【INTERVIEW】5月25日に公開を控える映画『若武者』で、未来に抵抗する若者のひとりを演じた髙橋里恩。“役者は楽しい”と思えたという本作について話を聞いた。
二ノ宮隆太郎監督が10代のころの想いを詰め込んだ映画『若武者』は、幼馴染である若者3人が、日常の中で人生への疑問を抱きながら、未来に抵抗していくように言葉を投げかけていく。その若者3人のうちのひとり、血の気の多い英治を演じた髙橋里恩。“ワクワクが止まらなかった”という脚本を前に、どのように役と向き合い、現場に立ったのだろうか。
撮影/浦田大作 スタイリスト/YOSHIE OGASAWARA(CEKAI) ヘアメイク/扇本尚幸 文/浅川美咲
——今回の作品の企画を初めて聞いたのはいつごろなんでしょうか。
「5年前に二ノ宮(隆太郎/監督)さんと舞台でご一緒して。いつか映画を撮ろうという話になり、今回は念願だったんです」
——5年越しのオファーで、監督と話したことは?
「ご飯を一緒に食べに行ったのですが、そこでは宇宙の話をしました。僕は宇宙が好きで、ゼカリア・シッチンという宇宙考古学者がいて、その人の本を当時たくさん読んでいたこともあり、そんな話をした覚えがあります。あとは世の中の差別についてだとか、僕の考えを喋り、それを録音していた記憶があります」
——そのお話をした後に、脚本が出来たということですか?
「そうですね。完成した脚本を読んだら、もうワクワクが止まらなくて、どう料理しようか、英治という役を通してどう楽しくやろうか、という気持ちでした」
——監督の10代のころの想いが作品になっているそうですが、髙橋さんが印象に残っているセリフを教えて下さい。
「たくさんありますね。『我慢出来なかったらどうすんだよ』とか、『殺してみろ、口だけ人間』とか、挑発的なセリフは全部ノリノリで演じることが出来ました」
——言っていることが正しいことなのか、そうではないのかわからないですけど、色んな人達に突き刺さるセリフですよね。
「そうなんです。正解はなくていいんですよね。あれがいいとか、悪いとか多少あるでしょうけど、正解なんてある訳ないじゃないですか。それを決められる程、個人個人が偉いのだろうかとも思うし。本当にみなさんに、自分というものを通してこの映画を捉えてほしいです。そのくらい自由に捉えてもらっていい映画だと思います」
——血の気が多い英治を演じる上で大切にされた事はどんなことですか?
「英治は、誰彼構わず突っかかっているように見えますけど、“本当にこの世を楽しんでいるような青年”という気持ちで演じました。“生きたい”という気持ちや“生きていていい”と思われたいような、そういう承認欲求みたいなものは強いのかなと思っていました」
——役と向き合う上で、具体的に実践したことはありますか?
「僕という人間を形成したのは、学生時代が大きいと思っていて。僕は吉祥寺の学校に通っていたんですけど、今回も吉祥寺の町に行って、昔みんなで行ったところや公園を、セリフをぶつくさ言いながら回って、当時の記憶と触れ合いながら、どんどん英治に流し込むような作業をして。撮影の1カ月前からそういうことをしていました」
——役を作る時は自分と向き合う作業になるんですね。
「そうじゃないと僕は出来ないですね。突然役に切り替わるような、変身みたいなのは出来ないです」
——役との共通点を見つけることとは別ですか?
「意識して見つけようとはあまりしないですけど、自然と“あ、これいけるかも”と思った瞬間には、勝手に取り入れているんだと思います」
——今回のメインの3人は幼馴染という設定ですが、3人のバランスが絶妙でした。
「この3人は幼馴染だけど、“なんで一緒にいるんだろう?”と、坂東、尚弥君と3人で裏設定みたいな話はしたかもしれません。僕は渉(坂東龍汰)に対して、『親父のことをケジメつけなきゃ、次楽しく生きていけないぞ』みたいなことを言いながらも、自分に言い聞かせている部分もあると思います。光則(清水尚弥)に対しては、とにかくもうサンドバックじゃないですけど、自分の理屈をごねて、それを淡々と聞いてくれる。みんなそれぞれ三者三様にどこかで依存し合っている部分や、なんで一緒にいるんだろう? という面白さも探っていました」
——クランクインはどのシーンでしたか?
「光則とキスするシーンでした。テストでせめ過ぎてしまって、そんなにしなくていいですって監督から言われました(笑)」
——その後に通行人の女性と会話が始まるところですよね。本作は、会話のテンポやリズムに凄く引き込まれますが、クランクインしてすぐにつかめたのでしょうか?
「撮影前にリハーサルが何日かあって、凄く贅沢な時間を頂いたんです。そこで監督と話しながら、どういうリズムでお芝居を組み立てるか話をしました。まずは自分が演じてみて、そこはもうちょっと早くとか、あとは気持ちがどんどん高ぶっていく…振動みたいなところもリズムにはいるのかな。そういうのはテストの段階で色々話して撮影に臨んでいました」
——印象に残っている会話やシーンはありますか?
「友達の墓参りのシーンです。僕は死んだ友達の存在は結構大きく捉えていました。あのシーンの間(ま)とか電車の音も上手く作用しているなと思ったし、死んでしまった友達へ対する、3人のそれぞれの想いが出ていて、僕はあのシーンが好きですね」
——そのシーンを撮影するころには坂東さんと清水さんとの関係性は深まっていたのですか?
