【インタビュー】渡仏7年目の日本人が感じた 切り替え上手なフランス人の国民性【後編】


フランスの地方都市ナントから、フランス人のパートナーと2人の子、家族4人での暮らしをYouTubeやVoicyで発信し人気のNolie(ノリ)さん。日本の建築事務所で働くなかで「海外に行って、もっとシンプルに暮らしを見つめ直したい」と思ってフランスへ。

コロナきっかけでYouTubeデビュー、さらにVoicyでもフランスのリアルな生活の様子を紹介しています。そんなNolieさんにインタビューして、フランスと日本の違いをさまざまな面から教えてもらいました。

*インタビュー前編はこちら

 

フランス人は過去への反省よりも「これから」が大事

――2016年に渡仏されて、今年で7年目。フランス、そして日本の良いところ、悪いところを聞かせてください。

nolie このテーマに関しては、何時間でもしゃべれるぐらいにいっぱいあります(笑)。
日本人は四角四面にカッチリしているのが良いところでもあり、悪いところでもある。ルール内におさまっていればすごくスムーズだけど、少しでもルールをはみ出ていると絶対にアウトで、受け付けてくれないみたいなことがあると思うんです。

でも、フランスはそういうときに融通が利くことも結構あります。例えば、大学院に通っているときに試験を受けられなかったことがあって。日本だったら事情があっても「試験日に受けていないから、あなたはもうアウト」で終わりだと思うんです。
だけど、フランスの学校だと「こういう事情で行けなかったんですよ」と学生課に話に行ったら、「メールで送って。上の人に通すから」と言って追試の対応をしてくれたことがあって。その人の事情を考えて融通をきかせた行動をとってくれるところは、フランスの良いところだと思います。


▲フランス生活の様子:第一子が生まれて初めてのお出かけ、ブルターニュ地方のお城へ。

一方、担当者の機嫌が悪いときにあたると泣きそうになったりすることも……。産後1か月で子どもを連れて病院に行かないといけないことがあって予約していたんです。ただ、これもフランスあるあるなんですけど、その日、街中でデモがあって、その関係で公共交通機関が麻痺。
その日は早く家を出ていたので「バスが迂回したとしても、病院にはなんとか着けるな」と思っていたのに、バスの運転手が道を間違えて行き止まりの道に入って……、動けなくなって10分くらい閉じ込められてしまって。途中、ベビーカーを押しながら走ったものの、やっぱり間に合わなくて「5分遅れる」という連絡を病院に入れたんです。
そうしたら、電話に出た秘書が事情を聞いて「ハァ~」と溜息をついて「それ以上遅れないでよね!」とすごく機嫌悪く、まるで自分の子どもを叱るように言われたんです。産後1か月でホルモンバランスの関係で情緒不安定なのもあって、あのときは泣きましたね。

――在仏の日本人が聞いたら、みんな大きく頷いて「あるある」って言いそうなエピソードですね。

nolie そうなんです。たまたま担当者が機嫌が悪いときに当たると大変。しかも、日本ではバスが道を間違えるとか、ありえない話じゃないですか(笑)。そういうことがフランスでは起きるし、それが重なったりすると「今日はとことん運が悪かった日。これは自分では避けられない。しょうがない」と思うしかない。

フランス人って、起きたことを振り返って「ココでこうしておけばよかった」と思うのではなく、何か起きたときに「じゃあ、そのあとどうするの?」に重きが置かれている。日本人は「今後そうならないように気をつけよう」と反省するけど、フランス人は「そうなっちゃったから、このあとどうするの?」っていう感じ。
それが良いところでもあるし、悪いところでもある気がしていて。「なんであのとき、こうしなかったのか」みたいに過去を責める人はあんまりいなくて「しょうがないよ。じゃ、どうしようか?」と切り替えが早い人が多い気がしますね。

 

フランスでは自分の意見がないとバカにされる

――フランスは個人主義とよく言われますけど、それは感じますか?

nolie 「自分はこうしたい!」というのがハッキリしている人は、フランスは暮らしやすいと思います。フランスでは会話をしていても「これに対してあなたはどう思う?」とか、すぐに意見を聞かれる。そのとき「他の人と同じです」では通りません。自分がどう考えているのかを常に持っておかないと、バカにされるというか。

――それは子どものうちから教育されているからですか?

nolie そうだと思います。学校でも家庭でも「あなたはどう思うの?」ってことを求められる。親と子の意見が違っても、そこは構わない。「あなたはあなたの意見、親と一緒、みんなと一緒じゃなきゃいけない」という視点はない。なので、自分の考えを小さいときから持っている子が多いのかなと思います。

