
【インタビュー】リアルな実話で話題沸騰!『となりの小さいおじさん』著者・編集ライター瀬知洋司さん【前編】
BOOKOUTジャーナルとは
知られざる想いを知る―。
いまいちばん会いたい人に、
いちばん聞きたいことを聞く、
ヒューマンインタビュー。
文/国実マヤコ
イメージイラスト/BOOKOUT編集部
「はじめまして。編集ライターの瀬知洋司と申します。書き出しからなんですが、わたしは『小さいおじさん』と一緒にいます。再度、書きます。もう40年近く、わたしは小さいおじさんと暮らしています。」
——そんな“書き出し”ではじまる、話題の書籍『となりの小さいおじさん 〜大切なことのほぼ9割は手のひらサイズに教わった』(アルソス刊)を上梓された瀬知さんは、数々のヒット書籍の企画編集に携わってきた、名うての編集ライター。東大名誉教授・矢作直樹氏の書籍を25冊も手がけ、30万部となるベストセラーを生み出したのも、瀬知さんのお仕事です。
誰もが知りたい「小さいおじさんって、いったいどんな存在なの? 守護霊? 宇宙人!?」「一緒に暮らすってどういうこと?」「おじさんを見る方法は?」……ここでは前編・後編にわたり、瀬知さんに数々の疑問を投げかけたインタビューの模様を、お届けします。
おじさんが「出版ストライキ」をした驚愕の理由
——瀬知さんにとって「メンター(助言役)であり、コーチでもある不思議な存在」という小さいおじさんですが、お仕事でも、大切な局面では助言することがあるそうですね。
じつは、先ほど名刺交換をしているときも、この部屋(インタビューの行われた喫茶店個室)をウロチョロしていたんです。初めて訪れる場所や、仕事相手が初対面の場合は、現れることが多いですね。私は自分を「守ってくれている」と解釈しているのですが、その空間や人物に危険はないか、チェックしているわけです。雰囲気の悪い空間の場合、打ち合わせ中だろうがかまわず目の前にきて、「早く出ろ」と言われることもしばしば。おじさんの声は私にしか聞こえませんし、こっちも仕事になりませんから、大抵は無視することになるのですが……(笑)。あまりにも警告が強い場合は「ちょっとトイレに行ってきてもいいですか?」と抜け出して、おじさんと「あと30分で終わるから」「いや、今すぐ出ろ」なんてやりとりすることもありますね。
大きなことで言えば、今回の本の出版を促したのもおじさんですし、書籍の企画や取材、動画や講演会を引き受けるか否かなども、おじさんがアドバイスします。過去、ダイヤモンドの原石のような作家を見出し「いざ出版!」と話が進んでいたときに「この作家とは組むな」と言われたことがありまして。私は「絶対売れる人だ」と憤慨したのですが、その直後、その作家がある犯罪を犯して逮捕されたというニュースが飛び込んできたときは、驚きました。この時ばかりは、「守ってくれている」というより「監視されている」という感覚が強くなったのですが……。
——ちなみに、トイレなどでは普通に声を出してお話しされるわけですね。
誰もいないところでは、普通に喋っています。ただ、ちょうど大学を卒業する少し前の頃だったか、おじさんと山手線の中で、激しい口論になったことがありました。そうしましたら、どこかのご婦人が「大丈夫、大丈夫よ」と、私をたしなめてくださって(笑)。おそらく病気かなにかだろうと、気の毒に思ってくださったのだと思いますが、第三者からすると、そういう状況に見えるわけです。ですから、よく電車内や飲食店などで一方的に喋っている方をお見かけしますが、その方が私の仲間なのか、あるいは本当にご病気なのかは、判断がつかないんです。
仮に、私についてくれている小さいおじさんが一緒にいる場合は、「小さいおじさん同士」でコンタクトを取ることができるので、お仲間かどうか判断できるのですが、おじさんは“いつも一緒”というわけではないんです。東日本大震災のあと、3ヶ月ほど姿を現さなかったこともありましたから。後で聞くところによると、小さいおじさんは担当する人間が複数人いて(瀬知さんのおじさんは計8人を担当)、当時、ちょうど被災された宮城県在住の70代男性が避難所暮らしをされていて、彼が心配でずっとそこにいたそうです。おじさんは物理的な干渉こそできませんが、見守っていたということですね。
小さいおじさんとの出会い、そして「葛藤」へ……
——それでは、あらためて瀬知さんが「小さいおじさん」と暮らしはじめた経緯について、お話しいただけますでしょうか。
はじめて出会ったのは、中学2年生のとき。おじさんの姿は手のひらサイズのキューピー人形のような幼児体型で、薄い半透明の肌色に近い色をしています。顔はおじさんのようで無表情。そんなものと、中学2年生のとき、住んでいた団地の駐車場で出会ったんです。くわしくは書籍にも書いていますが、直感で幻覚ではないと思いました。しかし、ほかの友人や家族には見えない……。そんな小さいおじさんが、高校に入る頃には毎日のように出現するようになり、その存在が鬱々と感じられるようになって、いつしか登校拒否状態からの、まさかの自死を考えるまでに落ちこんでしまったんですね。
よく、本を読んでくださった読者の方から「自分もおじさんを見たい!」「おじさんと暮らしたい」といったお声を頂戴しますが、実際のところ、本当に出会ってしまうと自分のように衝撃を受け、心が沈んでしまう人も多いはずです(注:とはいえ、2025年に本を出版してから続々メッセージを頂戴し、「見えた!」という方が1000人ほど、「声も聞こえた!」という方も300人を超えています)。
