はじめての仮想通貨 〜流出篇〜

はじめての仮想通貨 〜流出篇〜


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これは、いろんなものを手放し、
身も心も身軽になったミニマリストが、
「やりたいこと」に挑戦していくお話。

ぼくは明日死んでしまうかもしれない。

だから「やりたいことはやった」
という手応えをいつも持っていたい。

いざ、心の思うままに。

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――君は勝負という誘惑に引き込まれたんだ。

単純に面白そうなゲームに飛びついた。

誘惑に負けるヤツ ルールもロクに知らないのに首を突っ込むヤツは

結局はカモになるんだよ。

『インベスターZ』

 

10万円を握りしめ、コインチェックのドアを叩いた俺。

アプリをダウンロードし、いざ初めての仮想通貨を買う。

「買いたいときが買い時!」

そう思った日は忘れもしない、1月16日のことだった。

 

コインチェックのアプリの画面は、こんな感じ。

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なるほど、シンプルで使いやすい。

 

ちなみに「BINANCE」のWebだとこんな感じ。

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なるほど「帰れ! 意味わかってから使え!」という感じですね、ごめんなさい。

このときの1ビットコインは160万円ほど。2月末の今から考えると牧歌的な時代である。

細かい計算をしなくても、1万円買うなら通貨はこれくらいになりますよとか、0.01ビットコイン買うなら◯◯◯円になりますよとかはすべてアプリがやってくれる。

 

そしていざ、初めての仮想通貨購入。

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0.01ビットコインのお代は16,533円な~り~!

スマホをポチッとしただけで、購入完了。なんて簡単なの?

なるほど、何もわかってなくても買えて、何もわかってなくても上がったり下がったりという結果は享受できるから流行っているんだね!

 

続いて、仮想通貨に関する本を読んだりして興味を持った、

イーサリアム、リップル、ネムを買う。

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まさかこれが「分散投資」ってやつか。はじめての「ポートフォリオ」を組んだのか俺は……。と感慨にふけっていると10万円で買ったはずなのに、資産はいきなり97960円になっている。手数料ってやつだね!

以前、コインチェックの大塚雄介さんの雑誌インタビューにこんなことが書かれていた。

「ゴールドラッシュのときにいちばん儲かったのは、金を掘った人ではなく、掘る人にジーンズを売ったリーバイス」

なるほど、仮想通貨に関しても、手数料を取る販売所が結局は儲かると。賢いね!

 

アプリ上で、更新しなくても数字がリアルタイムで目まぐるしく動く。

それぞれの仮想通貨の値動きだけでなく、「総資産」も増えたり減ったりしている。

財布に入れたお金が、勝手に増えたり減ったりするのを見たことがなかったので、面食らってしまった。数千円程度だが、分単位で増減を繰り返している。

スマホというすぐに取り出せるものにアプリを入れてしまっているので、目が離せなくなる。気にしまいと思っても、数分すると値動きが気になりまたアプリを開いてしまう。これはダメだとアプリを削除するが、やはりどうしても気になって再ダウンロードしたりしてしまう。

なるほど、わかっていたつもりだがこれが投資の消耗というやつだ。

平穏な自分の心が落ちつきをなくし、ざわついて、何か駆り立てられるような気持ち。もう忘れていたけど、これはたとえば欲しい限定商品なんかがあって、それが買えるか買えないかというときの一種の興奮状態に近い感覚だと思う。胸が苦しい、あの感じ。

そして、仮想通貨は軒並み価格を下げはじめた。

コインチェックにWeb版にはチャットの機能もあるのだが、保持だ、いやこれは大丈夫じゃない! と大混乱に陷っていた。

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初めて購入して2時間ほどですでに4,000円近くのマイナス。

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それもそのはず、すごい下がり方だ。

チャートの図が、断末魔の叫び声のように見えてくる。

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もちろん、細かく見れば反発もあるし、下がっているときに売れば損をしてしまう。

しかし、ここで、俺は初めて買った仮想通貨をその日のうちにすべて売り払うことにした。

「損切り」という奴だ。

 

俺の中の神代部長が声をかけてくる。

「並のやつにできることじゃない、佐々木…やるじゃないか!!」

 

まぁ…損してるんだけどね!! 

 

悪くないタイミングで手放せたはずだが、それでもわずか数時間で1万円の損失。

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なるほど、手数料ってやつだね! それがいくらかかるかもよくわかってないのに、手を出すべきじゃないね!

