【INTERVIEW】映画『「あしたのわたしへ」私の卒業-第3期-』の主演・永井彩加。芝居の基礎から学んだ大きな経験を語る。
若手の発掘・育成を目的とした「私の卒業」プロジェクトを映画化した、『「あしたのわたしへ」私の卒業-第3期-』がYouTubeなどのプラットホームで配信中だ。本作の出演は、プロアマ問わずに、半年間にわたるオーディションによって選出され、役を勝ち取りたいという強い意志を持った若者達が切磋琢磨しながらワークショップを受ける様子もYouTubeで視聴することが出来る。オーディションに参加した741名の中から見事、主演をつかんだ永井彩加。静岡県伊東市を舞台に、進路や恋愛に葛藤する、若者達の苦悩や人生の岐路を描いた青春群像物語の中で、永井はラジオパーソナリティをしている女子高生・岸菜穂子を演じている。
撮影/友野雄 文/浅川美咲
——YouTubeでオーディションドキュメンタリーの様子を拝見させて頂きましたが、改めて凄いプロジェクトですよね。
「今思うと本当にあっという間でしたが、凄く贅沢な時間だったと思います。でも、やっていた時は本当に必死で、もがいている感じでしたね。次のワークショップまでに何をしていたかが試される訳じゃないですか。台本を読んでいて、どうしよう? と考えていても、何も浮かばなくなってしまったこともあって…。むしろ普通に生活していて、ふと、あ! こうやってみようかな? と思うことがあったりもしたので、どうなるか分からないまま、とにかくもがいて、なんとかやるぞ! という感じでした」
——YouTubeで見ている限り、永井さんはあまり緊張していないのかな? と感じましたが。
「緊張しているのはワークショップの2、3日前ぐらいで、その場に行くと、ぐっと集中していました。終わった後は集中のスイッチが切れて、バタッとなるくらい、集中していた感覚がありました」
——ワークショップの中で、高石(明彦)プロデューサーに言われて残っている言葉はありますか?
「『もっと役について勉強して下さい』と言われたことですね。自分の中の姿勢がまた一段と変わったきっかけになりました。それまでは結構『よくなってるよ』『今のいいね』って言われる機会があったんですが、途中で自分の詰めの甘さが出てしまって。ワークショップ前日の結構ギリギリにプロットが届いて、時間に限りがあったということもあり、プロットに書いてあることを調べ尽くせずにいってしまったんです。それはやっぱりどこかに出てしまうんですよね。その言葉を頂いた時に、仕事としてやっているのに、甘い姿勢でやっていたんだということに気づいて。喝を入れてもらいました」
——凄くいい経験ですよね。ワークショップを経てどんどんお芝居のやり方をつかんでいく感覚ですか?
「そうですね。凄く丁寧に、台本はこういう風に出来ているという製作側の視点から教えて頂いて。だから役者はこうやって台本を理解しなきゃいけないなど、最初は演技せずに授業みたいに教わりました。そのあとは演技しながら、目線はどうするべきかなど教えてもらって。日常で人の目線がどうなっているのか、距離感でどう変わるのかをたくさん見てきて下さいと言われ、アンテナを張って生活して、また次のワークショップがあって…と段階を踏んでいく。本当にためになりました」
——作品の中心人物である、菜穂子役に決まった時の気持ちは?
「菜穂子は自分と似ている部分があったのですが、“菜穂子としてどうするか”を考えなきゃと思いました」
——役が決まってから、台本の読み方を変えたりしましたか?
「群像劇で、色んな子達のお話がまぜこぜに入っていたので、オーディションの時から、私は台本を3つの物語に分けて自分で印刷して作っていたんです。全部を流れで読むのではなく、3話としてそれぞれを読み込んでいたので、役が決まってからはその比重を菜穂子に置いた感じです」
——父親が議員で、父の勧めでラジオパーソナリティをしている女子高生という菜穂子をどのように捉えていましたか?
