【INTERVIEW】宅間孝行主催のタクフェスの舞台『笑う巨塔』に出演する松本享恭に意気込みを聞く。
この春、宅間孝行主催のタクフェスの舞台『笑う巨塔』に出演する松本享恭。『仮面ライダーエグゼイド』の仮面ライダースナイプ/花家大我役で、女性ファンのハートを撃ち抜いた注目の俳優だ。そのミステリアスなイメージから一転、4度目の舞台出演となる今回の作品では、コメディに初挑戦する。稽古がスタートする直前の彼に舞台への意気込みを聞くとともに、クールなビジュアルに反してマイペースな癒し系のパーソナリティにも接近!
撮影/中根佑子 文/本嶋るりこ
――まずは、舞台『笑う巨塔』についてお聞かせ下さい。
僕が演じるのは、山之内蓮太郎という父親が総裁選に出馬しようとしている代議士で、その秘書という役回りです。作品はコメディですけど、僕の役柄はマジメな人物ですね。でも、マジメにやってるからこそ、そのズレが面白いというような。自分から笑いを誘っている感じではないので、笑わせにかかっても多分面白くないから、普通に演じたらいいんだろうなって。
――台本を読んだ感想はいかがでしたか?
ボタンの掛け違いが騒動を生んでいくというお話で面白いなと思いました。計算が凄いんです。ちょっとしたシーンでも何かしら笑いがあるという。僕は、これまでコメディをやったことがないですし、コメディ映画や舞台もそれほど多く見てきてはいなくて。それに僕自身“お笑い担当”みたいな性格でもありません。だから、この作品が決まってからは、会話の中でポッと出た言葉が意外にウケたりしたら、「なんで今のが面白かったのかな?」と考えるようになりました。普段の生活の中で“笑い”について向き合っている最中です。
――今回の作品は、主催の宅間さんはもちろん、篠田麻里子さんや片岡鶴太郎さんら、共演のキャスト陣も豪華ですね。顔合わせはしたんですか?
制作発表の時にメインキャスト全員が揃いました。やっぱり、皆さん個性が素晴らしいんです。控室で普通に話してる中でも、何かしらの笑いがあって。経験値が高い方ばかりなので、その中に僕のような若手が一人いる、そこがちょっと不安でもあります。
――とはいえ、松本さんは“二枚目看板”を背負う形ですよね。
稽古に入ったらもう、若いという取り柄をフルに使って、初日から全力でやりたいです。学ぶ気持ちはもちろん、みんなで一緒に作ってるんだ! という意識もちゃんと持って挑みたいですね。この舞台は本当に魅力的なキャラクターが多いんです。人間味があって、僕自身も好きなキャラクターがたくさんいて。そういう人物のお芝居は、今回の舞台で共演者のみなさんのから学びたいなと思います。
――宅間さんとは何かお話をされましたか?
宅間さんとは制作発表の前に、取材で対談をさせていただく機会がありました。周りからは、「宅間さんは稽古場では怖いよ」と聞いてたんですよ。だから、ちょっとビクビクしていたんですけど(笑)。でも、すごく熱い方で。お客さんを楽しませるということについてのスタンスがとにかく熱い方なんです。
――舞台は、お客さんの前に直接立つということが他の演技の仕事とは違うところかと。リーディングも含めて、これまでに3回舞台に出ていますが、そこから得た経験を生かせそうな部分というと?
デビューした年に『武士白虎 もののふ白き虎』という作品で初めて舞台に立ったんですが、本当に何もわかっていませんでした。稽古場に行っても、もちろんセリフは全部入っているんですが、自分の発想で動くというようなことが全然できなくて……。今回は、そこを克服して、自分の考えたものをまず持っていって稽古に入りたいなという思いがあります。宅間さんがどういう舞台の作り方をするのかは分からないですが、まずは自分から発信してみようと。その土台を壊されてしまうかもしれないですけど、そこは覚悟の上です。
――ここからはパーソナルなお話も聞かせてください。出身は福岡で、デビューに当たって単身上京されたんですか?
そうです。この世界に入りたいと思ったのが、18歳くらいの時でした。その時、地元でモデルの活動はしていたんですが、ふわっとした将来像しかなくて。ただ、もともと映画が好きでよく見ていました。当時、玉山鉄二さんと山田孝之さんが出演された映画『手紙』のDVDを家で一人で見ていて、その時になぜか理由はわからないんですけど号泣しちゃって……。その時が、お芝居ってカッコいいなと思ったきっかけです。そこで初めて演じる側になりたい、画面の内側に行きたいって思ったんです。
――モデルを始めたきっかけは?
