“ものを捨てない”イタリアのちょっと適当で、心地よい暮らし

“ものを捨てない”イタリアのちょっと適当で、心地よい暮らし



イタリア在住のイラストレーター・マンガ家のワダシノブさんが、
イタリアの暮らし・文化・人などの情報をお届け!
今回は、イタリアのインテリアから見えてきた“心地よい暮らし”について。



(イラスト:ワダシノブ)

私の日本の実家は、家族の人数に対して収納が少なすぎたため、家の中はいつも何かがはみ出している状態だった。
その後、夫と暮らし始めた日本のアパートも、いつも物が収まりきらずに何かがはみ出していた。ゴミ箱に、畳んだ洗濯物。こうしたものがいつも視界の端にあることが当たり前だった。清潔だけどオシャレではない家で育った私は、インテリアに興味を持つことなく大人になった。

そんな私がオシャレインテリア国、イタリアに住むことになった。インテリアが好きな人にとって、イタリアは最高の場所だと思う。インテリアショップも多いし、なにより家に人を招いて、部屋を見せることが好きな人がたくさんいる。
私も住み始めた当初は、誰かの部屋に行っては、「素敵!」と興奮していた。褒めると、たいていの人が「もっと見たい?」と、まるで『VOGUE』のルームツアー動画のように、次々と部屋を見せてくれるのだ。

そんなふうに見せてもらった部屋は、オシャレなうえに心地よい場合が多かった。常に何かがはみ出した部屋で暮らしてきた私は、見られて困る場所がない人が多いことに驚いた。
そして、ルームツアーを重ねるうちに、「自分の家も、もうちょっと素敵にしたい」と思い始めたのだ。

素敵な家への第一歩として、「家の中ではみ出ているものを捨てよう」と思い、まずははみ出したものを片付けて、空間を作ることにした。そして、そこにほんの少しの厳選されたものを置こうと思った。
物を捨てれば捨てるほど、部屋はスッキリしていった。ただ、残念なことになかなか思うように行かなかった。スッキリしているけれど、素敵な部屋ではないのだ。
部屋を素敵にするために、見た目はイマイチだけど便利なものを捨てて、見た目のいい不便なものを使うことにもイライラし始めた。

そして、ここでやっと気づいた。イタリアの人はあまり物を捨てないということに。
思い返してみれば、イタリア人の夫も友人も物を捨てずにとっておくことが多い。ただそれを、見えるところに出さないだけなのだ。

「ものを捨てない」ということに注意して、イタリアの家を観察してみると、素敵な家が素敵である理由は簡単だった。結局、「収納」なのだ。
イタリアの人たちは、部屋の広さを多少犠牲にしてでも、扉のついた収納を確保する。そして、見えて欲しくない物は扉の中に隠し、見せたいものだけを出しておく。

わかりやすい例が、ゴミ箱だ。イタリアの家庭でゴミ箱の定位置は、キッチンの流しの下にある扉の中。家の中でそこにしかゴミ箱を置いてないから、ゴミを捨てるときはいちいち流しまで行って、扉を開けて、捨てないといけない。
少し面倒でも、見せたいものしか見えるところに置かないのだ。オシャレなゴミ箱を買うことはしない。だってそんなの高いし、見えるとこに置かなければいい話だから。

この「見えないところに隠しておく」ことが、日本の家だと難しかったのだ。
高温多湿の日本では、流しの下にゴミ箱は置きにくい。日本の実家や夫と暮らしていたアパートは、壁や床の素材が問題で大きな収納を設置することが難しかった。そのため、どうしても見えて欲しくない物がはみ出してしまった。そして、きっとそんな環境だからこそ「オシャレ=引き算説」が推奨されるのだろう。

「素敵な部屋は、いいものを少しだけ置いた部屋」という私の思い込みは、日本の収納事情から来ていたんだなと思う。実践してみてわかったけど、「最初から隠さなくてもいいいものだけを持つ」という発想は、適度なら美しいけれど、やりすぎると疲れてしまうのだ。

一方イタリアでは、古くても使える物は捨てずにとっておく。そして、お金にシビアな人が多いから「いいもの=高いもの」を買う人は少なく、適当に物を買って長く使う。もし、見た目が気に入らないなら、仕舞っておけばいいだけだ。

このことに気づいてから、「いいものだけを少なく持つ」という考え方はやめた。今は、基本的に物は買わないし、捨てない。もし必要なら、楽しく使える物を適当に選ぶ。そして、使わないときは仕舞っておく。
ストイックな考え方を手放したら、だんだん自分にとっての心地よさが見えてきた。まだまだ理想には遠く、物置もベッドの下にもぎゅうぎゅうだけどはみ出てしてはいない。それでいい。それでも十分素敵な部屋に近づいた気がするから。

 

Written by wadashinobu
ワダシノブ

イラストレーター・マンガ家。広島県生まれ、イタリアのトリノ在住。
日本で出会ったイタリア人パートナーの帰国に付いて、2007年からイタリア生活を始める。
イラストのほか、noteやPodcastでイタリア生活や趣味について発信している。
Twitter @shinoburun
notehttps://note.com/shinobuwada
YouTubehttps://www.youtube.com/channel/UCqLFGJZJN5htqGIdhSCD3Vg

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