【INTERVIEW】映画『ロストサマー』で主人公・フユを演じた林裕太。今作への思いや役との向き合い方について話を聞いた。

【INTERVIEW】映画『ロストサマー』で主人公・フユを演じた林裕太。今作への思いや役との向き合い方について話を聞いた。


映画『ロストサマー』は、2018年に結成された同い年の俳優(中澤梓佐・麻美・椿弓里奈・関口アナン)の映像制作チーム・889FILMによる初長編作品。主人公・フユを演じた林裕太は、脚本を読んで、若い青年・フユと60歳近くも離れた老人・秋(小林勝也)の2人の関りが今までにない新鮮なもので面白いと話す。撮影の日々を振り返りつつ、フユという人物をどのように演じたのか話を聞いた。

撮影/浦田大作 ヘアメイク/七絵 文/太刀川梨々花

――高知県を舞台とする本作。撮影期間はどのくらいでしたか?

「高知に2週間くらい滞在して撮影をしました」

――セリフでは方言を使われていますね。練習はどのようにされたんですか?

「高知出身の中澤(梓佐)さんが、僕のセリフのところを土佐弁にしてボイスメッセージで送って下さって、それをひたすら聞きながら復唱しました。あとは高知のニュースや高知弁のYouTubeを見たりして勉強したのですが、なかなか難しかったです…」

――本読みの印象と実際に現場に入ってからの印象で変わったところはありましたか?

「全然違いましたね。僕は、見た目から役に入ることが結構あって。今回でいうと髪色を金髪にするだけでもだいぶフユっぽくなって、そこから役のイメージがどんどん掴めていけたりします。本読みの段階では、役者が各々どう演じるかを見つけていって、擦り合わせをしました。現場に入ってからは、高知の空気を感じ、フユはここで生まれ育って生きてきたんだなってことを想像しながら演じていくと、話し方も顔も変わっていると思います」

――林さんが演じたフユには、幼少期のときにお母さんが姿を消して、辛い過去を抱えながら生きている姿が描かれています。林さんにとってフユはどんな人物だと感じましたか?

「フユはお母さんが姿を消した過去があります。自分なりにそういった経験をした方はどういう人格になってしまうのか、など色々調べていきました。調べていく中で、暴力的になってしまったり、ふさぎ込んでしまってうまくコミュニケーションがとれなくなってしまうというのを知りました。ただ、脚本だけをみるとフユは人とコミュニケーションをとっていて暴力的ではないと感じました。臆病でもあり、でも優しい、その一方で他人を信用しきれないものがあるところから孤独さを抱えている人物なのかなという風に思いました」

――役を深めるために準備や研究はいつもされているんですか?

「僕は自分の経験や、ある出来事に対して起こった感情から、その役の性格に結び付けていくことが多いです。ですが、今回はあまりにも自分の生活とはかけ離れている、自分の置かれている環境とは正反対の役柄だったので、ちゃんと調べないと自分がついていけないと思ったので、まずは外側から埋める作業をしていきました。今回はより一層多めに下準備をして挑みました」

――演じていて苦しい気持ちになったり、撮影が終わったあとも役に引っ張られることはなかったですか?

「苦しまないといけないのかなって思っていて。やっぱり楽になってしまうと、どうしても役が抜けてしまいそうな気がしました。常にフユに起こった過去の出来事を思い浮かべ、どんな気持ちだったんだろうって想像しました。撮影が終わったあとに色々消耗していたことに気づいて体調を崩したこともありましたね…。精神的にも色々と擦り減ったものはありましたが、その分熱量のあるお芝居が出来たのかなと思います」

――寂しそうな表情や虚無感を抱えているような様子は、セリフがなくても表情だけで凄く伝わってきたのですが、そういった表情だけで心情を伝えるシーンで意識したところはありますか?

「こういう表情をしようと狙いをもって表現したものはあまりなくて。意識したところだと、動きですね。フユの歩き方や、癖。表現や目線は割と自然に出たもののような気がします。感情を吐き出すシーンやお母さんの影をみて怖がったりするシーンでは演出がついて、『こういうリアクションをしてほしい』、『もう少し大きく表現してほしい』という要求はありましたが、ほかは特に言われたことはなかったです」

――フユの動きというのは監督と話し合いながら決めていったんですか?

「僕が結構勝手にやって(笑)それを監督はよしとして使ってくれましたね」

――秋(小林勝也)、春(中澤梓佐)に出会ってからはフユの気持ちにも変化があったように見えました。そこを表現するために意識した部分は?

「素直でいることかなと思っていて。現場に入って結構早めの段階で自分はフユなんだという意識は強くついていたので、脚本に書いてあることをある程度はなぞりますが、誰かに対してこういう風に思わないといけないという決めつけはなくなっていて、芝居で起こった感情そのままを表現することに意識しました。ただ、撮影は順取りではなかったので、実際にシーンを撮って起こったことを覚えておいて、この前はこういう感情だったからっていうのを思い出しながら次に繋げていきましたね」

――感情でいうと今回は割と自然に出てきたものが多かったんですね。

「そうですね。過去に他の現場の感情を吐き出すシーンで、自分自身はいまそういう気分じゃないのに、それを表現しないといけないってときは無理やり怒ったりとか、泣いたり悲しくなったりする場面もありました。今回の現場ではあまりそういうことがなく、自然に沸き起こる感情からお芝居が出来た感じはあります」

――何度か映画の中で、泣いているシーンもありましたが、泣くお芝居は気持ちを作ったりするのが大変ですよね。林さんは今回泣くお芝居をどんな風に挑まれたんですか?

