【INTERVIEW】『映画刀剣乱舞-黎明-』で、酒呑童子役を熱演中の中山咲月。オーディションで勝ち取った敵役をどのように演じたのか? 自身のターニングポイントとなった経験を語る。

【INTERVIEW】『映画刀剣乱舞-黎明-』で、酒呑童子役を熱演中の中山咲月。オーディションで勝ち取った敵役をどのように演じたのか? 自身のターニングポイントとなった経験を語る。


現在上映中の『映画刀剣乱舞-黎明-』。『映画刀剣乱舞』の第2弾で、中山咲月は刀剣男士達の敵役となる酒呑童子を演じている。オーディションで難役を勝ちとったが、中山自身は演技に対して自信がなかったと語る。どのようにして作品や役と向き合ったのか、自身のターニングポイントとなったと言う撮影現場で得たものとは。

撮影/浦田大作 文/大久保亜季乃
——ゲームや舞台で人気の『刀剣乱舞』ですが、この作品のことは映画に出演する前からご存じでしたか?

「自分自身がオタクなので、作品は知っていたんですけど、詳しくはなくて。刀剣が人間の姿になることぐらいしか知らなかったですね。出演が決まってから、色々調べたり見させてもらったりしたのですが、いやもう…面白いですよね! この設定は刺さるな…これは人気になるはずだと思いました」

——今回、刀剣男士の敵役となる酒呑童子を演じていますが、この映画に出ることになった経緯を教えてもらってもいいでしょうか?

「オーディションを受けて、という流れです」

——オーディションではどのようなことをしたのでしょうか?

「酒呑童子の一シーンを演じました。実際に映画にも出てくる、一番感情がたかぶるシーンです。オーディションの場合、もらえる台本はその一シーンのみで、前後で何があったのか、背景に何があるのかもわからない状態で演技をしなくてはならないので、それが大変で…。酒呑童子は実在したと言われる人物なので、自分で歴史を調べたり、もちろん『刀剣乱舞』についても調べたりして、自分なりに役柄や背景を想像しながら挑みました。でも、自信はなくて…オーディションが終わったあとは、絶対無理だなと思っていたので、合格ですと言われた時は驚きました」

——「絶対無理だ」と思われたのはどうしてでしょうか?

「怒りの演技に自信がなくて…。そもそも演技自体に自信がない状態だったんですよね。オーディションでは一緒に受けているほかの役者さんの演技も見ることになるので、自分よりもっと凄い方を見ると、あ〜これは無理かもって。そんな気持ちだったので、合格の連絡が来て本当に安心しました」
——ご自身がなぜオーディションで選ばれたのかなどの理由は、監督からお聞きになりましたか?

「撮影が終わったあとに監督に聞いたんですが、『恐ろしさの中に美しさを持つ鬼というイメージをずっと探していて、そのイメージ通りだった』と言ってもらえました。自分はオーディションの時はあまり自信がなかったと話したら、『(オーディションの)部屋に入ってきた瞬間に、あ、もうこの人だと思った。演技も見て問題ないと思った』と言って下さって…。本当に嬉しいなと思いました」

——実際に出演が決まり、酒呑童子役という難役を演じていく上で、どのように役を作っていかれましたか?

「初めに脚本を読んだ時は、“こんなに酒呑童子の出番があるのか”と思いましたね。実は、撮影本番に入る前に、監督に演技を見て頂く機会を作ってもらったんです。酒呑童子は、三日月宗近と山姥切国広という主役ふたりと向き合う敵役なので、そのふたりを前にしても倒されないぐらいの存在でいてほしいと監督から言われていて。自分としてはその存在感や演技に不安があったので、鬼の演技を見てほしい、と監督にお願いしたんです。本番前でお忙しい時だったんですが、何日間かじっくり時間を頂き、演技を見てもらえました。監督は、心の底から出る憎しみや、中山咲月だから出せる内側からの感情が欲しいと言って下さって。自分は感情を内に秘めてはいるんですけど、表に出すことが苦手だったんです。自分を解き放つことが苦手というか…。でもそこを重点的にご指導頂き、監督と一緒に演技を繰り返すことで、少しずつ自信がついていった感じですね。監督には本当に感謝しています」

——今回の酒呑童子役は、特殊メイクもかなり作り込んでいましたが、実際に特殊メイクをしてみていかがでしたか?

