【生きづらさを乗りこなすヒント】映画『窓ぎわのトットちゃん』で感じた、はじめての「嫉妬」

【生きづらさを乗りこなすヒント】映画『窓ぎわのトットちゃん』で感じた、はじめての「嫉妬」



発達障害、精神的ストレス、感覚過敏など――
ごく身近な“生きづらさ”を乗りこなすためのヒント。
そして、しんどいからこそ見える、世界の美しさについて。
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、
日常のあれこれを、のほほんとつづります。


 

アニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』を観る

「あの、ピーコックのところ」。いつもそう話す近所の一角に、かつてトモエ学園という学校があった。いまでは複合施設の建つそこを通りかかるたび、小さく「ここにあったのか」と思うことが、幼い頃からの、ちょっとしたわたしのクセになっている。とはいえ、トモエ学園は戦火で消失しているから、もちろん実物を見たことはない。

先日、そのトモエ学園を、わたしは見た。藤の花が咲く、美しく明るいその場所で、小学校を“クビ”になった発達障害の子、ポリオ(小児麻痺)の子など、さまざまな特性・個性を持つ子どもたちがキラキラと全身で笑っていた。ああ、近所にこんな場所が本当にあったのか、わたしもこんな学校に通いたかったと、あらためて思った。

黒柳徹子さんのベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』がアニメ映画になり、子どもに「観に行きたい!」とリクエストされたわたしは、「お母さんはね、小さい頃トットちゃんに似ていたから、トットちゃんって呼ばれていたんだ〜」と話したあと、原作の説明をすこしだけして、映画館へ向かった。

「あのね、トットちゃんね〜!」と、いつまでも喋りつづけるおしゃべりなトットちゃんは、映画の中でもやはり、小さい頃のわたしそのもの。トモエ学園の校長先生との出会いのシーンでは、落ち着きのなさから小学校を“クビ”になったトットちゃんの話を4時間にわたって聴き続けたあと、「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」と言った校長先生の言葉に、万感の思いが込み上げた。

映画は、戦争の暗い影を、物語自体がトーンダウンしないよう間接的な表現でテクニカルに、でもしっかりと描写しつつ、教育のあり方、個性との向き合い方、なにより生と死について問いかける、感動的で、きわめてクオリティの高いアニメーションだった。隣で観ていた子どもも、同年代の子ども特有の“あるある”に笑い、ときに固唾を吞みながら、作品の世界に入りこんでいたようだった。

映画『窓ぎわのトットちゃん』
https://tottochan-movie.jp/


窓ぎわのトットちゃん』(講談社)
著:黒柳徹子

 

思いがけない、トットちゃんへの「嫉妬」

ところが、だ。序盤早々、万感の思いはそのままドス黒く濁り始め、次第に悔し涙のようなものが、私の頬をつたい始めた。なぜか? わたしは、劇中のトットちゃんが、たまらなく羨ましくて、仕方がなかったのである。

トモエ学園に通う子どもたちは、大井町線沿いの瀟酒な洋館に住み、大きな犬を飼い、オーケストラでヴァイオリンを弾くお父さんを持つトットちゃんをはじめ、どの子も(おそらく)当時でいえば相当な「お金持ちの子」。そして、そうした家の子のみが通うことをゆるされた、トモエ学園なのである。その門をくぐらなければ、どんな子でも平等に肯定し「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」と頭をなでてくれ、それぞれの個性を尊重する教育者・小林宗作(校長先生)には出会えなかったというわけだ。

アニメーションの中で、先生にあれもこれもと話しつづけるトットちゃん。今なら危険だからと止められるような遊びも、にっこりと笑顔で楽しむトットちゃん。小学校をクビになっても、両親に怒られないトットちゃん。電車の車両を利用した自由な学舎で、のびのびとした教育を受けるトットちゃん。じきに死ぬ縁日のヒヨコのために、立派な飼育器を作ってもらえるトットちゃん――。

なにもかもが、羨ましかった。わたしは33歳まで自分の特性(ASD)を知らず、パニック障害などの二次障害に苦しんできたけれど、もし、幼い頃から、トットちゃんのように理解ある、あたたかな教育者が近くにいたなら。人と違うことに対し「もっと普通に、ちゃんとしなさい!」と怒られることのない人生だったら。そんなことばかりが頭をかすめる。

頭がいっぱいになったわたしは、生まれて初めて、映画の途中で席を立った。もちろん子どもがいるので、かろうじて席には戻ってきたけれど、悔し涙か自己憐憫か、いずれにせよ、美しく感動的なアニメーションには似つかわしくない想いばかりがふつふつと湧き上がり、かつてのトットちゃんは、いてもたってもいられなかったのである。

どんなにキラキラとしたSNSを前にしても、まったく気持ちが動かないわたしの、はじめての「嫉妬」。ずいぶん、ひねくれてしまったものだと自分でもため息が出るが、こんな人間が日本に一人くらいいても、トットちゃんなら許してくれるだろう。

「あなたって、まだまだお子様なのね」と笑われそうだけれど。

*次回は2月29日更新予定です。

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明日も、アスペルガーで生きていく。』(ワニブックス)
著:国実マヤコ 監修:西脇俊二


Written by 国実マヤコ
国実マヤコ

東京生まれ。青山学院大学文学部史学科を卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスに。
書籍の編集、および執筆を手がける。著書に、『明日も、アスペルガーで生きていく。』(小社刊)がある。
NHK「あさイチ」女性の発達障害特集出演。公開講座「大人の生きづらさを知るセミナー」京都市男女共同参画センター主催@ウイングス京都にて講演会実施。ハフポストブログ寄稿。
X(旧Twitter):@kunizane

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