おじさん曰く、「周波数(エネルギーの個性)」とタイミングがカチッと合うと見えるそうです。また、私には「小さいおじさん」の姿に見えていますが、過去に私と一緒にいるおじさんを目撃した複数人によれば、ある人は「紫色のファーのチャーム」、ある人は「小さな犬のような四つ足の動物」、あるいは「ケサランパサラン」や「アメーバのようなもの」に見えたと言います。つまり、人によってさまざまなイメージのビジュアルに見えるようですね。
閑話休題。高校に行けなくなり自死を考えるまでになると、おじさんはしばらく姿を現さなくなりました。そして、東京の大学を目指して浪人しているとき、バイト先だった天神近く(福岡市)の喫茶店にふたたび現れたんです。「お店に出るならいいか」なんて思っていたんですが、なんと、受験のために東京で居候させてもらっていた友人のアパートにも現れたんです。つまり、「場所ではなくて、自分についてきたんだな」と。そのとき、出会ってから数年を経て、ようやく、おじさんの存在を“受け入れた”という感覚がありましたね。おじさんとしゃべることができるようになったのも、大学在学時でした。
先ほども話しましたが、実際に小さいおじさんに会うと、人は少なからず衝撃を受けるものなんです。じつは私は精神世界の類いには抵抗があったので、最初は脳か心の病気だと思いましたし、なかなかその存在を受け入れることができなかった。さまざまな病名が頭に浮かんだわけです。今なお、出版した本のレビューなどでは、一部、いろいろ書かれていますよ。しかし、もうすぐ60歳を迎えようとする今では、誰に何を言われようと、なんともなくなりましたね。
出版への不安と、きっかけとなった友人らの死
——先ほど、今回の本の出版を促したのもおじさんであるとお話しされていましたが、出版に至る経緯、読者からの反応などについても、くわしくお教えいただけますか?
じつは、ほんの数年前まで、このまま家族にも言わず、誰にもおじさんの存在については話さないまま人生を終えようと思っていたんです。だって、こんなことを話しても誰にも受け入れてもらえない……そう思っていましたから。「お前、おかしくなったな」と、周囲の人が離れていくのが関の山だろうと。
ところが、父が2018年に他界してからというもの、父を抜いても7〜8人の親しい友人たちが相次いで亡くなったんです。みな、自分とあまり変わらない年齢で、病気、自死、事故などで、最後に会って2週間も経たないうちに突然亡くなった友人も。彼らの死を目の当たりにしてぼーっとしていたある日、おじさんから「お前、書かないのか?」と。そこで、響くものがあったわけです。明日の朝、無事に起きられる保証もないなかで、「お前はなにも発信しないまま死ぬのか」と——。
とはいえ、頭のおかしい人間という認定をされて、仕事を失ったら、どうやって生きていけばいいのかわからない。それをおじさんに尋ねると「失っても別の仕事をすればいいだろう」と言うんです。何をやっても働けるんだ、と。ちょうど2024年の年明けくらいだったでしょうか。葛藤の末、2月くらいに書き始めたんです。実際書き始めて「あれも書かなきゃ、これも書かなきゃ」とやっていると、おじさんが「盛るな」「嘘を書くな」なんて、全部チェックするんですよ(笑)。
それで、いざ出版すると、やはり失うものもありました。仕事をご一緒する予定だった作家さんから、版元経由で「違うライターさんにしてください」と言われたこともありましたし、義理のある仕事仲間とも縁が切れてしまった。その数は二桁にのぼります。一方で、人が入れ替わるのではなく、エネルギーが入れ替わるだけ。別のところへ行ったらまた新しいエネルギーの交流が生まれるという考え方もある。実際、本を出版したことで新しい繋がりやご縁に恵まれました。おじさんはかつて「お前ら人間の成長を助けるために俺たちがいる。忘れるな」と、彼らの存在意義について語っていましたが、その文脈で考えるなら、私も少しは成長した(?)のかもしれませんね(笑)。
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有能な編集者としての一面もみせる、小さなおじさん。瀬知さんの困惑を聞いてなお、「そんなおじさん、私も見たい!」と思われる方も多いのでは——。
後編では、あなたのすぐ側にいる(!)小さいおじさんの生態について、さらに詳しく迫ります。
*後編は、10月7日(火)に配信予定です。お楽しみに!
\好評発売中!/
『となりの小さいおじさん』(アルソス刊)
著:瀬知洋司
瀬知洋司(せち・ひろし)
フリーランス編集者・ライター。出版プロデューサー。不定期散歩マニア。
1965年11月、福岡県福岡市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。
新卒入社した東証上場の専門商社を退社後、友人に誘われ働いていたお店の顧客に「出版社とか向いてるんじゃない?」と言われたことをきっかけに出版業界の道へ。商業施設などを取材・分析する月刊専門誌の編集部に1年半、アパレル業界向けの月刊専門誌の編集部に8年在籍。同社を退社後は、流通業界のプランナー、求人系広告会社の編集部門に在籍したのち、2002年にビジネス社に入社。書籍編集部に配属され、雑誌より自由度が高い事実に気づいた途端、仕事が楽しくなる。編集長、編集部長、取締役を歴任。
独立後は、幅広いジャンルで出版物の企画・編集を手掛ける。2025年に初の著書となる『となりの小さいおじさん』を出版。
Instagram @hiroshi.sechi