【人生で一番長かった日に出演!】すがちゃん最高No.1の雑草を食べていたら、借金取りが卵でとじるくれた話


10月13日(日)放送された、日本テレビ「人生で一番長かった日」に出演した、お笑いトリオ「ぱーてぃーちゃん」のツッコミ担当・すがちゃん最高No.1。

実の父親が「1抜けピ」と家を出ていったことをきかっけに、中学1年生で一人暮らしになったという壮絶な半生が度々メディアでも紹介され、Netflixにて配信されている『トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ』でも、家族に振り回されたエピソードなどを披露している。

ここでは、すがちゃんの初エッセイ『中1、一人暮らし、意外とバレない』(ワニブックス刊)に未収録の借金取りにまつわるスピンオフエピソードを特別に紹介する。

 

毎日かかってくる借金取りからの電話

俺は、大人になってからも、家電の音が苦手だ。

「家電の音が苦手ってどういうこと?」とお思いだろう。でもなんか、嫌なのだ。なんか、怖いのだ。……昔を、あの中一の一人暮らしになってすぐの"あの電話"を、思い出すから。

ジリリリリリン!

夜の7時半を過ぎた頃、家の電話がけたたましく鳴った。中1になって一人暮らしを始めた頃、うちの家電は、もう毎日毎日何度も何度も鳴った。ほとんどが同じ内容の電話。借金取りからの電話だ。

借金は親父のものだ。だから俺が電話に出ると、借金取りは親父はいるか? と聞いてくる。のだが、親父は随分前にこの家から離脱しているため、たまーーーにしか帰ってこない。当然「いない」と言うしかない。でも、何度も何度も「いない」というと、借金取りはそれを嘘だと思って、ブチキレてくる。

「毎日毎日いないわけねーだろ!!」

怒鳴り声と同じタイミングで、バリンと窓ガラスが割れる音がした。おいおい、家の裏庭から電話してきてんのかよ! だったら分かるだろ、毎日毎日いないんですよ……!

「ありえねーだろ! ずっと親父が家にいねーとか!」

あり得るんですよ、うちの親父はありえない親父だから。

まあ、どれだけ脅されたところで、本当にいないのだから「いない」と言うしかない。で、またブチキレられる。それの繰り返し。それがもーー嫌で嫌でたまらなかった。

そんなある夜、俺は大変に困っていた。
何にって、金にだ。

この月、いつも仕送りとして親父の姉、つまり俺の叔母さんである〝かっちゃん〞から貰っていた仕送りをほぼ使い果たしてしまっていた。理由は漫画の買い過ぎ。完全にやらかした。次の仕送りまではあと4日ある。

かっちゃんから借りる……のは絶対に嫌だ。

「金がなくなった」とかっちゃんに言えば、なぜそんなことになったのか問い詰められることは間違いないし、それで漫画買い過ぎたなんて言ったもんならもう烈火の如く叱ってくることも間違いなかったし、何より心配させるのが嫌だった。別にそれはかっちゃんへの優しさとかではない。ただ心配されるのはカッコわりぃと思えてならなかったからだ。

カッコわりぃのだけは絶対に避けたい。だから絶対にかっちゃんには金のこと相談したくない。でもなんとかあと4日ほど飯を食わなきゃいけない……というか、今、この瞬間がもう腹が減り過ぎてやばい。今日の晩飯をどうするか。米はあるが、米だけであと4日過ごすのもキツい。こんな時どうするか。

方法は……ある!

俺は金のない時の食材の調達方法を、小学生の頃に既に習得済みだった。
小学生の頃、一度だけ1ヶ月をほぼグミだけで過ごさなければならなくなったことがある(なぜそんなアホみたいなことになったのかは是非本編をご覧いただきたい)。その時に、グミだけではどうしても辛くて、食べられる野花を調べて、それを採取することでなんとか凌いだことがあるのだ。

今回もそれでいくしかない。

俺は河川敷や公園で食べられる野花を探し回った。そこで、なんかニラっぽい雑草を発見

なんか野菜っぽいし、これ醤油で炒めたらうまいんじゃねーか? そう思い、そのニラっぽい雑草をひたすら採取し、慌てて家に戻り、急ぎフライパンをだし、醤油で炒め、白飯と一緒に食った。

うまい! 訳が無い……。くっそまずい。

思いっきりため息が出た。まぁ、自分で蒔いた種だし、漫画おもろかったし、あと4日、これで我慢すっか……そう思ったその時。

ドンドンドンドン!!

ものすごい強さで玄関の扉を叩く音がした。

 

家に乗り込んできた2メートル(仮)のおっさん

ビクッ! っと跳ねる俺の身体。扉を叩く音を聞いたその瞬間、俺はピンときた。

扉を叩いているのは……おそらく借金取りだ。

どうしよう、俺は恐怖で身体が凍りついた。まさか、家に乗り込んでくるなんて! もはや飯どころではない! まずいから食う気にもならなかったから丁度いいというのはさておき!

居留守を使う……訳にもいかないか。電気ついてるし。
そうこう考えている間も、扉は叩かれ続けている。もう、出るしかない。俺は、ありったけの勇気を振り絞って、玄関に向かい、一つ大きく深呼吸をしてから、そっと……玄関の扉を開けた。

すると……そこにいたのは、物凄いゴッツイおっさん!