「実は特殊メイクや扮装の経験はあまりなくて。あんなにキャラクターっぽいというか、外見を作り込んでいく経験は初めてでした。特殊メイクをして酒呑童子になるのに2〜3時間かかるので、その時間で酒呑童子の気持ちに入り込むことが出来ました」

——今回の映画はVFXによるCGも話題になっていますが、グリーンバックでの撮影に挑んだ感想はいかがでしたか?

「酒呑童子のシーンは、演じている時も世界観をつかむのは難しくて。グリーンバックでの撮影では、『ふたりを抑え込んでいる感じで!』と言われて想像しながらひとりで演技することなどもあり、“本当に鬼の禍々しさが表現出来ているのかな”と心配でしたね。シーンによっては、VFXのスタッフさんがその場で実際に追加されるCGのイメージを見せてくれたので、どのような仕上がりになるかを想像しながら演技をすることが出来て非常にありがたかったです。最終的に作品が出来上がり、試写を見た時はCGや特殊効果がしっかり足されていたので、“ちゃんと強そうに見えてよかった”と安心しました。完成作品を観て、自分の中でも酒呑童子役を終わらせることが出来ました」

——中山咲月さんは『仮面ライダーゼロワン』に出演されていましたが、今回の映画の脚本には、特撮でも活躍されている鋼屋ジンさんが加わっていますね。特撮に出演したこともあるご自身の経験が活きた部分はありましたか?

「そうですね、あったと思います。酒呑童子を演じる時は、少し特撮っぽい演技を入れたほうがいいのかな? と自分でも思っていたんですけど、監督にも、全体的に特撮のような動きや演技を入れていってほしいと言われました。今回の映画は刀剣男士達が現代に出陣しているという設定なので、あえて特撮っぽさ…舞台のような大ぶりな動きや目線の動きを入れていきたいとご指導頂きました」

——『刀剣乱舞』シリーズには初めての参加になりますが、共演されるキャストのみなさんは、映画や舞台で同じ役を既に演じている方も多いですよね。刀剣乱舞チームに新たに参加することになった訳ですが、どのような心持ちで参加しましたか?

「みなさんすでに役をしっかりつかんでいる状態で始まっているので、自分はとてもやりやすく入らせてもらいましたね。現場は本当に温かくて、すでに出来上がったチームではあるけど、自分のような新しいメンバーも柔軟に受け入れてくれて、凄くやりやすかったです。ただ、監督からは『刀剣男士達が押されるくらいの酒呑童子を』と言われていたので、プレッシャーはありました。敵役なので、あまり馴染んでもいけないだろうな、と思ったので」

——敵役だから、あえて共演者から距離を取ったりもされたんでしょうか?

「はい。特に、鈴木拡樹さんと荒牧慶彦さんは実際に共演するシーンも多いのですが、とにかく自分は酒呑童子であることだけに集中しよう、と思っていました。当然おふたりとも自分より先輩で、もちろん尊敬はしていますが、そういう気持ちは捨てなければならない、ふたりは敵なんだ、と思って心を奮い立たせていました。撮影が終わって、自分の中から酒呑童子が抜けたあとに、あんな凄い人達と一緒に演技していたのか、と振り返ることが出来ました。もっと刀剣男士のみなさんとお話ししてみたかったな、と後悔もしたんですけど、撮影中はどうしても無理でしたね。敵だ! と気持ちを作っていたので(笑)」

——それは大変でしたね…! 同じシーンが一番多かった刀剣男士は、山姥切国広役の荒牧慶彦さんではないかと思うのですが、共演してみていかがでしたか?

「実は自分はかなり人見知りで、あまりコミュ力が高くなくて(笑)。撮影中も、無理に人と話すくらいならひとりでいるタイプなんです。でも、撮影に入る前の待合室で荒牧さんから声をかけて下さり、待ち時間に話すことが出来て、緊張が解けたりしましたね。役柄だとクールな感じなんですが、本当に気さくで優しい方で、そこの切り替えも凄いな、さすがだな、と思いました」

——三日月宗近役の鈴木拡樹さんとも同じシーンが多かったと思うのですが、いかがでしたか?

「もう本当に鈴木さんは、仏様のような方なんですよね。優しいという一言では言いきれないぐらいに優しくて、心が広くて。現場では『神』って呼ばれていました。『神が来た!』みたいな(笑)。やっぱり撮影現場は緊張感がありますが、鈴木さんの、凛と構えて揺らがない姿が素晴らしくて。三日月宗近が『映画刀剣乱舞』の主役だと言われる理由がわかるな、と思いました。優しいだけじゃなくて、ちょっとお茶目なところもあって、かわいらしい方なんですよね。撮影以外のオフシーンでもオーラが出ていて、鈴木さんだから出来る役なんだな、と改めて思いました」

——ほかに印象に残った共演者や撮影シーンなどありますか?

