【インタビュー】一級建築士が「シンプルな暮らし」を楽しむフランス生活で得たもの、失ったもの【前編】


「フランスのナント」と聞いて、どこにあるか思い浮かぶ人はどのくらいいるでしょうか。ナントはフランスの西部に位置し、パリからは電車で約2時間半、フランスを横断して流れるロワール川の河畔に位置する歴史ある地方都市です。そんなナントでフランス人のパートナーと2人の子と家族4人で暮らすのが、YouTubeのチャンネル登録者数12万人超のNolie(ノリ)さんです。

YouTubeで見せるNolieさんの姿はほんわかとした雰囲気ですが、一級建築士の資格を持つ才女。大学卒業後は7年間、日本の建築事務所でバリバリと働いていた彼女が、なぜフランスへ行こうと思ったのでしょうか。
また、そんな彼女がなぜ今、YouTubeというステージを選んだのか。そして、異国の地で2人の子を育てつつ、YouTubeにVoicyにと配信を続ける“タフさ”の原動力とは?

日本に一時帰国中だったNolieさんにこれまでのこと、そしてこれからのことなど幅広くインタビューしてきました。今回は、フランスに留学するきっかけやフランス人のパートナーとの出会いについて語ってもらいます。

 

「仕事が第一」な日本の暮らしに疑問

――一級建築士の資格があるのは、それだけですごいことですけど、その資格を持っていつつ、なぜフランスへ渡られたんですか?

nolie もともと日本の大学で建築を学び、その流れで建築業界に入りました。仕事をしていくなかで「資格はあったほうが有利だし、将来の選択肢も広がるので、(一級建築士の資格を)取れるうちに取っておこう」と思い、勉強を始めました。
ただ、一級建築士の資格の勉強はちゃんとやらないと受からないものだし、忙しく仕事をしながらの勉強はなかなかハードで。なんとか頑張って、勉強し始めて3年ぐらい経った27歳で合格したんです。

その後、学生時代から「海外に一度は住んでみたいな」という思いもあり、資格に合格したことで一区切りついたので「あ、このタイミングで海外に行ってみよう」と思いました。
日本の暮らしって、生活のなかで「仕事」が第一優先になりがち。そこにちょっと疑問に感じながら生活していたんです。それもあって「海外に行って、もっとシンプルに暮らしを見つめ直したい」と思って、シンプルに暮らしを楽しんでいる国民性のイメージがあるフランスに行こうと決めたんです。

――渡仏したとき、フランス語はどのくらい喋れたんですか?

nolie  2016年、29歳で渡仏したときは、フランス語はほとんどできない状態でした。というのも、7月末にフランスに行ったんですけど、結局、仕事を辞められたのがその年の6月。本当にギリギリまで仕事してたんですよ(笑)。仕事をやりつつ語学の勉強やフランスの大学院に入るための準備を進めていた感じだったので、語学力もそこまで伸びなくて。


▲卒業設計のプレゼンテーション。審査員を前に30分の発表をした。

言葉がわからなかったので、最初の1年は結構きつかったです。当たり前ですけど、すべての授業がフランス語。でも、いつか海外に住んでみたいと思って、社会人になっても続けていた英語学習が功を奏して英語が話せるようになっていたので、英語が喋れる子を見つけて助けてもらいつつ、なんとかやっていきました。

仕事も7年していたし、建築の知識はあったので「建築を通して、現地の文化と言葉を学ぶ」という感じで、現地の学生とは逆のアプローチで学生生活を送りました。結局、最初の1年で、語学はわりと大丈夫なくらいにはなりました。
フランス人のパートナーに出会ったのもその頃です。出会ったのは30歳のとき、出会って2年後に第一子を出産しました。ただ、在学中の妊娠・出産だったので、新生児を横に置きながら卒業論文を書いたり、半年間休学して息子が生後10か月ぐらいで大学に復帰したりとバタバタでした。


▲第一子妊娠中は体調不良のなかでも必死に卒業論文の執筆。

――パートナーの方とはどこで知り合ったんですか?

nolie  私の友人が開いたホームパーティーで出会いました。パートナーはもともとフランスの東のほうの人で、仕事でナントに来て2年目ぐらい。最初からコミュニケーションはつたないながらもフランス語でしていましたね。
妊娠がわかった段階で「PACS(パックス)」というフランスの事実婚をしました。それが2018年12月のことです。このPACKというのがフランスならではの制度でして、税制上も法律上も家族として守られる制度で、日本で言う「結婚」とほぼ変わらない内容なんです。

 

コロナきっかけでYouTubeデビュー

――第一子を2019年4月に出産されて、大学院を卒業されたのがいつになりますか?

nolie 2020年夏です。そのタイミングがまさにコロナの時期とかぶるんです。コロナ禍前は、自分のキャリアを考えて、卒業後はパリに家族で引っ越ししようと思っていました。パリのほうがインターナショナルな設計事務所が多いので、外国人である私もスキルを活かしやすい。なので、家族でパリに引っ越して、そこで私は建築の仕事を見つけて、彼は同じ会社でエリアだけ移動するみたいな形で調整できそうという話で。


