【生きづらさを乗りこなすヒント】「自分本位」ではなく、「目的本位」で生きてみる

【生きづらさを乗りこなすヒント】「自分本位」ではなく、「目的本位」で生きてみる



発達障害、精神的ストレス、感覚過敏など――
ごく身近な“生きづらさ”を乗りこなすためのヒント。
そして、しんどいからこそ見える、世界の美しさについて。
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、
日常のあれこれを、のほほんとつづります。


 

その不安、スマホでネット検索していませんか?

人間は、抱えている不安や不調に“名前や理由”がつくことで、安心する生き物だ。

わたしたちはただ生きているだけでも、さまざまな要因で体調や気分のゆらぎを経験する。たとえば、気圧の乱高下に、ホルモンバランス。健康な女性でも生理周期によって「1ヶ月に4つの顔を持つ(気分や体調が変化する)」と言われているほどだ。
のみならず、これらにパニック障害や更年期、ASDといった特性に持病など、不調の要因となり得る要素を取り揃えていると、その日の不調に明確な名前や理由を見出すことは、もはや、砂漠の中から砂金を探すようなもの。

あなたも、体調に不安を覚えて、スマホで“検索魔”と化した経験があるはず。それで、問題は解決しただろうか? 少なくとも、わたしはない。あれほど無意味な時間があるだろうか……いや、ない!


(イメージ/写真AC)

ある日、ネット検索では解決しない(理由が確定しない)と腹をくくったわたしは、不調の原因として「更年期」を疑い、産婦人科へと向かった。もちろん、病院へ足を運んだわたしはエラい。スマホの検索魔と化してドス黒いオーラを撒き散らすより、よっぽどマシだろう。

ところが、だ。産婦人科医には「それ(心の不調)が更年期のせいなのか、もともとのメンタル上の傾向によるものか、明確な判断はできません」「とりあえず、かかりつけ医のメンタルクリニックの先生に、しっかり相談してみてください」と、言い放たれてしまった。

今思えば、わたしは医師から「それは更年期の症状ですね〜。仕方ないですよ!」と言ってもらいたかっただけ。そう、振り回されるイライラや落ち込みに “名前や理由”をつけることで、安心したかったのだ。

 

不安ではなく「目的」に意識を向けてみる!

肩を落として病院を後にしたわたしは、ふと、ある会話を思い出した。それは以前、主治医からアドバイスを受けた「自分本位」ではなく「目的本意」で生きるという話。

どういうことかと言うと、困った時、身体がシンドイときなどに、体調や不安など「自分本位」な気分や意識に左右されず“どう動きたいか、動くべきか”という目的にフォーカスして「目的本位」に行動するというもの――おわかりだろうか? つまり、不安な気持ちや体調のゆらぎは一旦無視(!)して「目的」に沿って動いてみるという、ちょっと斬新な方法だ。


(イメージ/写真AC)

あるとき、先生は奥様との旅行で訪れたヨルダンは死海のほとりで、食べ物にあたったのか、とんでもない腹痛に見舞われたらしい。このとき、「自分本位」で行動するなら、奥様に腹痛を訴え、コースを変えてホテルに戻るなどといった選択肢も、当然あったはず。しかし、先生は奥様にいっさい何も伝えなかった。「だって、言っても“メリットがない”でしょう? 医者でもない奥さんに腹痛を訴えたところで、ただ不安にさせるだけだしね」。

そう、このとき、先生は“楽しい旅行”という「目的本位」で動いたのである。「意識を目的にフォーカスすると、不思議と体調も戻ってくるものだよ」と、先生は笑った(もちろん、これは先生ならではのエピソードで、常人が簡単にマネできるものではありませんが)。
そんな先生のエピソードを思い出し、思わず膝を打った。そうか、わたしはただ「楽しく暮らしたい(=目的)」のであって、なにも、不調に名前をつけるために生きているわけではなかった……!

だとすれば、とりあえず「今、この瞬間を楽しく過ごす」という目的に照準を合わせ、目の前のことを淡々とこなしていくだけ。「ダルい」「不安」といった多少のゆらぎは、あえて無視。そんなスタンスで生きてみるのも、おもしろい。何より明快で、軽やかだ。(※主治医曰く、厳密に言えば完全に無視するのではなく、ゆらぎも何らかのサインだと受け止め、囚われすぎることなく冷静に、別途対処法を考えればいい、とのこと)。

もちろん、発達障害や感覚過敏など、原因を明らかにすることで対策をとるべき“不調”もある。でも、日常を生きる上での多少のゆらぎに関しては、自分がどうありたいか、自分がどうしたいのか、いま「目的」としていることは何なのか――そう意識を変えて対応することで、思いのほか、うまく乗りこなすことができるようになったように思う。

何より、「今、この瞬間を楽しく過ごす」ことにフォーカスしてみるだけで、何となく、心がウキウキする。「脳は騙すことができる」というが、たとえば、笑うことで細胞が活性化し、実際に身体に良い影響を与えるという論文は山ほどあるし、いわゆる“吊り橋効果”や、わざと口角を上げて気分をよくするなど、良い意味で脳を騙すアプローチは、みなさんもご存知の通りだ。

さっそくこの瞬間から、それぞれの「目的」に照準を合わせて、生きてみてはどうだろう。手元のスマホで検索しつづけるより、よっぽどいいと思いますよ。

(注1:言うまでもなく、病気の恐れのある症状は無視しないようにしてください)
(注2:本稿は「森田療法」について述べたものではありません)

*次回は4月25日更新予定です。

\好評発売中!/

明日も、アスペルガーで生きていく。』(ワニブックス)
著:国実マヤコ 監修:西脇俊二


Written by 国実マヤコ
国実マヤコ

東京生まれ。青山学院大学文学部史学科を卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスに。
書籍の編集、および執筆を手がける。著書に、『明日も、アスペルガーで生きていく。』(小社刊)がある。
NHK「あさイチ」女性の発達障害特集出演。公開講座「大人の生きづらさを知るセミナー」京都市男女共同参画センター主催@ウイングス京都にて講演会実施。ハフポストブログ寄稿。
X(旧Twitter):@kunizane

»この連載の記事を見る