がりもあって、今作もとても注目されています。

「そうですね。『サウナーマン~』はおっさんだらけではあるんですけど、今回、残念ながらラブはありません(笑)」

——セリフの中で、中国と日本の違いについて言及していましたが、何か発見はありましたか。

「セリフの中には自分の知らないこともたくさんあり、なるほど! と面白かったです。僕の役は日本に長く住んでいるからこそわかる、中国との違いみたいなことを話しているのですが、僕は日本に来て日も浅いので、新鮮に感じることが多かったんです」

——実際に撮影に参加して、日中の違いなどを感じることはありましたか。

「そんなに違いはないと思いますが、自分にしたら慣れない現場なので、言葉がわからないぶん、常に緊張が途切れない状態です。なるべくリラックスして臨めるように努力していますが、日本のドラマに出ることはそれだけ僕にとって特別なことです。日本のスタジオで撮影するのも今回初めてだったのですが、セットが実に巧妙で、あっという間に壁が外れて、そこから別のアングルのカメラで撮影するんです。台湾では作ったセットの範囲内で撮影するので、壁が外れるのを見て、びっくりしました。目にするもの何もかも驚きの対象です」

——撮影以外のことに関してはどうですか。

「飲み会などで乾杯する場合、日本では最初と、あっても最後くらいですよね。でも台湾では、一杯飲むたびに必ず誰かと乾杯します。例外はあるかもしれませんが、勝手に飲んではいけません(笑)。それはしっかりと意味があって、自分がもしホストだとしたら、“みんな楽しんで下さいね。自分がもてなしますよ”という意図があってのことなんですが、日本でご飯を食べてる時もついつい乾杯したくなっちゃうんですよね。誰かがコップを手にするたびに体が反射的に反応してしまうので、我慢しています(笑)」

——劇中でも映画監督の話題が出てきますが、フィガロさんが仕事したい監督や出てみたいジャンルの作品はありますか。

「色んな監督とご一緒したいと思っています。才能あふれる素晴らしい監督の作品に出たい。そういう思いもあり、今は北京や日本と活動の場を広げています。監督によって作品のカラーが違うと思うので、ジャンルは特に指定しません。もし監督が自分を選んでくれるなら、全力で応えたい。好きなジャンルはストーリー性のあるものですが、監督に求められたものに応じていくのが僕の仕事だと思っていますので、ホラー、コメディー、なんでもやりたいです。一口にホラーといってもドラマティックなものもあり様々なので、自分がどう対応出来るかだと思います。いずれにせよ、演技力が求められるものは僕にとってチャレンジであることに間違いありません」

——フィガロさんが日本の作品を見るようになったきっかけの作品は? どう魅かれたのでしょう?

「小さいころに初めて見た日本のドラマがとても印象的だったんです。記憶も曖昧なのですが、小泉今日子さんがピアニストを演じていたものです(『少女に何が起こったか』)。それまで台湾や香港のドラマを見ていましたが、あの作品は画のトーンやキャラクターの描き方がまるで違って、もの凄く惹きつけられました。あとは『聖者の行進』も記憶に残っています。安藤政信さんが素晴らしかったです」

——今回、日本でドラマに出演したいと思ったのは、作品のテイストが自分の感覚に近いからですか? それともこれまでとは違う新しいことをやってみたかったから?

「日本のドラマが好きだったし、馴染んできたものと違うからこそトライしてみたかったからです。台湾でデビューしてもう15年以上になります。年齢も30歳を超え、もっと冒険したいという気持ちが沸き上がりました。ずっと台湾でやってきて、日々成長し続けているとは思いますが、もっと大きな進化を遂げたい。そのための刺激が必要だと思うようになりました。それが去年のことです。役者はもっと色々吸収出来るものがある状態でいないとダメなんじゃないかと思うようになり、昨年から北京、日本でも仕事をしています。今回、幸運にも日本の現場を経験することが出来て、大いに視野が広がりました。毎日が学習だと実感して、大満足の日々です」