しかし、結果的にはこれがよかったかもしれない。

 

後に「1.16」と呼ぶ人も現れたぐらい、この日はここからさらに暴落した日だったのだ。

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平均30%超?の大暴落。

 

日本円の出金の手続きをし、アプリも削除し、ようやく平穏が訪れた。心底ほっとした。

1万円は「仮想通貨体験ツアー」としては悪くない参加料だ。

 

しかし、どこかで納得がいかなかった。自分は仮想通貨を試してみただけで、それと適切な距離、納得のいく関係を見つけられたわけではない。

消耗するのは嫌だが、仮想通貨のコンセプト自体はとても魅力的に思えた。通貨が「仮想」であることが面白いのではなく、面白いのは改変不可能な形で、分散化されている「ブロックチェーン」という技術だというのもわかった。

 

たとえば、イーサリアムの「スマートコントラクト」。

ブロックチェーン上に「契約」も埋め込んで自動実行する。

たとえば「ujo Music」はこの仕組みを用いて、ユーザーが買った楽曲の代金が、即座に直接アーティストに支払われるという。これには未来を感じた。

 

たとえば自分の本は、20ヶ国語に翻訳されることになったが、はっきり言ってその仕組みは煩雑だ。それがどれぐらい売れたかという報告は1年に1回で、もちろん支払いもかなり先になる。透明性も、ブロックチェーンに担保してもらったほうが正直高いと思う。

翻訳のお礼など、国際送金もする機会が多くなったので、それがリップルの技術で手数料が安く、簡単になるならありがたいことだ。

まだまだ仮想通貨は黎明期。そしてその技術とは別に投機の対象になっているから、話がややこしくなっている。

 

そうしてぼくは、自分の仮想通貨との付き合い方を「クラウドファンディング」だと思うことに決めた。リターンはあるかもしれないし、損するかもしれない。しかし、仮想通貨が作る未来はおもしろそうだし、応援したい気持ちはある。

 

改めてコインチェックに6万円を入金し、特に応援したいと思ったイーサリアムとリップルを半分ずつ買う。

そうしてアプリを削除し、それを忘れることにした。そのときは知らなかったが、これは「気絶投資法」と呼ばれる立派な投資法であるらしい。

 

そして値動きも見ることなくなり、平穏な毎日を過ごした。

そして迎えた1月26日、コインチェック社からネム580億円の流出。

はじめて仮想通貨を買った日は暴落の日。買った販売所からは流出。

なんやねん。

 

580億円損したら、さすがに資産が泡と消えるとみんな思っただろう。

ニュースを見て、俺もさすがに引き上げようと思ったが、時すでに遅し。コインチェックで仮想通貨を売ることも、そもそも日本円を出金することもできなくなっていた。

 

自分の資産が引き出せなくなるなんてことが、今の時代に起こるということがすごいなと思った。そんなのありなんだ! という感じ。かつてあった「取り付け騒ぎ」の雰囲気を感じた。

 

しかしそれと違ってイマイチ真に迫らないのはやっぱりデータだからだと思う。強盗が押し入り、現場が散乱しているわけではないし、コインチェックを取り囲んだとしてそこに現金があるわけでもない。

自分が大きなニュースの当事者になることなんて、めったにないことなので貴重な機会だったとも言える。どうなるかわからない6万円は、その参加費だと思うことにした。

ぼくは少額だったのでそんな気持ちで済んだが、高額を預けていた方は気が気でないだろう。流出のあと、当然のように仮想通貨は値下がりを続けたが、その間どうすることもできないのだ。

 

2月20日現在。仮想通貨は再び値を戻しはじめ、ぼくが6万円で買った仮想通貨は55000円の資産となっていた。

しかし、まだそれを売ることはできないままだ。

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ウォーレン・バフェットは

「その企業について、論文を一本書けなければ株を買ってはいけない」

と言ったという。

必要なのは、たぶん納得だ。論文を書けるほど学んだと思えれば、値上がりしようが値下がりしようが納得できるんだと思う。そうでないうちは、結果に対して自分の処し方がわからないのではないだろうか。

仮想通貨はアホみたいに簡単に買える、しかし投資目的のためなら論文を書けるくらいに勉強したほうがいいと思う。

成功するためではなく、納得するために。

 

仮想通貨はおもしろく、魅力的で、未来を感じる。

確かに数百年に一度の革命かもしれない。

 

でも俺は、自分の人生の時間をかけて学びたいことではないと思った。

だから「クラウドファンディング」のように、応援することにしたのだ。


Written by sasaki fumio

作家/編集者/ミニマリスト 1979年生まれ。香川県出身。出版社3社を経てフリーに。2014年クリエイティブディレクターの沼畑直樹とともに、『Minimal&Ism』を開設。初の著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(小社刊)は、国内16万部突破、22ヶ国語に翻訳される。新刊「ぼくたちは習慣で、できている。」が発売中。

»http://minimalism.jp/

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