中1の俺にとっては、もう2メートル強はあるのではないかと思わせるそのおっさん! たぶん実際は180センチくらい!
その2メートル(仮)のプロレスラーのようなゴッツイおっさんは、俺を見下ろし、そしてこう呟いた。

「お父さんいますかー?」

この声! この異常に低い、しっぶい声、間違いない。いつも電話をかけてくる、あの借金取りだ。
もはや怖過ぎて何も言葉が出ない俺に借金取りは、

「お父さん、いるでしょう? 困るんだよねー。こっちも」
「…………」
「まあね……。君に言っても、しょうがないんだけどね」

怖すぎる!!! なんか妙にゆっくり喋る感じがもう怖くてたまらない!

「い……いな……いです」

俺はなんとか言葉を絞り出した。が、

「お母さんは?」

俺は首を横に振る。

「おじいちゃんとかおばあちゃんは」

俺は首を横に振る。

「……そんなわけ、ないよな?」

そんなわけあるんです! 
本当に、本当にいないんです!!!

 

借金取りと雑草の卵とじ炒め

「じゃあちょっと、家にあげてもらっていいか?」

そう言われても動けない俺。あ、でもここで黙っていたら、本当はいるのにいないって言ってると思われるかもしれない! 俺は慌てて強く縦に頷く。ゴッツイ借金取りは家の中に入ってきた。

借金取りはまずリビングに向かう。が、当然リビングには誰もいない。少し黙ったあと、他の部屋に向かう。

「ちょっとごめんな。見るぞ」
と、他の部屋も次々と確認していく。もちろん誰もいない。一人暮らしをしだしてから、俺はリビングと自分の部屋くらいしか開けていなかった。だから他の部屋には全く〝生活臭〞がしないのだ。ゴッツイ借金取りはそれを感じ取ったのか、

「本当に、一人なんだな」

ぽつりと呟いた。そして、

「お父さん、どこ行ったんだ?」
と俺に尋ねてくる。が、

「わかんない」
と答えるしかない俺。

中学一年生と2メートル(仮)のゴッツイ借金取りの間に、なんとも言えない微妙な空気が流れた。そこで、借金取りがあるものを指差した。

「なんだこれ」

それは、俺がさっきまで食っていたニラっぽい雑草の醤油炒めだ。

「……雑草、公園で採ってきた」
と答えるしかない俺。

「こんなもん食ってんのか」

たまらなく恥ずかしい。なんだこの感情。怖いし恥ずかしいしもうほんと誰か今すぐ助けてくれ。
俺が恥ずかし怖いという聞いたこともない謎の感情にさいなまれ顔を伏せていると、

「おい、ちょっと待ってろ」
と言って、借金取りは家を出ていった。

え? なに? なんか取りに行ったの? 窓ガラスだけじゃなくて、今度はバールみたいなもんで、家中壊すつもり?

すると、バッとドアが開いた。借金取りは、わりとすぐに帰ってきた。そして、そのままの足で、テーブルにあった雑草炒めを手に取った。

あー捨てないでー。そんなもんでも、クソまずいけど、俺の晩飯なんすよー。いやまあ、また摘んで来ればいいだけだけど……。

そう思っていると、ゴッツイ借金取りは、フライパンを火にかけ始めた。借金取りの手には卵が握られている。その場にあった適当な調味料などを使い、サッと手際よく料理を始めるゴッツイ借金取り。しばらくして俺の目の前に出されたのは……

雑草の卵とじ炒めだった。

 

人は見かけによらないが、うちの親父に限っては

「これ食え。まだマシだろ」

卵はおそらく、借金取りが買ってきたのだろう。俺は言われるがまま、その雑草の卵とじ炒めを口にする。

う、うま!!!

あんなに不味かったあの雑草が……まさか卵一つでこんなにフワッと美味くなるなんて。

卵で雑草の臭みがまろやかになってめちゃくちゃ美味い。俺は腹が減っていたことを瞬間的に思い出し、思わずがっついた。そんな俺を見ながら借金取りは、

「……醤油、もうちょっとかけてもいいかもな……」
と、顎のあたりをポリポリと掻きながら、呟いたのだった──。

今考えれば、人は見かけによらないな、と思う。

そんな感じで、なんだか不器用な父親のようなムーブで借金取りに料理を作られたことをきっかけに、「このままではまずい」と、俺は料理の腕を磨こうとするのだが、どうやって磨いたかはぜひ本編をご覧いただきたい。

あの後も借金取りからの電話はかかってきたし、料理を作ってもらったからといって恐怖心が取れるものでもなかった。でも、父親ムーブをされたことで、1ミリだけ、ほんのすこーーしだけ怖くなくなったのも事実だ。

ある時、実際の父親が家に偶然戻ってきているところに、借金取りから電話があった。いつもなら「いない」というところが、今日はいるから助かったー、てか親父いるから電話出なくていいわーと安心していた。のだが、親父は俺に向かって、

「お前でろ! で、いないって言え!」

本当の親父は、見かけ通りの親父だった。

 

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