
【ゆる台湾茶】お茶を囲んで人を繋ぐ、ひっそりとした老茶と骨董の店(現地の人でも入りにくい)。
優美でおいしい台湾茶。
淹れ方やお作法のハードルが高そうだけど、実は自由に楽しめるもの。好きなところをつまみながら自分の茶道を探す、台湾在住コーディネーター・青木由香さんのお茶ごとエッセイ。
ひさぁぁぁぁしぶりに、「e2000(イーリャンチェン)」に行ってみました。変な店名ですが、お茶屋さんです。そして、変なのは名前だけでなく営業形態も変なので、「台湾旅行の際には、ぜひ!」とゴリ押しできないお店です。
じわじわと説明していきますが、行っても必ずしも入店できるとは保障できないですし、深すぎて行かない方が幸せかもしれません。ものすごーく閉鎖的で、でも一度飛び込めたらば泣けるほどあったかい。もろもろ裏腹なお店。私にとって、個人的に思い出のたくさん詰まった、大好きな大事な場所です。
△わざわざ山から汲んできた湧水を鉄瓶で沸かし、茶を淹れる。
行くなと言いつつ、その存在は知ってほしい。私の捻れた情が文章を書かせていますが、行くとなれば誰もが知っておきたいe2000の営業形態はというと、決まった営業時間、定休日はありません。
私が通い詰めていた24年前は、暗くなってから夜中に店を開けていました。今は、15時くらいから18時まで。こちらも大体の営業時間となりますが、3時間ほどしかやっていません。SNSもないので、店主に用事があれば無言で定休日となってしまいます。でもやる気がないわけではありません。
―――――
商品は、茶葉と店内にあるもの(例えば骨董の不思議な置き物とかも)全部。昔からそう言っていましたが、20年以上経った今も、同じ物が一ミリも位置を変えずにそのままあり、びっくり。店内、ホコリもかぶっていません。
ひどい売れ残りとも考えられますが、素敵な言い方をすると「大事に選んできた大好きなものを、本当にわかってくれそうな人にお譲りしている」ですね。微妙になくなっているものもあり、過去に香炉が売れていくのを見たことがありました。それは、厳つい顔した陶製の獅子で、中にお香の仕込み火をつけると飛び出た目とおっぴろがった獅子の鼻の穴から煙がモワ〜ッとゆっくり出てくるというシロモノ。
△動かない時計も二十数年ずーっとそのまま。
何とふざけたアイテムだと思ったんですが、渋い芸術蒐集家みたいなおじさんたちが、真剣に品定めしていました。店主・廖(リャオ)さんのお眼鏡にかなった、そんな感じのものを骨董とは言わず「老東西(ラオドンシー)」と言って店に並べているんです。
基本、商品は茶色っぽいものばかり。お茶もほぼ老茶(ラオチャー)なので茶色です。老茶は、ワインのように大事に何年も寝かすことで、変化した風味と味わいを楽しむビンテージのお茶。元は緑色だったお茶も、長い年月で茶色になっていきます。
特に出来の良いお茶を、保管に適した環境で大事にキープして老茶にするので、高級ではありますが、まろやかに落ち着いた味がとても美味しいんです。何年も寝かすことで、その茶葉が作られた当初のものとは全く別の魅力を現します。
△左:選りすぐりの茶器と茶葉を並べ、値段もついている唯一のお店らしいコーナー。/右:骨董(茶色い)がぽつぽつ置かれている。
特に廖さんや、スタッフのアンティンが淹れてくれると、本当に美味しくて。渋い静かな空間も手伝って、アルコールのない液体をこんなに大事に思ってしまう。今まで十分美味しいと飲んでいたお茶もかすみます。そんな意味で「行かない方が幸せ」と最初にお伝えしました。
△設えも昔のまま。一輪挿しを半分にした珍しい茶則(チャーザー:茶葉を急須に移す時に使われる)も買いたい人が多いが売る気なし。
―――――
お店の立地は、賑やかな永康街(ヨンカンジェ)の信義路(シンイールゥ)を背にして進み住宅街っぽくなってきた辺り。永康街終点の方。路面店ですが、通りから中の様子が見えないように衝立がある、その向こうがお茶を飲むスペースです。
奥で蜘蛛の巣を張って、じっと動かず獲物(客)を待ってるみたいなんだけど、見ていると買わない人も多い。冷やかしとか、同じトーンでお茶の時間を共有できなさそうなお客さんは、廖さんは嗅覚で弾いているんじゃないかと。勇気が入りますが、受け入れてもらえたら素晴らしい時間が待っています。
―――――
私は、中国語が大して話せない頃にe2000に迷い込み、結婚して子どもを産むまで、ここで毎晩のようにたくさんの文化人とお茶を飲ませてもらいました。一緒にお茶を飲んだ人がじつは文豪だったり、著名な美食家だったり、有名ブランドの経営者だったり。あんまり状況を理解してない状態で、そんな人たちからご飯に誘われたり、歯医者を紹介されたり、台湾のいろんなことを教えてもらいました。
△茶葉が変わるときは、口直しのお湯を入れてくれる。このお湯が甘い!
