【インタビュー】ドラマプロデューサー祖父江里奈さん【第3回/全3回】世の中の人は、ひろゆきとサイゼリヤと4℃が大好き

【インタビュー】ドラマプロデューサー祖父江里奈さん【第3回/全3回】世の中の人は、ひろゆきとサイゼリヤと4℃が大好き



BOOKOUTジャーナルとは

知られざる想いを知る―。
いまいちばん会いたい人に、
いちばん聞きたいことを聞く、
ヒューマンインタビュー。


撮影/長谷川 梓
文/小嶋優子

テレビ東京の大人気ドラマ『来世ではちゃんとします3』の制作が決定! 『来世ちゃん』のプロデューサーの祖父江里奈さんのインタビューも今回で最終回。
視聴率至上主義時代では、「振り向けばテレビ東京」と揶揄されてきたキー局が、サブスク時代に突入し、逆転ホームランのヒットを生み出し続ける。テレビ東京ならではの「ヒットの3原則」に迫ります。

 

テレビ東京の社員のいいところは、
どんどん自分の打席が回ってくること(笑)

――ニーズを知るための情報収集はどうやってされていますか?

ずーっとTwitter見てます。朝起きてすぐTwitterを見ますし、寝る前もTwitter。電車の中でもTwitter。ほんとツイ廃です。

――最近気になったツイートはありますか?

一番注目しているのは、何が“燃えてるか”ということですね。燃えるのは、みんなそこに興味があるということなので。今、世の中の人の興味はどこにあるのかっていうことをずっと探していて、最近みんなひろゆきが好きだなーって思いながら見てます。
世の中の人はひろゆきとサイゼリヤと4℃が大好き。この3つは定期的に炎上しますよね。

――みんなで議論できるネタということでしょうか。

議論というか、それに対して興味があるから怒りも湧いてくるし、共感も起きるし、茶化したくもなる。興味がなかったらスルーしますから。
ここから導き出される事実はただ一つ……みんなサイゼリヤが好き。おごりおごられとか最初のデートでサイゼリヤがありなしなんて関係ないんですよ。みんなサイゼリヤ好きなんだなってことしかわからない。
欲望が垂れ流されてる場所ですよね、Twitterは。人間のいい面も悪い面も包み隠さず。私はこの世界が大好きです(笑)。

――祖父江さんに欠かせない欲望観察の場なのですね。ドラマにも活かされている気がします! 祖父江さんの感覚で構わないので、「ヒットするドラマの法則」があれば教えてください!

……難しいなぁ。一般的な「ヒットの三原則」って考えると、テレ東に1個も当てはまらないじゃん、テレ東が欲しくても手に入らないものばっかりじゃんって思います(笑)。
テレ東的ヒットと一般的なヒットはたぶん違っていて、よく「テレ東らしさ」って言われるんですけどそのたびに悩んでいて。テレ東らしさで唯一出た回答は「お金がない」だけだったんです。これは絶対的事実(笑)。最初からテレ東らしさを目指していたわけではなくて、お金がないからないなりにやってきたことがテレ東らしさになっていったっていう歴史があるんですよね。ヒットの三原則があったとして、それができないからどうする? っていうところから私たちのものづくりが始まるっていう。

テレビ東京でヒット作があるとしたら、それは世の中のヒットの三原則から外れたもので、何かの化学反応と奇跡が起きて起こったヒットだと思います。
確実にあるのは“誰かの狂気”ですね。誰かの熱量、誰かの狂気。ヒットした作品は、プロデューサーなのか脚本家なのか、誰かが恐ろしい熱量を持って作ってるものが多い。逆にそれが1個もないと絶対当たらないです。
あとキャスティング。今から10年前、松重豊さん主演で、中年男性がひとりでご飯を食べるだけのドラマ(『孤独のグルメ』)がテレビ東京を支えることになるとは誰も思いませんでしたからね(笑)。

――テレビ東京的に隙間を狙っていくからこそ、いつもチャレンジャーでいられるということはありますか?

それはあります。なんてったって人が少ないですから。社員の数が少ないのに埋めなきゃいけないタイムテーブルは他局と同じ24時間。
そうするとテレビ東京の社員のいいところとして、どんどん自分の打席が回ってくるんですよ。幸い枠もたくさんあって、地上波に乗らなくても配信の番組もあるし。

でもそうするとやることがいっぱいあってマジしんどいです。もしかしたら他局では、ドラマがコケたからしばらく出番ないみたいなプロデューサーがいるかもしれないし、そうでなくても1個のドラマをじっくり作ったら次までちょっと期間が空くみたいなことがあるかもしれないですけど、うちはもう、次から次で作らされる。
失敗しても落ち込む暇もなくさっさと次を作らされるっていうのは、ドラマを作りたい・仕事が大好きっていう人間にとってはとても恵まれた環境だなぁと思います。

――これからこういうものを作りたい、というテーマはありますか?

都市と田舎をテーマにしたいなとはずっと思ってますね。自分が岐阜の田舎から出てきて 東京で仕事をしているので、もしあのまま岐阜にいたらっていうのはたまに考えます。今はわりと体力もあって仕事もうまくいってて、結婚なんかしなくてもいいし子供もいらないけれども、このままのノリで楽しく生きていけるわけでもないだろうなってなったときに、果たして私は東京でずっと仕事をしていていいのだろうかと思うこともあります。
それが今の私の等身大なので、またこれに何か足したドラマを作るんだろうなと思っています。

祖父江 里奈(そぶえ・りな)

一橋大学社会学部卒。テレビ東京プロデューサー。2008年に入社し、10年間のバラエティ番組担当を経て、2018年より制作局ドラマ室に異動。『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』『生きるとか死ぬとか父親とか』等、主に女性向けのドラマのほか、トークバラエティ『喋ってお焚き上げ』を手がける。