スカウトされたことがきっかけです。モデルのお仕事もとても魅力的で楽しかったです。ただ「多分一生の仕事ではない」という気持ちも同時にありました。
――そこから上京して東京の事務所のオーディションを受けるわけですよね。当時は紆余曲折はあったんですか?
当時のモデル事務所の社長に「東京に行きたい」という話をしたんです。その時は、まずは地元の事務所を辞めて、上京してバイトをしながら東京の所属事務所を探そうっていう、今思えば甘いことを考えていました。その話をモデル事務所にしたところ、今の事務所のオーディションの話を耳にして。それでオーディションを受けました。賞は取れなかったんですけどね。ファイナリストに残ることが出来たんです。
――そこで今の事務所に入って、役者への道を一歩進んだと。憧れていた世界に入って、現実とのギャップはありませんでしたか?
もちろん、辛いところはあります。台本を読んでいる時間とか一人で闘っている感じですし、ただ、逆にその間は自由に発想ができる。キツイ部分はありつつも、逆にそこが面白いなって思う部分でもあるなって。今の事務所に入った時、役者になるからには映画を見る本数を増やそうと思ったんです。最初は1日に何本ってノルマを決めて、結構無理して見てたんですよ。でも、それがどんどん普通のことになっていって。映画がさらに好きになっていって。前より深いところまで見るようになった自分が面白いなって思うようになれました。デビュー当時にはわからなかった、「あ、このカットいいな」みたいな部分が少しずつわかるようになってきたので。
――そして、デビューの翌年で若手俳優の登竜門である『仮面ライダー』シリーズに出演するわけですが。『仮面ライダーエグゼイド』と出逢ったことでの心境の変化はありましたか?
『仮面ライダー』では、現場の居方を教わったような気がします。映画なども含めると1年半も同じ作品に携わるので、自分が演じた一人のキャラクターの過去から現在、未来も演じることができたのも大きかったです。“時系列考えてお芝居をする”という経験も初めてだったので。例えば、現在のシーンを撮っている間に、過去のエピソードを撮ったり。その経験したことでわかることもあって、そこからまた芝居が変わっていく……。いい経験をさせてもらいました。
――プライベートのお話も聞かせてください。役者から離れた時の時間の過ごし方って?
僕は趣味がないんですよ。事務所の企画で「趣味を探そう」という動画を撮ってるくらいで(笑)。でも、去年か一昨年に従兄弟からフィルムの一眼レフカメラをもらったんです。そこからちょっとずつカメラを始めたんですけど、楽しくなっちゃって。自分でデジタルカメラを買って、撮りたい時に撮っています。人も景色もどちらも撮りますよ。気に入っているショットは人が多いですかね。表情を捉えたり……。
――そういうことは、役者業にも役に立ちそうですね。
そうですね。インスタグラムはやってないんですけど……開くかどうか悩み中です。
――いい趣味ですね。
これは……趣味って言っていいんですかね?
――もちろん! 2、3回やったことあれば、なんでも趣味って言っちゃえばいいんですよ(笑)。
あはは。そうですよね。動画の企画では、今までに、ボルダリング、陶芸、乗馬とかをやりました。陶芸をやった時に、「これは自分に向いているな」って思いました。無になれたというか。集中してると、日常じゃない感じが凄くして。
――わりとなんでもコツコツとやるタイプ?
そうなんですよ。コツコツ派ですねぇ。だから、そういうコツコツした趣味だったら熱中できると思います。
――パズルとか?
あ、パズルはありですね! 地味だけど(笑)。他の人はやってないと思うから、自分だけの趣味にできそう。
――趣味がないという松本さんですが、時間がぽっかり空いていたら何をするんですか?
見たい作品があったら映画を見に行きます。あとは、お休みの前の日ならお酒を飲みに行ったり。人付き合いは嫌いではないので。
――お友達は役者さんが多い?
福岡の友達で上京している人だったり、あとは役者の友達ですかね。ホントに普通の話をしてますよ。近況報告をするわけでもなく。どうでもいい話というか。でも、地元の友達は、僕の出演作を見てくれていますね。そっと応援してくれてます。
――役者さんのお友達とは仕事の話をする?
う~ん、相手次第かな? 飲みの席でそういう話をしたくないという方もいますし。でも、熱くなってそういう会話になっちゃう人もいますし。僕自身もそういう話は好きですよ。本音も言い合えるし。
――これまでのお話を聞いていると、動と静とでいったら静のタイプの性格なのかなと。そういう人が、こういう表現する仕事に惹かれるというのは面白いと思うのですが、やっぱり『手紙』という映画を見た時の衝撃が相当大きかったということなんですかね。
大きかったんだと思います。子どもの頃から人前で何かをすることが好きだったわけではないですから。ただ、何かしら……例えば、小学校の頃はバスケのキャプテンを任されたり、学習発表会で主役をやったり、そういうことはあったんですけど。
――これから先、こんな役者になりたいという目標はありますか?