「映画には子役の男の子が出ているんですが、自分は結構一緒にいることが多かったんです。周りはみんな大人の演者なので、当たり前ですけどその子は緊張していたんですよね。撮影終盤で、その男の子と自分が楽しげにしているシーンがあるんですが、そのシーンを撮るまでになんとかその子の心をほぐしたいなと思って、色々話しかけていたんです。『仮面ライダーが好き』というので、『自分も仮面ライダー出ていたんだよ』と言ったら、『知ってるよ(笑)』と言われて(笑)。それきっかけで話が弾んだので、いい雰囲気で撮影に挑むことが出来ました。仮面ライダーやっていてよかったと思いました(笑)」

——酒呑童子役として思う、今回の映画の見どころはなんでしょうか?

「これまでの『刀剣乱舞』の作品は、刀剣男士達が戦う姿を見て、ファンの方は刀剣男士や審神者側の視点で楽しむことが多かったのかと思うのですが、今回は敵側である酒呑童子視点で進んでいくシーンも結構あるんです。なので、倒されてしまう悪側の視点…なぜこんなことをしているのか、悪というものを一括りにしていいのかという、少し考えさせられる部分もあると思うので、そういった視点でも楽しんでもらえると嬉しいなと思います」

——今回の作品を通して、演技やお芝居についての意識は変わりましたか?

「演技は、この映画に出会うまでは苦手でした。色々演じてはきたんですけど、なんとなく心の中で自分を解放しきれないところがあって、心の底から演じることが楽しいとは思えなくて。でも今回監督に演技指導をしてもらって。撮影が終わったあと、『なんであんなに忙しい中で自分の演技を見てもらえたんですか?』と聞いたら、『当たり前だよ、チームの一員なんだから』と言って頂けて。その言葉をもらえたことで、“自分、演技好きだな”って思えたんですよね。これまで自分は人に頼ることが苦手だったのですが、今回監督に指導して頂いた経験から、困ったり悩んだりした時は頼っていいんだ、と気付かされて、演じることへの恐怖がなくなって、迷いなく演技が出来るようになったんです。だから、今回の映画に出たことは自分の中でもターニングポイントになったと思います。実は、この作品以降は、演技に対してだけじゃなくプライベートでも少し変化があって。あまり感情を溜め込まず、なんでも言うようにしよう、と思うようになりました。本当に、自分にとって大きな刺激になった作品です」

——本作では酒呑童子役としてご出演されましたが、『刀剣乱舞』に触れていく中で個人的に興味を持った刀剣はありましたか?

「まだゲームの『刀剣乱舞』にも実装されていない刀ですが、酒呑童子を切った“童子切”という刀があるんですよ。今回色々歴史を調べていく中で酒呑童子に魅力を感じたということもありますが、“童子切”が凄く気になる刀ですね」

 


 ●プロフィール
中山咲月/なかやま・さつき
1998年9月17日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した『中学聖日記』のジェンダーレスな役が話題に。2020年には『仮面ライダー ゼロワン』亡役に抜擢。映画『タクミくんシリーズ 長い長い物語の始まりの朝。』(5月27日公開予定)にも出演。フォトエッセイ『無性愛』(小社刊)が発売中。


●作品紹介©️2023 「映画刀剣乱舞」製作委員会/NITRO PLUS・EXNOA LLC

『映画刀剣乱舞-黎明-』
監督/耶雲哉治
脚本/小橋秀之 鋼屋ジン
出演/鈴木拡樹 荒牧慶彦
   和田雅成 梅津瑞樹 佐藤たかみち 山本涼介 定本楓馬 小西詠斗 本田礼生 玉城裕規
   秋田汐梨 中山咲月 柳 美稀 飛永 翼 / 津田寛治 堀内正美 竹財輝之助 / 柄本 明
配給/東宝

興行収入9.5億円を記録した前作『映画刀剣乱舞-継承-』(2019)に続く第2弾。戦いの舞台を現代へと変え、歴史を守るべく戦う“刀剣男士”らと歴史修正を目論む“時間遡行軍”のスケールアップした戦いを描いたもの。監督は前作に引き続き、耶雲哉治。刀剣育成シミュレーションゲーム「刀剣乱舞ONLINE」が原案。
公式サイト:https://touken-the-movie.jp/
公開中