
【フランス暮らし】低所得者地域に住むメリット、デメリット
フランスの地方都市ナントで、フランス人パートナーと2人の子と家族4人で暮らしている大畑典子さん。
一級建築士の資格を持ち日本の建築事務所でバリバリと働いていた彼女が渡仏して約8年。
「シンプルな暮らし」を楽しむフランス生活で得たもの、捨てたものを、日々つれづれに綴っていただきます。
治安の悪化は格差社会が原因?
みなさん、こんにちは。フランス・ナント在住の大畑典子です。
今回はフランスでも社会問題となっている治安の悪化と、それに深く関係する低所得者が多い地域についてお話しします。
私たち家族は現在、ナントでも比較的治安が悪く、「カルティエ・ポピュレー(Quartier populaire :低所得者地域)」と呼ばれる場所に住んでいます。
△地域イベントの様子。
ナントには治安が悪いとされるエリアがいくつかあり、共通点として家賃が安い公共住宅の団地群があることが挙げられます。
これらの家賃が安い公共住宅はフランス語で「HLM(Habitation à loyer modéré:低家賃住宅)」と呼ばれ、2020年のデータでは、住民の約3分の1が移民とされています。実際、私たちが住むエリアでは、白人のフランス人は少数派で、街を歩くと多くのアラブ系やアフリカ系の移民を見かけます。
治安の悪さを象徴するのは窃盗や破壊行為です。たとえば、私たちのマンションでは鍵付きの駐輪場があるにもかかわらず、自転車や部品の盗難が後を絶ちません。また駐車スペースから備品が盗まれることもしばしば。3年ほど前までは、共用部の窓ガラスやドアが頻繁に壊されることもありました。
また、公共空間の破壊も目立ちます。近所のバス停のガラス仕切りは月に1回は破壊され、そのたびに交換されているのです。24時間利用可能なゴミステーションも頻繁に壊されています。
これらの破壊行為を行う多くの人は、「ノリ」や仲間同士の悪ふざけが動機のようですが、一部には社会の格差への不満を示す目的で行う人もいます。実際に、私たちが住むアパルトマンの外壁には「格差社会」の不満を込めた言葉で落書きをされたこともあります。さらに、このような地域では麻薬取引も多く見られ、フランス全体の社会問題となっています。
低所得者地域のメリット
しかし、この治安が悪い地域にもメリットはあります。以前の記事でもお話ししましたが、様々な人種が共存しており、多様性を身近に感じられることです。治安が悪いと言っても素敵な人たちもたくさん住んでいます。どの国でも、いい人もいればそうでない人もいるものです。その割合が地域によって異なるだけなのです。
年に数回ある地元のイベントでは、地元住民が作った本格的なマグレブ料理やアフリカ料理が振る舞われたり、住民同士の交流があったり、お互いの文化を理解するための機会が積極的に作られています。ここ数年でその地域の絆は、だんだんと強く、そして温かく変化していると実感しています。
△イベントで地域住民によるマグレブ料理が振る舞われることも。
また、このような地域には行政の支援が行き届いており、郵便局や児童館、図書館、ゴミステーションなど生活に便利な施設が整備されています。さらに、スーパーやパン屋、肉屋なども徒歩圏内にあるのです。そのため、暮らしやすさも感じます。
さらに、金銭面でもメリットがあります。たとえば、私たちの地区では週に2回ローカルマルシェが開かれ、物価が非常に安いです。ナントで一番有名なタロンサック・マルシェではリンゴが1キロ5〜6ユーロするのに対し、近所のマルシェではその3分の1、2ユーロ以下で買えます。中にはどこが産地なのか表記のない怪しい品物やかなり傷んだものも混じっていますが、コストを抑えたい人には最適です。
私たちの住むアパルトマンは、12年前に建てられた分譲住宅で、低家賃住宅群の中に溶け込むように建てられています。
もともと1970年前後に建てられた団地群は、特定の人種、特定の階級の人たちが固まって住むことが多く、それが治安の悪化を引き起こしていると考えられています。ですので、市の対策として低家賃住宅が立ち並ぶ広大な敷地の空いているスペースに、他の人種や階級の人が混ざり合うように分譲住宅を建てて地区を整備しなおしたのです。
このように、同じ地区にいろんな人種や階級の違う人が住むことで、治安の悪化を防ぐ工夫がされています。
一見、悪い面しかなさそうなカルティエ・ポピュレーですが、実際に住んでみると、住民同士の距離感の近さや温かさ、街の利便性、物価の安さといった利点があります。ただし、夜はあまり出歩かないなど最低限の注意は必要です。
今日はフランスの治安とその現状について紹介しました。
ではまた、アビアント〜!
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*次回は2月5日(水)更新予定です。