その質問のたびに、いつも考えるんですけど……。前は、本当に役によって変幻自在な、いわゆる“カメレオン俳優”って呼ばれたいなって思ってたんです。若い世代で好きな俳優さんもそういう、池松壮亮さんや高良健吾さん、あとは菅田将暉さんといった人たちで。だけど、最近は本当に芝居って人によって個性があるなって実感するようになってきたんですよね。映画を見る時に、「この人の作品を見る」って決めて見る時があるんですよ。「この人面白いな」って思ったら、その人の作品ばかり見る。そうやって見ていると、別にみんながみんなカメレオンなわけじゃなくて、ご自身の個性を芝居に出しているスタイルの方ももちろんいて。そういう人は一つひとつの表現に「すごいな」って思わせられるし。本当に人によるんだなって。
――どっちも正解ですもんね。
そうなんです。どっちも「このお芝居いいな」って思ったものは、正解なんですよね。それを考えると、自分はさっき言ったようにコツコツタイプなので、目の前の役柄にちゃんと向き合うっていうことが自分らしい芝居のやり方なのかなって思うんです。だから、続けていくしかないんですよね。役によって人格を変えるというのが役者の仕事だと思うんですけど、演じる人物を究極まで突き詰めるくらいの準備ができる人になりたいです。例えば、「この役だったら酒を飲んだ時にはこういう表情をする」とか、そういうことを突き詰めてから、その土台を持って現場に挑めるような。
――では、これから先もコツコツと、パズルを組み上げるように。役者に完成図っていうものがあるのかどうかわかりませんが。
そうですね。オーディションを受けて賞を取れなかったあとに、演技のレッスンに通っていた時期があったんです。週に1回、福岡からレッスンを受けるために上京していて。土曜の夜に高速バスに乗って、日曜の朝に東京に着いて、昼からレッスンを受けて、また夜に高速バスに乗って月曜の朝に福岡に帰えるっていう。そういう生活をしていて。そこで結構、今の自分が作られたような気はしますね。そこで初めて「負けたくない」っていう気持ちが生まれたし。ファイナリストはみんなレッスンを受けてたんですけど、賞を取った、取らないってこともデビューしてしまえば、土俵は一緒だって思って。
――「うさぎとかめ」の童話のかめみたいな状況ですね。やっぱりコツコツ派ですね(笑)。
あはは。たまにサボっちゃいますけどね。だけど、うさぎよりも先にゴールに着きたいという気持ちは持ち続けたいですね。
●プロフィール
松本享恭/まつもと・うきょう
1994年12月27日、福岡県生まれ。B型。14年、事務所のオーディションのファイナリストに選ばれ、15年にドラマ『ウルトラマンX』ハヤト隊員役でデビュー。同年に『武士白虎 もののふ白き虎』で舞台初出演。TVシリーズ『仮面ライダーエグゼイド』(16〜17年)の仮面ライダースナイプ/花家大我役で注目を集める。以降、ドラマ『ゆとりですがなにか 純米吟醸編』、dTVオリジナルドラマ『不能犯』(ともに17年)ほかに出演。18年1月公開の『闇金ぐれんたい』では映画初主演を果たす。3月29日から全国5都市で上演される宅間孝行作・演出の舞台『笑う巨塔』に出演。
●舞台作品紹介
『笑う巨塔』
俳優・脚本家としても知られる演出家・宅間孝行が主催するタクフェスの新シリーズ、『春のコメディ祭!』第2弾。12年の東京セレソンデラックス解散時に上演された作品の再演となる。舞台は、東京・四王病院。選挙を前にした代議士とその息子である秘書、検査入院しているとび職の親方とその娘、入院中の横綱の見舞いに来た大物政治家などなど、入院患者と見舞客はもちろん、医師、看護師らも加わって、さまざまな地人々の想いや事情が交錯。病院は大混乱の事態に…!?
作・演出・出演/宅間孝行
美術:向井登子 照明:磯川敬徳 音響:都藤守 衣装:馬場友美
ヘアメイク:高村マドカ 音楽:伊藤薫、柴野達夫 演出助手:森井沙織
舞台監督:市川太也
出演/篠田麻里子、松本享恭、石井愃一、梅垣義明、佐藤祐基、越村友一、布川隼汰、堀川絵美、梛野里佳子、想乃、豊泉志織、渡辺碧斗、かとうかず子、鳥居みゆき、片岡鶴太郎
3月29日(木)〜4月8日(日)東京グローブ座ほか愛知・兵庫・愛媛・福井でも順次公演
<ウェブサイト>http://takufes.jp/kyotou/