――フランスと日本、子育てに関しての比較はどう思いますか?

nolie いま日本に来ていて思うのは、やっぱり「日本のお母さんへの負担はすごく大きいな」ということ。フランスは、すべてにおいて母親がしなきゃいけない、というような固定概念が日本ほどないし、そもそも父親も母親と同じくらい育児ができる環境が整っています。
どの家庭でも夜7時には家族が揃っているという感じなんですよね。子どもを迎えに行くのも、時短じゃなきゃ行けないわけでなく、普通に定時に上がって普通にお迎えに行ける。それは男女ともそうなんです。
フランスはゆるく時間が流れている。だから、わりと余裕を持っていろんなことができているのはあるかと。日本で子育てしていたら、私もきっといっぱいいっぱいになっているんじゃないかなと思います。

――パートナーの方は何時から何時くらいでお仕事を?

nolie 朝は8時くらいから。在宅か、お客さんのところの出先かという感じで。仕事しているのは8時から18~19時くらいで終わる。20時までいっちゃうと謝られます。「仕事が調整できずに遅くなってごめんね」と。日本だと20時で謝るってなかなかないと思うんですけど。

――昨年は第二子の出産がありました。まだ生まれて間もないわけですが、今後の展望などはありますか?

nolie 現状はYouTubeが基軸にはなっているので、それを続けつつ、次のステップをどうするのかっていうのを考えているところです。まだ具体的に何をというのは決まっていないんですけど、いつかの未来のために準備はコツコツしようと思います。
日本での社会人時代に、いつか役に立つかもと続けていた英語学習もそうだし、一級建築士の資格取得や、フランスに行くためにワーホリでなく大学院留学を選んだのも、将来の選択肢がより広がるからと思ったからです。

2020年にコロナ禍になって世の中が一変してしまったとき、舵を切り直してその変化に対応できたように、これからも時代の変化に対応できるように「今できることをコツコツやるのみ」かなと思っています。ちなみに、今は将来フランス語関連の仕事もできるように、日々フランス語の勉強に力を入れています。


▲フランス人に人気のバカンス先【イル・ドゥ・レ】にて。

――Nolieさんの行動力とそれを形にする力がすごいですね! 自分を動かしている軸ってなんなんでしょう?

nolie フランスに行くときに、いろんな人に言われたのが「なんで一級建築士の資格まで取ってキャリアを捨ててフランスに行くの? もったいない」と。でも、私の人生だし、他の人はそう言うかもしれないけど「人生一度きりだから、自分の思うように生きたいな」と思うんです。それが私の軸にあることなのかもしれません。

――フランスに行くという決断を、あのときにして良かったなと思いますか?

nolie 良かったですね。やって失敗だったら失敗でしょうがない。でも、私はやらずして後悔するほうがイヤなんですよね。フランスに行くときは正直怖かった。知らない世界で、知らない環境で。でも、あのときに躊躇(ちゅうちょ)して踏み出していなかったらすごく後悔していただろうなと。人生は一度きりですから、やりたいときにやっておかないと思っています。

 

Nolie/のり

フランスでのリアルな生活を、日常ブログや実際に体験したエピソードなどを通してYouTube『Nolieフランス四人暮らし』で紹介している。フランスの食卓の様子や休日の過ごし方など日常のVLOGをアップし、その豊かでほのぼのとした空気が人気を博し、チャンネル登録者数は12万人を超える。日本の大学を卒業後、設計建築事務所で経験を積み、27歳で一級建築士の資格を取得。「海外でシンプルな暮らしを体験してみたい」という思いから2016年に渡仏。フランスの建築学科の大学院に留学し、語学を学びながら研鑽を積む。大学院在学中にフランス人のパートナーと出会い、第一子を出産。育児のため途中休学を経て、2020年に卒業。休学期間中に『Nolieフランス三人暮らし』でYouTubeデビュー。2021年に第二子を出産し、現在の形にタイトルを改めた。YouTubeのほか、音声メディアSNS『Voicy』やInstagramでの発信も行っている。
YouTube Nolie / のり フランス四人暮らし
Voicy アラフォーフランス生活奮闘記
Instagram @nolie_a_nantes

※本記事は、WANI BOOKS NewsCrunch 「しょうがないよ。じゃ、どうしようか?」――切り替え上手なフランス人の国民性(2023.4.3)を、加筆編集したものです。