▲大学院修了式の日、大学の前にてワインで乾杯。

でも、コロナになって、フランスはロックダウンもかなり厳しかったので「この状況でパリに行ってもどうなんだろう……」ということになって。「それだったらナントにこのままいたほうが家族として心豊かに過ごせる。それならこのままナントに住み続けよう」と。
このときYouTubeを始めて1年くらい経っていたので、私はこのままYouTubeを頑張ってみようと決めました。だから、コロナがなかったら、今頃パリで建築の仕事をバリバリしていたかもしれないし、YouTubeをこんなにしていなかったかもしれない。そう思うと不思議ですよね。

――Youtubeを始めたきっかけは?

nolie 半年間休学していたとき、その当時、息子は生後4か月ぐらいだったんですけど、手がかからない子で、単純に暇で時間もありまして。渡仏してからちょこちょこブログは書いていたんですけど、なかなか定期的にアップできず中途半端になってしまっていたんです。もともと、私は文章を書くよりも「しゃべるほうがどちらかというと好き」ということもあって「なら、このタイミングでYouTubeを始めよう!」と。

最初の頃は、フランスに住んで経験したさまざまな理不尽なことで溜まったうっぷんを「日本語で誰かに伝えたい」みたいな思いがあって、おしゃべり系の内容が多かったんです。家族が増えていくなかで、次第にVlog(動画ブログ)のほうの需要が増えてきました。
しゃべる系だと、どうしても真面目な話もしてしまう。そうなると、Vlogのほのぼのした雰囲気の温度差というか、動画としてのギャップが出てきてしまって。そこで、もうひとつチャンネルを作るかどうしようかなと思っていたところに、Voicy(音声プラットフォーム)さんからお声をかけていただいたので、すみ分けして2021年から今の形に落ち着きました。


▲フランスのリアルを知ることができると人気のチャンネル。

――YouTubeですが、フランス語字幕が付いているのが特長的だなと。

nolie 最初はフランス語を学びたいという人にも、日常会話の雰囲気を知ってもらうことができる動画、というのを意識して作っていました。私の動画をきっかけにフランス語の勉強を頑張っているという人もいるから、動画を編集する時間はかかりますけど、YouTubeの字幕機能でフランス語字幕をつけるのを2年ぐらいやっていて。
でも、だんだんと家族や友人などのフランス人も見てくれているから、今度は日本人が話している日本語の部分にも、動画によってはフランス語字幕を付けるようにしていて。フランス人が見ても、日本人が見ても、日本人でフランス語が学びたい人が見ても、楽しめるようなコンテンツ作りは考えていますね。

 

Voicyでは日々思うことを発信

――Voicyに関してはどんな制作工程なんですか?

nolie Voicyはどこでも気軽に録音できるんです。マイクさえあればカフェとかでも気兼ねなくできます。編集もしないので、YouTubeに比べたら楽にアップできている感じですね。いつもは、だいたい日々生活をしているなかで「この話、面白そうだな」というのをメモ帳にためてあって、録るときに「あ、今日はこの話をしよう」と決めて話すような感じです。

――日本にいるときからSNSをアクティブに利用されていたんですか?

nolie 日本で働いていた建築設計事務所が、設計だけでなく、企画もやるしPRもやるしと、幅広く働くことを求められる職場だったんです。
「◎◎線の◇◇駅徒歩5分のこのエリア、どういう層の人が住んでいるのか?」というリサーチから始まって、「では、このターゲット層が求める物件とは?」と企画を立て、それを施主の方にプレゼン、その企画が通ったら、ようやく設計の仕事がスタート。

さらに、設計の仕事が終わって建物が建ったあとに、その物件をPRする仕事までやっていました。PRというのが、つまりFacebookやInstagramのページを作って、「この町に住みたい人に、どういうふうに告知するか」という部分までやっていたんです。
当時は幅広い業務が大変でもあったんですけど、振り返ってみると、そこで得た「作るだけでなく、どういうふうに届けるか」みたいな経験が生きていて。そういうことを考えるきっかけになる事務所だったなと思うし、今につながっています。建築デザインだけの仕事をしていたら、今みたいな仕事につながっていなかったなと。そのときの経験がわりと今、生きていますね。

*インタビュー後編は4/17(月)公開予定です。

Nolie/のり

フランスでのリアルな生活を、日常ブログや実際に体験したエピソードなどを通してYouTube『Nolieフランス四人暮らし』で紹介している。フランスの食卓の様子や休日の過ごし方など日常のVLOGをアップし、その豊かでほのぼのとした空気が人気を博し、チャンネル登録者数は12万人を超える。日本の大学を卒業後、設計建築事務所で経験を積み、27歳で一級建築士の資格を取得。「海外でシンプルな暮らしを体験してみたい」という思いから2016年に渡仏。フランスの建築学科の大学院に留学し、語学を学びながら研鑽を積む。大学院在学中にフランス人のパートナーと出会い、第一子を出産。育児のため途中休学を経て、2020年に卒業。休学期間中に『Nolieフランス三人暮らし』でYouTubeデビュー。2021年に第二子を出産し、現在の形にタイトルを改めた。YouTubeのほか、音声メディアSNS『Voicy』やInstagramでの発信も行っている。
YouTube Nolie / のり フランス四人暮らし
Voicy 人生を「逞しく、軽やかに」生き抜くラジオ
Instagram @nolie_a_nantes

※本記事は、WANI BOOKS NewsCrunch 一級建築士が「シンプルな暮らし」を楽しむフランス生活で得たもの、失ったもの(2023.4.2)を、加筆編集したものです。