はじめての「お弁当男子」
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これは、いろんなものを手放し、身も心も身軽になったミニマリストが、「やりたいこと」に挑戦していくお話。
ぼくは明日死んでしまうかもしれない。
だから「やりたいことはやった」という手応えをいつも持っていたい。
いざ、心の思うままに。
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お弁当男子には興味津々だったのだが、いざやろうと思うとなかなかハードルが高いものである。こじんまりとしたお弁当を女子が持参していると「今まで気づかなかったけどあの娘、……いい子なんじゃないか?」とかよくわからんバイアスが働くものだが、独り身のおっさんが弁当をモグモグする背中には「哀愁」が漂っているというか。
しかし、もうそんなことも言ってられなくなった。図書館で仕事をしているのだが、以前は「お腹空いた、私もう帰る!」というスタイルだった。本の締め切りが迫ってきて、さすがにもう少し粘って働かなくてはいけない。そこでお弁当の出番だというわけだ。
お弁当箱は、曲げわっぱとかをさんざん撫で回しながら探した。
結局、スウェーデンのトランギアというメーカーの「メスティン 」にした。
基本的に、アウトドアで美味しいご飯を炊くためのもの。これがお弁当箱のサイズにもピッタリ。ミニマリストなら多用途に使えるものを、ということで選択。
しかし「メスティン」
なんという大仰なネーミング。
「失われし大陸トランギア。聖なる槍メスティンは、誰も知らない森の奥で勇者の到来を待っていた……」
みたいな。ちがうよ、オラの弁当箱の名前だよ!
お弁当を作るといっても、時間はかけたくない。
ということでメインは卵焼きで決まり!
毎日作るとはいえ、卵焼き器をわざわざ買うのもなと思って、フライパンでチャレンジ。
……節子、お兄ちゃんがんばってみたんやけど、やっぱオムレツでけたわ。
そしてオムレツを切ると、あたりにカオスが立ち込めた。
いやいや、卵焼きだと思うから、この姿が見苦しいのだ。
そこでこの料理を卵の「五月雨焼き」と名付けることにした。失敗したのではない! 卵は勇敢にも散った。我々のためにさみだれたのだ!!
とはいっても試行錯誤は続く。もう少し四角くなるように心がけると……
見て見て~。なんかハムカツに似ているものができたよ~!
恐ろしいもので、人間はなければないで工夫をする。続けていれば「フライパンで卵焼きを焼く」というスキルすらなぜか上達していくのだ。
そうしたある日…
これは……
なんと……
これ、あれじゃね!? ANAの「おべんとうの時間」の取材きちゃうやつじゃね!? 今気づいたけど、写真の撮り方がすでに「おべんとうの時間」を意識しとる!!
しかし、恐ろしく質素な弁当である。
卵×2個で50円。そしていつものぬか漬けと干し野菜の味噌汁。
どう見積もっても100円いってないな、このお弁当。
でも気に入っているんですよ。この質素なお弁当が。
そしてスープジャーで保温したうちの味噌汁……。
もうね、干し野菜はこのためにあったのかと。
君たち干し野菜せずして、これだけの野菜一度に取れんのかよと言いたい。
スープジャーで熟成されるのか、とんでもなく旨い出汁がでて、なんというか「これヤバイ何か入ってない?」 と思いながら毎日すすっている。第一回 「うちの味噌汁が最高ですけぇ in京都大会」があったら、参加すると思う。そして一回戦は勝ち抜けると思うの。
お弁当の内容はほぼ毎日同じ。でも食べ飽きない。
簡単すぎるから数分で作れて、負担にもならない。
そしてお弁当を作るということは、自分で適正な量を決めるということである。
さすがに痩せてきましたよ、いい感じに!
弁当箱の裏についた水蒸気。
冷めたご飯に少ししなったふりかけ。
お弁当にしかない味わいってあるよねぇ。
弁当があまりにお気に入りになったので、このスタイルを「愛妻弁当の自給」と呼ぶことにした。
「誰も愛してくれないなら、」
ミニマリスト佐々木は言った。
「自分で自分を愛してしまえばいい」
ひゅー、かっこいい。
そこに痺れる、モノ捨てるゥ!!