【生きづらさを乗りこなすヒント】もっと気軽に精神科へ
発達障害、精神的ストレス、感覚過敏など――
ごく身近な“生きづらさ”を乗りこなすためのヒント。
そして、しんどいからこそ見える、世界の美しさについて。
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、
日常のあれこれを、のほほんとつづります。
「もっと精神病患者が増えればいい」ワケ
「ぜひ、読んでみて」と、知り合いの編集者からすすめられていた漫画『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』がドラマ化され、反響をよんでいる。
「自殺率は先進国で最悪レベル」――そんな“隠れ精神病大国”日本にもかかわらず、いまなお精神科やメンタルクリニックへの通院への抵抗が大きいことが、「最悪レベル」の自殺率につながっているのではないかという大きな問いかけをするのが、この『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』だ。
作品のなか、主人公の精神科医・弱井が看護師の女性に向けた発言に、こんなものがある。
「精神病患者が多いけど自殺は少ない国、精神病患者は少ないけど自殺が多い国、雨宮さんはどちらがいいですか?」
「僕はこの国にもっともっと精神病患者が増えればいいと思っています」
ドラマの第一話は、マンガの第一話とおなじく「パニック障害(パニック症)」について。ドラマでは、パニック症の患者となる女性が、シングルマザーとして奮闘する一児の母に変更されていたこと、電車や閉所などの恐怖が、映像になることでよりリアルに伝わってきたこと(あやうく、ドラマの登場人物とおなじ場面で、予期不安や発作を起こしかけるほど……)から、思いがけず、マンガでは得られなかったカタルシスを感じることとなった。
NHK土曜ドラマ
『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』
公式HP:https://www.nhk.jp/p/ts/Y7W5715P1L/
漫画『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』(集英社)
著者:月子 原作:七海 仁
子どもを遊園地に連れていけない母親
わたし個人については、「パニック障害」とは、かれこれ30年以上のつきあいとなる。だから、劇中でも語られたように「パニック障害では死なない」こと、「発作を起こすのは心の弱さではなく、脳の誤作動によるもの」ということは、すでに知識として、当たり前のように知っている。
にもかかわらず、30年の長きに渡り、パニック発作への恐怖が消えないことからも、この病気の厄介さがおわかりいただけるだろう。とはいえ、マンガのなかで「パニック障害は、発症当初にきちんと治療すれば、短期間で治る人が多いんです」と語られていたとおり、発症直後にしっかりとした治療が行われていれば、話は違ったかもしれない(加えて、わたしの場合は発達障害(ASD)の二次障害という、イレギュラーなケース)。
劇中、どうしても涙を堪えきれなかった場面がある。それは、母親がパニックの発作に怯えながらも、息子の喜ぶ顔を見たいという一念で遊園地の観覧車に乗り、やはり発作を起こしてしまうという場面だ。
というのも、わたしは子どもを、ディズニーランドに連れていくことができない。「みんな行ったことがあるのに、なんでうちはなんでダメなの?」と、何度も子どもから責められるが、「お母さんは、あんなに大勢の人がいる場所(広場恐怖)で、乗り物(“閉所”となるアトラクション)に乗ることができないの」とは言えず、悔しさで涙を流したこともある。
(イメージ:写真AC)
劇中では、ラストに子どものお遊戯会(閉所のため、登場人物の母親にとっては、これも高いハードルだった)で発作に怯えながらも、子どもの笑顔に導かれるかのように、閉所を克服するといった場面で、物語はハッピーエンドを迎えるが、これもただの“美しい大団円”ではない。
これも私ごとで恐縮だが、つい先日、義母の訃報を受けた際、ひとりで現地(山口県)にいる夫のことを思うとたまらず、「明日の朝、一番の新幹線で行くから!」と啖呵を切り、これまでパニック障害のため一度もできなかった“一人での新幹線乗車”という、個人的な偉業を成し遂げたばかりだからだ。
そう、劇中の母親のように、観覧車でパニックを起こすこともあれば、一方で、大切な人のためなら、閉所も乗り切ることができる(場合もある)というのも、また正しい。
『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』のようなコンテンツが世に広まることで、メンタル面の疾患に関する正しい知識が日本中にひろがり、精神科へのハードルが低くなって「この国にもっともっと精神病患者が増えればいい」と、わたしも思う。
「なぜ、私は心が弱いのだろう」と嘆くのは、もうやめよう。
それは、あなたやわたしのせいではないのだ。
『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』はNHKオンデマンド、Amazon prime video、U-NEXTにて配信中です(2024年9月現在)。
*次回は10月31日更新予定です。
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『明日も、アスペルガーで生きていく。』(ワニブックス)
著:国実マヤコ 監修:西脇俊二