——また一から始めるのは大きな決心ですね。

「決断するのは大変でした。15年もの間、多くの方々に支えて頂いた訳ですから、それをそのままにして、外に出ていくのは後ろ髪をひかれる思いでした。でも僕は、人生は常に0からスタートすることが重要だと思っているんです。毎朝起きてから、あるいは夜、寝る前も“新しい一日のスタート”だと思っています。日々、起こることはいいことも悪いこともあります。それにいちいちくよくよせず、全て受け入れて、成長の糧にしていきたい。それに0からのスタートって実は自分にとって、大変なことばかりではないんです。15年もやってきて、自分の肩には持ちきれないぐらいの重圧がのしかかっているような気がして、それを一度リセットしたかった。何もかもなしにして始めるということは自分にとって、気楽な面もあるんです」

——今東京で暮らしているそうですね。日本の女子達はこぞって台湾に行っているのになんだか不思議です(笑)。

「東京の生活はおしゃれで悠々自適です。毎日が目新しくて、朝起きるのが楽しみで仕方がありません。本当は色々見て歩いたりしたいのですが、滞在の目的は仕事なので、そこは我慢して一生懸命頑張っています。仕事でも色んな人と出会えるので、毎回、幸せな気持ちになり、素晴らしい経験になっています」

——台湾の方が素晴らしいのは、もし台北で道に迷ってたら、聞く前にみなさんの方から道を教えてくれます。東京では絶対にないことです(笑)。

「台北でびっくりしていたら、僕の実家である高雄ではもっと驚かれるかもしれません。高雄の市場でひとつ買い物をしたら、おまけの方が凄いんですよ。野菜を買ったはずが、なぜか果物をくれたり、大サービスなんです(笑)」

——フィガロさんはそんな素敵なところで育ったんですね。

「自分の人格形成に大きく影響していると思いますね。僕は高雄でも田舎の岡山というところで育ちました。子供のころは田んぼで遊んだり、木登りしたり、土管で隠れんぼしたり……、そんなのどかな環境でした。もしかしたら自分が冒険好きなのはそんなところに理由があるのかもしれません」

——台湾を離れて、気づいたこともあるのではないでしょうか。

「台北を離れて、一年あまり経ちます。やはり時々、寂しくなりますね。役者業は自分と向き合うことも仕事のうちなので、孤独を感じたり、“自分はいったいどこに向かっているんだろう。何がしたいんだろう”と不安になってしまうこともあります。でも未来は考えてもわからないもの。明日は明日の風が吹くと切り替えて、前向きに頑張っています」

——フィガロさんの役者としての強みは?

「役者として自分の武器だと思っているのは、15年のキャリアでしょうか。これまで積み重ねてきた台湾での経験は必ずどこかで役立つと思っています。これからの芝居にもそれを生かしていきたい。是非、そこを見て頂ければと思います」

——作品が続くので、日本での活躍もきっと台湾にも届きますね。反響が楽しみです。

「この機会を下さった方々に感謝していますし、もっともっと頑張りますので、どうぞ期待していて下さい」

 


  ●プロフィール

曾少宗/フィガロ・ツェン
1981年11月18日 生まれ。台湾・高雄生まれ、02年、台湾アイドル「F4」の弟分ユニット「可米小子(コミックボーイズ)」の一員としてデビュー。05年に解散、俳優に転身。07年、出演した台湾ドラマ『イタズラなKissII』が08年、日本でも放送され話題を呼んだ。昨年は永田琴監督のショートムービー『What is real?』に主演。昨年より、台湾だけでなく、北京や日本に活動の場を広げている。台湾語、北京語、英語のトリリンガルで日本語も話す。


  ●作品紹介

『サウナーマン~汗か涙かわからない~』
監督・脚本/市井昌秀
主演/眞島秀和
サウナの中では、外見も地位も名誉も関係なし。10年間、涙を流していないヨシトモ(眞島秀和)がふと立ち寄った「泪湯」のサウナで、次々と訪れる客たちと恋愛相談、家族の愚痴、昔話などを繰り広げるうち、熱い人間模様を通じて、自身の心を取り戻していくという人情ドラマ短編集。フィガロは日本での生活が長い中国人のオウケン役。水間ロン演じる中国人のオウショウとヨシトモら、サウナの常連達との間を取り持つ通訳を担う。

ABCテレビで毎週日曜深夜1:57放送中
※放送終了後にTSUTAYAプレミアムにて独占配信