【生きづらさを乗りこなすヒント】多様性の時代に読みなおす、金子みすゞ作品の魅力

【生きづらさを乗りこなすヒント】多様性の時代に読みなおす、金子みすゞ作品の魅力



発達障害、精神的ストレス、感覚過敏など――
ごく身近な“生きづらさ”を乗りこなすためのヒント。
そして、しんどいからこそ見える、世界の美しさについて。
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、
日常のあれこれを、のほほんとつづります。


 

もはや慣用句かことわざか…「みんなちがって、みんないい。」

X(旧Twitter)を眺めていると、たびたび、金子みすゞの有名な詩『わたしと小鳥と鈴と』の名フレーズ「みんなちがって、みんないい。」をもじった表現に出くわす。あるいは、子どもの小学校の担任と話しているとき「お母さん、ほら『みんなちがって、みんないい。』ですよ〜」などとアドバイスがあったりする。そう、近ごろは、まるで慣用句やことわざのように――このフレーズが使われているのだ。

人間たちが大漁によろこぶとき、海のなかでは、何万という魚たちの弔い(葬式)が行われているだろうと謡う、金子みすゞの詩『大漁』をはじめて読んだとき、「ああ、この人は痛いほど、世界が見えている人なのだ」と感銘を受けるとともに、心がざわついたことを覚えている。なぜなら「痛いほど、見えている」のであれば、実際に「痛い」のではないかと、なんとなく想像したからだ。

冒頭で触れた『わたしと小鳥と鈴と』という作品で、それは確信に変わった。金子みすゞ記念館館長で児童文学作家の矢崎節夫氏は、この有名な詩に込められたみすゞの想いについて、「この世にあるものは、誰一人、何一つ、同じものはなく、だからこそみんなすばらしい。違う言葉で言えば、丸ごと認めて、傷つけないということです」と代弁されていらっしゃる。なるほど、と唸った。

わたしと小鳥とすずと
(発売:フレーベル館/発行:JULA出版局)
詩:金子みすゞ
選:矢崎節夫

そもそも、読み返すにつけ、大正時代に生まれた作品だとは思えない。たとえば、ダイバーシティ推進事業の一環として、有能なコピーライターがつくったと聞いても、信じる人がいるのではないだろうか。令和に生きるわたしたちが求める世界観を、先んじて作品に落とし込んでいる。ただし、よく読めば、そんじょそこらのコピーライターには捻り出せない、純然たる文学者のそれとわかる。

わたしはますます、心をざわつかせた。そして、こう思ったのだ。

これは、もはや人間ではなく「神」の視点ではなかろうか?
そんな視点を持ちうる人がいたら、この世界では、想像以上の“生きづらさ”を抱えていたのではなかろうか、と――。

 

詩人・金子みすゞの、壮絶な生涯に思うこと。

金子みすゞとは、いったいどんな人だったのだろう? 興味を持ったわたしは『金子みすゞふたたび』(今野勉/小学館)という本を手にした。もちろん、すでにネット上で、26歳で自死を遂げていることをはじめ、遊郭通いの夫から淋病をうつされ苦しんだこと、その夫から創作活動を禁じられていたこと、挙句の離婚と、現代であれば“ありえない”女性蔑視を受けていたことは知り得ていた。しかし、先の本を読んで、さらに愕然とするような人生を垣間見ることとなる。

“殺された”とされている実父・庄之助(実際は病死)とともに、当時は異常死をした者が入るとされた無縁墓に葬られていること。実弟との関係。捕られた魚を自分に重ねるような、独特の孤独感と寂寥感。鋭すぎる感性。放蕩夫との間に起きた、不運の連続。病苦。そして、死への憧憬……。

また、自死当日は、親権を主張する夫が、娘を連れにくる日だったという。あくまで自らの意志とはいえ、遺された遺書から“子の親権をめぐる体当たりの抗議“ともされるその死に、いたたまれない気持ちがこみあげる。さぞや、さぞや……。幼子を残して先立つ母親の心持ちたるや、同じ女性、母親であろうと、簡単に理解できるものではない。

気になって調べてみると、忘れがたみの娘(上村ふさえさん)は、2022年9月に亡くなっていた。享年95歳と、天寿を全うされたようで、勝手に救われたような気持ちになる。だが一方で、わたしは、あらためて思うのだ。

いま、世界は多様性を尊ぶ社会へと、大きく舵を切りつつある。でも、この世にあるものすべてを「みんなちがって、みんないい。」と思わなければいけない世の中は、すこしばかり窮屈ではないだろうか。そう、場合によっては、死んでしまいたくなるほどに――。

卑近な例で恐縮だが、わたしは発達障害という特性を持っているものの、すべての人に理解されようと思わないし「いい」と思われるつもりもない。どちらかといえば「みんなちがって、みんないい。」ではなく、「みんなちがって、それでいい。」だろうか。しんどい人には、黙って距離を置いてもらえればいいし、わたしはわたしで、無理のない人間関係を築いていく。偏見があれば正しつつ、それぞれが共存していけたらいい。わたしは凡夫なのだ。

ひときわ鋭く繊細な感性と才能をもった、詩人・金子みすゞ。生きとし生けるものすべてにひとしく愛を捧げようとした彼女は、まさに「神」か「仏」か。たった26年だけこの世界に舞い降りたみすゞの貴重な作品を、ぜひ一度、じっくり味わってみてほしい。

金子みすゞふたたび』(小学館)
著:今野勉

 

*次回は3月28日更新予定です。

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明日も、アスペルガーで生きていく。』(ワニブックス)
著:国実マヤコ 監修:西脇俊二


Written by 国実マヤコ
国実マヤコ

東京生まれ。青山学院大学文学部史学科を卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスに。
書籍の編集、および執筆を手がける。著書に、『明日も、アスペルガーで生きていく。』(小社刊)がある。
NHK「あさイチ」女性の発達障害特集出演。公開講座「大人の生きづらさを知るセミナー」京都市男女共同参画センター主催@ウイングス京都にて講演会実施。ハフポストブログ寄稿。
X(旧Twitter):@kunizane

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