【INTERVIEW】映画『茜色に焼かれる』で、主演・尾野真千子の息子役として出演する和田庵。現場で吸収したことや、この作品とどのように向き合ったのか聞いた。

【INTERVIEW】映画『茜色に焼かれる』で、主演・尾野真千子の息子役として出演する和田庵。現場で吸収したことや、この作品とどのように向き合ったのか聞いた。


映画『ミックス。』、ドラマ『隣の家族は青く見える』などに出演し、着実に演技経験を積み重ねる和田庵。カナダ留学から帰国後、本格俳優デビュー作品となるのは、映画『舟を編む』、『町田くんの世界』など数々の話題作を手がける石井裕也監督最新作、映画『茜色に焼かれる』(5月21日公開)だ。まだ15歳という若さながら、メインキャストに抜擢され、主演・尾野真千子の息子役を熱演。魂を揺さぶられるような人間ドラマが描かれるこの作品と、どのように向き合ったのか話を聞いた。

撮影/浦田大作 スタイリスト/于洋 ヘアメイク/坂本志穂 文/浅川美咲


――『茜色に焼かれる』の純平役はオーディションで獲得したそうですが、オーディションで手ごたえはありましたか?

まず一次オーディションに参加して。その際、役者として今までどうだったか、今後どうしたいのかということをまとめて話した、自己PR動画があったんですけど、それを観た石井監督から絶賛して頂いて。そこで手ごたえは感じました。

――実際に役が決まった時のお気持ちは?

オーディションを受けたその日のうちに連絡が来たんです。でも実際、本当に選んで頂けるとは思ってなかったので、凄くびっくりしたというのと、小学生のころに観た、石井監督の映画『ぼくたちの家族』が好きで、石井監督の作品に出れると決まって凄く嬉しかったです。

――実際に台本を読んでみて何を感じましたか?

R15指定ということもあって、内容的にはわりと大人の話なんですけど、台本を読んだ時は自分のセリフが凄く多かったので、こんなに出来るかなという不安と、楽しみでわくわくしました。

――台本はどのように覚えたんですか?

僕は相手役の声を自分で録音して、それを聞いて覚えます。セリフを覚えるのはわりとすらすら入ってきました。

――今までご出演されてきた作品もそのような覚え方だったんですか?

だいたいはそうですね。元々は母に相手役のセリフを読んでもらったりしてたんですけど。母がいないと、相手役が成り立たないので、自分でやったほうが速いんじゃないかなと思って。小学校高学年ぐらいからはずっとそうでした。


――純平はどういう子だと感じましたか?

実際の僕と凄くかけ離れた部分があって。勉強が出来てまじめな少年っていう感じなんですけど、でも自分を持っている子。僕が通っていた中学校のクラスメイトを意識してやりました。性格も含めてわりと純平と似たような子がいたので。

――石井監督とディスカッションしたことは?

台本を一回全部通して読んだ段階で、ここってどういう感情で、純平がこう言ってるのか? など、わからなかったこととかを監督に尋ねたりはしました。僕はカナダ留学から2020年夏頃に帰ってきて。それで帰国後初めての仕事で、1年半以上役者の仕事から間が空いていたんです。だから僕自身だいぶ緊張や不安などがあったので、色々わからないことがあったらすぐ聞くようにしました。

――尾野真千子さんとの共演はいかがでしたか?

作品を色々見させて頂いていて、尾野さんのことは演技派な方だなと思っていました。でもHuluオリジナルドラマ『フジコ』をみた時からずっと怖い人だなっていうイメージが勝手にあったので、いざ現場でご一緒する時に、ちょっと萎縮しちゃったところがあったんです。でも、空き時間とかに一緒にお話させて頂いたんですけど、凄く優しいし、明るくて。全体の軸みたいに中心にいて、尾野さんのお陰で凄く現場が和んでいた感じがありました。僕自身、初めてのことがいっぱいあって、緊張してたんですけど、尾野さんの演技や、演技に向き合う姿勢とかにつられて、僕もいいお芝居が出来たんじゃないかなって思います。

――初めてのこととは例えばどんなことですか?

アクションシーンは今までやる機会がなかったんです。アクション監督がいらっしゃったので、その方にも色々お話を伺って。やる前は、怪我とかしたりするのかな? と思ってたんですけど、全然そんなことなくて。ドロップキックをするシーンは特に印象に残っています。人にドロップキックする機会ってないじゃないですか。だからなんか凄く新鮮だったのと、あと、ドロップキックしたあと自分も後ろに転ぶんですけど、転び方が凄く難しくて。まだアクションシーンはそんなに慣れてないので、今後アクションがある作品にも挑戦してみたいと思いました。

――尾野さんとは親子という関係性ですが、凄くリアルな親子にみえました。

楽屋でも親しげに接してきて下さったので、現場ではもちろんスイッチは入りますが、そこまで、よし! きりかえるぞ! って感じではなかったんです。だから凄く自然に親子として会話や、喧嘩のシーンのやりとりも出来ました。
――ふたりで食卓を囲むシーンなど、“間”の取り方から、凄くリアルなお芝居をされる方だなと思いました。

僕自身今まで、“間”っていうのが苦手で。オーディションとかでも、沈黙が凄く苦手なので、すぐばっと(セリフを)言っちゃうんですよね。

――それは焦ってですか?

