【INTERVIEW】『先生を消す方程式。』で生徒一の悪役を演じる高橋侃に、デビュー作ともなる今作について聞いた。

【INTERVIEW】『先生を消す方程式。』で生徒一の悪役を演じる高橋侃に、デビュー作ともなる今作について聞いた。


現在放送中のドラマ『先生を消す方程式。』で学校一暴力的な生徒・剣力役を演じる高橋侃(なお)。美容師経験あり、モデル経験ありと様々なバックボーンを持つが、役者として活動するのは今年の春から。1話から強烈なインパクトで作品デビューを飾った彼に、このドラマにかける思いを聞いてみると、新人とは思えない程の熱い情熱とひたむきさが伝わってきた。

撮影/浦田大作 文/竹下詩織

――演技初挑戦とのことですが、この作品に対する想いを教えて下さい。
お話を聞いた時は素直に凄く嬉しかったです。元々事務所に入ってからすぐ映画の作品を撮っていたんですが、新型コロナウィルスの影響で撮影が中断してしまったので、結果的にこのドラマが僕のデビュー作となりました。しかも脚本は鈴木おさむさんで、監督も『GTO』や『ドラゴン桜』を手掛けた小松さん。更に田中圭さんや山田裕貴さんという先輩方と一緒にお芝居が出来ることに対しても誇りに思います。

――オーディションで力役を勝ち取ったそうですね。
僕が演じる力は、学校で一番のワルで暴力的。でも通っている高校はお金持ちばかりの進学校なので、それを踏まえながらオーディションの時は、上品な姿勢だったり、裕福な家庭で育ったような身のこなし方だったり、言葉遣い、目つき、そういったところを全部意識しました。前日はリモートで事務所の方に見てもらいながら、「もっとこうしたほうがいいね」とパターンを3種類くらい持って行ってやらせて頂いて。あとはオーバーにパフォーマンスすることを意識しました。

――ドラマ1話目から衝撃的な内容でした。
正直僕自身、1話の台本を読んだ時に「えー! なにこれ!!どうゆうこと!?」となりました(笑)。でも実は、1話目を演じるにあたってあまり2話以降の台本の内容を頭に入れないようにしていたんです。というのも、力が今後どうなっていくかということより、1話目でどれだけ僕が力としてまず視聴者を引き込ませられるか、そしてどれだけほかの役者さん達とのバランスを付けるか、というところを凄く大事にしたいと思いました。僕の演技がその役柄にとってあまりに弱いと、ほかの生徒達とさほど変わらなくなってしまったり、義経先生とのバランスが取りづらくなったりする。1話目の撮影では、周りのお芝居を観ながら僕の芝居の強弱を調整するなど、特に気を付けていました。そのお陰で、1話目から本当に学校で生活しているような、本当に役を生きているような感じがしたんです。僕にとって凄く大きな経験でしたし、これから役者をやっていく上で役を生きるという感覚をつかめたように感じるいい機会になりました。


――力という役柄に関してはどのように役作りをしていきましたか?
剣力という役を演じる上で、僕は“力”というキャラクターを演じたくはなかったです。“高橋侃が演じる力”でありたかったので、僕と力の境目をどれだけ馴染ませていけるかだと思いました。そもそも僕だったら使わない言葉、やらない行動も、力にとっては全て当たり前にやっていること。まず悪いことが出来る人って、どういう感覚なんだろう、と理解するところから始めました。セリフの言い回しで言うと、先生に向かって「床舐めたら許してやるよ」とか「土下座しろよ」とか。僕にはそんな暴力的な要素はないんですけど、でも人間、心のどこかには本当はそれを言えるなら言ってやりたい、っていう気持ちって絶対あると思うんですよ。その気持ちを引き出して、いかに自分に慣らせていくかが課題でした。言い回しに気を付けるというよりは、いかに自分がその言葉に慣れていけるか、というか。そうするとインする2週間前にはある程度“力像”が出来ていました。逆にインする時には“力像”がなくなっていて、それは僕の中では、“力が入った状態の俺”という自覚があったんです。それをいざ現場で出した時、監督が「ちゃんと力の役柄つかんできてくれたね」って言って下さって。凄く嬉しかったですね。もちろんお芝居としてはまだまだだと思いますが、力として出来る事は最大限、1話目の大事なところで出しきれたと思います。あとは力として、自分と会話をする。例えば「力ってさ、どういうところに一番イラっとくる?」って自分で自分の中の力に質問して、「うーん…俺はこういうところにイラっとくる」っていう会話をずっとし続ける。そうすると、力ってこういう人なんだ、というのがどんどん自分の中に入ってくると感じました。事務所で受けていたレッスンなどで学んだことですが、今回の撮影で本当に実践出来ました。

