【INTERVIEW】連続テレビ小説『あんぱん』に出演する鳴海唯。自身の転機となった経験、そして『あんぱん』との不思議な縁について聞いた。

【INTERVIEW】連続テレビ小説『あんぱん』に出演する鳴海唯。自身の転機となった経験、そして『あんぱん』との不思議な縁について聞いた。


映画『赤羽骨子のボディガード』、火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』やドラマ『秘密~THE TOP SECRET~』と、近年数多くの作品に出演している鳴海唯。次なる作品は連続テレビ小説『あんぱん』。2019年の『なつぞら』以来の朝ドラ出演となる鳴海が演じるのは、ヒロイン・のぶとともに高知新報の女性記者となる小田琴子だ。作品や役への思い、そして自身の俳優人生の転機を聞いた。  

撮影/浦田大作 スタイリスト/中井彩乃 ヘアメイク/丸林彩花 文/絹村千紗

――連続テレビ小説『あんぱん』の出演が決まった際の気持ちを教えて下さい。

「まず、6年ぶりに朝ドラに戻ってこられた嬉しさがありました。今回オーディションを受けた時、知らずにシートに『アンパンマンのような人になりたいです』と書いていたんです。そういう不思議なご縁のある作品だったので、大切に演じることができたらいいな、という気持ちでした」

――『あんぱん』企画発表前のお話ですよね。制作統括をされている倉崎憲チーフ・プロデューサーが、「すごく驚いた」とコメントされていました。

「発表前だったので、制作の方の中で“情報漏洩してるのでは!?”となったそうです(笑)。でも、もちろん全く知らなくて。当時、マネージャーさんとどんな人になりたいかという話をしていた時に、『愛や勇気を共有できる人になりたい。例えば…アンパンマンみたいな人だよね』という話になって。そういった話の流れで書きました」

――最終オーディションでも、「人生を変えたいです」と涙ながらにお話されたと伺いました。

「すごく必死だったので、鮮明には覚えていないんです。でも、こんなご縁ってなかなかないので、ここで出会えたみなさんとお仕事がしたいという思いが強くて。同時に、この作品に参加することができたら、自分の人生がまた新しい方向に変わっていくんじゃないかなという気持ちもあったと思います」

――今回演じる小田琴子の人物像についてお聞かせ下さい。

「モデルになった方が史実にいらっしゃるのですが、戦後、女性初の新聞記者として新聞社に入社する方です。今田美桜さん演じるのぶと一緒に高知新報で働くことになるんですけど、琴子は結婚相手を探すために入社しているんです。だから、働いているときはすごくおしとやかで波風を立てないようにしていて。でも、屋台でお酒を飲んでいるときはまるで人が変わったように別人になるんです(笑)。そのギャップ、二面性があるところがおもしろいキャラクターですね」

――監督と事前にお話したことと、演じる上で意識したことを教えて下さい。

「この作品の中で、のぶが誰かとお酒を飲むシーンが出てくるのは琴子が初めて。そういった意味で新しいパートになるんじゃないかな、というお話があったのと、これから戦後パートに入っていくんですけど、高知新報のシーンは戦後が明けてすぐのパートなんです。『自由と活気にあふれた明るいパートにしたい』と制作の方が話されていて、それを指針として持ちながら演じました」

――戦争のパートから、光が射すように未来の希望にあふれたパートへと移り変わっていくのを感じました。

「そうですね。明るいパートにしたいという思いはベースにありつつ、戦争があるから今がある。地続きになっていることを忘れずに演じています」

――セリフは土佐弁だと思うのですが、兵庫県出身の鳴海さんは苦労されたのでしょうか。

「すごく苦労しました。セリフを覚える時も、言葉を覚える他に音を覚える作業があったので、工程が2倍なぶん、いつもの倍時間がかかりました。でも、時間をかけることによってすごく言葉が体に染みこんだ感覚があって。これは自分の中では面白い発見でしたね」

――2019年の『なつぞら』以来6年ぶりの朝ドラですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

「私のいた高知新報のパート自体がパワフルということもあるかもしれないですが、スタッフのみなさん、キャストのみなさんが“面白いものを作るんだ”という気概にあふれていて、熱量も高くて、本当に毎日行きたくなるような現場でしたね。実際に毎日顔を合わせる、家族のような温かさがありました」

――その中で、現場の空気を作っていたのは?