「とにかく、いつ見られても口角が上がっているように意識しているとか。お父さんが地元で有名人だから自分はこうしていなきゃ…という思いが強くて。人気者だし、みんなを平和にまとめて、気を遣える子。だけど、笑顔でいなきゃいけないということが、逆に呪いになって自分をがんじがらめにしていて。みんなにいい顔しているくせに自分のことが分からないとか…」
——友達から「さすがだね菜穂子」と言われた時に、何かを抱えていることがお芝居から凄く伝わってきました。
「『ありがとーう!!』って素直に喜べる子ではないなって思ったんですよね。褒めてもらっているけど、自分はそんなによく思ってないとか、少し自己否定があるのかなって」
——演じるのが難しかったシーンはありますか?
「小室山での、洋輝君(織部典成)とのシーンですね。洋輝君が喋っているので、菜穂子は聞いているシーンなのですが、目線の場所をどこにするかとか。自分のセリフがないからこそ難しいなと感じました。どこを見ているべきか、そういう時は、こっちを向いたほうがいいよねとか、そういうことをお話させて頂いて助けてもらいました」
——高石プロデューサーが「そのシーンの中にいるみんなに役割がある」と仰っていましたね。
「映画を観ていてもセリフを喋っている人ではなく、聞いている人に焦点が当たっていたりして。やっぱりセリフを受け取っている側のリアクションで伝えることも凄く大事だなって思いました。喋っている人に対して、がっつり見て聞いているのと、喋っている人はこっちを見ていないけど、がっつり見て聞いているか目線を外して聞いているか、それによって言葉をどう受け取っているか変わるので、凄く勉強になりました」
——菜穂子は大事なことに気づかせてくれる言葉を言うシーンも多いです。演じていて一番印象に残っているシーンは?
「ラジオの最後のところは、ひとりで喋っているんですけど、色んな人の顔が思い浮かんできて、凄く感情が動いて一番印象的でした。あとは漁港で、おとちゃん(三原羽衣)に自分の思っていることを言うシーンです。前に洋輝から言葉をかけてもらった場所で、今度は自分がおとちゃんに言葉をぶつけるシーンで。初めて人のためになりたいという想いにエンジンがかかってセリフを言ったところだったので、そこも印象的でした」
——最後のラジオのシーンは特に、菜穂子が抱えていたもやもやが晴れたような表情でした。
「何度か出てくるラジオのシーンは、ほとんど同じ日に撮っていたんです。最後に『ありがとうございました』って言い終えるシーンは、晴れやかな笑顔で、と書いてあったので、そこに向けて変わっていけたらいいなと思いながら撮影していました」
——撮影場所は静岡県伊東市ですが、お芝居をする上でロケーションはどう感じましたか?
「そのシーンを支えてくれる景色、例えば、太陽が綺麗に差し込む場所を凄く細かく探して下さっていて。景色も本当に大事だなって思いました」
——洋輝役の織部さんとのお芝居が一番多かったと思いますが。
「1歳上で本当にお兄ちゃんみたいな感じでした(笑)。素敵な方で、待ち時間にずっと話していて、いい意味でリラックス出来ました。現場に行ったら、今はもうちょっと距離感があったほうがいいかな? とか、洋輝と菜穂子の関係性を確認出来たので、演技をよくするための前段階として、コミュニケーションがとれて本当に感謝しています」
——初めは少しとげがあった洋輝ですが、菜穂子と出会って心を開いてく感じがよかったですよね。
「でも凄く難しかったです。横断歩道のシーンがふたりの最初のシーンで、今、洋輝と菜穂子はどのぐらいの距離感なんだろう? どのぐらいのテンションでやるのが正しいんだろうか…?(笑) って」
——撮影場所でみなさんの演技も見られていましたが、特に刺激を受けたシーンは?
「翔太(立石ケン)が朱莉(片田陽依)に想いを伝えに走ってくるシーンが、初めてみた撮影でした。まだ自分のシーンは始まっていなかったし、どういう風に撮影が進んでいくのか全く分からなかった中で、そのふたりがお芝居しているのを見てスイッチが入りました。それに、ふたりはクライマックスとなるシーンをクランクインで撮影していたので難しかったと思うんです。それを見て背筋が伸びました」
——オーディションの時に、「なかなかある壁を乗り越えられないと思っていた時に、このオーディションの話があって、今回でステップアップしたい」とおっしゃっていましたが、この作品を通してその壁は乗り越えられそうですか?
