台北の素敵なティーサロン「琥珀」の店主・Karenさんに見る、ニューウェイブ台湾茶の始まり

台北の素敵なティーサロン「琥珀」の店主・Karenさんに見る、ニューウェイブ台湾茶の始まり



優美でおいしい台湾茶。
淹れ方やお作法のハードルが高そうだけど、実は自由に楽しめるもの。好きなところをつまみながら自分の茶道を探す、台湾在住コーディネーター・青木由香さんのお茶ごとエッセイ。


誰にも頼まれていませんが、台湾茶を日本でもっと気軽に、と普段から結構考えている私。
ここ数年、台湾ではお茶人口の裾野が広がり始め、今までとは違ったスタイルでお茶を楽しむ場所が増えている。うらやましい。

台湾の若者にとってのお茶は、タピオカミルクティーのドリンクスタンドで飲むような、何かと混ざった甘いお茶か、コンビニのペットボトル。急須を使ってお茶を淹れたことがない子が多い。 

この信じがたい事実は現在進行形ですが、以前よりひと回り以上若い層(30~40代)が、お茶を売ったり買ったり作ったりする側に出てきた! しかも、その人たちがさらに下の世代(20代)も巻き込んでいるという! 何がどうしてこうなった?

話を聞いてみようと思い浮かんだのは、「Liquide Ambré 琥珀」(*以下「琥珀」)の店主Karenさん。「琥珀」は、台北の中心地・大安区の小さな公園に面した、斬新なのに品があるティーサロンです。

Karenさんの本業はデザイナーで、ご主人やお仲間とバー、セラミックスタジオ、カッコいいステイショナリーショップの経営もなさっている。若いクリエーターのブランドを集めて、マルシェも不定期で開催して、センスいい若者に一目置かれている存在です。

そんなKarenさんが5年前、ステイショナリーショップの上に、隠れ家的な「琥珀」をオープン。彼女のすることなら、そりゃぁ若い人もちょっと行ってみようとなる。


△「琥珀」の外観。建物脇の開けちゃいけないような茶色い扉を開けると店内へと続く階段が。水で濡れてる? とびっくりするが、階段はコンクリートを分厚い透明樹脂で固めている。そのツヤ感がおしゃれ。


△「琥珀」の内観。英語名の Liquide Ambré は、琥珀色の液体という意味。空間全体、アンバーな色で落ち着ける。オレンジブラウンのカウンターにはお湯を沸かす炉が一体化している。突然つるんとした火山が現れたみたいで、コミカルともとれそうなギリギリのセンス。カッコいい!

Karenさん、当然だけど子どもの頃から台湾茶は飲んでいたそう。きっと、急須に触ったことない若者たちもそれはそうだ。

ただ、日本の家庭で日常的に飲むような食後のお茶と違って、台湾の場合は少し儀式っぽくお父さんが淹れる。
実は、私たちがイメージする素敵にゆったり飲むお茶はごく一部の人たちのもの。大体は、この勇ましい感じのお父さんのお茶。雰囲気とか湯温とか気にせず、お茶の味も渋め。ペカペカにニスを塗り込んだ大木の切り株のテーブルなんかに茶道具が設置されていて、茶渋が付いる湯呑みや急須にお湯をジャバジャバかけたり。そして、儲け話を大きな声でしながら飲む。

これが、台湾の若者が子どもの頃から見てきた「老人茶(ラオレンチャー)」と呼ばれる茶文化。だから、急須で淹れるお茶は「ちょっとね」と距離を置いて生きてきてしまった。
Karenさんのお父さんは、きっともう少し品が良いお茶だったと思うけど、子どものKarenさんにとっても、おじさんの世界の関係ないものだったのです。

それが大人になって変わり始める。海外には、日本やヨーロッパのように現代と上手く融合した茶文化があるのに、なぜ台湾にはないのか。

そのことにKarenさんは気づいて「老人茶」じゃない方の、茶芸的なお茶に興味を持ち始めるのだけど、彼女はとてもツイていた。
Karenさんには、惜しみなくお茶の世界を見せてくれる先輩がいた。台湾人は、ケチじゃないし、お節介でもある。台湾茶にも流派みたいなものがあって、どこかに属してしまうと何をするにも師匠の許可が必要になる場合もある。

ところが、その先輩は師匠の下に付いて習う必要はないと幅広くお茶絡みの場所へ連れて行ってくれた。少し上の世代が、窮屈に感じているところに新人を巻き込まない。こんな感じにお茶を知っていく新世代がどんどん増えて、今のような新しい感覚の茶空間が出来てきた。そうゆう配慮ある導き、素敵じゃないですか!