「今田美桜さんです。すごく自然体で素敵な方で、その佇まいや空気感が伝染して、現場にとてもいい空気が流れていました。気さくな方なので私も緊張せずに臨むことができましたし、現場で今田さんの笑い声が聞こえてくると元気になれました。真ん中に立っている方がそういう佇まいでいてくださると、こんなにも温かい現場になるんだなと感じました」

――台本を拝見して、今田美桜さん演じるのぶと琴子がお酒を飲むシーンが印象的でした。

「ふたりが飲んでいるのは、“カストリ”というどぶろくに似たお酒です。だいぶ強いし味もおいしくなかったと聞いて、“味を楽しむというより、日頃の鬱憤を晴らすために飲んでいたのかな”と思っていました。私自身もお酒を飲んで饒舌になるほう。強くはないですがお酒は好きですし、お酒の場も好きです。…琴子ほど破天荒ではないですが(笑)」

――改めて『あんぱん』の魅力や見どころを教えて下さい。

「『あんぱん』は、やなせたかしさんの“逆転しない正義とは”という人生観がベースにある作品で、その人生観がこの作品のあらゆるところに散りばめられています。だからこそ人の胸を打つし、私も一視聴者、一ファンとして楽しめる。人生って綺麗ごとやいいことだけじゃない、だからこそ美しい、そういうことを教えてくれる作品だと思います。その作品の中で琴子として生きていけることが光栄ですし、琴子のおせっかいがのぶと嵩の関係性をどのように変えていくのかに注目して見ていただけたら嬉しいです」

――鳴海さんはここ数年、たくさんの作品に出演されています。お芝居に対する感じ方の変化や転機はありますか?

「作品を重ねるたびに“役作りってなんだろう”と、いまだに発展途上な部分はあります。でも、最近役作りについてのワークショップに参加させていただく機会があって、取り組み方が変わってきました」

――どのように変わったのでしょうか?

「役を演じることはその人の人生を生きることで、台本に書かれていない部分を埋める作業が大切だと思っています。でも、今までそれを感覚的なものとしてやってきて、ふわふわと地に足がついていないように感じていたんです。演技コーチをしている方のワークショップに行った時に、役との向き合い方を理論的に教えてもらって、そこで理論的なお芝居のやり方があるんだ、と知ることができて、すごく腑に落ちました。特にドラマだと、限られた時間で取捨選択しながらバックボーンを埋めていかないといけない。教えてもらった理論と今までの感覚的な部分、どちらも持ちあわせることで悩むことがかなり減りました。今は実験的に試して、失敗して、また試して…という期間。トライアンドエラーを続けて、ここからまたお芝居も変わっていくと思います」

――今後挑戦してみたい役柄はありますか?

「刑事や弁護士は挑戦してみたい役柄のひとつですね。これまで等身大の女性を演じることが多かったので、自分の人生にない人物像を演じることに対する好奇心があります。そこで、かつて出会ったことのない自分に出会えたらいいな。専門用語が多い役なので、経験して“二度とやりたくない!”となるかもしれませんが(笑)、それでも挑戦してみたい。大変だと思いますが、向き合ってみたいです」

――最後に、鳴海さんご自身が目指す人物像について教えて下さい。

「とにかく気さくな人でいたいなと思っています。今まで私が“こんな方になりたいな”と憧れる方は、誰に対しても分け隔てない、気さくな方ばかりなんです。大人になると、嫌なことから逃げたり、向き合わないこともあると思うんです。でも、苦手なことを苦手と言えたり、困ったときは人に助けを求められる自然体な人で居続けたい。俳優としても、血の通った人間を演じられるようになりたいですし、そういう役を演じられる人は、気さくで自然体な方だと思うので。お芝居のためにも、日常から人との繋がりを大事にして生きていきたいです」

 


●プロフィール
なるみ・ゆい
1998年5月16日生まれ、兵庫県西宮市出身。2018年公開の映画『P子の空』で活動を開始。2019年の連続テレビ小説『なつぞら』でドラマデビューを果たし、その後も火曜ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』、ドラマ『秘密~THE TOP SECRET~』など話題作に出演。また、10月3日公開の映画『アフター・ザ・クエイク』では岡田将生、渡辺大知、佐藤浩市と共に主演に抜擢。2000年に刊行された村上春樹の短編小説をベースに、オリジナルの設定を交え映像化された作品で、家出少女・順子を演じている。


●作品紹介
連続テレビ小説『あんぱん』
作/中園ミホ
音楽/井筒昭雄
語り/林田理沙アナウンサー
出演/今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 高橋文哉 鳴海唯 津田健次郎 浅田美代子 吉田鋼太郎 他

漫画家・やなせたかしと妻・暢をモデルにした愛と勇気の物語。太平洋戦争で夫・次郎(中島歩)を亡くしたのぶ(今田美桜)。尋常小学校の教師として生徒に愛国の心を教えていたのぶは、自分が子供達を死へと駆り立てたのではないかと思い悩む。教師を辞めたのぶは、“本当の正義”を知るために「高知新報」に入社して――。
NHK総合で毎週月~土、朝8時00分より放送中(土曜は1週間の振り返り)