――撮影が終わっても力が抜けなくなったりはしない?
それはないです。僕は僕でしかないので、全然切り替えてもいないです。もちろん原作もないですし、キャラクターを演じる必要はないので、自分でいたいなって想いが強くて。ただ何が大事かって、僕が力として現場でどのくらいの気持ちで相手に向き合ってるかだと思うんですよ。その熱量や、その気持ちの沸点が何パーセントだったのかっていうのを覚えておいたら、ちゃんと力を演じ続けられるんじゃないかって。


――衣裳など外見についてはいかがですか?
衣裳は大事だと思います。あと姿勢も凄く意識してます。どの角度が一番悪そうに見えて、なおかつ上品であって、頭よさそうに見えるか、と。劇中も金髪ですし、制服もくだけた着方をしているんですけど、その中でも上品に見える着方を考えています。でも正直僕は、外側の役作りっていらないと思ってます。こんなこと新人がなに言ってんだって話なんですけど(笑)。内面を作れば外見に出てくるものだと思うんです。先に外見を作ってしまうとそっちに頭がいっちゃって、肝心なところを見失っちゃうんじゃないかなって。だから僕は力を役作りしていく中で、内面から出てきたもので監督に提案しています。アクセサリーはこのくらいつけて、髪色はこれで、洋服はこんな感じで制服はこんな着こなしをすると思うんですけど、と。そしたら監督がそれでいこうって仰ってくれました。

――自分から提案した?
今回、髪型も衣裳も自前で用意しました。そこは力に対する僕のアプローチのかけ方ですね。人それぞれそのやり方は異なると思うんですけど、今までの僕のバックボーンもありますし、自分なりのやり方が監督に伝わればいいなと思いました。

――役を演じる中で、全話通して突き通したい部分はどこですか?
先程も話した、どれくらいの気持ちで力と向き合っているか、というところ。実際力自身、根っこは凄くいいやつだと思います。でも、その根っこの部分を僕はなるべくバラしたくない。自分が抱えている葛藤みたいなものとどれだけちゃんと向き合って演じられるかだと思うので、そこをわかってもらうために1話目でしっかり印象付けて、最後の結末まで力の感情と気持ちをキープしていきたいです。圭さん演じる義経先生に対しても、どれだけ同じ気持ちで向き合ってられるかが大事だと思ってます。


――実際に田中圭さんと共演してみていかがですか?
圭さんは本当に素敵な方です。「なんでも好きにやれよ」という感じなので、結構好きにやらせてもらっちゃいましたね(笑)。台本ではずっと座ってる場面でも、僕は立って動き回っちゃってます。圭さんの芝居ってそれで変わってくるじゃないですか。でもどんな状況でも圭さんは動じない。だからこそ自分も思い切ったお芝居が出来たなと思います。

――セリフを憶えるだけでも大変だと思いますが?
そうですね、でも僕はクランクイン前のリハーサルの時、もちろんセリフは憶えてたんですけど、監督の前ではわざと台本を見ながら芝居したんです。それは僕の作戦で、クランクインした時とのギャップを監督に見せたかった。本番ではオーバーに怒鳴ったりするんですけど、ドライではそこまで声量など出さず。それにあまり動いてしまうと、一緒に演じる生徒達もその動きに慣れてしまうと思いました。最初からやり過ぎると相手も慣れて新鮮な反応が出来なくなっちゃうんじゃないかって。本番いきなりこられたほうが反射的にビクッてなるだろうし、本気でビビってくれたほうが僕もやりやすいと思いました。自分が相手にやられたとしても嬉しいことなので、意識しました。元々は圭さんがそういう風なやり方をしていたので、これも圭さんを見て学んだことです。ドライの時は圭さんもさらっといくんですよ。でも本番になると本気でくるので、僕からするとそれが凄くやりやすかったんです。

――このインタビューが掲載される時はドラマ放送中ですが、反響は気になりますか?
学園ドラマなので、学校内で話題になってもらえたら嬉しいですね。僕自身、このドラマで飛躍するっていうよりは、僕のお芝居でどれだけこの作品に恩返しが出来るか、という思いがあります。僕達生徒側のパワーが一番必要だと思うし、僕らが圭さん達に思いっきりぶつかっていけば、向こうもそれだけの思いで返してくれると思います。その点で僕は1話目で自分の想いをエネルギーでぶつけられたのかなと思うので、観てる方にもその自分のエネルギーが伝わればいいなと思ってます。


――高橋さんご自身のことについてもお聞かせください。学生時代はどんな学生でしたか?
小中高サッカーをやっていたんですが、高校も強豪校で男子校だったので、共学を経験してないんです。部活にひたむきに打ち込んでいたので、学校生活の思い出って部活しかないんですよね。だから今、作品を通して青春を取り戻しています(笑)。