それもあります。あとは、相手的に早く言ってもらったほうがいいんじゃないかなとか思っちゃったりして。それで、今まではわりと早くセリフを言ってたんです。今まで、そんなに“間”に対して意識もしてなくて。でも今回、石井監督に“間”を大切にするということを教わって。だからこの作品では色んなところで“間”をとっていたと思います。 

――恋愛のシーンなど、エネルギーをあげていかなきゃいけないお芝居もあったと思いますが、気持ちのもっていき方はどのように意識しましたか?

がーって気持ちを上げるシーンとかは、ひとりでイメージをする時間を撮影前に数十分、監督がお時間を下さって。それで高ぶらせていました。あとは落ち着かないように、じっとしているというよりかは、結構体を動かしていましたね。ひとりで現場の周りを歩いたりもしました。

――完成作品を最初に見た時にどういう感想を持ちましたか?

自分の演技が凄い引き出されているなと思いました。自分が演じた時に、こういう風に映ってるのかな? ってイメージしてたものと全然違って。

――現場でカメラをチェックしたこともありますか?

することもありました。でも多分7割ぐらい見てなくて。だからこんな風に映るんだ! って感じましたね。

――親子ふたりで自転車に乗って帰るシーン、凄く綺麗でしたね。

あのシーンは本当に色々思い出しました。あそこは最後に撮影したんです。
――順撮りで撮られていたんですか?

バラバラでした。

――気持ちを繋げるのが大変そうです。

そうですね。大変でした。ケイさん(片山友希)と出会ってるシーンのあとに、出会う前のシーンをやったりしたのですが、全然感情が違うので。そういう意味では凄く大変でしたけど、でもその分、色々身についたなとも思いました。

――そういう複雑な部分は、台本に書き込みをしたりして整理するんですか?

しましたね。付箋みたいなものを貼ってメモ書きとかをしました。あとは、台本には、撮影が始まる前に自分でこういうシーンだなと思ったこととか、わからないことは監督に聞こうと思ってマークしてましたね。

――この作品は和田さんにとってどんな作品になりましたか?

これまでとは役柄的にも違って、凄く重要な役を演じさせて頂きました。今まで演技に対してそこまで深く考えてこなくて。今回、撮影期間の一カ月、尾野さんとほとんど一緒に過ごし、石井さんはもちろん毎日いて下さって、学んだことが多くて。今後の糧になる、凄くいい経験になったなと思います。

――8歳で役者を始められたそうですが、どんなきっかけだったのですか?

今所属しているレプロエンタテインメントの、レプロアスターという育成機関にオーディションを受けに行きました。僕は小さい時からわりとテレビっ子で。テレビを見るのも好きだったんですけど、(テレビに)出たい! って言っていたそうです。それで、両親がオーディションに連れて行ってくれて、合格しました。そこから3~4年ぐらい、レプロアスターでワークショップや、少しずつオーディションとかも受けて、初めての仕事ではないんですけど映画『ミックス。』に出演して。その後、『ミックス。』の時に繋がりが出来たディレクターさん達からお声がけがあって、ドラマ『隣の家族は青く見える』に出演しました。

――その後、カナダに留学を?

そうですね。13歳の時にカナダに留学しました。元々兄が僕より3年ぐらい長く、先にカナダに留学してたんですよ。カナダにしたのはそれが理由で。住んでる地域は遠かったんですけど、月に1回ぐらい会いに来てくれたりして。3年間留学する予定だったのですが、コロナ禍だったので、1年半で帰ってくることになって。予定より早く帰国してまたお仕事を再開することになりました。そこからオーディションをいくつか受けたんですが、石井監督のオーディションに行くことになって、『ぼくたちの家族』を思い出して、ああ、この監督だ! って思って。絶賛して頂いた時は本当に受からなくてもいいやぐらいの凄い満足感でした。

――憧れていた世界に入り、いい作品に巡り合え、石井監督ともご一緒出来て、好調なスタートですね。

作品も凄く恵まれているなと思いますし、今回の『茜色に焼かれる』もそうですが、こういうお仕事のあとは、“経験”が次の仕事に生かせるので、今後もこのお仕事を頑張っていきたいと思います。

 


  ●プロフィール
和田庵/わだ・いおり
2005年8月22日生まれ、東京都出身。8歳で芸能活動をスタート、17年の映画『ミックス。』で俳優デビュー。その後、18年にドラマ『隣の家族は青く見える』『フォークロア:TATAMI』に出演した。Instagram: @lespros_iori


    

 ●作品紹介

©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

『茜色に焼かれる』
監督・脚本・編集/石井裕也
出演/尾野真千子 和田庵 片山友希/オダギリジョー 永瀬正敏 ほか
配給/フィルムランド 朝日新聞社 スターサンズ

理不尽な交通事故で夫を亡くした田中良子(尾野真千子)は、女手ひとつで中学生の息子・純平(和田庵)を育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒も見ている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻、花屋のバイトと夜の仕事を掛け持ちしても生きていくのに精一杯、そのせいで純平はいじめにあっている。次々と予期せぬ出来事が訪れる中でも、絶対にふたりが手放さなかったものとは…?
https://akaneiro-movie.com/

5/21(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開