
台北の老舗茶屋による、初心者のためのカジュアルなお茶体験
優美でおいしい台湾茶。
淹れ方やお作法のハードルが高そうだけど、実は自由に楽しめるもの。好きなところをつまみながら自分の茶道を探す、台湾在住コーディネーター・青木由香さんのお茶ごとエッセイ。
台湾茶を一番手っ取り早く知るには、台北でお茶を飲む。これに限る。
初心者が二の足を踏んじゃう骨太な玄人店でも、おしゃれ素敵系でも心配は要りません。遠方からのお客さんと初心者に優しいのが、台湾人。そこでお茶屋巡り、強くおすすめいたします。
さて、どこから紹介しようか?
2分くらい悩んで決めたのが、我が店「你好我好(ニーハオ ウォーハオ)」のある私の庭、大稻埕(ダーダオチェン)というエリアの「Wangtea Lab(ワンティーラボ)」。
老舗茶屋「有記名茶(ヨウジーミンチャー)」が、初心者のためにカジュアルにお茶に触れられるよう新しく作った店で、「Wangtea Lab」を瞬時に思いついた私、天才か! ゆる茶の道として紹介するのにぴったりです。
「Wangtea Lab」のある大稻埕は、その昔交易で栄えたエリア。現在の郵便配達に使える地名ではありません。日本に置き換えると「江戸」のような呼び名。台湾名産品の台湾茶も、ここからじゃんじゃん輸出されていました。
大稻埕には迪化街(ディホァジェ)という、レトロな建物で漢方薬剤、乾物屋、布市場の隙間に素敵なカフェや雑貨屋が新旧入り乱れて連なる、観光で賑わう通りがあります。その通りの東側には、老舗のお茶問屋がちらほら出てきます。
中でも「有記名茶」は、1890年創業の老舗茶葉店。奥には古い炭焙煎場があり、今でもときどき火を入れては、昔ながらの技術を守っています。
△「有記名茶」は100年以上前の技術を保存するため、今でも年に数回は炭焙煎をする。写真は、「有記名茶」店奥にある焙煎場。SNSのDMから事前予約すれば、焙煎場の様子を見学することができる。連絡は簡単な日本語でも可能。
「Wangtea Lab」は、「有記名茶」の五代目Jasonが開いた別ブランド。コーヒーはないけどカフェのような、夜には閉まっちゃうけどバーのような空間で、普通にはお茶を出さないけど喫茶店? というそんな店。もちろん茶芸館でもない。んー、ピッタリくる言葉が見つからない。自分の表現力のポンコツさに泣けてくる。
△外観。新旧のコントラストが楽しい大稻埕の縮図? 「Wangtea Lab」は、「有記名茶」の真隣にある。
茶道具を揃えて行う古典的な茶芸体験は「有記名茶」に全振りし、「Wangtea Lab」は若い世代を台湾茶に振り向かせる役割を担う。
サーバーのタップからビールのようにスパークリングティーが注がれ、ドリップポットでコーヒーのように台湾茶をハンドドリップ。エスプレッソのように濃縮抽出させた数種の台湾茶を、コーヒー豆を選ぶように選んで淹れてもらうティーラテなど、ちょっと違ったお茶の提供の仕方をしています。
△スパークリングティーはクラフトビールのように足付きのグラスで出される。
スパークリングティーは、数種の茶葉をブレンドしたお茶の渋みが、香りのいいノンアルコールビールのよう。そこにはちゃんとお茶のとろみも。ブレンドは定期的に新商品に変わる。上の写真は今後販売予定の新商品で、赤い色はドランゴンフルーツの色。スパークリングワインを飲んでいるような気分に。
△「Wangtea Lab」では「有記名茶」の代表的な奇種烏龍茶(チィーヂョンウーロンチャー)も提供している。発酵度の低い文山包種茶(ウェンシャンバオヂョンチャー)を特別に中度の炭焙煎したほんのり香ばしい緑茶(多くの文山包種茶は炭焙煎をせず、フレッシュな緑茶のよう)。
ハンドドリップで淹れるのは、コーヒーの真似ではなく、カッコつけでもなく、温度と抽出時間をしっかり管理できる理に適った方法だから。お茶の良さを引き出したものを飲んでいただきたいという理由で、お客さん自身で淹れるスタイルでの提供はしていない。
△サーバーからは、スパークリングティー以外にビール会社とコラボした台湾茶のビールが出てくる。飲み物は、ちゃんとした茶葉の特性を研究して作られたオリジナルがほとんど。
でもこちら、「映えるおしゃれ茶、始めました。」のお店と思われては困る。メニューには、全てのお茶の発酵や焙煎具合をわかりやすく数値で記したオタクぶり。お茶の味をちゃんと味わってもらいたいがための店、という点はブレておらず、店内全ての飲み物はオール無糖。お茶の魅力は邪魔しないという茶葉リスペクト。お茶への関心が低い民を巻き込む、尊い活動ですよ。
ビギナーでなくても、台湾茶の新しい可能性が垣間見られますから、ぜひ行ってみてほしいです。
今日の一杯。カジュアルな鐡觀音茶(ティエグァンインチャー)
“カジュアルな”とは、また表現がふんわりしていますが、実は鐡觀音茶には、中国の安渓(アンシー)からその昔持ち込まれた、正欉(ヂェンツォン) と書かれている本物(レア!)と、手に入りやすい金萱茶(ジンシュエンチャー)の茶葉などで「鉄観音」に仕上げたものがあります。
これはまさに台湾の製茶技術のなせる技。鐡觀音茶は、フルーツのような香りで、桃のようと例えられるほど、とてもとても美味しい特別な香りのお茶です。それが、台湾では、安価に手に入れられる。「正欉でなくても鐡觀音の魅力を体験できます。」とWangtea Lab&有記名茶のオーナーJasonからおすすめされました。
日本のペットボトルの鉄観音しか知らない人!※ まず、これをお試しあれ。ティーバッグなら、茶器要らずでより気軽。最初から高価なお茶に手を出さず、気に入ったら次は茶葉、それから正欉を飲んでみる、と徐々にステップアップしていきましょう。
(※)日本で販売されているペットボトル飲料の烏龍茶は、「鉄観音」がブレンドされているものが多い。
「Wangtea Lab」
住所 台北市大同區重慶北路二段64巷24號
営業時間 10:00~19:00
定休日 無休
TEL (+886)-2-2558-5551
Instagram @wangtealab
公式HP(JP) https://www.wangtealab.com/?lang=ja
「有記名茶」
住所 台北市大同區重慶北路二段64巷26號
営業時間 9:00~18:00
定休日 日曜
TEL (+886)-2-2555-9164
Instagram @wangtea
公式HP(JP) https://wangtea.com.tw/home-jp
*次回は1月6日(月)に公開予定です。
\青木さんのお店もチェック!/
『你好我好(ニーハオウォーハオ)』
https://www.nihaowohao.net/
日本から購入できるオンラインストアも!
https://nihaowohaostore.com/
\好評発売中!/
『暮らしの図鑑 台湾の日々』
著:青木由香
発行:翔泳社