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【生きづらさを乗りこなすヒント】「背負い込まない勇気」を持つこと
発達障害、精神的ストレス、感覚過敏など――
ごく身近な“生きづらさ”を乗りこなすためのヒント。
そして、しんどいからこそ見える、世界の美しさについて。
自閉スペクトラム症(ASD)当事者である編集/文筆家・国実マヤコが、
日常のあれこれを、のほほんとつづります。
サカナクション・山口一郎氏の「うつ病」告白
NHKスペシャル『山口一郎“うつ”と生きる ~サカナクション 復活への日々~』(2024年5月5日放映、NHKオンデマンドで配信中)を、観た。
わたしは、とくべつ熱心なサカナクションのファンというわけでないものの、年齢的にも近い彼らの活躍・音楽を、勝手に頼もしく感じ、聴いてきた。有名で派手な曲にはさほど心が動かされなかったが、「ネイティブダンサー」(アルバム『シンシロ』収録、2009年リリース)、あるいは「目が明く藍色」(アルバム『kikUUki』収録、2010年リリース)を聴いたときは、こだわり抜いた楽曲の構成力と独特の世界観に、戦慄を覚えるほどだった。
これらの楽曲をつくり、バンドの中心人物として活躍してきたのは、サカナクションのフロントマンである、山口一郎氏(以下、敬称略)。数年前、彼が群発性頭痛を患っていることをニュースで知り、感覚過敏から、光の強い日に決まって激しい頭痛を起こすわたしは、他人事に感じられず、心のどこかで、彼のことが引っかかっていた。
そして、休業へ。あれだけの規模のバンドであるから、その心中たるや……などと思っていた矢先、突如、NHKスペシャル『山口一郎“うつ”と生きる ~サカナクション 復活への日々~』の放映とともに、彼がうつ病を患っていたことを、知った。
「そうか、そうだろう」というのが、個人的な感想だ。あれだけ鋭く世界を捉え、分析し、分解し、構築し、「楽曲」へと変換することができる人だ。ファンの数が増えれば増えるほど、フロントマンとしてのプレッシャーが、重くのしかかっていただろう。楽曲の産みの苦しみだけでなく、それなりのメディア対応も必要となる。彼が抱えていたものを、凡人であるわたしは、想像することすらできない。
よくぞ、死ななかった。正直、そう感じた。そもそも、番組名に「復活への日々」とあるから、あたかも「復活」したかのように感じる人も多いかもしれないが、うつ病は、そういう類の病気ではない。彼は、たった今も“死”に向き合いながら、生きているはずだ。
『シンシロ』
サカナクション
レーベル:ビクターエンタテインメント
『kikUUki』
サカナクション
レーベル:ビクターエンタテインメント
「うつ病患者の代弁者」という新たな役目
そう、放映されたNHKスペシャル『山口一郎“うつ”と生きる ~サカナクション 復活への日々~』には、「復活、よかったね! これまで頑張ったね!」という歯切れのよさは、まったくなかった。
そこに登場したのは、押しつぶされんばかりのプレッシャーと焦燥感に、今なお歯がみつづける山口一郎であり、うつ病を抱えた“新しい自分”を受け入れるため、どうにか脱皮しようと――すでに脱皮したようには、決して見えなかった――足掻き、もがく姿だったからだ。あるいは、メンバー間のやりとりで「それは、ないだろう」と思うようなシーンも見られたが、本人たちにしかわからない関係性もあるので、ここでは言及しない。
そんな、言い知れぬ虚しさ、モヤモヤを抱えていた最中、X(旧:Twitter)で、音楽ライター・Z11さん(@Z1169560137)の呟きが、ふと、目に飛び込んできた。
「これまで多くのものを背負いこみすぎてきたサカナクション山口一郎が『うつ病患者の代弁者』という新たな役目まで背負いこむ必要はないと思う」
番組の歯切れの悪さ、視聴後に抱えたモヤモヤの原因は、まさにこれ。よくぞ言語化してくださった。映像のなか、山口一郎がメンバーに向けて「たくさんの迷惑をかけた」「ごめんなさい」という趣旨の発言をするシーンもあったが、数億といった膨大な(ライブのキャンセルによる)損害を少しでも埋めるべく、今回のドキュメンタリーを引き受けたのかと勘繰ってしまったし、実際、彼は追い詰められてなお、追い詰められた人間としての“対応”を強いられているようにしか、見えなかったのだ。
強いられている。誰に? まぎれもなく、山口一郎・本人に――。“うつ”と生きる新しい自分を見てもらうことで、この国でもがく同じうつ病患者たちの、ほんの少しでも励みとなれたら。うつ病という、圧倒的な孤独と不安をともなう病気の有り様を、広く知らしめることができたら……。
責任感の強い彼は、そう考えたのだろうが、その思考こそが、彼のうつ病の根っことなっているであろうことを、(もちろん承知の上だろうが)もう少しだけ、本当にもう少しだけ、主治医とともに考慮してほしかった。もちろん、考慮の末、彼がその重責を担う覚悟をしたのなら、わたしはまっすぐに応援しようと思う。存分に、歌い続けてほしい。
でも、どうしても頭をよぎるのだ。先に紹介した、音楽ライター・Z11さんの呟きにもあったように、彼が、これ以上背負い込む必要はない、と。山口一郎には、「背負い込まない勇気」こそが、必要だったのではないだろうか、と。
*次回は6月27日更新予定です。
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著:国実マヤコ 監修:西脇俊二