【インタビュー】ドラマプロデューサー祖父江里奈さん【第1回/全3回】サブスク時代で生き残る! 「等身大プラスα」な、ちょい攻めドラマ
BOOKOUTジャーナルとは
知られざる想いを知る―。
いまいちばん会いたい人に、
いちばん聞きたいことを聞く、
ヒューマンインタビュー。
撮影/長谷川 梓
文/小嶋優子
世は、まさに大サブスク時代! テレビドラマの世界も、「視聴率至上主義」から「配信で長く愛される作品」が評価され、オンタイムを過ぎれば、時間帯・放送局も関係なく、各ドラマ横ならび一斉スタート! となった。
そんな今、女子のココロに寄り添いつつズブッと刺さるドラマを次々と制作するプロデューサー、テレビ東京の祖父江里奈さんに、「シン・ドラマの需要」を伺います。
「これは私だ!」と震えるくらい、代理満足できるドラマづくり
――セフレが5人(!)もいる働き女子が主人公の『来世ではちゃんとします3』の制作が発表されましたが、祖父江さんが手がけるドラマは、実は誰もが持つ性欲や、人恋しい気持ちが等身大に描かれていて、思わず共感してしまいます。
女性のちょっとタブーな部分を映し出すドラマは、どのようなプロセスを経て誕生したのですか?
あくまで”テレビ東京では”なのですが、まず、局で「何曜日の何時の枠の企画募集をします」っていう募集がかかるんです。そうすると、たとえば「これをドラマ化したい」という原作を探したりするんですが、それに加えて、自分だったらこの原作を監督誰々、脚本家誰々、主演誰々でこんなふうに料理する、っていうのを企画書にして出すんです。
――企画の時点でキャストも自由にイメージを?
企画書に書くのは、「こういう人をキャスティングしようと思ってる」っていう意思表示ですね。今どきのアイドルなのか、 実力派女優なのか、はたまたーーっていう。場合によっては、先に俳優さんの事務所に「この企画が通ったらやってくれますか?」と内諾をとって、企画書に「誰々さんがやってくれるって言ってます」って書く場合もあります。そうすると、その企画書の信用度が上がって、妄想から一歩現実に近くなるんです。
――「このドラマを作りたい!」というプロデューサーの熱量は、どういうところから生み出されるんでしょう?
私は、「自分が観たいドラマ」というのがまずあって、そして観た人が「あ、この主人公は私だ」って思える作品を作りたいと思っているんですね。なので、いつも“等身大プラスα”を意識しています。この主人公は自分みたいだけれど、ちょっと勇気を出して一歩踏み出したらこの世界が見えるかも? みたいな。
『来世ではちゃんとします』はもう、原作を読んだ時に「これは私だ!」って思いました(笑)。セフレが5人いる女の子はあまりいないかもしれないけど、好きな人の本命になれなくてずっとセカンドの位置に甘んじている女の子っていうのはたくさんいるはず。そういう人たちなら、この主人公に共感してもらえるだろうと。
私が共感してるんだから他にも共感する人はきっといっぱいいるはずだ、これをもっと広く広めたいっていう思いから熱量が生まれることが多いですね。
――「等身大プラスα」という点が絶妙ですね。
自分と全く同じ人間を描いてもそこに感動も成長もないので。かといって突拍子もないスーパーウーマンを描いてもーーっていうことで「等身大プラスα」。スーパーウーマンを描くとしても、その裏の顔は実は私たちと同じ、というふうにしたり。
――祖父江さんのドラマは、主人公に共感してその体験を疑似体験しつつ、代理満足も得られる感じがあります。マッチングアプリで貪欲に出会いを楽しむバツイチアラフォー女性が主人公の『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』も勉強になりました(笑)
そうそう、マッチングアプリのドラマはまさにそうで。私自身が今まさに38歳なんですが、世代的にマッチングアプリがちょっと怖い世代なんです。でも興味がある人たちはいっぱいいて。そういう人たちに「こんな世界が広がっていますよ」っていうことは言えたらいいなと思って作ったドラマでした。私自身がこの原作を読んで、あ、そうなんだ! って思ったということもあるし。
私たちは自分が褒められるより何より、作ったものの感想をいただく瞬間が一番嬉しいんですが、「38歳バツイチマッチングアプリのドラマを観て、初めて勇気を出してマッチングアプリを使ったら彼氏ができました!」みたいな感想をTwitterでいただいた時にめちゃくちゃ嬉しかったのを覚えてます。
――テレビの世界は保守的な面があると思うのですが、怖い印象のあるマッチングアプリの企画を通すのは大変ではなかったですか?
意外にも、反対の声は少なかったです。この大サブスク時代の始まりで、ちょうどParavi(パラビ)が女性向けドラマに力を入れ始めた時期だったんです。それで配信で受けそうな女性向けのドラマの企画募集があって。テレビ東京で女性向けドラマの企画募集がかかるなんてことは過去にはなかったです。
――スマホ視聴時代と共に制作現場も変わりましたか?
変わりました! もう本当に。スマホ視聴・大サブスク時代で、作られるドラマはガラッと変わったと思います。まず、作られる作品がとても増えました。
――やりやすくなった感じはありますか?
そうだと思います。以前は視聴率がテレビの全てだったので、視聴率競争から漏れるものは制作すらさせてもらえなかった。視聴率競争ということは、地上波リアルタイム放送一発勝負なんですよね。それで数字が取れなかったら、これは良くない作品、儲からない作品ってことになって。
その視聴率競争からこぼれたテーマがちっちゃく映像化できるようになったのが今の時代かなと。だから私が手がけるようなちょっと変わった作品、小さな作品が生まれやすい環境にはあると思います。
――スマホでちょっと観てもいいかもという作品と、リビングのテレビで録画してでも観たいものは違いますよね。
違いますね。スマホは“こっそり観られる”という需要と、“いつでも観られる”という需要があって。なんてったって昨今の若者、倍速で観たりするじゃないですか。いかにして配信で一気見してもらうかみたいな目線でも考えてはいます。
第2回は、「女性向けドラマにおけるエロ」についてうかがいます!
*12月8日(木)に配信予定です。お楽しみに!
祖父江 里奈(そぶえ・りな)
一橋大学社会学部卒。テレビ東京プロデューサー。2008年に入社し、10年間のバラエティ番組担当を経て、2018年より制作局ドラマ室に異動。『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』『生きるとか死ぬとか父親とか』等、主に女性向けのドラマのほか、トークバラエティ『喋ってお焚き上げ』を手がける。