「なかなか壁を乗り越えられないというのは作品のオーディションで、最終審査で落ちてしまうことがあって。何が足りないんだろうって分からなくて凄く悩んでいた時期にこのオーディションの話を聞いたんです。最終審査ってなると凄く無駄な緊張をしてしまうんですよね。色んな人が見ていて、私どう見られているのかな? と、演技をする時も、開放しきれないまま小さくなってしまったり空回りしてしまったりすることがありました。でもこのプロジェクトを通して俳優は作品のためにあるという考え方にシフトチェンジされたので、現場やオーディションを受ける姿勢、役をどうするためにここにいるのかなど、考えることが出来るようになったのが凄く大きいです」
——完成作を観てどう感じましたか?
「完成作は5回ぐらい観ました。最初は客観的に観ることが出来なかったのですが、映画館で観て、初めて自分の作品でぽろっと…。だから作品としても好きだし、恵まれた作品に出会えたと改めて思いました」
——配信サイトでも観ることが出来るので、色んな方々に観てもらいたいですよね。
「この作品は10代の岐路に立っている方にはもちろん、幅広い世代の方に届くと思います。最後の写真撮影のシーンも、学生時代を思い出しましたという感想も頂いていて。懐かしさも感じられると思うし、暖かい光が差し込むような素敵な作品だと思うので、幅広い世代の方に是非観て頂けたら嬉しいです」
——永井さんご自身についても聞かせて下さい。お芝居を始めたきっかけは?
「きっかけはスカウトです。中3の受験シーズンの時に声をかけられて。両親に興味があるなら『電話してみたら?』と言ってもらえたので、高校が決まってから本格的に始めました」
——今後挑戦してみたい役柄はありますか?
「やっぱり朝ドラはひとつの大きな目標です。あとは、自分と重ねやすい役をやることが多かったので、ちょっとぶっ飛んだ役や、普通の女の子じゃなくて、変わった職業や特別な才能をもった子など、事前に勉強することがたくさんある役に挑戦してみたいなと思います」
●プロフィール
永井彩加/ながい・あやか
2002年2月22日生まれ、埼玉県出身。女優として、映画、ドラマ、CMなどで活躍中。21年に映画『茜色に焼かれる』に出演。映画『「あしたのわたしへ」私の卒業-第3期-』で主演・岸菜穂子役を演じている。
●作品紹介
『「あしたのわたしへ」私の卒業-第3期-』
脚本/松本美弥子 高石明彦
監督/高石明彦 北川瞳
出演/永井彩加 織部典成/三原羽衣 南北斗/立石ケン 片田陽依 足川結珠 小高サラ 加藤菜津 宮本和奏 道北陽菜 中正夕愛 木村魁希 簡秀吉 奥野太陽 桜木雅哉 さかたりさ 伊藤雛乃 菅田愛貴 八木拓海 村田寛奈 島太星 ほか
高校三年生。永井彩加(永井彩加)は議員の娘であり、父のつてでラジオのパーソナリティーをしている。ふと自分の肩の力を抜ける漁港にいると、半年前、父親の早期リタイヤで伊東に来た転校生・清水洋輝(織部典成)が話しかけてきて、徐々にふたりは変わっていく。
一方で、ダンサーを夢見て上京を考えていた里見おと(三原羽衣)はバイト先で、不登校のクラスメイト・萩原隆(南北斗)に会う。両親がおらず、萩原が祖母の介護をしていると知ったおとがとった行動とは…。
付き合っていた角野朱莉(片田陽依)に突然別れを告げた山岡翔太(立石ケン)。実は、父が病床に倒れ、干物屋を継ぐ決意をし、夢のために東京に行ってしまう朱莉と別れる決意をしたのだ。そんなことを知らない朱莉は、昔から翔太と家族ぐるみで仲のいい稲本舞(足川結珠)が翔太のお店を手伝っているところを目撃してしまう。
YouTubeなどのプラットホームで配信中
https://www.youtube.com/channel/UC6BmvlHvuc4FVG7XjDrVZoQ
「私の卒業」プロジェクト公式@sotsupro