2000年代初頭は、SNSもGoogle Mapsもなかったので、私が日本で出版した最初の方の本はここでの人脈がネタ元。30歳近くになって台湾へ来たこともあり、語学学校でできる知り合いはみんな若かったので、ここに来ることで渋く濃厚な文化を吸収できました。
十数年ぶりの訪問でしたが、お店は感動するくらい相変わらずで、4人しか座れない大きなテーブルに、ポツリポツリ入ってくる知らない者同士を廖さんは同席させ、昔と同じようにお茶を振る舞ってくれました。
みんなが楽しめるように、いい感じに軽く紹介して繋いでくれて、会話の舵をとる。ベラベラたくさん話すわけでもなく、静かにお茶を囲んで気持ちのいい時間を過ごさせるホストぶりは昔と変わらずあったかくて、じんわり心に沁みました。
茶道とか茶芸とかのお茶と違って、お茶で集まり、お茶を囲み、みんながリラックスしておしゃべりして和める、本来あるべきお茶の時間があります。それをずーっと変わらず大事にしているお店です。
大声で笑う中国語の下手くそな日本人留学生の私が受け入れてもらえたのは、e2000ができたばかりだったことと、私が1人だったこと、ただの運。e2000の老茶は本当に素晴らしいので、店に入れたら、いいお茶ってどんなもんかと手を伸ばす価値はあり。日本円で6,000円くらいからの茶葉もあります。わざわざ行って入れないと腹も立ちます、座れて試飲できたらできたで未到のお茶の世界にハマってしまうかも。どちらに転んでも、行かなきゃ良かったとなるので、「e2000には、気をつけな。近寄ると火傷するよ。」と言っておきます。
今日の一杯。葡萄柚綠茶(プータオヨウリュウチャー)
台湾では手搖飲(ショウヤオイン)と言われる、ミックスジュースを売るドリンクスタンド「十二韻」のメニュー。日本では珍しいお茶とフルーツジュースのミックスティーです。
今回は豊富なメニューの中から、発酵の浅い緑色の烏龍茶とグレープフルーツジュースのミックスティーをチョイス。ジュースを飲んだはずが、お茶のおかげで口の中が、さっぱりスッキリ。このジュースとお茶のミックス、もっと日本でも流行ってもいいはずです。大人な味の(とはいえ、子どもにもウケがいい)ドリンクです。
お店によっては、グレープフルーツの果肉入りもあって、甘さも氷の量も5段階で選べるのが、台湾のドリンクスタンドのありがたいところ。
完全無糖や氷なしもできます。で、氷なしでも量が減らない。日本じゃ、水位が減ったものが出てくるじゃないですか。その太っ腹具合に泣けます。日本の人は、台湾でドリンクスタンドといえば、タピオカミルクティーに走りがちだけど、安いノンアルカクテルのような感じと思ってぜひ色々試してください。今回は、あまりにもディープな店を紹介したので、逆を突いてどこでも手軽に買えるドリンクスタンドの飲み物を紹介しました。
「e2000」
住所 台北市大安區永康街54號
営業時間 15:00~18:00
定休日 不定休
TEL (+886)-9-3607-8595
「十二韻」
台中発で、台湾全土に展開しているチェーン店。
※住所、営業時間、定休日などは各店舗によって異なります。
https://www.tea-melody.com.tw/index.php
*次回は4月7日(月)に公開予定です。
\青木さんのお店もチェック!/
『你好我好(ニーハオウォーハオ)』
https://www.nihaowohao.net/
日本から購入できるオンラインストアも!
https://nihaowohaostore.com/
\好評発売中!/
『暮らしの図鑑 台湾の日々』
著:青木由香
発行:翔泳社