【インタビュー】動画クリエイター 花上惇さん【前編】

【インタビュー】動画クリエイター 花上惇さん【前編】



BOOKOUTジャーナルとは

知られざる想いを知る―。
いまいちばん会いたい人に、
いちばん聞きたいことを聞く、
ヒューマンインタビュー。


撮影/イマキイレカオリ
スタイリスト/荒谷至
文/高木さおり(sand)

ガチャっと冷蔵庫が開き、女性の抱える悩みを取り上げ「BITCH!」と鋭く一言。しかし続くのは、流暢な英語を交えて叱咤激励するポジティブなメッセージ。観るほどにクセになる、この動画を作るのは動画クリエイターの花上惇さん。

今回は、TikTokやInstagramを中心に注目が高まるばかりの花上さんにインタビュー。前編では、花上さんのパーソナリティが築かれるまでのお話を。冒頭から、ご自身のセクシュアリティについても包み隠さず語ってくださいました。

 

両親は、絶対的な味方 

ーーー幼い頃の記憶を教えていただけますか?

投稿を見てくださっている人はご存じの通りで。でも幼い頃は、自分のセクシャリティなんて関係なく、ただただ天真爛漫に自由に過ごしていました。ただ幼いながらも、親が選んでくれた洋服に「なんで男の子の服は赤やピンクじゃないんだろう」と思っていた気がします。

ーーー花上さんは美容への意識も高いですが、そちらも早い段階から?

そうかもしれないですね。母親が留守の間に化粧品を拝借してみたり、45Lのゴミ袋を頭と手が出せるように切ってかぶり、「ドレス!」と言って遊んだり(笑)、アニメの『セーラームーン』の変身ブローチを欲しがったことも覚えています。

ーーーご両親は花上さんのセクシュアリティに対しては、どのように?

母親は私に「男らしくしなさい」などとは一切言いませんでした。数年前、ついにカミングアウトしたときは「そういう気がしてた」って。ずっと「この子は他の子とちょっと違う」と感じていたそうです。

ーーーお父様はいかがだったのでしょうか。

特に何かを言われたことはありませんでしたが、ひとつとても記憶に残っていることがあります。子どもの頃、学校で「オカマ」とからかわれて、泣きながら帰宅したことがありました。その夜、父親と風呂に入ったときにその話をしたら父親は「どこのどいつだ! パパが文句を言ってやる!」と激怒してくれた。そのとき、父は自分のことを守ってくれているのだと実感しました。私にとって両親は、今もずっと絶対的な味方です。

―――花上さんはご自身の発信の中で、「自分のセクシャリティを誰かに理解してほしいわけではなく『こんな人もいるんだな』くらいに思ってくれたらいい」と語られている。それが印象的です。

私の中で、LGBTQは特別なものではありません。だからこそ私自身はあからさまに権利を主張しようとは思わなくて、特別視せず「この人はこういう人なんだね、OK」と、認識してくれたらいい。そう私は思います。
もちろん積極的に社会運動をする人を否定するつもりもまったくありません。それはその人たちの自由だと思っています。

 

歌の才能は「心の拠り所」

ーーー花上さんは歌もお上手で、「歌ってみた」投稿も多数投稿されています。「カラオケ世界大会日本代表決定戦」での優勝経験も。子どもの頃から歌手を目指されていたそうですね。

幼い頃から歌や踊りが大好きな子どもでしたが、歌手を目指すようになったのには明確なきっかけがあって。それは私が世界一好きな歌手、マライア・キャリー主演の映画『グリッター』。2002年にその映画を観たとき、マライアの歌を聞いて涙が出て鳥肌が止まらなくなった。初めての経験でした。そして「私もこうなりたい!」と思ったのです。
私にとって音楽は「心の拠り所」と言えるかもしれません。特に20代の半ばぐらいまではなかなか夢に到達できず、どうしたらいいんだろうと悩むときも「私には音楽がある。歌の才能がある」と自尊心を保つことができました。

ーーーネイティブ顔負けの英語力も、花上さんの才能だと思います。

子どもの頃からテレビのCS放送の海外の番組を観るのが好きだったんです。海外の文化にも興味があり、自主的に勉強するようになって。洋楽の歌詞を和訳してみたり、海外ドラマが好きだったので字幕を英語、音声を日本語にして観たり、その逆や、音声も字幕もどちらも英語にして観てみたりしてましたね。
英語って例えば天気の話題でも、ただ単純に「晴れてるね」と伝えたいときにも、ちょっとまわりくどく「曇ってないね」とか「雲一つないね」みたいに表すことがあって。そうした言い回しがすごくおしゃれで素敵だなって、だから覚えたいと思ったんです。

 

夜の世界で取り戻した自己肯定感

ーーー大学卒業後はすぐに、現在のようなクリエイターの世界にはいったのですか?

いいえ、それはもう少し先の話です。最初はとにかく生活のため、派遣社員やアルバイトで生活していました。それが精一杯で自分の目指す方向に注力できなかった。しかも昼間の仕事のときは、自分のセクシャリティを隠していたので、自分自身を出せていないというフラストレーションから解放されたいという思いも抱えていましたね。

そこで自分のセクシャリティを強みにできる仕事は何かと考えたとき、当時はゲイバーなどしか思いつかず、夜の仕事はお金も稼げるだろうと飛び込みました。そしたらお客さんたちから面白いと思ってもらえたようで。これまでは自己肯定感の低いネガティブなオカマだったんですけど(笑)、そこで面白いと言ってもらえたり、必要としてくれる人がいると実感できたことで、ちゃんと人の目を見て会話ができるようになりました。
そんな日々でしたが2020年4月にコロナ禍でお店が休業になってしまったんです。

 

後半はコロナ禍が転機となって花上さんの日々が激変した、そのリアルなストーリーを伺います!
*後編はこちら

衣装協力:ネックレス・リング /@zuttoholic

花上 惇(はなうえ じゅん)

1992年、富山県生まれ。動画クリエイターとしてTikTokやInstagramを中心に活動。流暢な英語を交え、現代の女性へのポジティブなメッセージを伝える「冷蔵庫シリーズ」の動画をきっかけに人気が高まり、現在ではTikTokが約26万人、Instagram約23万人のフォロワーを持つ(2022年8月時点)。歌唱力にも定評があり、2020年には「カラオケ世界大会日本代表決定戦」において優勝経験もある。
TikTok @junpi92
Instagram @jnp92119
YouTube  花上惇 [はなうえじゅん]