「そうですね。坂東は事務所が同じだし、尚弥君の出演した舞台を観に行ったりしていたので、芝居の質みたいなものは確認した上で、お芝居出来ました」
——土手でのシーンも印象的でした。
「そのシーンは、『嫌気、恐れ、怒り、悲しみ』というセリフの持ち上げ方の演出がありました。“もっと、もう本当に楽しもうぜ”みたいな持っていき方だと。あそこは結構突発的なお芝居というよりかは、徐々にこみ上げてくる…という意識で撮ったかもしれないです」
——その静かなる熱量みたいなものは、映画を観ていて凄く伝わってきました。髙橋さんは今回演じた英治のように、普段何か感じたことを口にするタイプですか?
「普段はあんまりしないです。ただ、二ノ宮さんと出会った時やお酒の席とかでは、言っていたんでしょうね。だから本当にこの映画にそういった自分の要素を置いてきたぐらいの気持ちで撮影に挑みました」
——こういう役を演じると、ちょっと気持ちがいいのかなとも思いました。
「気持ちいいですね。(笑)なんかこいつやべぇなって思いましたけど、英治を俯瞰して見られた気がします。試写でめちゃくちゃ腹抱えて笑いましたし、なんかちょっと自分を好きになれました」
——完成作品を観た時は、第一にどんな感想を抱きましたか?
「凄く幸せでした。“やっと生まれた”みたいな。みんなでプチ打ち上げをしたのですが、『あのシーンよかったよね』とかそういう話はした気がします。本当にたくさんの人に支えられて、やり遂げられたなという、幸せや感謝が凄くこみ上げてきました」
——熱量の高い現場だったと伺いましたが。
「そう感じた理由はみんなの集中力じゃないですかね。いい距離感で、あまり干渉し合わない、もう常に自分の事に集中するという状態でやれたから、それがエネルギーになっていたんじゃないかな。“どれだけ自分と向き合っているか”みたいなところが、熱量に繋がったのかなと思います」
——髙橋さん自身のお話も伺いたいのですが、普段はどのようなエンタメを見るのがお好きですか?
「気になる映画があったら調べて、映画館に観に行ったりします。あとは、本を読んだり…哲学書が好きなんです。ニーチェとか大好きですね。あとは今読んでいるのは、(アルトゥル・)ショーペンハウアーです。僕は趣味で文字を書くので、それをデータ化して読んだりもします」
——書いたりするというのは、作り手にも興味があるのでしょうか?
「どうなんですかね? 多分書き表したいんでしょうね。自分の考えをまとめるためかもしれないし。ひとつそういうものを作らないと、まとまらない自分が居て、昔からやっているんですよ。今はほぼ日記やポエムみたいな感じで、ずっと続けています」
——今後挑戦してみたいジャンルはありますか?
「アルパチーノの『セント・オブ・ウーマン』という映画が大好きで、アルパチーノは盲目の元軍人なんです。なぜかと言われるとわからないのですが、盲目の役は、必ず挑戦したいと思います。あんまり同じ映画を何度も観るタイプじゃないのですが、『セント・オブ・ウーマン』は結構観ていて。あとはLGBTを題材にした作品とか。小さいころから僕の周りにそういう方々がいたので、僕にとってはそれが普通だったんです。LGBTQだと『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』という映画が凄く好きです」
——どちらも演じるとなると難しそうですね。
「あと、家を出て、母ちゃんの飯を食べた時に思ったのですが、“おふくろの味”というものを演じたくて。おふくろの味を食べた時にこみ上げてくる情緒を演じたいです」
——『若武者』を経て、今後役者として目指す先を教えて下さい。
「とにかく役者を続けていたいです。なんだかんだ言って多分好きだから」
——役者の仕事って楽しいなと思った瞬間は?
「本当に『若武者』が、初めてそう思った作品かもしれないです。完成した作品を観て、みんなで集まった時は凄く楽しかったし、誰かと一緒に何かを作るってこんなに楽しいんだなと思えた作品です」
——思い入れが大きな作品になったんですね。
「こんなに大きな役を頂けたことは僕にとって大きな出来事ですし、そこにこう、グーっとのめり込める、集中しているような時間が好きなんだなと気づきました。もちろんどの役も集中してやるんですけど、英治はもうどれだけ潜っても底がない役だったから、楽しかったのかなと思います」
——今後の作品に挑戦するのが楽しみですね。
「この作品を経て、何か自分が変わったものもあるかも知れないし、ワクワクとドキドキが止まらないです(笑)」
●プロフィール
髙橋里恩/たかはし・りおん
1997年7月5日生まれ、東京都出身。2016年デビュー後、ドラマ、舞台、映画、CMなど幅広く活躍。主な出演作に、映画『東京リベンジャーズ』『恋い焦れ歌え』『ファミリア』『陰陽師0』などがある。
●作品紹介
『若武者』
監督・脚本/二ノ宮隆太郎
出演/坂東龍汰 髙橋里恩 清水尚弥 豊原功補 木野花 岩松了 ほか
配給/コギトワークス
工場に勤める寡黙な渉(坂東龍汰)、血の気の多い飲食店員の英治(髙橋里恩)、一見温厚そうに見える介護士の光則(清水尚弥)の3人は幼馴染である。暇を持て余した彼らは、“世直し”と称して、街の人間達の些細な違反や差別に対し、鋭い言葉を投げかけていく…。
5月25日公開
https://www.wakamusha.com/
衣裳協力:ジャケット¥69,300、シャツ¥63,800、パンツ¥149,600(MARANT/ISABEL MARANT AOYAMA STORE 03-6427-3443)、リング¥61,050(le gramme/BOW INC 070-9199-0913)、シューズ¥55,700(EYTYS/EDSTRÖM OFFICE 03-6427-5901 )