――過去のインタビューを拝見して、なにか選択をする時に自分の「直観」を大事にされてるように思いました。役者を選択した時の気持ちはどうだったのでしょう。
SHIMAを辞めたのが昨年の9月で、その時は役者をやるって決めていませんでした。でもその時点でSHIMAでやれることは全てやってきました。今までの経験からヘアメイクも出来るし、モデルの仕事もしてたし、今後も色んなことにチャレンジして色んなことが出来る人でいたいなと思っていたんです。でもふと、ずっとこんな風に全部やり続けたら、なんでもない人間になってしまうんじゃないか、と怖くなって。全てがどっちつかずで、これは30点、これは60点、これ70点…みたいな。そんな中途半端なやり方はしたくないな、と気づいて、どれかひとつにしようって決めたんです。その時、役者だけがどうしても捨てきれず、やっぱりチャレンジしてみたいという思いが強くなって。そこで元々役者をやってみないかと言って下さっていたハイブランドのPRの方と食事に行って、「役者やりたいです」と話したら、今の事務所を紹介してくれました。そこでの事務所との出会いが僕にとっては凄く大きくて、役者をやる決意が出来たきっかけでもあります。事務所の社長にお会いした時に、「役者として生きる決意があるなら、ピアスとかそういったものは全て外して、役者の仕事は足し算をしていくものだから。でもあなたは引き算からしていかなきゃいけない」と言われたんです。それから約半年くらい、俺には裸になったらこれしかないんだ、って、ピアスもつけずおしゃれもせず。まずはありのままの自分に慣れようってところから始めました。役者として生きていく中で、今までいた役者さんと同じ道はたどりたくないので、新しい役者像をつくれたらいいなと思ってます。

――今、お芝居の楽しさはどこに感じてますか?
この仕事を始めてまだ少しですが、なんか生きてるって感じがするんですよね。例えば撮休の時に台本を読んでる時や現場でお芝居をしている時、高橋侃としてその場所で生きてるって感じがして。悩んで悩んでわかんなくなるのも役者の仕事だと思いますし、それに向き合っていくのも楽しいですね。そう感じるのは、一度自分の弱みや自分の情けないところを受け入れたからこそかもしれないです。自分をちゃんと知ってあげることが役者を始める前に大事だと思ったので、自分を見つめ直すというか、自分のプライドを一回打ち砕いて、そこからもう一回形成していくという作業をしました。プライドを持ったままの状態だと成長していかない気がするので、人に言われたこととかで一度打ち砕いて、飲み込んで、自分をゼロにしてから出来るプライドが一番男としてかっこいいのかなと思いました。今はいらないプライドみたいなものはなくなったのかなと思います。

――クリエイティブな才能をお持ちなので、制作側にも興味があるのかなと思ったのですが。
映画製作というところに今はまだ重きを置いてないんですが、自分が映画を撮るならこういうところを撮るだろうな、とか、ひとりで歩きながら考えることはあります。こういうシーン、映画にあったらおもしろそうだな~とか。あとは元々ファッションの世界で生きてきたので、ゆくゆくはそれをまた仕事にしていけたらな、とは思ってますね。もちろん役者としてまず1本筋が通らないと始まらないんですけど、それが通せた時に、また二面性、三面性と自分を出していけたらいいなと思ってます。

――そんなバックボーンがあると、現場での見る視点も違いそうですね。
それで言うとヘアメイクも全部自分でやってるし、衣裳も全部、制服以外は自分で用意してるので、今後自分の強みになる部分かなと思います。そのほうがちゃんと役作りも出来る気がしますね。その役を演じる上で、例えば自分で髪型がセット出来ないとかは考えられないです。剣力だったらこんな髪型するだろうなって頭の中にあるので、それを自分でスタイリングしていくことも、力として慣れていく過程だと思ってます。でも今はやりながら課題にもぶつかっていて、例えばセリフもまだ力に寄り添えてないなと感じることも多いので、このドラマを通してそういった課題を一つひとつ乗り越えたいですね。


  ●プロフィール
高橋・侃(たかはし・なお)
1995年10月31日生まれ、福島県出身。高校卒業後上京し、美容専門学校に入学。卒業後美容室SHIMA原宿本店に入社し、わずか2年半でアシスタントから美容師スタイリストへと異例の昇進をする。その間、モデルとしても活動を始め、美容師兼モデルとして約3年間活動した。俳優を志して2019年9月にSHIMAを退社。


  ●作品紹介
『先生を消す方程式。』
脚本/鈴木おさむ
演出/小松隆志 ほか
出演/田中圭 山田裕貴 高橋文哉 久保田紗友 森田想 高橋侃 秋谷郁甫 松本まりか ほか

東大進学率も高い進学校、帝千学園。特に成績優秀な生徒が集められた3年D組の新担任となった義澤経男(田中圭)は、ゲームのような感覚で教師を追い詰めることを楽しむ藤原刀矢(高橋文哉)ら生徒達や、裏の顔を持つ副担任の頼田朝日(山田裕貴)らが義澤を“消す”計画を進める中でも常に“笑顔”で彼らと向き合い、指導していく。義澤はなぜこの学校に現れたのか⁉ 学校を舞台にした壮絶なバトルはエスカレートしていき…。
テレビ朝日系にて毎週土曜よる11:00~放送中