
【生きづらさを活かすヒント】「発達障害」でもわかり合いたい!
HSPや発達障害、精神的ストレスなど――
ごく身近な“生きづらさ”を活かすためのヒント。
そして、繊細だからこそ見える、世界の美しさについて。
書籍や映画など、さまざまな知恵や芸術に学び、ご紹介しながら、
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、つらつらと、つづります。
「発達障害あるある」へのモヤモヤ
SNSで見かける“発達障害あるある”の類いが苦手だ。自閉スペクトラム症(ASD)の特性のひとつ「共感性の低さ」によるものか、はたまた、わたしの性格の悪さによるものか、「共感したところで……なにかいいことあるの?」といったところ。
おそらく「共感によって、わたしの困りごとや生きづらさが軽減・解決されるわけではない」=「意味がない」と考えるのだろう。そして、必然性や意味がないと判断したら最後、まったく興味が湧かない、ときている。これを「冷たい」と思う人もあるかもしれない。そう、まるでロボットのように……。
なにより、発達障害を抱えて長年生きていると、“発達障害あるある”で取り沙汰される特性が「トラブルの免罪符にはならない」という厳しい現実も、痛いほど実感している。加えて、多少の“同族嫌悪”があるかもしれない。
『明日も、アスペルガーで生きていく。』(ワニブックス刊)
著:国実マヤコ 監修:西脇俊二
一方で、33歳のときに自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受け、14歳から悩まされていたパニック障害が発達障害の“二次障害”だとわかったこと、診断を受けたことで「そうだったのか!」と、ぬばたまの闇に光が差したこと……。そんなささやかな体験をハフポストに寄稿し、同じASD、ADHDといった発達障害を抱える人たちへの取材をもとに『明日も、アスペルガーで生きていく。』(2017年、ワニブックス刊)という本を出版した際「同じことに悩んでいたので、驚いた」「目から鱗。自分の悩みの原因は発達障害だと思うので病院へ行ってみようと思う」といった、たくさんの“共感”を頂戴し、「わたしの経験が、誰かの正しい診断に繋がったり、特性を飼い慣らすためのヒントになれば!」と奮起したこともまた、事実である。
「当事者の経験なんて、(症状や障害の種類は人それぞれなので)あてにならない」と吐き捨てる人もあるが、ところがどっこい、ひとりの当事者のナラティブに触れることで、ときに救われる人もいる……ということを、わたしは実体験として知っているではないか。“あるある”からはじまる物語を、取材で見てきたではないか――。
『発達障害なわたしたち』がもたらしたもの
漫画家の町田粥さんによる『発達障害なわたしたち』(フィールコミックス刊)が発売されたのは、なんとなく、そんなことに思いを巡らせているタイミングだった。著者である町田(文中ではMちだ)さんは、軽度のADHDと診断されており、同じく軽度のADHDを抱える編集者・K成さんと、漫画ならではの軽妙かつ絶妙な掛け合いで「発達障害」について解説しつつ、二人とは違ったケースの発達障害の当事者に話を聞いていく、といったスタイルのコミックエッセイである。
『発達障害なわたしたち』(フィールコミックス刊)
著:町田粥
ページを繰るたび(このわたしでも)「あるわ〜」と唸ってしまうネタの嵐なのだが、狂言回しとなるMちださんとK成さんのお二人はADHD、一方、わたしはASD(注:もちろん症状はスペクトラムなので、ADHDも持ち合わせていると主治医談)ということもあり、同じくASD、ADHDの両方を併せ持つ漫画家、カメントツ先生への取材回――黒い服しか着ない、同じものばかり食べ続ける、感覚過敏で常にヘトヘト、特性に名前がつくことを恐れた両親からの見えないプレッシャー、「正解の会話」を探した幼少期――には、「はて、わたしのこと?」と思うほど、ひときわ強く“共感”することに。
そして、そんな“共感”とともに、不覚にも、わたしは涙ぐんだ。
(『発達障害なわたしたち』より Ⓒ町田粥/祥伝社フィールコミックス)
「ボクは発達障害がなく生まれて来れたなら、ない方がよかったし、消せるなら消しちゃいたいとも思うんですが、周りにその言葉を許してもらえないみたいな気がして…。『受け入れて生きていくことがいいよね』とかって言われると、あなたが勝手に決めないで…って思っちゃう」
(『発達障害なわたしたち』より Ⓒ町田粥/祥伝社フィールコミックス)
「辛い人は『辛い』って言っていいし、辛くない人は『辛くない』って言ったっていい。あくまでも『自分のこと』だから、自分の『大変さ』を『引き受けても引き受けなくてもいいんだよ』っていうのを(作品(『MORRIS〜つのが生えた猫の冒険〜』漫画:カメントツ/原案:ひなたかほり、KADOKAWA刊で)描きたかったんです」
「引き受けても引き受けなくてもいい」――。わたしだって、こんな仕事をしている今も、本心では「受け入れて生きていく」ことが辛いし怖い。できれば、発達障害なんて“消せるなら消しちゃいたい”んです、カメントツ先生。
『MORRIS〜つのが生えた猫の冒険〜(上)』(KADOKAWA刊)
漫画:カメントツ 原案:ひなたかほり(MEDICOM TOY)
知らぬ間に張り巡らせていた「こうあるべき」という強化ガラスをガシャリと割って恵みの雨をもたらしたのは、高名な専門医のアドバイスでも専門書でもなく、同じタイプの障害を抱える“当事者”による何気ない呟きだった。ふと、肩の力が抜けた。
そうか“共感”って、こういうことなのか……。ロボットはまた一つ、大切なことを学ぶのだった。
*次回は9月28日更新予定です。