「ラストのシーンは、撮影の結構前から秋とのことを思い浮かべながら、割とすぐに感情的になってしまうだろうなというのは思っていて。フユの今まであった出来事を全部背負ってのお芝居だったので色々準備しましたが、秋をみた瞬間にもう準備していたものを忘れるくらい、涙が込み上げてきて感情的になってしまって、全部秋に身を任せたいと思えた瞬間でした」

――物語が進むにつれ、秋と一緒にいるシーンが多く見られて、2人の関係性にも心温まる瞬間がありました。秋を演じられた小林勝也さんとのお芝居はいかがでしたか? 

「フユにとっても、僕にとっても秋とのシーンは癒しであったなと思います。秋とのシーンは無邪気に楽しめるし、フユもそうだけど、僕自身のことを小林勝也さんはちゃんと受け止めて下さる器の広い方なので、その安心感もあって凄い楽しくお芝居が出来ました。あと、印象に残っているシーンが、海の桂浜で初めてフユが秋に対して自分の弱みをみせるというか、ちょっとしたSOSのサインを出す場面があるのですが、秋の肩に寄り掛かったときに感じた秋の匂いや、意外とがっちりしている肩とか、そういうものを感じたときに感情的になるところではなかったのですが、一人でぐっとくるものがあって泣きそうになりました」

――今回の現場で吸収したことや刺激を受けたところはありましたか?

「今回の現場は、役者として大先輩の小林勝也さんがいる中でお芝居が出来たことは本当に刺激的でした。“学ぶといってもどこから学べばいいんだろう?”と思うくらいでしたが、勝也さんに『映像のお芝居で意識しているところはなんですか?』と質問をしたら、「難しいことを簡単に、簡単なことを難しく」ということを教えて下さって。ストレートな言葉が心に響いて、他の現場でも意識しながら役を演じようと思えるようになりました」

――改めて映画の見どころを教えて下さい。

「この映画はフユと秋と春が何か生きる上で失ったものをずっと追いかけ続けて自分の心に空いた穴を埋めるように生きている3人が出会い、それをなんとか支え合って、生きていこうとする姿が描かれています。色々な人が満たされないものや、不安なこと、苦しいことを抱えながら生きていると思うので、誰かに対して、弱い部分をみせてもいいんだよということをこの映画を通して感じてもらえたらと思います。沢山の方に観て頂きたいです」

――ご自身の俳優業についてもお伺いしたいのですが、林さんは小学6年生の学芸会のときにされた舞台で、もっとお芝居をやってみたいと志すきっかけでもあったそうですね。林さんにとってお芝居というものをどんな風に捉えていますか?

「自分で自分のことをなかなかコントロール出来ないと思っていて。コントロール出来ないもの同士の関わり合いや、逆に出来ている状態の人達の関わり合いだったり、お芝居は人に見せるものだから完璧じゃなきゃいけないように見えるけど、そうではなくて不完全さみたいなものは普通の人と人との関わりじゃ絶対にないものだと思うんです。凄く深いものがあって、それが楽しいしやめられないなって思います。そして見てくれている方がいて、いいねと言って下さる方がいてっていう世界も凄く面白いです」

――お芝居を始めたころからそういう風に感じたり、考えたりされたんですか?

「始めたころは、自分がどう見られているか、自分がどう演じることがいいことなのか、そういったことしか考えられていなかったです…。でも、この仕事をしていると本当に人との関わり合いが大切になってきます。自分がやりたいことや、自分の立ちたい舞台などありますけど、それは自分の為であり、誰かの為に出来るということを発見出来てからは凄く良い方向に変わって、自分が成長出来たのかなと思っています」

――ほかにも経験を積み重ねてきたからこそ獲得できたと思う、ご自身にとっての強みはありますか?

「普遍性みたいなものなのかなと思っていて。それって役者としてどうなの?と思うかもしれないけど、普通さをもっているからこそ、色んなものを背負える役者になれるのかなって思います。自分と重ねやすいというのがあると感情移入もしやすいだろうし、それは僕の一つの強みなのかなと思います」

――今後やってみたい役どころや表現してみたいものは具体的にありますか?

「最近は、よく童顔と言われることがあるので、それを払拭出来るような大人びた役や、ムードメーカーな役どころ、自分のイメージとはかけ離れた役を演じられたら役者としての幅も広がるし人としてもまた変われるのかなと思うので今後やってみたいです!」


●プロフィール
林裕太/はやし・ゆうた
2000年11月2日生まれ、東京都出身。20年に俳優としての活動スタート。21年、映画『草の響き』で映画初出演。近年の主な出演作として映画『間借り屋の恋』『少女は卒業しない』、「アクターズ・ショート・フィルム3『いつまで』」、『緑のざわめき』など。


●作品紹介
『ロストサマー』
監督・脚本/麻美
プロデューサー/椿弓里奈 中澤梓佐
助監督・編集/関口アナン
企画・製作・配給/889FILM
出演/林裕太 小林勝也  中澤梓佐 廣田朋菜 関口アナン 椿弓里奈 土屋壮  豊満亮 細川佳央 奥津裕也 水嶋ミナ 萩原正道 吉牟田眞奈  橋野純平 松浦祐也

女性のもとを渡り歩くフユ、妻に先立たれひとりで暮らす秋、多忙な夫との生活に虚しさを感じる春の3人は、ある日偶然出会う。季節の名を持つ彼らは、不器用ながらお互いを支え合う。3人は関わり合う中で、それぞれが抱えている喪失感に向き合うようになる。
10月13日(金)新宿武蔵野館ほかにて公開