△お茶の香りを十分楽しんでからデザートへ。味は甘さ控えめでさっぱり爽やか、でも華やかな香りのするバラとりんごのシャーベット。

日本の場合、あまりタダで技術知識を分け与えない傾向がある。日本で台湾茶をもう少し詳しく知ろうとすると、お茶会を体験するか、教室に通って習うことになる。
「体験としっかり習う、その中間の気軽な入門ができるところがあったらいいのに」とKarenさんと盛り上がり、基本の基本を1〜2回で伝えるクラスを外国人向けにもやりたいとおっしゃっていました。

最後にKarenさんに設えのことをたずねてみる。
ご自身がデザインする時は、西洋も東洋もミックスさせるのが好きとおっしゃる。レトロな「琥珀」の雰囲気は、タイムレス&グローバルが、モダンな感じになっているんだと知る。

(※)ここでは空間や部屋の演出作法、それに伴う道具を指す。

「とにかく、まずは気軽に始めてもらいたい(同感!)。その先で設えに興味が出たら、最初から茶道具を色々揃えず、日本酒のお猪口でもいいし、自分が好きだなと思うものを合わせて使ってみるのも手です。ただ、磁器製の茶器はお茶の香りをキープし保温力があるので、そんなことを少し知ってから茶器選びをするといいですね」といただきました。


△「琥珀」では、席に着くと重そうな黒い板にお茶が出される。誰もが「これ何?」と思うこの板は、ヨーロッパで見つけた木の化石。その上に台湾の若手作家の錫(スズ)製の一輪挿しと、中国で見つけた金魚のかわいらしい小さめの茶杯や、花形のガラスの茶杯が乗る。


△茶針(チャーヂェン)。日本では茶通しと言われる、茶葉が急須に詰まった時などに使用する茶道具。お茶経験のない若い20代の竹工芸職人にオーダーしたもの。Karenさんはこうやって若い子をお茶に誘(いざな)う。

 

今、Karenさんは、台北で予約の取れないミシュラン2つ星の日本料理店「天本」とも、ティーペアリングのコラボを始めています。「お茶を料理に合わせて選ぶのはもちろん、茶葉を蒸留したり、いろんなアプローチでお茶を楽しめるようにしています」と嬉しそう。こんな台湾本家の自由さも、早く日本に入ってくるといいですよね。うらやましい。

 

今日の一杯。「Liquide Ambré 琥珀」の陳年翠峰紅茶(チェンネェンツェイフォンホンチャー)

お酒もお茶も5年10年と寝かせたものには、「陳年(チェンネェン)」とつけますが、良いお茶を寝かせてワインのようにビンテージにしたお茶は、「老茶(ラオチャー)」とも言います。前述の「老人茶」というお茶のスタイルとは違いますので要注意。

「琥珀」でいただいた陳年翠峰紅茶の茶葉は、9年寝かせたビンテージもの。いわゆる老茶で、長時間寝かせたことで、酸味のようなまた別の風味が生まれます。価格は、35gで630元(日本円で約3,000円)。

時を経てカフェインが減少している老茶の紅茶は、漢方の考えでは緑茶と違って身体を温める飲み物。温めた急須に入れた茶葉は、爽やかなのに甘い香(こう)が漂いました。とろみを感じるような茶水(ちゃすい)は、飲むと花のような香にウッディーな香も感じます。少し涼しくなってきたこの時期にぴったりとKarenさんのおすすめです。

「Liquide Ambré 琥珀」
住所 台北市大安区樂利路72巷15號 2F
営業時間 12:00~19:00
定休日 月曜
Instagram  @liquideambre

*次回は12月2日(月)に公開予定です。

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著:青木由香
発行:翔泳社


Written by aokiyuka
青木 由香

台湾在住20数年。コーディネイト、執筆、Podcastを通して、日本に台湾を紹介している。台北でセレクトショップ「你好我好(ニーハオウォーハオ)」を経営。
Instagram @taiwan_aokiyuka 
ショップ&アートギャラリーSTORE「你好我好」 @nihaowohaostore
お茶ブランド「香香臺灣」  @xiangxiangtaiwan
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