【自己紹介】東京の一級建築士が30 歳を目前にフランスへ渡った理由
フランスの地方都市ナントで、フランス人パートナーと2人の子と家族4人で暮らしている大畑典子さん。
一級建築士の資格を持ち日本の建築事務所でバリバリと働いていた彼女が渡仏して約8年。
「シンプルな暮らし」を楽しむフランス生活で得たもの、捨てたものを、日々つれづれに綴っていただきます。
はじめまして。フランスの西部、ナントという地方都市に住んでいる大畑典子です。
フランス人のパートナーと二人の子どもと暮らしています。
元々日本で建築業界に身を置いていましたが、2016 年に心機一転。
人生で一度は 海外に住んでみたいという夢を叶えるため、29 歳の時にフランス へ生活の場を移し、現在は主に YouTube や音声メディア Voicy で、キラキラばかりではない、リアルなフランスの暮らしを発信しています。
このたび、ご縁があって、WANI BOOKOUTにてエッセイを書かせていただくことになりました。
連載の第一回目は、どうして私が社会人になってからフランスへ行くことを決め、現地で様々な苦労を味わいながらも、何故今もフランスで生活しているかを綴っていきます。
疲弊し続けた日本での建築士時代
私は 22 歳から 29 歳までのトータル7年間、建築業界でバリバリ働いていました。
日本では長時間労働の業種が多いですが、建築業界もその一つで、私も連日夜遅くまで仕事に打ち込む日々を過ごしていました。それが誰もが通る、美しい道と信じて。人生を仕事に捧げないと成功しない世界です。
平日は深夜に帰宅し、週末も仕事に追われ、休みが取れれば「旅行」という名の建築見学へと出かけていました。でも心と体に休息を与えないまま走り続ける人が大半なので、やっぱりどこかで心がポキっと折れてしまう人もいます。
勤めていた建築設計会社は建築という物理的なものだけでなく、それぞれの人に合った「より良い、心地いい暮らし方」の提案をしていたのですが、提案する側の私たちは、精神をギリギリに保ってなんとか踏ん張って仕事をしている状態でした。
私は昔から体力もあって、精神的にもタフな方だったので、なんとか持ち堪えていましたが、ある時、同僚が突然会社に来れなくなってしまう出来事がありました。疲弊した生活、膨大な仕事量に彼は心を壊してしまったのです。
「より良い暮らし」を提案している私たちがなぜ、心をギリギリ保ち続けられるかどうかの生活をしているのだろう。なぜ「仕事」のために自分の全てを犠牲にしないといけないのだろう。このもやもやとした気持ちはだんだんと大きくなっていきました。
近くにある幸せにどれだけ気づけるか
日本はとても便利な国です。いつでもあいている24 時間営業のコンビニ、安くて美味しい外食、正確が当たり前な公共交通機関。そんな「ユタカ」な生活なのに、多くの日本人は常 に何かに追われて、忙しく働いている。どんな大事な用事でも「仕事があるので」と言うと立派な言い訳になる。
「便利な生活」が当たり前である故に、それを支える搾取的な働き方も当たり前。
結局、 誰のための便利な生活なのだろう。
人生の中での大事なものの優先順位が日本は少しずつ ずれていってしまっているのではないか、「暮らしの本質」を見失っているのではないか、そんな気がしてなりませんでした。
このまま忙しく働き続けていて、いつか本当に幸せになれるのだろうか、ふと自分に問いかけました。
私の中の答えは「ノー」でした。
「今何かを変えないと、自分はこの先幸せになれない」と直感的に感じました。そして 29 歳でフランスへ旅立つ決意をしたのです。
△2016年フランスに来たばかりの頃。
フランスを選んだ理由。それは「暮らしの本質」を学べると思ったからです。
どうして他の国ではダメだったの? と聞かれることがあります。もちろん、他の国にいく選択肢もありました。しかし、人生の中の優先順位の一番が「お金を稼ぐ事」である価値観の国に行っては意味がないと思いました。
もちろん生きていくために経済活動は必要だけれども、それは人生を豊かにさせるための手段であって、目的にはしたくなかったのです。バランスよく、クオリティオブライフを実現している国で生活がしてみたくて、それでフランスを選んだのです。
27 歳で 一級建築士の資格も取得し、周りにも「これからだね」と言われる中、私はフランスに行くことにしました。「今までの 建築士としてのキャリアがあるのにもったいない」などと様々なご意見も頂きましたが、 一度きりの人生、やりたいことをやらずに後々後悔する人生は嫌だったので、不安ももち ろんあったけれど、私はこの一歩を踏み出すことにしたのです。
ただ、フランスに来てからの生活は苦労の連続でした。言葉の壁、文化の違い、アジア人への偏見。でもそんな中で、今もフランスで生活できているのはやはり「シンプルな生活の中に暮らしの豊かさがある」とフランスに住んで学べたからだと思います。
私が通っていた大学院の前には土手があったのですが、夕暮れ時になると学生だけでなく近所の人がこぞって土手に集まって、ワインやビールを片手に談笑しているんです。人生の幸せって、こんなもんでいいんだよなって、むしろ、こうでいいんだよねって、すごく幸せな気持ちになりました。
幸せは手の届かない場所にあるのではなく、近くにある幸せにどれだけ気づけるか、この感覚はフランスに来て学べて良かったことの一つです。
△何でもない時間が大切に思われてくれるフランス生活。
*次回は8月23日(水)更新予定です。